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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.00 Are you ready?
5/27

神引きダンジョンマスター、目覚める


 そんなこんなでたどり着いた異世界――リブシブル。

 眼下に広がるのは、テレビの中でしか見たことがないイージス艦の甲板と、どこまでも続いていそうな大海原。

 エルメイアさんは、作成したダンジョンはどこか適当な海域(・・)に出現させ、俺自身はそのダンジョンのコアポジション――いってしまえば、通常ダンジョンのコアが配置される場所――に転送するといっていた。

 つまるところ、俺のダンジョンは、イージス艦そのものである。


 ガチャで引いた『イージス艦(リブシブル仕様)』の情報にあったように、艦内にダンジョンを作成できるとエルメイアに言われたので、その通りにしたのだ。


 ちなみに、艦内は艦橋を残してすべて亜空間迷宮にしており、前部デッキと後部デッキの行き来は迷宮を通らなければできなくなっている。

 そして、CICがあった場所はゴールスペースに指定しており、基本的にダンジョン内ではここで寝食をすることになる。


 で、俺は今、亜空間迷宮にしていなかった唯一の部屋、艦橋へと来ている。

 異世界に来たんだ、と実感したかったからだ。


 目覚めたときに傍らにいた女性――アシスタントに任命した『アマテラス』を伴って、艦橋へ来れば、窓の外、眼下に広がるのは、果てしない大海原と、その上に浮かぶ我がダンジョン。

 ここに来るまでにも、ゴブリンやオーク、そしてサキュバスなどと遭遇したし、それだけで異世界に来たんだなぁ、と実感できた。

 そして、艦橋にきて、実際に洋上に浮かんでいる軍用艦の中にいるんだ、という事実が、その直前にすれ違った彼ら彼女らのことも相まって、否定できない現実として再び自分に降りかかってきた。


 ただ――不思議と、不安とか、元の世界へ帰りたいとかは、感じなかった。

 そこはやっぱり、俺も異世界にあこがれてたんだなあ、と思い知らされた瞬間だった。


「はぁ……とうとう来ちゃったんだなぁ」

「えぇ。ここから、私達の物語が始まっていくのですね」


 ポツリ、とそう呟けば、耳に入ったのか、傍らでアマテラスも感慨にふけったようにそう嘯いた。

 ここにいるアマテラスは、コピー体だ。しかし、本人もそれは知っているらしく、いや、だからこそ神々しさのかけらもない、おそらくは素の状態の彼女で俺に接してくれている。


 一頻り窓から見える光景を見渡した後、その辺にあった椅子に座り、エルメイアと一緒に設計したダンジョンを確認する。

 いずれの入り口から入った場合でも、転移トラップによって亜空間迷宮第1層の同じ部屋に転送され、そこが正式なスタート地点になる。

 現在は2層しかないが、どちらの層も下層と上層に分かれた迷路となっており、下層の壁にあたるブロックをそのまま上層における通路としたことや、切り替えスイッチによるギミックの設置により、そう簡単には突破できないようになっている。さらに、下層にいるときに上層に存在する敵と遭遇すれば、銃や弓矢、魔法などで容赦なく狙い撃ちされる仕組みとなっている。

 第1層にはワーウルフやサーペンタイガーを放っており、中ボスとしてハイオーガ、最奥部にあたるボス部屋にはゴブリンの砦を設置している。ただし、ゴブリンの砦を守護するのは鉄鬼であり、ゴブリンたちは上層から侵入者を弓矢で狙い撃ちしてもらう算段である。そのための弓矢は、ゴブリン砦に附属していた。まぁ、砦だしな。おかしいことではない。

 第2層はサキュバスの町、人間と亜人種の町を設置している。

 迷宮を徘徊しているのは人間や亜人種、サキュバスの混成部隊。サキュバス族にはデフォルトで魅了系と回復系のスキルがあるので、厄介極まりないだろう。しかも、第1層と同じく、上層からの狙い撃ちが基本だしな。

