第42話 蘇るエノク
パラワン神父は、教会横の小屋の中にいた。
部屋にはベッドと大きな机が置いてあり、その上に沢山の武器や書物が乱雑に散らばっている。
蠟燭の、わずかばかりの光が暗い部屋を照らしている。
彼の顔には笑顔は無く、ただ強い疲労を感じさせた。
「お久しぶりです、我が創造主パラワン様」
部屋の端に、悪魔族と人間が一人づつ転移してきた。
ノドの国の幹部、ワーキンとガンスミスだ。
「私が、あのギルドに所属させていたキャラクターは既に削除した。全ての財と従魔も置いてきた。この身は別のキャラクター、キャラリセットの繋がりすらないのだ、お前の創造主ではない」
パラワンは、深いため息と共に言った。
「何を言われますか。体が違うとも、その魂が同じ事は感じとる事が出来ます。創造主との繋がりは、ギルドに優先されるのがイマジンの決まり。今後とも、お仕えさせていただきます」
ワーキンは、深々と頭を下げる。
「ふむ、闘技場では私達の襲撃を見逃したな?その忠義に偽りが無いのは分かるが、お前を利用し続けるのは私の善性が咎める。私はもうPPKマニアのクライムファイターではないのだ」
パラワンは、ワーキンの方に振り向くと言った。
「お気になさらず。私が勝手にやっている事です。ところで恐縮ですが願わくば、この者を復活させ安全な場所に移して頂きたいのです」
ワーキンは、机の上にエノクの封印された黒い宝石を置いた。
「代償に、あなたの傭兵団の巡洋艦”グレイセラフ”の整備費と弾薬。引き続き私が行うと、仰せつかっておりますので。代金は既にワーキン殿から頂いております。」
横からガンスミスが口を出した。
「お前も、相変わらず業が深いな」
パラワンは、顔をしかめた。
「代償さえ頂ければ、誰だろうが技術を売るのが私の方針でして。どうせ拡散してしまう程度の技術は、自分で売った方が得なのでね。ああ、あなたに売る分は同じギルドだった分、高度なものをサービスしておりますがね」
ガンスミスは、ニコニコしながら言った。
「分かった引き受けよう。今はノドの幹部として裏切りが露見しないように励めワーキン」
パラワンの迷いを、贖罪魔法が打ち消す。
「かしこまりました。それでは、いずれ、しかるべき時に」
ワーキンは、言った。
ワーキンとガンスミスは、再び転移して消える。
しばらくして後、部屋にルイーズとカインが転移してきたかのように現れた。
遮蔽魔法で身を隠し、話を聞いていたようだ。
「素晴らしい遮蔽魔法だ」
ルイーズが、言った。
「このキャラ構築の方が、こういう魔法は得意なんだ」
カインは、少し得意げに言う。
「ルイーズ殿から聞いた通り、少しは変わったようだなカイン。もう封印する必要は無いようだ」
パラワンは、カインの様子を見て言った。
「闘技場では、お互いの関係を露見させないようにする為とはいえ、失礼を致しましたルイーズ殿。いや、皇帝」
パラワンは、ルイーズに頭を下げた。
「あの状況では仕方ない。それに呼び方は自由でよい。ゲーム内での呼び方も、皆に許している。それに、お前には、我が肉の教皇の地位に就いてもらう予定だ。宗教的には、私以上の地位になる」
ルイーズは、言った。
「了解いたしました。しかし、しばらくは戦いに身を置きたいと考えています」
パラワンは、教皇の地位を固辞した。
「話は変わるが、その娘、イルミンズールに連れ帰ろう」
ルイーズは、エノクの魂が封印された黒い宝石を見て言った。
「はっ、それ以上に安全な場所は無いでしょう」
パラワンは、宝石を破壊して魂を取り出し、真の復活で彼女を復活させる。
復活したエノクは、何故か小さい赤ん坊の姿だった。
「これはこれは、また可愛い姿になったものだ」
ルイーズは、エノクを抱き上げて言った。
「この世界では、完全な従魔の作成は難しかったので。吸血樹は成長が早いですが、大きなダメージを受けると大幅にレベルダウンして小さくなってしまうのです」
カインが、エノクが小さくなった理由を説明する。
「びえ~ん!」
赤ん坊のエノクは、大きな声で泣き出すと、ルイーズの顔を小さな手でピシピシ叩いた。
「申し訳ない。小さくなっても記憶を失うわけではないので」
カインは、ルイーズからエノクを受け取り、あやした。
泣き止むエノク。
「これは、育てがいがありそうだ」
ルイーズは、笑った。
「ところで、サンシール達を行かせて良かったので?ノドの進軍は苛烈。あのままでは大きな戦いに巻き込まれるでしょう」
パラワンは、ルイーズに言った。
「あれだけの力を持つ者が集まっているのだ。どの様な危機でも遅れはとるまい。それに、サンシールは我がギルド最強の力を持っていると考えている。しかし、中身は子供だ。この機会に、成長してもらいたいと考えている。同行する他の者も含めてな」
ルイーズは、理由を話す。
「最強ですか。しかし、他にも互角のステータスを持つ者はいます」
パラワンは、言った。
「確かに私や、お前も互角のステータスはある。しかし、最後に差が出るのはプレイヤー自身の力だ。サンシールは、特別だからな」
ルイーズは、答える。
「…」
パラワンは、少し考え込んだ。
「それに、私達にはやる事がある。勝手に名乗った皇帝や悪名高いノドの王権だけでは、国として権威が足りぬ。我々は、ロムルス教皇から、ロムルス皇帝に任命していただく考えだ」
ルイーズは、言った。
「ロムルス帝国は、かつてエウロパ大陸西方を支配したプレイヤーキャラの大帝国。しかし、時代と共に、その支配地域は失われ、最後はノドの国に滅ぼされた。しかし、教会はノドの東の半島に残っている」
カインが、解説した。
「なるほど、ロムルス帝国はアルビオンの基礎となった人間と亜人種の帝国。ノドからの解放の旗印には最適だ」
パラワンは、言った。
「しかし、パワラン殿。私の考えは少し違う。出来るだけノドの者の血を流す事無く進めたい」
カインは、パラワンを見て言った。
「その気持ちは私も察する。出来るだけ穏便に進めようではないか」
ルイーズは、カインの肩に手を置き言った。
「それではパラワン教皇よ、再び会おう!」
ルイーズが、そう言うと、カインの姿と共に消えた。
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