第14話 女帝と暗黒騎士の決闘
「それで、アリオス家の当主と妻を討ち取ったが、娘は捕まえられずか。これは、イラドとルイーズ殿の落ち度ではないか?」
ノドの城の大広間、王座のカインとルルワリリスを前で膝まづくイラドに向かって、不機嫌そうにルルワリリスが言った。イラドの横に立つルイーズは黙ったままだ。
「しかし、捕虜への尋問でウェリオというハーフエルフの少女が襲撃に使っていた剣の持ち主である事、その剣の師匠であるパラワン神父という男が相当の使い手で共謀者の大男の可能性が高いというところまでは掴んだのだ。収穫としては充分、むしろ褒めるべきところだ」
カインは、そう言った。
「はは、恐縮でございます!」
イラドは、大きく頭を下げた。
「ワーキンよ、娘とパラワン神父なる者を必ず見つけ出し、討ち取るのだ。飛行巡洋艦を維持しているのだ。それなりに組織化しているだろう。協力者達も、一人残らず討ち取れ」
カインは、王座の横に立つワーキンに命令を発した。
「はっ、今すぐ部隊を編成し、娘と神父、アリオス家に飛行巡洋艦を供与した王家を含め貴族共も残らず滅ぼしましょう。1週間後には、ボイオカッセ国の全ての領土をカイン様に献上出来るでしょう」
ワーキンは、そう言った。
「…」
カインは、一瞬黙った。
「うむ、子細に及ばず」
少し考えた後、カインはそう言った。
「これで、北の海を越えた先のアルビオンへ侵攻する道筋がつく。ノドの国も安泰。カイン様もお喜びであろう、頼むわよワーキン」
ルルワリリスも機嫌を直したようだ。
「イラドよ、お前には褒美がある。ガンスミス殿!あれを!」
カインが呼ぶと、ガンスミスが大広間に入ってきた。後から、数人の従者によって台車に乗せられた鎧の様なものが運び込まれる。
「カイン様の命により製作しておりました、貴重なブラックドラゴン、ダイヤモンド・スカラベなどの素材をふんだんに使用したSAでございます。これは、以前のプロトタイプとは違い、イラド様専用に調整され、筋力や速度を20%は向上させる上、装甲も強化します。カイン様により、ティタヌスと名付けられております」
ガンスミスが、自慢げに説明する。
台車に載せられたそれは、まるで狂暴な甲虫の様だ。
「これがあれば、闘技場での様な敗北はあるまい。存分に役立てよ」
「無様な姿を見せたというのに、この配慮。このイラド、感謝に堪えません」
カインの言葉に、イラドは深々と礼をした。
「そして、ルイーズ殿には、新設する私の親衛隊の隊長を任せたい」
「少し考えさせていただきたく存じます」
ルイーズは、カインの言葉を、すぐに受けなかった。
「あの女がカイン様の親衛隊隊長?そんな事が許されるわけがない!!」
ルルワリリスは、私室にイラドとエノクを呼び出し悪態をついた。
「新設の親衛隊など、ろくな権限も無い有名無実の職だろう。気にする必要はないのでは?」
イラドは、言った。
「権限などどうでもいいわ!あの女がカイン様の側に始終いると思うと虫図が走る!!」
ルルワリリスの機嫌は直らない。
「イラド、お前はお母様の思いが伝わっていない。職の権限に関係なくカイン様の側にいれば意見も通りやすくなるでしょう。あの女の権力は増すに決まっています!ガンスミスの様に遠ざけて使うならまだしも、親衛隊など、とんでもない!」
エノクは、言った。
「イラド、あの装備の使い心地はどうなのだ?今度は、あの大男に遅れはとらないでしょうね?」
「もちろん、二度と敗北するつもりはない」
ルルワリリスの問いに、イラドは、はっきり答える。
「ならば、あの女にも遅れはとらぬはず。イラド、あの女と試合して負かしてくれない?あの女が実力不足となれば、カイン様の考えも変わるかもしれない」
「なっ!」
ルルワリリスの言葉に、イラドは驚きを隠せない。