 そして、第2層の最奥ではファイアドラゴンと武御雷、そして鉄鬼アルドックとの連戦になる。ファイアドラゴンが力尽きると自動で転移トラップが発動し、態勢を立て直す間もなく鉄鬼アルドックとの戦闘に。そして、それでも食い止められなければ、再び態勢を立て直すことなく、最後の砦――武御雷の間に転送、という仕組みである。


「この世界のダンジョン事情を知らないけど、このダンジョンを攻略しろって言われたら、俺ならまず敵前逃亡するな」

「同感です。私も、一般的なダンジョン攻略者程度の力しか持っていない状態で、このダンジョンを攻略せよと命ぜられたら、天岩戸に籠りたくなります」

「お前でさえそう思うのか……」

「まず、ダンジョンに近づくまでにどれほどの犠牲を払わねばならないか……少なくとも、この世界の基準で行けば、そもそもたどり着けない可能性もあります」


 アマテラスが言うのならそうなんだろうな。

 惜しむらくは、現代戦のやり方を知るまでは思うようにいかないかもしれない点だが――その辺は、こちらの指導次第だろう。

 まぁ、にっちもさっちもつかない異世界生活、早い段階で戦力を整えられたのはいいことではあるが。


 ここに来るに至った経緯を思い返してみても、うん、あの神引きがなかったら、こうはなってなかったんだろうな。

 もっと、こう、草原の一角にこじんまりとした洞窟をあつらえて、そこにダンジョンを作ることになってたんだと思う。


 それもそれでまぁ、いいんだろうけど……もしそうなってたら、やっぱりあの神引きは、天に感謝するべきなんだろうな。

 心情的には、今後の運気を使い尽くしてはいないだろうな、とかなり不安なところだが。

 明らかな過剰過ぎる初期戦力。ネット小説だとこういうのって、ダンジョン同士の戦争とかもあるんだよな。

 遠隔地から申し込んで、空間を接続したりとか。

 すでにダンジョンを作っているセンパイ方に目をつけられないか、心配だ。

 最初だから、古株に狙われたらエネルギー的なものの総量でジリ貧負けしそうだし。


「さて……それでは、これからいかがなさいましょう」

「うーん……アマテラスは、どう思う?」

「私、ですか……?」


 基本的に、ダンジョンやダンジョンマスターの天敵といえる『聖者』――聖女をはじめとする、『聖』を冠する職業を有する者達のうち、現役といえるのは世界全体で見ても50人ほど。それぞれ所属宗教は違うものの、おおよそ扱う力は同じで、役割としてはダンジョンの力の源である瘴気を含む魔力の浄化と、それによる広範囲にわたる魔物の一斉討伐がメインになる。

 力、というか能力としては、いかなる敵やダンジョンであれ、それらを可能とするだけの殲滅力とそれを維持し続ける継戦能力。そして、聖女らしく、普通の人では考えられないほどの回復力を誇る回復魔法スキルの保有と、おおよそ全世界をカバーする瘴気の探知能力といったところだろうか。


 エルメイアが言っていたように、瘴気を隠すための武具は必須だろう。


「とりあえず、初期設定ではダンジョンのことしかセッティングできませんでしたから、今はマスターのスキルなど、マスター自身の強化をした方がいいかと思います」

「まぁ、そうだよな……」


 事前準備の中に含まれているのは、ダンジョンの初期設定を除けば言語の加護のみ。聖神が召喚するのであれば、ダンジョンマスターではなく勇者や聖者としての召喚になっただろうから、事前準備もこちらの世界での自分に関する設定に変わったんだろうけど。

 ちなみにその場合、『聖女』を選んだ場合は性別そのものが変わるそうな。

 事前準備が終わった後の雑談でエルメイアさんがそう言ってた。


「とはいえ、最初なので使用できるDEもそう多くはないですからね。選別には注意を要します」

「10,000ptって、やっぱり少ないのか?」

「そうですね。一応、DEの自然吸収量が多いので、余裕は少しありますが……彼女は現在の宗教事情がいささか歪んでいると言っていましたから、しばらくは様子見も兼ねて、無駄な浪費は抑えたほうがいいかと」


 ほらやっぱりそうだった〜!

