第31話 魔王、戦いの矜持
「ええい、この虫ケラ共め!」
カインは、神奈川県の山中で、ドローンとミサイルの攻撃を受けていた。
「大いなる魔法盾、大いなる魔法鎧、大いなる魔法剣」
彼は、次々と魔法で作られた装備を召喚する。
魔法で作られた装備は、魔法使い(マジックキャスター)系の彼にも使用可能だ。
頭には、コウモリの羽根飾りのついたヘルム、全身赤黒く輝く鎧に包まれる。
ドラゴンの装飾の入った盾、巨大な両刃の剣を持った姿になった。
次々と、ドローンとミサイルを叩き落していく。
それが一段落すると、転移魔法でミサイルの発射母体である自衛隊の戦闘機部隊のそばに、数十kmテレポートする。
「この世界の中であれば転移も可能なようだな!」
空を高速で飛び回り、戦闘機を次々と剣で叩き斬って撃墜する。
「いいぞ、いいぞ、もっと暴れるがいい!!お前は、この世界の本体を底辺から救ってやる事も出来ない。ならば、力づくで、この世界を変えるがいい。力で支配し、思うままの世界を作ればいいのだ!」
カインの頭の奥に、デモゴルゴンの声が響く。
田中実を金持ちにしてやろうと思ったが、出来なかった事が歪んだ形で思い出される。
「この世界のゲーム仲間達は、お前を捨てて引退していった裏切者達だ。お前の家族は、従魔だけだ。そして、その家族を奪ったルイーズ達を許してはならぬ!この世界の全てを破壊しつくせ!」
デモゴルゴンの声は止まる事は無かった。
カインの両目から、血の涙が流れる。
全ての記憶が歪んだ形に置き換わっていく。
それを否定しようとしても、混沌-悪属性が考えを強く抑制する。
贖罪魔法も機能しないほど、強い怒りの感情に支配されていく。
「隕石落下!」
カインが、ランク9の強力な魔法を発動する。
空から、4つの隕石が落下し、眼下に広がっていた都市に落下する。
落下地点が吹き飛び、火の手が上がる。
「ふははは!この世界では、向こうの世界より魔法の威力が高くなるのか!素晴らしい効果だ」
カインが、歓喜の声を上げる。
おそらく、数万人が一発の魔法で被害を受けただろう。
「脆い、あまりにも脆い。この世界ならば、私一人で支配してみせるわ!」
カインは、叫んだ。
転移を繰り返し、次々と都市を破壊していった…。
小一時間ほど暴れまわった後、突然カインの脳内に、個別チャットが飛んできた。
『それ以上、あやまちを繰り返してならん!!』
「やっときたか、聖騎士!そうでなくては面白くない」
カインが振り向くと、そこには白と青の鎧に身を包み、背中から虹色の光を羽根の様に噴出させたルイーズがいた。
両手には長い銃剣のついたライフルが握られている。
カインと同じく、空中に停止している。
後ろから、自衛隊のヘリが追ってきていた。
「おかしな真似をすれば攻撃する!速やかに、約束通り、そいつを排除するんだ!」
ヘリから、拡声器を通して、そうルイーズに指示が出される。
「やはり、お前は敵の様だな。しかし、私は寛大な魔王だ。チャンスをやろう。この私のものになれ。そうすれば、この世界で望むだけの領地と地位をくれてやるぞ。ふふふ、答えが分かっていても、こう言うのが魔王の醍醐味というものだろう?」
カインは、ニヤリと笑って言った。
「残念だが、断る。お前が、私のものになるのだからな!」
ルイーズは、そう言うとカインに斬りかかった。
カインは、それを盾で受け止めるが、盾が破壊されて消滅する。
「魔王と勇者の戦いは、まずこうでなくてはな!」
ルイーズの銃剣とカインの両刃の剣が、ぶつかりあって火花を散らした。
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