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ロミオが愛したヒト②

 どのくらいの時が経ったのだろう?目まぐるしく回りに回ってようやく飛び降りた地は、ショウタが思い浮かべていたマンションのある一室の前だった。


 「何だか懐かしく感じる…」そう言ってショウタは深呼吸した。「どうやって中に入るの?」自分の背丈の何倍もある扉を見上げながらネコに問いかける。


 「お腹にしっかりと力を込めて、それからぐーっと伸びをして」最後まで説明し終える前に、ショウタの背丈は元の彼のものへと戻っていった。「あとは普通に普段通りにドアノブに触ってごらん。お互いの魂が共鳴してモノに触れるようになるから。そしたら鍵とか関係なく扉は開かれるよ…」


 ネコの言った通りにすると、ドアを開ける事ができた。そして、ショウタはネコと共に室内へと入っていく。が、玄関へと足を踏み入れた時、ネコは思わず顔をしかめた。ツンとしたカビ臭さを感じたから。だが、ショウタはその臭いを感じる事はない。ネコに構わずドンドンと進んでいく。そしてリビングをみたショウタは発狂した。


 「なんだ!?なにがどうなってるんだ!?何もない!アヤは!?アヤはどこだ??俺の家だぞ!?どうなっている!?」そこには家具も絨毯も何もない、空になった空間が広がっていた。人の住んでいる気配がまるでない。ショウタは家の中を走り回り、全ての部屋を確認する。が、どの部屋も同じである。この住居は既にもぬけの殻であった。「嗚呼。早く泣いているアヤを抱きしめに行かないと行けないのに…」


 ネコは少し拍子抜けた。こんな事は初めての事だった。「そのアヤさん……、奥さんの実家とかに行く?場所わかる?遠い?」


 「ちょっと遠いけど、電車で行けない事は無いよ…」ショウタは先程までの威勢を失い、気力なく体育座りをして呟く。「アヤ……どこに行ったんだ?」


 ネコは考える。「こういうパターンは、実は初めてで…。どうしようか?奥さんの実家に行くか、ショウタの実家に帰って、様子を探るか……」


 実家、という単語にショウタは反応する。「そうだ!おふくろなら何か分かるかもしれない!」彼の目は急に輝き出した。「アヤとは色々あったみたいだけど、おふくろだってもう許してるはずだ!一家皆んなで仲良く過ごしてる筈だよ!」


 「う…うん?」ネコは返答に困った。だって、ショウタの事情なんて知らないのだから。


 「よし、俺の実家に行こう!また、君の上に乗ったらいいの?」ネコの返事も待たず、ショウタはその背中へと飛び乗った。「さぁ、念じるからいつでもどうぞ!」


 ネコはモヤモヤとした違和感を覚えた。が、魂の依頼にはできる限り答えなければならない。ネコはその場を駆け、彼の念じる実家へとワープしていった。





*****





 彼の実家へと着くと、ショウタはネコから飛び降りすぐにその家へと駆け込んでいった。ネコは慌てて彼の後を追う。落ち込んでいるのか、元気が出たのか…。情緒不安定なショウタに一抹の不安を覚えていた。


 奥へと進むと、少しふくよかな体型のふわふわとした優しそうな女性が電話していた。


 「あれがおふくろだよ。賢くて、優しくて、頼りがいのあるヒトなんだ」ネコにコソコソと耳打ちした。「アヤも学んで欲しかったけど、やっぱりあそこまでいくには難しかったみたい……」


 ショウタはその女性の足元まで駆け寄り、徐に手を振り出した。


 「何してるの?」


 「霊感があるとか言ってた気がするから、俺の事も見えてるかな?って思って」ショウタは満面の笑みで答える。「心で繋がっていれば、俺のことも分かる筈だし!」


 だが、ショウタの気持ちとは裏腹に彼の母親は何も感じとることはなく、電話を続けている。「立派な葬式をあげさせてやりたくないの?貴女も元……」


 ふわふわした見た目に反して、彼女の口調は棘があり強いものだった。


 「おふくろ!」ショウタは彼女の声を聞き、母親の足元を抱きしめる。「立派な葬式なんて……ありがとう。先に逝くなんて親不孝者でごめんね…」


 「もういいわよ!なんて薄情な子なの!?それだから捨てられたのよ?貴女には心がないの!?」急に電話口に向かって怒り出し、その女性は通話していた携帯を投げ捨てた。そして、「はぁ…」と大きな溜息をつく。


 「どうしたの?何があった?大丈夫??」ショウタは母親を見上げて声をかけ続ける。当たり前なのだがその声は彼女には届かない。


 暫く時が止まったかのように、彼女は投げ出した携帯をぼーっと見つめていた。



 「親より先に逝っちまうなんて……」



 ネコはやる事がないのでその場に寝転ぶ。ショウタを片目で見守りながら、大きな欠伸をした。

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