 まぁ、ダンジョンとして大々的に動かなければ問題ないだろう。そうであると思いたい。

 それにしても……自然吸収量って、何もしなくてもDEって溜まっていくものなのか……。


「迷宮の各種設備の維持などは、世界に無尽蔵に存在する瘴気、いわゆる負の魔力ですね。これを蒐集して維持されます。そして、その余剰分が自然吸収したDEとして充当されます」

「うん? なら、このダンジョンのフィールドからして、結構吸収量はありそうだな」

「先ほども言いましたが、初期段階としては破格といえるほど多いといえます。EPD、すなわち1日当たりの吸収量はまだ推定値ですが、500ほどとなってます」

「うん……多いのか、それは?」

「普通の、草原に出現した洞窟タイプのダンジョンの場合は、維持に使われる魔力はほとんどありません。せいぜいが、洞窟内の空気中成分の比率維持くらいでしょうから、DEのEPDは10ptほどがいいところでしょう。それの50倍というのは、事前準備があってこそです」

「そうか……普通は、事前準備もないままいきなりダンジョンマスター開始なのか」

「そうです」


 そう考えると、DEが1日当たり500ptというのは異常な数値なのか。

 ちなみに、エルメイアが『瘴気を凝固させて魔物やダンジョンにしている』と言っていたことから推測できたが、DEは瘴気のことである、とアマテラスから改めて説明がなされた。DEが多ければ多いというのも現状ではあまり好ましくはないようだ。


「神聖結界陣を設置しているとはいえ、それでも万が一聖神の神託を無視して剣聖や聖賢、聖女といった存在――聖者と呼ばれる者達が来れば、万全とは言い難くなります」

「宗教がそこまで歪んでいないことを祈るしかないな」

「そうですね」


 まぁ、そのあたりはアマテラスに任せておこう。

 俺は早く、この世界を見て回りたいからな。


「さて、それじゃ、そろそろ外に出る準備をしようかな」

「わかりました。スキルの選別を手伝いますね」

「ああ。よろしく頼む」


 アマテラスの動きに倣い、俺は手を払って管理メニューを開く。

 トップメニューには、『所属モンスター管理』『外来生物一覧』『配置物件』『内部構造』など、ダンジョンに必要そうなものが並んでおり、スキルを取得するにはその中の『所属モンスター管理』を選んでほしいといわれた。

 俺はマスターだけど、ダンジョンのシステム的にはモンスター扱いになるんだな。なんか複雑だ。


「まずは一覧からマスターの名前を選択して……マスターは、どのような方向でいきたいですか?」

「うん……んー、とりあえず、無難なのは冒険者とか、そういったスタンスなんだろうけど……」

「ダンジョンマスターという一種の強みを生かすのであれば、行商なども捨て難いですね。いずれにせよ、スキルジェム『ストレージ』は使用しておいた方がいいでしょう」

「そうだな……。所持できる物品に制限がなくなるのは、旅する上では重要なアドバンテージだよな」


 というわけで、さっそくスキルジェムの使い方を教えてもらった。

 スキルジェムの使用方法は、粉々に砕いて服用する(一般的な方法)か、管理メニューから使用する(ダンジョンマスターかコア専用)かの二通り。

 今回は、管理メニューから使用する方だな。


「私達のように、ダンジョンマスターやそのアシスタントであれば、スキルジェムをいちいち入手せずとも、こうしてDEを消費してスキルを習得することもできます。これは、私やマスターに限らず、ダンジョンに属する者であれば、誰でも『所属モンスター管理』でスキルの習得をさせることができます」

