第4話 王の矜持
「調査の結果、この地はイマジン内と同じ様に人間と亜人種の住む、魔法やモンスターの存在する世界だと分かった。まるでサービスが延長したかと錯覚するほど、その名称や種類まで似通っていた。しかし、ゲーム内では感じなかった痛みなどのリアルな感覚、従魔達の感情の獲得。ヴァーチャルでは不可能な世界である事も信じざるえない」
「ほう…」
カインの言葉に、ルイーズの瞳が光る。
「我々は、この世界でも最強クラスの武力を持っている事も分かった。強者だと知った仲間のプレイヤー達は、自分達の利益を優先して、ギルドを離れてしまった。しかし、私には引退した仲間達が残してくれた財と従魔達、そしてギルドを守る為に、この地に残ったのだ」
『まるで異世界転移、転生物のテンプレだな。誰が、このシナリオを描いた?偶然である可能性の方が低いだろう。いずれにせよ、そのような存在を看過するわけにはいかない。元の世界への帰還方法も、その存在が知っているやもしれぬ』
ルイーズはカインの話から、何者かの世界への操作を疑っていた。
「この世界では、我々は異端。さぞ、ご苦労が多かったでしょう」
ルイーズはニコリと笑顔を浮かべると、そう言った。
「そうなのです!私達は最初、残った従魔達と人知れず幸せに生きたかっただけなのです。しかし、いわれなき迫害と攻撃を受け、身を守り自分達が安心して暮らせる地を得る為に戦いを始める事になってしまいました。やがて、この世界の人間達が終わらぬ国家間の戦争と貧困に苦しんでいるのを知りました。この世界の人間と亜人種達に真の平和をもたらす為、与えられた力を振るう事になってしまったのです!」
カインの言葉に力が入る。口調も少し変わっていた。
「自分達だけでなく世界の人々の幸せを願いながらも戦乱を広げてしまっている、これはエゴなのでしょうか?」
急に言葉のトーンを落としてカインは続けた。
「そのような事は、王が考える事ではない。自分が考える秩序と善を広めるのが王の道だ。あなたは、それを信じて進むがよい」
ルイーズは、カインにはっきりとした、しかし優しい口調で言った。
「ノドの国は、このエウロパ大陸の西端を、ほぼ支配する事に成功した。しかし、東方、北方には、我々に脅威となる戦力を持っている国が、まだある。複数のイマジンプレイヤーが協力している可能性が高い。この国を守るには、対抗出来る数のプレイヤーが必要。そこで、過去に倒れたプレイヤーの遺体を発掘して蘇生、声をかけさせていただいている。あなた方にも我がギルド、いや国の一員となってもらいたい」
カインは気持ちを持ち直したのか、元の態度と口調に戻り、再びルイーズに誘いをかけた。
「残念だが、その誘いには乗れぬなあ。まず、それはカイン殿の配下に加われという事であろう?ここを去ったプレイヤー達もそうだろうが、我々はカイン殿に武力で劣っているつもりはない。そして、ギルドリーダーとして仲間を探し立て直す義務もある。他のギルドに加わる事は出来ない」
ルイーズは、はっきりとカインの誘いを断った。
「そして何より…元の世界に戻れぬなら、私の考える秩序と正義を持って覇道を生きたい」
ルイーズは、カインと将来的に敵対する可能性を示唆した。同じく覇王への道を目指すと。
「もちろん、あなた方には私に次ぐ地位を約束する。我々の領土の相当な部分を領地として治めてもらって構わない。私の意志に賛同して下さるなら、是非とも参加していただきたい」
「王よ、実力の知れぬ者達にそこまでするのは…イマジンの中でも上位10人に入る実力者であるカイン様が譲歩しすぎでは?」
少し焦ったように言ったカインの発言に、今まで黙っていたルルワリリスが言葉を挟む。
その声は、喋っている内容とは不釣り合いなほど甘く艶めかしい。
「この国の女王としては、心穏やかではないかもしれぬ。しかし、我々には少しでも多くの強者が必要なのだ。私の記憶では、彼らは現在のランキングには入っていないが、それぞれアリーナで個人ランキング1位獲得の経験者だ。相応の地位を約束するのは当然」
カインは、ルルワリリスをいさめた。
「残念だが、どの様な条件でも、このギルドに加わる事は出来ない。だが、我々も眠りから覚めたばかりで、この世界には不案内。カイン殿の素晴らしい心持ちも聞かせていただいた。客分として、しばらく協力する事は出来る。役職はいらぬ。見返りとしては、我々の仲間を探す手助けをしていただけないだろうか?」
ルイーズは、妥協案を示した。
「おお、それならば、既に良い知らせを持っているぞ。あなた方と同じギルドと言うプレイヤーが、私のギルドに加わっているのだ。明日にも案内しよう。我々の客分に加わっていただける事を感謝する」
カインは満足げに言った。後ろのルルワリリスは、不満げな様子だ。
「まだまだ聞きたい事はあるが、我々も情報を整理して考えたい。ひとまず今宵はここまでにしていただけるか?」
ルイーズは、言った。
「うむ、了解した。客人を寝室に案内せよ!」
カインが言うと、ヴァンパイアのメイド達が部屋に入ってきた。
ルイーズ達を寝室に案内する。