「それは、カイン様の許しを得なければ何とも言えぬ。それに、幹部同士の私闘は厳しく禁じられているのを忘れたか?」
「あの女は幹部ではない!ただのよそ者だ!!」
ルルワリリスは、イラドの言葉に苛立ち、目の前のテーブルに拳を叩きつけて破壊した。
「この私が許す。イラドよ、カイン様には秘密で、あの女と試合なさい!そして必ず倒すのです。表向き我々は幹部として同格となっているが、これは女王としての命令よ」
ルルワリリスの金色の瞳が、ギラギラと光る。体に巻き付いた大蛇が「シャー」と威嚇音を発した。
「確かに承った」
イラドは、しぶしぶルルワリリスの命令を受けた。
エノクも満足気だ。
ノドの城から数十km離れた森の中の開けた場所に、ルルワリリスとエノクを連れたイラドがティタヌスを装備して立っていた。
その姿は、ただの鎧の戦士ではなく、異形のモンスターの様だ。
普段の鎧の上から分厚い装甲が覆い、間接から太い人工筋肉が見える。
背中には羽根の様に、ブースターの束が広がっている。
上腕と下肢にはドラゴンの爪が付き、禍々しく光る。
上空から、サンシールとモーギスを連れたルイーズが、飛行魔法で舞い降りる。
「さて、では始めるとするか」
ルイーズは、飄々としている。
軽い茶会にでも誘われたようだ。
「むむっ…試合を受けていただき感謝する。いざ尋常に勝負」
イラドは、剣を抜いて中段に構える。
「ところで…殺してしまっても構わんのか?」
ルイーズは、表情一つ変えずに、そう言った。
最低限の防御力しかない儀礼用スーツのままで、何の武器も持っていない。
「…!!」
その言葉に、思わずイラドは上段に剣を構え直す。
「どうした、早く剣を振り下ろして、私を倒してみせよ」
ルイーズは、言った。
その黒い瞳に強い光が宿る。
すっと、拳をイラドの方に向けた。
「キィエエエエ!!」
強い気合いと共に、イラドの超高速の斬撃がルイーズを襲う。
その身には、ルルワリリスとエノクによって試合前に速度アップ系を中心に多数のバフ魔法がかけられており、ティタヌスの能力アップと合わせて、まさに神速の一撃となっていた。
「ズサァアアア」
イラドの剣は完全に振り下ろされる事はなく、体は地面に倒れて勢いで滑り、ルイーズの横に力なく転がった。
「馬鹿な!!」
ルルワリリスは、イラドの横に駆け寄る。
2匹の大蛇、恐ろしい怪力でイラドの巨体を表返す。
その胸には一発の銃弾の弾頭が、追加された装甲の隙間から、元の鎧にわずかにめり込んでいる。
「これは、まさか指で飛ばした指弾で、この鎧にダメージを!?復活アイテムが効かずに蘇らないという事は、魔弾使いの”必殺の弾”か?」
ルルワリリスは、驚いた顔で言った。
「その通り。最高レベルの魔弾使いは、一日一発のみ製作可能な必殺の弾を、これまた一発だけインベントリに入れて持ち歩ける。この弾は、少しでもダメージを与えると相手を絶命させ、高度な蘇生魔法でしか復活出来なくさせる」
ルイーズは、言った。
「それにしても指弾で、この重装甲のイラドに一撃でダメージを与えるとは」
エノクは、悔しそうに言った。
「上段に構えて、これから切りかかろうとする者に、先に構えた指弾を当てるなど簡単。横綱が胸を貸すようなものだ。私の能力とスキルなら、指弾でも少しぐらいはダメージを与えられるよ。さっさとカイン王に復活させてもらえ」
ルイーズは、そう言うと、飛行魔法で素早く飛び去った。
森の影から、暗黒兵団の者達の殺気を察知したからだ。
「能力とスキルがあっても、我々従魔では、経験不足だと言うのか?」
ルルワリリスの両目から涙が流れる。
「お母さま…」
エノクは、ルルワリリスの肩をそっと抱いた。
良ければブックマークや評価を頂けると嬉しいです。
励みになります。




