第41話 ハーフエルフと神父
ノドの国とボイオカッセ国の国境付近の小さな村。
そこに最近出来た目新しい教会。
その門から、金髪の大柄の男が出てきた。
白い司教服に身を包み、首には十字と四つの白百合の書かれた羊毛の帯を下げている。
元は美しい顔立ちをしているようだが、目の下にはくまを作り、深い疲労を感じさせた。
無精髭を生やし、金髪を無造作に短く切り揃えている。
「パラワン先生!!おはようございます」
獣人族の子供が数人駆け寄ってきた。
頭に羊の様な角やウサギや猫の耳を持ち、しっぽが生えた人間の姿の亜人種だ。
「おはよう、みなさん」
白い司教服の男、パラワンは笑顔で出迎える。
「先生!今日は、どんな事を教えてくれるの?」
「ははは、今日は神様の話と、悪人から身を守る為の剣術を練習しましょう」
パラワンは、笑顔で子供達の質問に答える。
「ガサガサガサ」
突然、教会の近くの茂みから、皮の軽装鎧の者達が数十人現れ、パラワンを取り囲もうとする。
手には細身の剣が握られている。
「みんな、教会に逃げ込むのです!」
パラワンの指示で、子供達は全員、素早く教会に逃げ込む。
「私は、ノド素材収集部隊隊長ザンカール。この村の獣人共は全て我々が素材の為に狩る。邪魔立ては無用だぞ神父」
男達の一人が、パラワンに警告する。
くるりと巻いたカイゼル髭を鼻の下に生やした細身の男だ。
鮫の様なギザギザの歯、背中にはトンボの様な羽根を生やしている妖精族だ。
「黙れ、この不埒者!!人の身をアイテム素材にするとは恥を知れ!」
「ぐあっ!」
若い女性の声が響き、ザンカールは顔面を横から飛び蹴りされる。
カイゼル髭の片方が歪み、よろめく。
「無事でしょうか?師匠!」
「問題無いよウェリオ」
ザンカールに飛び蹴りを仕掛けたのは、ウェリオだった。
長い金髪に碧い瞳、ハーフプレートメイルを着て、正義の剣を握っている。
ウェリオの問いかけに、笑顔で答えるパラワン。
「むむ、貴様は度々我々の部隊を襲撃している、お尋ね者のハーフエルフ!私の髭を、よくも!」
ザンカールが、激怒してウェリオに斬りかかる。
凄まじい剣撃の連続を、ウェリオは何とか受けながら後退する。
「その程度の腕では私には勝てない。大人しく縄につけ!」
ザンカールは、自信満々の顔で言った。
「…」
ウェリオの劣勢を見たパラワンは、司教服の影から一本の聖剣を取り出す。
その時。
「うぎゃあ!!」
ザンカールの体が真っ二つに両断される。
彼は、少しの悲鳴を残して倒れた。
その体は塵となり、魂が黒い宝石に封印されて転がる。
「モーギス、遮蔽魔法ありがとう」
サンシールは、デュランダルについた血を払いながら言った。
倒れたザンカールの後ろに、サンシール達一行が立っている。
サンシール、モーギス、アヤ、ベルタの4人だ。
『おそらく、キャラクターレベル100Lvに到達している幹部従魔を一撃で?』
ウェリオは、驚愕した。
「さーて、この神父様は俺達の大事なギルド仲間だ。引いてくれないかな?ノドの国には一宿一飯の恩義がある。無駄な殺生はするつもりはない」
サンシールは、デュランダルを皮鎧の男達に向ける。
男達は、黙って走り去った。
「さてさて、パラワン神父。闘技場では肝を冷やしたよ」
彼は、パワランに向かって言った。
「ふふふ、あなた達こそ、邪教に堕ちたかと思いましたよ。手配書を見る限り、ノドとは袂を分かったようで何より」
パラワンは、笑顔で言った。
「師匠、この者達は味方なのですか?」
ウェリオがパラワンに聞く。
「はい、善性は保っています。私の昔の仲間であり、ノドの国から手配されているという事は現在は奴らの仲間でないのも明白です」
パラワンが答える。
しかし、ウェリオは闘技場での一件を思い、不服そうだ。
「この村の獣人達は、ノドの国から逃げてきた難民。元はボイオカッセ国の、この場所も最早ノドの勢力内。ボイオカッセ国が落ちるのも、近いでしょう。ウェリオさん、あなたは、この者達と一緒にアルビオンに逃れなさい。まずは、トゥールラの港を目指すのです。あなたは、アルビオンの王家の縁者。入国を受け入れてくれるでしょう」
パラワンは、ウェリオに言った。
「は?私が、こんな連中と!?師匠や村のみんなを残してはいけません」
ウェリオは不服そうだ。
「大丈夫です。私には、村人達を逃がす策がある。あなたは、その間にアルビオンに渡り、ノドに対抗する為に援軍を頼みなさい。ガリア地方を救うには、一刻の猶予も無い。先に彼等とアルビオンに渡るのです」
パラワンは、ウェリオを諭した。
「なんか、勝手に話を進められてるんだけど。だけど、アルビオンってところに行けば、ノドをぶっ潰せるっていうなら、行ってもいいぜ。パラワンの親父」
サンシールは、話に乗り気だ。
「分かりました。必ず援軍を呼んでまいります」
ウェリオは、渋々了承した。




