第13話 襲撃!!美しき母と娘
「イラド殿、少しいいかな?」
ノドの城の長い廊下を一人で歩いていたイラドは、柱の陰から現れた執事服の男に突然話しかけられた。
「なっ!お前は、ただのガイド。カイン様から離れる事は出来ないはず!」
イラドは、驚いていた。
話しかけてきたのは、カインのガイド妖精のファウストだった。
ガイド妖精は、ゲーム内ではプレイヤーキャラの操作用UIの一部で、こちらの世界でも主人の側から離れる事は出来ないはずだった。
「ふふふ、私は元々ゲームマスターのデモゴルゴン様に特別な調整をしていただいているので」
青い顔、鷲鼻に尖った耳、いかにもノスフェラトゥといった顔がニヤリと笑う。
「ええい、何の用だ!?」
イラドは今一つ納得出来ず、不機嫌そうに答えた。
「イラド殿、あなた失態続きでは?よそ者には、いきなり殴り倒される。ましてや、王と女王を守れず一撃で倒されるとは…この辺で挽回しなければ、将軍の名が泣きますな」
ファウストは、嫌味たっぷりに言った。
「分かっておるわ!お前もガイドならば、さっさとカイン様の元に帰るがよい」
イラドは苛立ちながら、その場を去ちさろうと足を速める。
「おおせのままに…」
ファウストは、去るイラドの背中に深々と礼をすると霧の様に掻き消えた
。
カインに依頼されたイラドとルイーズは、アリオス家に闘技場での事件を問い正しに向かう事となった。
これは、ルイーズにかかった嫌疑を晴らす為の踏み絵でもある。
イラドは、ガンスミスによって作られた飛行装置を鎧に追加して飛行で移動していた。
儀礼用のスーツ姿のルイーズは、飛行魔法で、それに続く。
眼下には、イラドの暗黒兵団から選抜された十数騎の騎兵隊が恐ろしいほど早い速度で追ってくる。
デュラハンやスケルトンの騎士など、アンデット系の種族が中心となっている。
乗騎も、骨の馬や青白いオーラをまとった黒馬など、尋常ならざる生物達だ。
『この任務では、あの女ではなく私が功を上げなければ…』
ファウストの言葉を思い出し、イラドは考えていた。
一行は、山を越え平野を駆け抜け、やがてアリオス家の小さな居城に到着する。
「一同、ここで待て!私とルイーズ殿が、アリオス家の当主に事の次第を問いただしてくる!」
イラドは騎兵隊に、待機を命じた。
アリオス家の居城の広間におかれた大きなテーブルで、イラドと当主が向かい合って座っている。
イラドの後ろにはルイーズが黙って立っていた。
ここでは、イラドの従者の扱いだ。
「連絡を受けました事件は、当家は関わりの無い事。確かに、その様な娘を預かっておりますが、唐家の娘ではなく身寄りのない者をメイドの一人として住まわせているにすぎません」
アリオス家の当主、ヒルトはイラドに言った。
銀髪の中々美形の40代男性だ。
「それはおかしいですなヒルト殿。噂によれば、自らの娘の様に可愛がっているとか。実際には養女にしたのではないのかな? まあ、そう仰られるなら身の潔白を証明する為に、メイド一人を引き渡す事、異論はありますまい。即刻、引渡しを。真相は娘から聞き出しましょう」
イラドは、そう返した。
「了解いたしました。そのメイドは、用事で出かけております。明日には捕まえて、お引渡しいたしましょう」
深いため息の後、ヒルトは答える。
「ヒルト殿は、我が国とも直接交易をされている。カイン王の覚えもめでたい。それに免じて、ここは引きましょう。それでは、明日必ず!」
強い口調でイラドは念を押し、城を後にした。
ルイーズは何も口を挟まなかった。
その夜、ヒルトは妻と娘に旅支度させ、城の裏口に呼び出した。
「ウェリオ、先ほども言った通り、パラワン神父のところへ行くのだ。神父を頼ってアルビオンに渡り、ガリア地方に起こっている侵略者カインによる惨状をアルビオン王に伝えるのだ」
ヒルトは、養女として迎えていた娘。
あの闘技場に現れた金髪のハーフエルフ、ウェリオに向かっていった。
「お父様、私が上手くやれなかったばっかりに。申し訳ございません」
ウェリオは、ヒルトに抱き着いて言った。
長い金髪が月の光を反射し、美しく揺らめく。
大粒の涙が、青い瞳から流れ落ちる。
ヒルトの妻も、泣いていた。
その髪と瞳は、ウェリオと同じ色だった。
「お前は、ノドの国によって滅ぼされたココサテス国の王と、アルビオンの姫との間に生まれた不義の子。たった一人の王家の生き残り。亡き王と私は親友であった。王の代わりに、ココサテス国の後継者として相応しい娘に育ててきたつもりだ。私の命運もここまで、ここからは自らの力で国を再興するのだ」
ヒルトは、そう言った。
「いいえ、お父様も一緒に」
ウェリオが、ヒルトも一緒に逃亡するように言ったが、ヒルトは決して応じなかった。
「あのイラドという男、明日まで待つとは思えぬ。早く行くのだ」
ヒルトは、妻と娘を馬車に乗せて送り出す。
「やはり、娘を逃がしたか!!」
アリオス家の居城の上空を、夜の闇にまぎれて巡回していたイラドは、ランプを灯した馬車を一台発見した。
イラドは、空中の穴から大型の手榴弾を取り出すと、馬車に投げつけた。
プレイヤーキャラや従魔は、ゲームの様にインベントリから即座にアイテムを取り出せるのだ。
「どぉおおおん!」
爆発音と共に、馬車が吹き飛ぶ。
イラドが降下して確認すると、そこには金髪の女性が倒れている。
「やはりか、ヒルトめ許してはおかんぞ!」
イラドは、アリオスの居城に戻ると、次々と上空から手榴弾や攻撃魔法で攻撃する。
下から城の衛兵が弓で応戦するが届かない。
「あれは?イラドめ、先走ったな!」
城の近くで野営していたルイーズはテントから出て、燃えている城を見て言った。
すぐに、飛行魔法で城へと向かう。
途中、爆破され、まだ火の残る馬車を発見し、降下した。
『これは、あの娘ではない。関係無い女性に手を出すとは…武人のやる事ではないぞ』
ルイーズは、そこに残る金髪の女性の亡骸が、あのハーフエルフではない事を確認し苦々しい気持ちになった。
ヒルトは、二台の馬車に妻と娘を分けて乗せて送り出した。
そして、妻の方だけ灯をともし、囮として使ったのだ。
普段ならば、イラドも馬車を止めて確認したかもしれない。
しかし、ファウストに自尊心を傷つけられ焦っていたのだ。
「カイン様に弓引く賊の首、このイラドが討ち取ったぞ!!」
城の方からイラドの勝どきの声が、遠く響いていた。
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