第28話 9人の転生者
「その通り、私は君達、現実の世界の世界の人間にとってはホログラムのようなものでしかない。幽霊ごっこを続けてもしょうがない。それでは、ゲームを再開しよう。株式会社ダンジョンのサーバーを調べた君達は、この様な情報を得るだろう…」
デモゴルゴンは、説明を始める。
「イマジンをサービス終了させた後、イマジンにゲームマスターとして関わった8人の幹部と共に、ダンジョン社長森出海音はプライベートジェットをチャーターしてリゾートに出かけた」
デモゴルゴンは、まるで他人事の様に説明する。
「不調で終了した割には大盤振る舞いだな」
デイジー陽子が、少し顔を歪めて言った。
「次のビジネスへの前向きな前進の為の終了だよ。しかし、君達も知っての通り墜落事故に遭って、森出社長を含む9人の幹部は全員死亡した。だが、彼等はルイーズやカイン君の知る、あの世界。電夢境に転生したのだ。その一人、森出海音の転生者が私というわけだ。つまり、あの世界に本当に転生した超越者は、我々9人だけなのだよ」
「それでは、ルイーズやカインは一体どういう存在なのだ?」
デイジー陽子は、悦に入る森出海音に聞いた。
「転移転生したように見えるプレイヤーキャラやNPC達は、全て我々の転生時に与えられた贈り物でしかない。いわゆるチート能力の一つだ。転生時に、すんなり状況を受け入れて、大して慌てもしなかっただろう?それは、お前達が、元々データから作りだされたキャラクターでしかないからだ」
森出海音は、ルイーズとカインを見て言った。
「確かに、すぐに状況を飲み込んだ。元の世界への帰還も、それほど望まなかったな。その後は、状況に流されて、着々と王国作りを」
カインは、顎に手をやり、やや下を向いて言った。
「お前達は、ゲーム内の設定で作られている。なので、現実世界の記憶を持っていても、別の原理で行動してしまうのだ。戦闘や殺しも、何とも思わなかったであろう?」
デモゴルゴンは、ニヤリと笑う。
「だとしても、我々には感情がある。お前達ゲームマスターの好きにはならんぞ!」
ルイーズが、叫んだ。
「確かに!私は、お前達にゲームを楽しませてやっているだけなのだ。自ら選んだ役割を踊るのをな。それが、ゲームマスター最大の悦びですので!はっはっは!」
デモゴルゴンは、大きく笑った。
「戯れているのか!」
カインが、怒る。
「何を言う。ギルド内で、面倒事を押し付けられただけのリーダー。お人好しのサラリーマンが考えた小悪党が、本物の魔王として悪行の限りを尽くせるように、最大限手助けしてやったではないか」
「私は、ギルドメンバーと国民が誰しも幸せに暮らせる国を作ろうとしただけだ!」
カインは、デモゴルゴンの言葉に反論した。
「無駄無駄、お前に出来るのは圧政と侵略だけだ。いくら、お前が善政を行おうとしても、お前の部下の悪魔やアンデット、吸血鬼達は、人間達を家畜程度にしか考えておらぬ。彼らが望むのは、血と肉だけなのだ。そして、お前は混沌と悪の属性に従い、破壊の限りを続けるだろう。それが、本当の自分なのだからな!」
デモゴルゴンが放つ、黒と赤のオーラが強くなる。
「黙れ!これ以上、この者を苦しめるではない!」
ルイーズは、デモゴルゴンに向かって言い放った。
「邪魔をしたいなら秩序と善の属性に従い、横にいる大魔王を倒せばよかろう。それが、お前の役割だ。私は一向に構わん!大魔王の矜持は、正義に倒されてこそだからな!」
デモゴルゴンは、ルイーズにカインを倒せと言う。
「いい加減にしろ!このサディストめ!」
デイジー陽子は、手に持ったテイザーガンをデモゴルゴンに向けて放った。
しかし、すり抜けてしまう。
「これは興が乗りすぎた様だ。失礼したな陽子社長」
デモゴルゴンはクールな口調になり、デイジー陽子に言った。
「お前が現実世界で死んだというなら、この世界にいる森出海音は何者だ?」
デイジー陽子は、デモゴルゴンに尋ねる。
「あれは、アンドロイドだ。エーテル体を使って操作しているだけだよ。しかし、君達に知られてしまった以上、もう使えないな。別のアンドロイド体を用意しなければならない。元々そのつもりだったのだ。最後に陽子社長、我が社の株を高く買い取ってくれてありがとう。おかげで、この世界での活動資金が稼げたよ。あなたも、良いビジネスを!」
そう言うと、デモゴルゴンのエーテル体は、霧の様に消えた。
『ふふふ、あのアイテムの効果が、元の世界に戻る事に変っていたのは予想外だった。しかし、あのアイテムと同じ効果は二度と再現出来ない。こちらの世界で5万年、研究と調査を続けているが、辿り着けない。だが、必ず手に入れてみせる。そして、この飽き飽きした別世界だけでなく、現実世界でも超越者として君臨するのだ。それはさぞ素晴らしい愉悦であろう』
デモゴルゴンは、暗い中世風の工房の椅子に座っていた本体に意識を戻し、思案する。
広い工房には、実験道具が散乱し、怪しげな物質やモンスターの一部がフラスコや瓶に入れられていた。
それだけでなく、この世界でデモゴルゴンが開発したであろう電子機器なども存在し、長い期間の研究が伺える。
「だが今は、ゲームマスターとして、せいぜいあの魔王を支援してやろうではないか!はっはっは!」
デモゴルゴンの叫びが、誰もいない研究室に響いた。
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