「ふむふむ。ダンジョンのモンスターはここでスキルを習得させるっと……了解。んで?」

「今回は、すでに入手済みの、『ストレージ』のジェムをマスターにご使用いただきますので、一番上にある、あなたの名前を選んでください」

「おう」


 言われるとおりに、一番上にある俺の名前――『イツキ オマエダ』を選んだ。ちなみに漢字で表記すると小前田樹になる。

 そして、次に『スキル習得』を選択して、スキルの選択画面で『所有ジェム使用』タブを選択すると、そこには事前準備中に引き当てたスキルジェム二つが表示された。

 『ストレージ』と、『聖女の祈り』である。

 今回は『ストレージ』を選択だな。

 確認のポップアップで『実行』を選択すると、足元から光の粒子が俺を包み込む。それと同時に流入してくる、このスキルを使用するにあたっての知識。

 そして、知識の流入が収まると同時に、光の粒子の湧出もなくなった。


「これで、マスターは『ストレージ』を使用できるようになりました。ちなみに、無論ですがマスターは『ダンジョンストレージ』へのアクセス権を持っています。ですから、この『ダンジョンストレージ』と共有化を行うことで、この世界のどこにいても、自由にこのダンジョンのストレージにアクセスすることができるようになりますよ?」

「『ダンジョンストレージ』? なにそれ?」

「文字通り、ダンジョン用のストレージです。すぐに使用しないものや、設置していたものの不要となって回収したものなどは、ギミックも含め、このダンジョンストレージに収納されます」

「ストレージとの違いは……共有化したらどこにいてもアクセスできるってことは、普通はどこでもアクセスできるわけじゃないってことか?」

「そうなります。あとは、ダンジョンのギミックはダンジョンストレージにのみ収納できます。この点も違いますね」

「へぇ……ダンジョン用のトラップとかは、収納できないのか」

「はい。そうなります。あとは、普通のストレージと変わりありませんけどね」


 ふぅん。つまり、ダンジョンに籠りきりなら、無理に『ストレージ』を習得する必要はなかったということでもあるのか。

 まぁ、そんなことはしないけど。

 とにもかくにも、これで物品の持ち運びにまつわる問題はほぼ解決できたといえる。

 おや。実績達成? 新しい機能とな?

 とりあえず、あとでいいか。今は目先のことに集中しないとな。


「それではお伺いしますが、マスターはどのようにして、この世界で生きていきたいですか?」

「うーん……できれば争いごとは苦手だから商人として生きていきたいけど……ダンジョンマスターという時点で、それは不可能だろうしなぁ」


 なにしろ、瘴気を隠すための道具を指に嵌めているとはいえ、それでも聖女や勇者の襲撃を防ぐのは完ぺきとは言えないだろう。あくまでも隠すだけ、なのだから。


「とりあえず、魔法剣士じみた戦い方ができればそれでいいかなぁ」

「なるほど。要点をまとめると、自衛程度に戦闘もこなせる商人になりたい、というところでしょうか」

「ああ、そんな感じ、なのかな……」

「魔法は時間をかけて習得するのが基本的で、スキルジェムは1つの魔法につき1種類のジェムが必要ですから、すぐには不可能ですね……。そのあたりは、狐獣人の職業が魔法系の特殊職にあたる『聖賢』ですので、彼女を同行させて教えを乞う、というのがいいのかもしれません」


 それが堅実かなぁ。

 スキルジェムには頼れそうもないし。今、ちらっとショップでジェムの価格を調べてみたら、初級魔法でもDE5000ptを上回ることが発覚したし。

 ちなみに、ガチャは単発で2500pt、10連で22500pt。これは最高でもPRしか出ないガチャで、追加でDEを積むと、その上のURやLRも出るようになる。

 ただし、単発基準でもLRを出すためには50000pt(つまりプラスで47500pt)も支払わないといけないという、現時点ではありえないくらいの高値がついていた。しかもそれでも引けるとは限らないし。むしろ、引けなくて当然の確率だしな。

 URは10000ptで出始めるみたいだが、こちらも0.7%とかなり低確率なのはかわらない。


「ほかに一緒に連れて行くのは……剣聖と聖女でいいか」

「そうですね。妥当と思われます」

「なら、さっそく呼び出そう」


 エルメイアとも話し合ったし、一人や二人で物騒なこの世界を回るわけにもいかない。

 どうせならば、鉄壁の守りともいえる三人をお供につけるのがいいだろう。

 まぁ、そうなると冒険者(いわゆる根無し草の自由業)はアンバランスだし、周囲の評価も気になるから、あえて行商になってもいいのかもしれないな。



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