第2話 失楽園~女帝地に堕つ
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航空戦艦カイザーブルクの艦橋は、混乱状況にあった。
艦橋のメンバー達は、右往左往しながら状況を把握しようとしている。
ルイーズがリーダーを務めるギルド”イマジンバトル研究会”の本拠地であるカイザーブルクは、空飛ぶ戦艦であった。
他の有力なギルドの本拠地が強固な城や迷宮であるのに対して何故戦艦なのかというと、イマジンバトル研究会が秘匿ギルドであるからだ。
自分達の攻略情報やバトルの戦略を秘密にする為に、ギルドランキングに参加しないのが秘匿ギルドである。
本拠地を攻撃されて防衛戦で戦略が探られないように、移動出来る本拠地で無用な戦闘を避けているのだ。
そのおかげか、スキル習得の条件クリアの為に各個人でアリーナバトル(個人のランキング戦)でチャンピオンを取るが、すぐにランキング外に消えていく戦闘集団として噂レベルでは知られているが、その真の実力はゲーム参加者には知られていない。
「ルイーズ様、現在この艦は未確認の地球型惑星の高度3万6千kmを周回中でございます。現在、気密と船内温度は保たれていますが、この艦は宇宙空間を航行する能力はなく危険な状態です」
ルイーズの前に、背中に蝶の羽根を持ち赤く美しい長髪の女性従魔オリアンドが跪いて状況をルイーズに報告した。
『まず、NPCである従魔のお前が、定型文以外の発言をしている状況がおかしいのだがな』
艦長席に座るルイーズは心の中で、ため息をついた。
カイザーブルクに乗り込んだルイーズ達はイルミンズールを見下ろしながらサービス終了時間を迎えたはずだ。
しかし、その瞬間、カイザーブルクは謎の空間転移、見知らぬ惑星の軌道上に飛ばされたのであった。
「ルイーズ様と聖騎士のみなさまは、脱出艇に分譲してコールドスリープ機能を利用して、救助を待つのがよいと考えます」
オリアンドは、ルイーズに進言した。
「その装備は、設定だけの飾り装備だったはずだ。機能するのか?」
「はい、機能している事を確認しております」
ルイーズの問いに、オリアンドは即座に答えた。
「リーダー、この艦の設定だけだった機能が複数稼働状態なのを確認しています。このまま、座して死を待つよりは賭けてみてもいいかもしれません」
艦長席の隣に立っていた、黒髪の利発そうな30代ぐらいの小柄なイケメン男性が口を開いた。
「しかしなモーギス、我々はエターナルに到達している。種族が人間であっても、宇宙空間程度で死亡するとは思えない」
ルイーズは、その男モージに言った。
モーギスは東大卒で、実世界でも優秀な部下としてルイーズの片腕として働いている。
ルイーズは、実世界ではメガバース事業を営む企業の社長だった。
「確かに我々は、既に神格を持ち定命の者ではなくなっています。宇宙空間でも生存出来るはずですが、この世界がゲームの中ではない異世界とすると完全に安全とは言えないかもしれません」
モーギスがルイーズに答える。
「設定が信用出来ないというなら、脱出艇の機能も同じ様に信用ならんのだがな…。だが、今回は、お前達の進言に乗るとしよう。この世界がゲームの延長だとしたら、座して待つのは気にいらん。常に先んじてこその遊びだろう」
ルイーズは、にやりと笑いながら言った。
「全員、傾聴!!」
モーギスが、艦橋の全員に檄を飛ばす。騒がしかった環境がピタリと静かになり、ルイーズの発言を待つ。
「我々は、ゲームの世界でも現実の世界でもない未確認の地球型惑星の軌道上で立ち往生状態だ。転移魔法では、行った場所にしか移動出来ない。このまま無為に時間が経つのを私は良しとしない。そこで、脱出艇での降下を試みる。降下に失敗して宇宙を彷徨う事になった時の為にコールドスリープ機能も使用する。ゲーム上でも強者であった、お前達ならば必ず生き残るであろう。プレイヤーは脱出艇に分譲して全員退艦せよ。操艦に関わる従魔は、この艦を維持、我々の帰還を待ちながら、降下の可能性を探れ!」
ルイーズは、全員に命じた。即座に動き始めるギルドメンバー達。
「叔母上、わくわくするねえ新しい世界は」
狭い脱出艇のコックピットで、現実世界でルイーズの甥っ子であるサンシールが言葉を発した。他にはルイーズとモーギスが同乗している。
サンシールは、190cm代の長身で金髪碧眼の18歳くらいの美少年キャラだ。ゲーム内の戦闘力は、ルイーズに次いでギルド内2番目。おそらく、イマジンでも並ぶものは、ほとんどいない猛者である。
「そう考えておくのがよいかもな。私は、考えても仕方のない事は考えずに決断する主義だ」
ルイーズが言った。
「同感です」
モーギスが頷く。
脱出艇がカイザーブルクから射出されると、3人は眠りについた…。