第5話 個別チャット会議
ルイーズ達は、立派な客室に通された。暖炉とソファの置かれた部屋を中心として豪華な寝室が6つ設けられている。
「パック!」
ルイーズは、ガイド妖精を呼び出した。
ゲームのUIが消えた代わりに、ほとんどのキャラ能力は頭で念じるだけで使えるようになっていた。
画面の賑やかしだっただけのガイド妖精も感情を持ったキャラとして呼び出せる。
ガイド妖精は、ゲーム開始時に好きなデザインと名前を設定出来る。
パックは、ピーターパンの様な装いの身長15cmぐらいの少年だ。
背中にはトンボの様な羽根を持っている。
「GMコールを」
「ルイーズ、悪いけど繋がらないみたいだね。この世界では担当GMのエリア以外では通信は無理みたいだ」
ガイド妖精は、悪戯っぽく笑いながら言った。
『なるほど。しかし、カイン達はGMと通信可能かもしれない。我々とは情報収集能力に大きな違いがある可能性がある。加えて、この世界で5年活動したアドバンテージ。未知の能力を得た可能性もある』
ルイーズは、覚醒する時のTMRの言葉を思い出した。
同時に仲間と従魔にメッセージを送り、生存を確認する。
全員ではないが何人からか返信があった。
どうやら、こちらも距離があると連絡出来なくなるようだ。
同時に待機の命令を出す。
また、数人の名前がギルド名簿から消えているのも確認した。
死亡状態でも名簿から消える事は無い。
キャラクター自体がロストしたか、自らギルドを抜けたかしている。
「パック、個別チャットルームを作成。全員入室せよ!」
ルイーズは、サンシールとモーギスに指示した。
ルイーズ達の意識が、ワイヤーフレームで描かれたデジタルな世界に飛ぶ。
そこで、3人は四角いポリゴンにそれぞれ腰かけた。
「カイン達の能力が、元のゲームと同じ設定ならば、どの様な感知系魔法やアイテムを使っても、この個別チャットの内容を覗き見る事は出来ない。ここで情報の整理と、今後の方針の決定を行う」
ルイーズは、個別チャット内で口を開いた。
個別チャットはゲーム内で、近くのキャラと個人的な話し合いをする為の機能だ。
プレイヤーの現実世界でのプライバシーに関わる為、ゲーム内の能力では決して会話の内容を覗き見る事は出来ない。
「まず、我々が覚醒までに、どれだけの時間を経たのか分かりません。プレイ時間のタイマーは、この世界でも確認出来るようですが、限度を振り切ってしまっています。タイマーの表示限界を考えると、少なくとも10年以上は経過しています」
モーギスが言った。
「今、そんな事は考えても仕方なくね?大事なのは、あいつらが俺達より5年も長く、この世界で生きてるって事。ノドの戦力が、まったく分からないって話。イマジンのサービス期間は7年だぜ、それに加えて5年もプレイ期間が増えてるとしたら、どんな強さになっているか見当もつかないよ」
サンシールは、困り顔でぼやいた。
「とりあえずは、ノドの国に協力し、情報を得なければならない。同時に通信可能な仲間とも情報交換するつもりだ。なに、私は当面の心配はしていない」
ルイーズは、笑った。
「あのカインという男、可愛いではないか。見るからにお人好しの小心者だ。設定重視のビルド、おまけに従魔を嫁に設定している。分かりやすい奴だ。私は欲望に忠実な者が好きだ。見た目も私好みの、いい男。実に気に入ったぞ!」
カインの感想を述べるルイーズ。サンシールとモーギスは呆れ顔だ。
「あの男、ランキング戦を見る限り大規模魔法に特化した対軍ビルドだった。しかも、雰囲気重視の能力構成。個人戦では我々の方が上、心配はあるまい。いざとなれば、仲間を集めて脱出するぐらいは出来よう」
ルイーズは、咳払いして言い直した。
「分かりました。まずは通信可能な仲間との情報交換を密にします。ノドの国の戦力の概要を掴むまで、彼等に協力する事にしましょう」
「まあ、それしかないかな。後はいつも通り…本気は見せない方向で」
モーギスとサンシールは、ルイーズに同意した。
「必要以上に手の内を晒してはならぬ。最低限の力のみで行動するように」
ルイーズは、2人に念を押した。