第16話 ルルワリリス親子の決意
イラドが去ったノドの城の大広間。
一人残り王座に座るルルワリリスの前に、ファウストが現れる。
「ファウスト。カイン様を離れて出没しているというのは本当だったか」
ルルワリリスは、焦点が定まらない据わった目で言う。
「ルルワリリス、可哀想なお前に助言をやろう。デモゴルゴン様の、お言葉である!」
ファウストが手を上げると、大広間に四角い画像が現れ、現代調の会議室で座るスーツ姿の女性が現れる。
「ゲームマスターが私に何の用だ。あの女を始末でもしてくれるのか?」
ルルワリリスは、力なく言う。
「私は、お前達が属性と設定通りに行動してくれればよい。それだけの事。ただ、お前が混沌と悪の道をカインの妻として進めるように願うだけだ」
「力を貸さぬなら、黙っていろ!!」
デモゴルゴンの言葉に激昂し、空中の映像に電撃を放つルルワリリス。
しかし、その光は、むなしく映像をすり抜ける。
「ふふふ、新たな情報はゲームマスターとして渡せぬが、お前の知る限りの情報から、アドバイスだけはしてやろう。これは、可哀想な情弱に対するルール説明だ」
ルルワリリスの態度に、満足気にデモゴルゴンが答える。
「…」
ルルワリリスは、不服そうに黙った。
「まず、”必殺の弾”は、相手の魅力度と自分の耐久力で対抗判定を行い、勝てば無効化出来る。ルイーズの魅力度は相当高そうだ。簡単ではないが、耐久力を強化するアイテムを多数装備すれば抵抗出来るだろう」
「…」
デモゴルゴンの言葉に、ルルワリリスの瞳が少しづつ力を取り戻していく。
「もうすぐ、カインはボイオカッセ国との戦争にかかりきりになる。その間は、この城の戦力は、お前に好きに出来る。個人で勝てぬ相手といえど、このノドの城は、お前達にとって圧倒的に有利な領域。罠を張り、好きなだけ配下の従魔を配置出来るだろう。奴らが、どんなに優れていても、戦いようはある。正々堂々戦う必要などない」
「なるほど」
ルルワリリスの金色の瞳が、ギラギラと光り出す。
「さらに、お前の持つ全ての素材を差し出して、ガンスミスに最強のSAを作らせるのだ。消耗したところを叩き、後は奴等の息の根を止めるだけ。うまくやりなさい…」
そういうと、デモゴルゴンの映像は、すっと消えた。
いつの間にか、ファウストの姿も無い。
「聞いていたか、エノク」
残されたルルワリリスが、全身から暗い金色の炎の様なオーラを出しながら言った。
「はい、私もお助けいたします。お父様によって最後に作られた幹部従魔の力、奴らに思い知らせましょう」
大広間の柱の後ろから、全てを聞いていたエノクが現れて、ルルワリリスへの助力を誓う。
「ガンスミスよ、お前に頼みがある。この装備と素材を使って、私専用のSAを至急完成させて!後は、お前の知るルイーズ達3人の戦力を全て教えなさい!!」
ルルワリリスは、ガンスミスの工廠に密かにやってきて依頼していた。
後ろには、彼女の持つ暗い金色の鎧が運び込まれ、不気味に光っている。
「これは元から、いくつもの鎧の効果を合成した一品。こんなものを素材にしてしまってよいのですか?これだけで物理と魔法ダメージを90%は防げるはず。さらに詠唱時間‐90%に魔法威力+50%も付いていますよ!」
素早く鎧を鑑定したガンスミスが、驚きの声を上げる。
「さらに、これも素材として使うのよ」
ルルワリリスは、自らの体から鱗の範囲を広げ、それを剥ぎ取る。
だらだらと血が流れ落ちた。
「そんなものまで…」
ガンスミスは、絶句する。
「全身の鱗を全てあげるわ。これと、私の強化魔法を全て合わせれば、限りなく物理と魔法ダメージ‐100%に近づけるかもしれない。これを誰にも秘密で、出来るだけ早く完成させて!」
鬼気迫る勢いのルルワリリスに、ガンスミスも了承せざるおえなかった。
「これだけの硬度の素材を加工して、しかも短期間で?」
「無理なの?」
「私の能力とスキルならば可能ですとも。しかし高いものにつきますよ。なに、この鱗を少しいただければよい。最高硬度の悪魔の鱗、充分です」
ガンスミスは、ニヤリと笑った。
「それと、カイン様にも、お話ししましたが、ルイーズ様のギルドは仲間内でも自分の戦力は最低限しか教えないのがマナーだったのですよ。ましてや、アイテム製造職の私には大した情報は伝わっていないのです。分かっているのは、ルイーズ殿とサンシールは戦士系アタッカー。モーギス殿は、魔法系でアタッカー寄りのバランス型という事ぐらいです」
ガンスミスは、ルイーズ達の情報を伝える。
「つまり、防御や探索能力には欠けているという事ね」
ルルワリリスは全身の鱗を引き剥がして血まみれの体を引きずりながら、満足気に帰った。
「よいのですか、ガンスミス様。あの様子では、ルイーズ様達を襲う為に使う装備であるのは明白」
ルルワリリスが去った後、一人の女性がガンスミスに声をかける。
短く切り揃えた青い髪、腹部の見える緑色の軽装鎧を身に付けた20代の女戦士だ。
「フエッラウよ、ノドの国やルイーズ達がどうなろうと私はどうでもよい。これからは、私の装備が、この世界を席巻する事になる。やがては、誰でもイマジンのトッププレイヤーに対抗出来るようになるのだ。その時は、この私が真の支配者となる。その時は、お前を女王にしてやるぞ」
ガンスミスは、フエッラウに言った。
彼女は、ガンスミスの作りだした従魔で、この世界での側近と護衛を務めていた。
「ありがたき幸せです」
フエッラウは、静かに頭を下げた。
数週間後、戦線を開いたワーキンの元にカインは戦場視察に向かった。
ルイーズは将軍の地位を固辞し、暗黒将軍は空席のままになっている。
運命の夜が近づいていた。
 




