インコのぴーちゃん①
気がつくと真っ暗な闇の中だった。だが、一切の光がないこの空間は恐怖や危虞を与えることなく、ただ懐かしい温かさを思い起こさせる奇妙な雰囲気を醸し出していた。アカネはそっと手探りで歩き出してみることにした。ふと、違和感に気が付く。全身の痛みが全く引いているのだ。ああ、なんということだろう。自分の足で立って歩いているのだ!アカネは嬉しくなり少し飛び上がる。一体何年ぶりなのだろうか。深呼吸もしてみる。心地よい温かさの空気が胸を通過する。毎日息をするのも苦しかったのだ。そんな苦痛に解放され、アカネは暗闇の中で一人歓喜に舞い上がっていた。
- ああ、自由だ!私は自由だ!
アカネにとってこれは夢でも構わなかった。兎に角、今苦しみから解放され、好き勝手に自由に動かせる自分の体に酔いしれていた。
アカネはひとしきり自分の自由な体を体感した後、暗闇を探索することにした。先ほどまでは本当に黒一色だった空間に、所々色鮮やかな光がアカネを照らし始めたからである。まず始めに、彼女は一番近くの青色の光のもとへ駆け寄った。走っても全く苦しくないこの体についつい笑みが零れる。青い光のもとにたどり着くとそれは幻想的なものだった。そこには青々と光り輝く美しい蝶が舞っていたのだ。自分の背丈より充分に大きい。アカネは虫は苦手であったのに、なぜかこの蝶には厭悪な感情を全く感じなかった。だが、本能が何か違うと彼女に囁く。アカネは後ろ髪をひかれる思いで青い光を後にした。
次に向かったのは赤い光のもとだった。何か分からないが彼女はそれに惹かれた。近くに寄ってみて驚いた。その赤い光は小さなテントウムシだった。先ほどの蝶と比べるとずいぶん小さいのだが、自分の知っているそれよりは幾分も大きい。彼女の手のひらサイズの大きさであった。アカネはそっとそのテントウムシに触れようとする、だが今度は向こうの方がアカネから去っていった。そう、それは火の光のように…、ゆっくりと揺れ、そして消え入ってしまった。
アカネはその消えた光に手を伸ばす。何もなかった。少し残念な気持ちになり、その場に座り込む。また違和感を感じた。彼女は恐る恐る地面に手を伸ばす。それは水だった。冷たさは一切感じない。どちらかと言えば温かい。辺りの地面を手探りで触り続ける。何ということだろう、彼女は水面の上に座り込んでいる。もしかしたら、ずっとこの上を歩いていたのかもしれない。アカネはその水の奥に手を伸ばすがその奥には水以外のなにものもなかった。
その時一瞬の疑問が彼女の頭をよぎる。
- もしかしてここが噂の三途の河というものだろうか。
だが、もしそうなら彼岸へいく渡し舟が来るはずだ。彼女は自分の体を触ってみるがお金を持っていなかった。もし、自分が死んでいたとしても船には乗れないな、彼女は少し残念な気持ちになった。
諦めて再び歩み始める。一番奥に何か懐かしい色の光が揺れていた。彼女はもうここがどこでも良かった。その光のもとへ一心不乱に駆けていくことにした。