第55話 王への謁見
ウェリオは、アルビオン王都の地上にあるポータルを抜け、あのイルミンズールの地へと飛んだ。
「ここは?」
彼女の目の前には白い巨大な塔、イルミンズールが、そびえ立っている。
その周囲には、真新しい白い建物の街並みが広がっている。
しかし、まったく人気を感じない。
造成されたばかりのニュータウンが、住人の入居を待っているかの様だ。
白い街並みは、塔を囲むように建てられた城壁の中にあり、城塞都市を形成している。
「そなたは、何者か?」
彼女は、突然に後ろから声を掛けられた。
「!!」
ウェリオが、振り向くと、そこには白い鎧と白銀のマントを着た美しい女性達が立っている。
『まったく気配を感じなかった…。あの鎧とマント、サンシール様のものに似ている?もしや、彼ゆかりの方達では?』
ウェリオは、そう考えた。
「私は、ノドの国によって滅ぼされたココサテス国の王とアルビオン王の妹メアリーが娘ウェリオ!聖騎士サンシール様と、ボイオカッセ国への援軍を頼みにきた!」
彼女は、身分と目的を端的に述べた。
「…」
白い鎧の女性達が、少し相談をした。
「私は、白百合十字騎士団団長、天使族の吉江百合子。あいにくだが、この国の王は不在だ。王に通信をつなごう。着いてまいれ」
背中に天使の様な白い羽根を持った女性が前に進み出て、ウェリオに着いてこいと促がした。
彼女達は、ウェリオが出てきた立派な石作りの門に作られたポータル施設に入っていく。
ウェリオも、それに続いた。
ポータルを通ると、ウェリオは冷気と強い風を感じる。
彼女達は、イルミンズールの頂上にやってきていた。
「こちらへ」
吉江百合子は、ウェリオを塔の内部に入る階段に誘導した。
階段を降りると、そこは360度に大きなモニターがはめ込まれた近代的な指令室になっていた。
沢山の机の前には、コンピューター端末の様なものが並んでいる。
多くの従魔達が、それを操作しながら何かの業務を行っている。
主に、城塞都市の建設についてのようだ。
「ルイーズ様に伺っておりました娘が着ました。陛下との映像通信を求めます。どうやら、サンシール様に援軍が必要なようです」
吉江百合子は壁のモニターの一つの前で、通信機のマイクの様なものに話しかけた。
しばらくしてモニターに、抱いた赤ん坊に髪を引っ張られているルイーズの姿が映し出された。
「こら、おいたをするでない」
ルイーズが、言った。
「よしよし、エノク、こっちにおいで」
男の声がして、画面外から伸びてきた男の手に赤ん坊は渡された。
「ふむ、お前がウェリオか。百合子よ、どうだ、その娘は?」
ルイーズが、言った。
「キャラクターレベルだけは立派ですが、戦士以外に職業スキルがありません。ありていに言えば雑魚です」
吉江百合子が、歯に物を着せずに話す。
「ふむ、さては、あの子がLv上げに協力したな。そうでなければ、不自然だ。ところで、サンシールに援軍が必要だと言ったな。よほどの相手でなければ、そのような事にはならないはずなのだが。あの子は、私よりも強いのだからな」
ルイーズが、百合子に言った。
「はい、ノドの大軍が迫っているのです!」
ウェリオが、思わず口を開いた。
「ふむ、相手が何万いようと負けはすまいが、お前の事はメアリー殿から頼まれている。一応の義理は果たさねばならないだろう。忙しいところだが、少し戻るとするか」
ルイーズが、そう言うとモニターの光が落ちる。
ウェリオ達の横に、転移魔法で作られたポータルが開くと、その光の中からルイーズが指令室に降り立った。
「私は重要な仕事の最中だ、頼んだからには覚悟せよ」
ルイーズは、ウェリオに笑いかけた。
その威圧感にウェリオは、たじろいだ。
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