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アフター・コロナは物書きの世界  作者: 場末の予言屋
第四章 形から始める「文豪気分」
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34.パイプ入門(パイプ編3)

さて、パイプ入門も大取りを迎える。


ここでは、パイプによって味わいが変わる事を、私の体験を交えて語って行く事となる。


あれはかれこれ、20年以上は遡る。


当時行きつけだった煙草専門店の若旦那が、大阪にある老舗の主人から聞いた話を、私にしてくれた。


「ヴァージニアブレンド(確かラットレイのマリンフレイクだったと思う)を楽しむには、最低でもチャンバー径が25mm以上のパイプが必用だ」


「着香タバコを楽しむには、小さめのパイプに、タバコを固く詰めて、強く吸って高温燃焼させると良い。」


対照的とも言える話だが、これはその道のプロである先人の教えである。


そんな訳でこの二つの教えを、長い時間を掛け検証して来た。


結果たどり着いたのが、「パイプ喫煙は味わいの引き算」だ。


では早速、先人の教えを体験した昔話を一くさり。


【 25mmのパイプ 】


「ヴァージニアブレンド(確かラットレイのマリンフレイクだったと思う)を楽しむには、最低でもチャンバー径が25mm以上のパイプが必用だ」


先人の格言を検証する為、チャンバー径25mmのパイプを探したが、これがまた中々見つからない。


一般市販品で探しても、せいぜい22mmまでが限界だった。


葉巻にしても通常であればロブストの20mmが最大。


それを越えるサイズとなるとロスチャイルド等になるが、それでもせいぜい22mm。


そんな訳で、海外のハンドメイド・パイプにまで手を延ばし、BIGサイズを専門に手がける作家のもので、何とか1本だけチャンバー径25mmの一品を入手する事が出来た。


しかしデカイパイプである。


ボウルの外径は50mmを越え、チャンバーはまさにお椀と見まがうサイズで、煙草に至っては通常のパイプの倍は詰められる。


ここにヴァージニア・ブレンドを詰めて吸うわけだが、喫煙の仕方は通常サイズのパイプと何ら変えない。


低温で煙草の旨味を抽出するかの如く、チビチビと注意深く火をコントロールする。


そうすると誠にピュアな、純粋に煙草の味わいだけを抽出した煙を楽しめる。


あえて日本茶で表現すると、小さなパイプでヴァージニア・ブレンドをバンバン喫煙した場合、高温で番茶をいれた様な事になる。


それに比べ、チャンバー25mmのパイプでジックリ喫煙すると、「玉露を贅沢に使い、低温のお湯でジックリ抽出した様な味わい」になる。


まあこれは、かなり誇張をした表現ではあるが、イメージは伝わりやすいと思う。



【 大きなパイプが合わない煙草 】


チャンバー径25mmのパイプを手に入れてから程なくして、アメリカから新進気鋭のブレンダーによる煙草が輸入され始めた。


確か2000年頃の事だったと思うが、新しい時代の天才ブレンダーと言われるG・Lピースの煙草だったと記憶している。


商品名が何だったのかまでは覚えていないが、ヴァージニアをメインにし、複数の煙草を絶妙にブレンドしたミクスチャーだったと思う。


最初に吸ったのがやや小降りで、煙がストレートに入って来るパイプだった。


煙草の旨味は若干控えめだったが、その代わり甘みと酸味が軽快に味わえ、実に楽しい時間を過ごせるブレンドだった。


そこで、次にミクスチャーの味わいを分析したいと思い、チャンバー径25mmのパイプにこれでもかと煙草を詰めて吸ってみた。


これが思いの外失敗だった。


パイプに火を入れてみたのは良いが、頭の上では幾つものハテナマークが浮かんでいた。


「あの軽快で楽しいヴァージニア・ブレンドは何処へ行った?」


確かにミクスチャーを分析する為に、わざわざ径の大きなパイプでテイスティングをし、その通り様々な煙草葉の味わいを感じる事ができた。


それは間違いではないのだがしかし、味わいがマイルドになると同時に、キュッと締まった感じが無くなり、ブレンドされている煙草の味わいが、バラバラで口の中に入って来た。


