第57話 人の強さ
ルイーズは、片手で剣を持つと、もう片手で後ろにコインを投げた。
振り向きざまに剣を突き出す。
コインは、無傷で剣の上に立った状態で乗って止まった。
『なんて凄い剣技』
ウェリオは、舌を巻いた。
「能力値やスキルだけでは、強さは決まらない。それを操作する人の強さ、見えない強さが互角の戦いでは勝敗を決める。さあ、やってみろ」
ルイーズが、言った。
「キィイン」
ウェリオが同じ事をすると、乾いた音と共にコインは剣に突き刺さった。
「正義の剣か、イマジンの武器を使えばそうなるだろう。まだまだだが、素質はある。今度は、完全に剣の威力を殺せ。では、私が戻るまで、訓練を続けろ。本当に覚悟が決まっているなら出来るはずだ」
ルイーズは、そう言うと転移魔法で消えていった。
「一体、これに何の意味が?」
ウェリオは、そう言ったが、ルイーズは既に去った後だった。
三昼夜、ウェリオは同じ事を繰り返した。
少しづつコインの傷は減り、剣の上に乗る様になってきた。
高いキャラクターLvに到達したウェリオは、体力的にも精神的にも余裕があるはずだが、能力値には表れない疲労を、心に感じ始めていた。
しかし、サンシールの苦境を思い、訓練を続ける。
「…」
ある時、無音でコインが剣の上に立った状態で停止した。
「ふむ、悪くない。今の体捌きを忘れるな」
その時、後ろから声がした。
振り向くと、そこにルイーズが立っていた。
「ついてこい」
ルイーズに促されるまま、ウェリオは彼女の作ったポータルに入っていった。
「ここは?」
そこは、イルミンズールの指令室と雰囲気が似ていた為、塔の中で移動したと勘違いする。
「スギナミを模した街。イマジンの世界から来た者は全員知っている場所、スギナミそっくりに作られた場所。みなが旅立った街を再現している。ここは、エウロパ大陸の東端の、さらに先だ」
ルイーズが、説明する。
「エウロパ大陸の東端?そんな地の果てに、さらに先が?」
ウェリオは、驚きながら地下に作られた近代的な街を見回した。
「ここには、キャラクターLvUPで得られたポイントで職業スキルLvを取得出来る施設がある。そこで職業スキルを得るのだ」
ルイ―ズは、言った。
「スキルは、日々の訓練でしか得られないものかと思っていました」
ウェリオが、答える。
「この世界では、それが常識なのだろうな。しかし、ここにはイマジンの世界の施設が再現されている。うまくいけば、お前も職業スキルLvを上げられるはずだ」
ルイーズは、そう言うと、とあるビルに彼女を連れていった。
ビルのエレベーターのスイッチを押すと扉が開き、その中は大きな1室になっていた。
2人が乗り込むと、ガラス張りの部屋の外の景色が動き出し、部屋ごとエレベーターの箱の中だと分かる。
「スピリットルームへ、ようこそ、迷える魂よ。その道行きを決めるがよい」
中には大きな事務机と黒革の椅子。
その向こうには、青いスーツ姿で銀の長髪の少女が座っており、ウェリオに声を掛けてきた。
「…!」
彼女の頭の中に、ポイントを割り振るUIのイメージが流れ込んでくる。
「こ、これは!」
「さあ、職業スキルLvを得るがいい。多少は、選ぶ相談にのってやろう」
驚くウェリオに、ルイーズがアドバイスを始める。
「不思議なところでした」
エレベーターの1室から出てきたウェリオは、そう言った。
「上級職は、魔法騎士。戦士と魔法使いのLvをカンストか。得た魔法は、精霊魔法中心。エルフらしいビルドだ」
ルイーズは、言った。
「剣技と風魔法を嗜んでいたもので…。確かにエルフ族には普通のスキルかもしれません」
ウェリオは、答える。
「後は、使い方次第だ。戻るぞ、ハーフエルフの姫よ」
ルイーズはポータルを開き、イルミンズールへと戻る。
「連絡しておいたものは、揃っているか?」
ルイーズはイルミンズールの指令室で、吉江百合子に声を掛けた。
「はい、全て調整済みです」
吉江百合子が促すと、白百合十字騎士団の者がカートに乗った武装と1頭の機械の馬を連れてくる。
ルイーズは、カートの上からグリップだけの剣を取る。
グリップに付いたボタンを押すと、細いレーザーで出来た剣が空中に浮かび上がる。
「これは、新開発したフォトンブレード。最軽量クラスでありながら、その威力は相当なものだ。使い手の魔力によって、さらに威力が増える。グリップはミスリル製。他の金属と違い、エルフ固有の魔法に影響を与えない」
ルイーズが、レーザーで出来た剣の説明をする。
「これは、我々の技術で非常に薄く作られた、ミスリル製のチェインメイル。特殊な炭素繊維とセラミックを織り込み、軽量でありながら強度を高めてある。これも、エルフ用だ」
次に、薄絹の様なチェインメイルの説明をする。
「さらに、この馬は我々の最新SA、バヤールの装甲を全てミスリル製に換装したものだ。お前専用にチューニングされたミスリルバヤール。これらを全て持っていくがいい」
ルイーズは機械の馬の説明もし、それら装備の全てをウェリオに与えると言った。
「はい!ありがとうござます」
ウェリオは、礼を述べた。
「そして、この吉江と、イストルを援軍として連れていくがよい。吉江は従魔だが長年この地を、最高Lvのプレイヤーや従魔相手に守り抜いてきた。イストルは、最強の妨害役。この男がいれば、その陣営の戦力は数倍になる。いずれも一騎当万の強者だ」
ルイーズと吉江の近くに、長槍を持った鎧姿の男が笑顔でやってきた。
「ありがとうございます」
ウェリオは、援軍がたった二人で驚いたが、ルイーズの説明を聞いて安心した。
「しかしだ、私は只のお人好しではない。お前は、その代償に何を支払う。この白百合王国の協力、安くはないぞ」
ルイーズが、ウェリオに迫る。
「…」
ウェリオは一時考え、答えた。
「ココサテス国の王権をルイーズ様に移譲いたします。さらに、臣下として永遠の忠誠を」
ウェリオは、跪いて言う。
「では、王権を頂戴するとしよう。そして新しい臣下ウェリオに命令する!お前は私の養女となれ」
ルイーズが、ウェリオに命令する。
『亡国とはいえ王権を只で頂戴しては古い民が納得せぬ。お前は、私の身内である娘になるのだ。そして、私は将来サンシールを跡継ぎにする予定だ。この意味が分かるな姫よ。彼に選ばれるように精進するがいい』
ルイーズは、ウェリオに耳打ちした。
「ありがたき幸せ…がんばります」
彼女の顔が真っ赤に染まった。
「ココサテス国は、現在のボイオカッセ国の領内。私はココサテスとノドの両方の王権を移譲されている!これで、我が国がボイオカッセとノドの戦いに介入する口実は得た。吉江とイストルよ、アルビオン側のポータルから、トゥールラへ向かえ!」
「はっ!!」
ルイーズが発し、吉江とイストルは力強く答えた。
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