第37話 スギナミ
カインは、どこか知らぬ場所で立ち尽くしていた。
目を閉じているので、周囲の状況は分からない。
「このキャラクターをリセットしますか?リセットすると、現在のギルドから離籍します」
彼の頭の中で、誰かが女性の声で、そう言った。
「YES」
彼は、リセットを選ぶ。
「属性を選んで下さい。それによって選べる種族が変化します」
女性が、属性の選択を促がしてくる。
「もう、何かに縛られるのは、ごめんだ。中立-中立を選ぶ」
彼は、迷うことなく属性を選択した。
「その属性を選ぶと、一部の現魔、全ての従魔との契約が破棄されます。また、現在の種族、一部のスキルが選択出来なくなります」
女性が属性選択の可否を問いただしてくる。
「構わない」
彼は、属性の選択を確定した。
「それでは、選択可能な種族と外見を選んで下さい。また、リセット前と同じキャラクターレベル、同じ能力値とスキルの成長ポイントを得ます。新たに能力とスキルに配分して下さい」
カインは、促がされるままにキャラクターを完成させた。
「ここは…まさか、スギナミの街!」
カインが目を開けると、そこはイマジンのキャラクターが最初に配置されるスギナミという名の街だった。
未来的な地下都市。
地上のファンタジーな世界と隔絶された、現実世界を思わせる街並みだ。
高い建物は無く、上を見上げると数十m上にはコンクリートの天井が広がっている。
天井にある複数の照明機器によって、街全体が照らされている。
この街は、現実世界から飛ばされてきた杉並が改築されて生まれ変わった場所という設定だ。
現実から飛ばされてきた人々は、自分達の身を守る為に地下に街を移した。
「迷える者、カインよ。キャラクターをリセットし、戻りましたね」
カインは、スギナミの街の中央広場にある大きな噴水の前にいた。
そこには、ゲーム内と同じ様にソフィアが立っている。
全てのキャラクターは、ここからプレイを開始するのだ。
噴水の周りは、多くの人で賑わっていた。
ソフィアは、カインに声を掛けてきた。
「これは、どういう事だ?ここは一体?」
カインは、ソフィアを問いただす。
「ここは、私が5万年をかけ、ゲーム内とそっくりに作り上げたスギナミです。あなたのいたエウロパ大陸ガリア地方から、遥か東方に位置する秘密の街。ここには、この世界でのプレイをリタイアしたキャラクター達が暮らしています。あなたも、望み通りゲーム内での重荷を下ろした。ここで永遠に生きるもよし、再び冒険に臨むもよし。あなたの選択次第です」
ソフィアは、優しくカインに語りかける。
「いや、今の私は、あの方のものだ。恩義を返さねばならない」
カインは、噴水の水面を覗き込んだ。
そこには、顔かたちは一緒だが、顔色の良いエルフの青年が映っていた。
シンプルな緑のローブを羽織って、木のスタッフを持っている。
「では、行きなさい。彼女は既に、自らの本拠地にリポップしています。転移装置を、そこに繋ぎましょう」
ソフィアが、指さすと、そこにはゲーム内と同じ金属の門があった。
門の中には光が渦を巻いている。
特定の街の間を一瞬にして移動出来る転移装置だ。
「…」
カインは、迷わずポータルの光の中に向かう。
「これからは、中立-中立のキャラクターを管理する私が、あなたを見守っています。自分自身の自由な判断により、道を選んでいきなさい」
ソフィアが、去ろうとする彼に声を掛けると、少し後ろを振り向き頷いた。
そして、光の中に消えていった。
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