折角ブレンダーが最新の注意を払ってミックスした煙草が、大口径のパイプで吸った為に、全くまとまりの無い味わいとなってしまったのだ。


この時改めて、ブレンダーが意図した味わい方に沿った喫煙が、如何に大切かと言う事を思い知らされた。


まあ、若気の至りと言う事なのだが、この辺を忖度できるのが、大人のパイプ・スモーカーと言う事だろう。



【 苦手にしていた入門用煙草 】


日本のパイプ界には、入門用で知られる名品が存在する、


それが「アンフォラ・フルアロマティック」


味わいは「クリーミーかつフルーティーで、クールスモーキングが楽しめる」と言われている。


そんなタバコではあるが、実は個人的に少々苦手にしていたタバコでもある。


理由はアンフォラ・フルアロマティックに使われている独特の香料による。


その香料だが、漢方系ハーブを連想させる甘い香りだ。


これだけでは分かり難いと言う人の為に、もう少し香りに踏み込んで検証してみよう。


アンフォラ・フルアロマティックで私が苦手としている香りは何か、一番近いと思われるのがアニス。

(パウチの表記は フルーツ・ブロッサムとなっているが詳細は不明。)


アニスとは和名で「西洋八角」、中国料理に使われる八角とよく似た味わいだ。


この八角であるが、漢方の様な香りに加え、ミントによく似た清涼感もある。


日本の和菓子で言えば、和三盆の舌に涼しい感じか。


しかしこの香りは、ラズベリーやココナツミルクと並んで、一昔まえの日本人には違和感のあるものだと思う。


わたしも例外に漏れず、この香りに違和感をもっていた。


しかしある時、アンフォラ・フルアロマティックを、とあるパイプで吸ってみたら、その味わいは一変した。


そのパイプがチャーチワーデン。


チャンバーが細長く、マウスピースはロングベント。


火の回りが良く喫煙は楽だが、タンピングはし辛く、喫煙終盤はジュースが喫煙を妨げる。


何より細長いチャンバーと長いマウスピースが、ヴァージニアタバコの繊細な味わいを邪魔する為、あまり印象が良くないパイプである。


事の起こりは、テイスティングの時だった。


試喫であるため、最初は基本に忠実と言う事で、アンフォラ・フルアロマティックを、ヴァージニア向けのミディアムサイズのパイプで吸った。


ただし、タバコをパイプに詰める時に、タバコの刻みの細さが妙に気にはなった。


肝心のタバコの味わいだが、ナッティーなアンフォラのベース煙草の味わいに、アニスの香りが立ち、「この香りは鼻に付く」と少々引いていた。


喫煙終えた結果、タバコ本来の味などが楽しめたが、パイプと刻みの太さが合っていないと感じた。


そこで、タバコを詰めた時に感じた刻みの細さに合わせる為、二回目はチャーチワーデンでテイスティングをする事となったのだが、一服入れて驚いた、あの漢方系ハーブの香りを、ほとんど感じなくなっていた事だ。


もちろん、タバコの複雑な味わいも感じる事はなかったが、その代わりクリーミー且つフルーティーな甘さを持つ煙を楽しむ事が出来た。


たぶん、刻みに合わせたチャーチワーデンパイプが、タバコの味わいを一塊にした事により、ブレンダーが狙った味わいが再現されたのだと思われる。


そこで一つの結論、パイプタバコの楽しみ方だが、タバコが持つキャパシティーを限界まで味わうだけが、正しい訳では無いと言う事だ。


アンフォラ・フルアロマティックで感じた「ブレンダーの狙い」、これ見つけて味わう。


すなわち、煙草側からアプローチする楽しみがある。


反面、自分が今何を求めているのか。


香りなのか旨味なのか、無骨な煙草感なのか。


この、自分が求めている味わいからアプローチし、パイプを選択するのも、一つの楽しみである。


そんな事を考える今日この頃だ。


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