第11話 嫌疑
「許さん!許さん!許さん! カイン様は、どうしてあのような老け顔の女に!」
城の大広間で、ひそかにカインの私室に設置した超小型カメラの画面を見ながら、カインの正妻、女王ルルワリリスは激しく悔しがっていた。
ルイーズがカインに膝を貸している事に反応しているのだ。
「カイン様の私室にカメラを仕込むとは、不敬の極みではないか?」
魂を持った黒いフルプレートアーマー、暗黒兵団将軍イラドは、言った。
「女王よ、あなたはカイン様が側室を持たれる事も許している。カイン様の情事に今更嫉妬を覚える事は無かったのでは?」
軍服を着た老人、魔術兵団将軍ワーキンが口を挟む。
「馬鹿を申せ!母上が、あの様な女に嫉妬など!あの女が、危険だとおっしゃられたいのです!」
カインとルルワリリスの娘、プリンセスエノクがワーキンに言った。
「そ、そうなのよ!私は決して嫉妬などしていない。聞いたのです、闘技場であの女が「余計な嫌疑がかかるので黙れ」と部下に指示するのを!あの襲撃に関わっているに違いない」
ルルワリリスは、モニターから一同に視線を移すと、激しく、まくしたてた。
「ふむ、それだけでは何とも言えないが、カイン様に報告はせねばなるまい。ワーキン、事の首謀者は見つかったのか?」
イラドは、言った。
「あの飛行巡洋艦は、カイン様が北のエルブン国に複数送った旧式のものをベースにしているようだ。さらに、あの女剣士を声や姿を分析した結果、ボイオカッセ国のアリオス家に似た養女がいるという。アリオス家は、カイン様が目をかけていた事もある名門ですな。裏切っているのなら、即刻叩きつぶさねばなりません」
ワーキンは、調査結果を話した。
「うむ、ではカイン様を、すぐに、お呼びしよう。」
イラドは、ルルワリリスの顔色を伺いながら、スマホの様な端末を取り出し、カインの部屋に緊急呼び出しを発信した。
「ピー!ピー!ピー!」
カインの私室の照明が赤く点滅し、非常音が鳴り響く。
「うわっ!」
カインは、ルイーズの膝から飛び起きた。
「何か緊急事態の様子、失礼!」
そそくさと、私室を離れて大広間に向かう。
「面を上げよ」
カインは、大広間の奥に設置された玉座に座ると、ひざまづいて待つイラド、ワーキン、エノクに言った。一同は立って一礼する。
ルルワリリスは、横に座って目を閉じている。
「先日の襲撃の首謀者に目途がつきました。ボイオカッセ国の有力貴族アリオス家が関わっているようです」
ワーキンが、報告する。
「ほう、それではすぐに対処せねばなるまい。まずはボイオカッセ国の王に、アリオス家討伐の許可を得ねばならんな。あの国は、いずれ攻略せねばならんが、今はまだ、いいように使えるのでな」
カインは、言った。
「お待ち下さい。お父様、お母様がルイーズという女が闘技場で「余計な嫌疑がかかるので黙れ」と言っていたのを聞いております。あの女を即刻、処刑して下さい!!」
エノクは、強く主張した。
「まて、そう事を性急に運ぼうとするでない。それならば、ルイーズ殿にもアリオス家討伐に加わっていただくとしよう。それをもって踏み絵とするのはどうかな?」
カインはエノクの言葉にしばらく沈黙し、そして諭すように言った。
「お父様は、あの女に入れ込みすぎなのです!!」
エノクは、そう言い放つと大広間から早足で出て行った。
「まったく、あの娘は、王に対して不敬ではありませんか。私の教育が至らず、申し訳ございません。王がルイーズ殿とすごすのは、より高みを目指す為、決して遊興ではないというのに」
ルルワリリスが、言った。
「エノクを、あの様な性格に創造したのは私だ。それに経験も足りない。許してやれ」
カインは、そう返した。
『…』
『…』
先ほどの痴態を見ているイラドとワーキンは、内心複雑だった。
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