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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.00 Are you ready?
4/27

神引きダンジョンマスター、リブシブルへ


『コホン……それじゃ、初期設定の続きをやりましょうか。とりあえず、ルート10を5回ずつ引いたけど、結果としてはそれなりだと思うわ。それで、後はどうする?』

「うーん……あとは、いわゆる雑魚敵枠と、備品はイージス艦をせっかく引き当てたんだから、それを最大限に有効利用できるようなものにしたいなぁ」

『そうね。あと、もしダンジョン外に出歩きたいのだとすれば、武具も必要になってくるわね。おあつらえ向きに、パーティメンバー要員も一緒にルートボックスで引けたから、生成するなら今のうちに人数分、生成しておいた方がいいかもしれないわね』

「そうか……そういった問題もあるか。完全にダンジョン内のことばかり考えてた」

『仕方ないわよ。ふつう、ダンジョンの初期設定って言われたら、そう考えるのが普通だもの。でも、実際のところ、あなたは最初からダンジョンマスターとして生まれたのではなくて、人々の社会の中で生活をしていて、それが急に全くの別世界で、ダンジョンマスターをすることになってしまったんだから。それなら、無理にダンジョン内に居座ろうとしないで、適度に出歩いたほうが身のためよ? そのための準備もしておいて損はないってだけの話』

「うん、完全にそのあたりが抜けてた。今後はリブシブルに転移して、そこで生活することになるんだもんな。そりゃ、いろんな国とか、街とかに行ってみたいよ」

『そうでしょう? だから、身を守るに最低限、それ相応の装備品は用意しておかないとね』


 盲点を突かれてちょっと取り乱したが、気を取り直してダンジョンの初期設定を進めていった。

 とはいえ、こちらからは操作できない以上、基本的にはエルメイアさんがこちらの希望を聞いて、それに見合ったモンスターやアイテムをピックアップしてくれる、という感じになったが。

 一部、エルメイアさん個人の趣味が混じった部分もあるらしいが、おおよそ俺の出した希望はすべて通り、向こうの人たちからすれば難攻不落といっても過言ではないダンジョンが出来上がった。


 具体的には、まずモンスター枠の残り50は、ハイサキュバスとサキュバスからなるサキュバス町の町民と、ゴブリン系、コボルト系からなるゴブリン砦の住民。そして、オーク砦はオーク……ではなく、ルートボックスで引き当てた剣聖や聖女を中心とした、人間や亜人種などを住民として充てた。

 というのも、サキュバスの町やゴブリンの砦はてっきり、それに合致したモンスターしか配置できないものと思っていたが、実態は『ゴブリンが作りそうな砦』とか、『サキュバスが作りそうな町』とか、そういう単純なものだったらしい。

 そのため、カスタマイズして人や亜人種が住んでも差し支えない家に挿げ替えただけで、普通に人里として機能するようになった。これで、トラップとかを生成できる枠もできたことになる。

 その後は侵入者対策として、人間や亜人種、サキュバス達にはアサルトライフルをリブシブル仕様にしたものを合計20丁と、ライオットシールド10枚を用意した。ゴブリン砦の要員として充てたゴブリンやコボルト達は、砦に武器があるっぽかったのでそれで何とかなるだろう。

 それと、剣聖には専用の剣を用意しておかないとな。聖女用の杖は、ルートボックスでそれらしいのが出たから必要ないだろ。


 そんなこんなで、ガチャを引いてからここまで2時間程度。

 最初はどれくらい時間がかかるんだ、と思っていたものの、やってみればそれほど時間もかからずに終わってしまったな。

 最終確認まで終わり、余韻に浸っていると、改めて確認を行っていたのか、エルメイアさんがポツリ、とつぶやくように口を開いた。


『う~ん、ほとんど流す感じで終わっちゃったけど、改めて見てみるとすごいわね、これ。単純な防衛力なら、1000年物のダンジョンと同等じゃない』

「LRがいるのと、そっちの世界仕様のイージス艦がある時点でそれは当り前の話だと思うんだが……なんか、こう、俺の世界の兵器をモチーフにしたようなものが紛れ込んでるだけで、相当やばそうな気がするのは俺だけか?」

『ん~、まあいいんじゃないかしら? 少なくとも、あなたの世界からすればSFか! って突っ込みたくなるようなダンジョンを持ってる子も数人はいるのよ? 世界を壊さない程度に楽しみなさい、って言ってあるから、それほど問題になるようなことが起きてないだけで』


 マジでか。

 それなら、むしろ俺のダンジョンはまだマシな方なのか。


『どちらにせよ、危機的状況に導くような何かをしでかさない限り、私達、神側からは何もしないから安心してちょうだい』

「わかった。俺としても、ダンジョンを攻められたり。執拗な波状攻撃を仕掛けられない限りは大々的な行動には出ないつもりでいるからさ」

『ならいいんだけど。念のため、聖神が下界の聖女たちに対して、このダンジョンを攻めることはならない、と言うつもりでいるみたいだけど、こちらの宗教事情も近年はだいぶ歪みを持ち始めてきてるから、油断はしないでね』

「ああ、もちろんだ」

『いい返事ね。私たちの出番がないように期待しているわ』

「あはは……最初の内はあまり自信ないかもなぁ……」


 話は次第に雑談のようなものになっていき、時間を忘れて二人でしばし談笑を楽しんだ。

 最初は、向こうの世界への転移方法についての話題だった。事前準備が終わった以上、後はエルメイアさんの方で行うことしか残っておらず、それも転移フェイズに移ってからの話らしい。

