第39話 遥かなるカイザーブルク
ルイーズが転移した先は、山々に囲まれた緩やかな盆地だった。
草原が広がり、鹿が草を食んでいる。
「あれは、確かにイルミンズール…」
視線を盆地の中心に向けると、そこには巨大な白い塔が、そびえ立っている。
雲を貫き、その頂上を見る事は出来なかった。
「魔法による結界を感じる。結果外からは塔を発見出来ない様に、何者かが工作しているな」
ルイーズは、そう呟くと、塔に向かって歩き出した。
歩き出すと、5分と経たぬ間に、雲の合間から十数人ほどの人影がルイーズの方を目掛けて、超高速で飛行してくるのが見えた。
全員、ガンスミスが開発したSAと同じ様な、背中や足にブースターを付けた鎧を身に付けている。
「イマジンバトル研究会リーダー、ルイーズ様!白百合十字騎士団の従魔一同、お迎えに上がりました!」
見ると、全員うら若き少女達だ。
彼女達は、飛来すると素早く隊列を組み、ルイーズの前に膝まづき顔を伏せ、声を揃えて言った。
隊列を組むと同時に、銀色のマントが現れ、それぞれの鎧を隠した。
「確かに、白百合十字騎士団は、私のギルドの従魔部隊だが。お前達は、ほとんど顔を知らんな。誰か、私と面識を持っている者が前に出て説明しろ」
ルイーズは、立ち止まって言った。
「はっ、お久しぶりですルイーズ様。白百合十字騎士団団長、天使族の吉江百合子でございます!」
一人の黒髪ポニーテールの少女が前に出る。
東洋風で目鼻立ちが整っっている。
舞い降りる時、その背にはブースターとは別に自前の天使の白い羽根があった。
「残念ながら神格を持たぬ我等のうち、5万年のうちに定命の種族の者は寿命を迎えていなくなってしまいました。今の団員の3分の2は、装備を継承した子孫でございます。しかし、訓練は怠っておりません。その戦力は変わりないと自負しております!」
吉江百合子は、ルイーズの問いに答えた。
「久しぶりだな百合子よ。予想はしていたが、やはりそうなっていたか。長きに渡って忠義を守り抜くとは、さすが我が騎士団」
ルイーズは、感慨深げに言った。
「オリアンド様が、カイザーブルクにて、お待ちです」
吉江百合子は、言った。
「ほう、カイザーブルクが来ているのか。あれを移動させるのに成功したのか?」
ルイーズは、彼女に聞いた。
「はい、改造の為の技術開発に数百年をかけましたが、現在は航宙戦艦として蘇っております。それからは、この地に出現していたイルミンズールを守り続けておりました」
吉江百合子が、答える。
「ルイーズ様、不必要かとは思いますが、よろしければ、こちらをお使い下さい」
百合子の後ろの団員達が、インベントリから一騎のSAらしきものを取り出し、ルイーズに着用を薦めてきた。
「これは、ノドの国が他国に輸出したものから、我々独自の技術で開発したSA、バヤールです。これは、通常の鎧の上に装着可能ですので大変汎用性が高く、現在我々ギルドの基本装備となっています」
百合子が説明する。
そのSAは、光沢のある赤茶色の美しいものだった。
「確かに素晴らしい力を感じる。この美しさは名機と言えよう。お前達の気持ちを受け取らぬわけにもいくまい。借りるぞ」
団員達数名がルイーズの近くに寄り、素早くバヤールを装着した。
ルイーズは儀礼用スーツ姿だったが、その上からでも映えた。
「それでは、行くとしよう!」
百合子の案内で、ルイーズは空に舞い上がった。
雲を貫き、上昇していく。
雲の上に出ると、塔の頂上には大きな石づくりの白い羽根が左右に一対伸びていた。
その羽根の一つに横付けされる形で、あのカイザーブルクが停泊していた。
「おお、確かに大幅に変わっているが、あれは間違いなく、我らが本拠地カイザーブルク」
カイザーブルクの上を旋回しながら、ルイーズは懐かしい気持ちになった。
その姿は、まさにSF映画の中の宇宙船の様だった。
矢尻の様な形の本体。
後部から4本の大きなブースターが、すらりと伸びている。
銃座や砲塔のようなものは一切見られず、空気抵抗が少なそうな流線形をしている。
どの様な力によるかは不明だが、空中に静止していた。
ルイーズは、いきなり艦橋に転移する。
何の妨害も無く、カイザーブルクはルイーズを受け入れた。
環境は、昔よりも大幅な改良が行われており、よりSFチックに進化していた。
十数人のクルーが席から立ち上がり、直立不動の姿勢でルイーズを迎える。
別れた時と同じ姿で艦長席に座っていたオリアンドは、黙って席を空ける。
「不要だ。長きに渡って我等が本拠を守り、感謝に堪えない。オリアンドよ、お前を正式にカイザーブルクの艦長に任命する!」
ルイーズは、その場のクルー全員に宣言した。
「拝命いたしました」
オリアンドは、ルイーズに頭を下げる。
「まずは、現状を報告せよ!持つ情報の交換を行う」
ルイーズは司令官席に座り、指示を出した。