 俺はただ待っているだけでよく、時間が来ると同時に向こうの世界の、事前準備で指定した地域に転移されるとのこと。

 そのあとは、もう基本的にはエルメイアさんも聖神も、下界には積極的には介入できないそうなので、後は自己責任でその都度対応を、と言われた。

 基本的には先ほども言われた通り、世界を危機に導くようなことをしでかさない限り、エルメイアさんも敵には回らないと言ってくれたが、くれぐれも勇者と聖女の動向には気を付けてくれ、と念を押された。


『ここ最近は、下界に住む人々の自律性が強くなってきているみたいで、聖神の神託にも従わないことが時々出てきているの。まぁ、自律性が出てくれること自体はいいことなんだけど、私達が神託を出すってことは、相応にやばいことが起きている、あるいは起ころうとしているっていうことだから、無視してほしくないんだけどね』


 とぼやいてたが、それを俺にどうしろって話だけどな。

 過去に俺と同じく、ひどすぎる悪条件で別の世界に送られそうになり、リブシブルに転送されたケースが200件ほど。

 これを聞くとビビりそうになるが、相手が女神であることを忘れてはいけない。

 何しろ、軽い口調で1万年という言葉が出てくるのだ。実際のところ、何年くらい続いているのかわからないが――生きているのは、ダンジョンマスターとして召喚された人たちのうち50名。

 残り150人のうち、まず勇者は寿命で全員死んでしまっているので論外。ちなみに、100人程度だそうだ。

 ダンジョンマスターとして転送された人たちは、世界崩壊の危機をもたらして討伐されたり、近年では聖神の話を聞かずにダンジョンごと討伐されたりしたマスターが35名。残り15名は、魔物被害や獣害。15名の方は全員、事前に聞いていた諸注意を聞かずに出歩いた結果そうだ。

 こうしてみると、外を出歩くにもなかなかに準備と覚悟がいりそうだな。


『今回私の世界に来るのはあなたも含めて4人。そのうちダンジョンマスターになるのは2人で、後はどうやら、聖神が勇者やら聖女やら、そういった存在にするみたいね』

「てことは、そのうち戦うことになるかもしれないってことか?」

『聖神側の二人には、瘴気探知のスキルに、場合によって手出し無用のマーカーを入れるみたいだから、警戒はしておく必要はあっても、危険性はそれほどでもないかもしれないわね』

「ならよかった。同じ境遇にある者同士、できれば長生きしたいからな」

『あら。勇者や聖女は、ダンジョンマスターと結婚すれば、少なくとも不老長寿にはなれるのよ? その手のカップルも数組だけど存命中だから会えないこともないし……あなたも、もしその気があるなら、狙ってみたらどうかしら』


 なんだ、そのご都合主義な設定は。

 正反対の性質を持っているのに、どうしたらそんな結果になるのか、まったくもって意味が分からない。


 そのあとも、主にリブシブルにまつわる雑談がしばらく続いた。

 おかげで、事前知識がだいぶ蓄えられた、気がする。


    *    *    *


 そして、いよいよ『異世界召喚システム』とやらの準備が終わったようで、俺の周囲に、3次元の幾何学的な魔法陣が形成された。


『ふふ。そこまで言うなら、生成できるようにして、ごちそうになりにいこうかしら……さて。そろそろ時間のようだし、続きはまたいずれ』

「みたいだな……いよいよ、そっちの世界に行く時が来たのか……」

『えぇ。といっても、もうあなたは支度すべきことはないんだけどね……』

「そうか……いや、今更あるって言われても困るんだけどな」


 これから召喚されます、というときにこれ忘れてました! って言われても、もう時間的にも無理そうな気がしてならないし。

 はてさて、どんな感じで召喚されるのかな、と考えながら身構えていると、エルメイアさんが『おや?』という顔で、なにやら手元を忙しく動かし始めた。


 モニターの向こう側で、エルメイアさんの手が霞むような速さで動き続ける。

 その顔は、いぶかしそうな顔から、ちょっと険しそうなものに変わっていることから、何か重大なトラブルでもあったのだろう。

 やがて、こちらサイドでも変化が起きつつあった。

 俺を覆うようにして展開されていた魔法陣に、ノイズが走り始めたのだ。


『……珍しい。今回の『召喚』、半分くらいがあなたの世界、それもあなたの周辺に密集しているわね……ちょっと待ってて。いったんあなた向けの『転移プログラム』に負荷をかけて時間稼がせてもらうわ』

「おいおい……そんなことして大丈夫なのかよ?」

『本当はあまりよくないみたいなんだけ、ど……! そうも、言ってられない、わね……っ』


 たらり、と汗のようなものがエルメイアさんの顔を流れていくのが見える。

 相当きわどい状況みたいだな……。

 不安になりながらもどうすることもできないもどかしさに、部屋を歩き回っていると、やがてため息をつくような息遣いとともに『お待たせ、もう大丈夫そうよ』と声をかけられた。

 ちなみに魔法陣は不安定になりながらも、部屋を歩き回っている俺に合わせて移動していた。


『ふぅ……焦ったわ。まさか、ここまで同じ世界の、同じ地域にターゲットが密集するなんて……珍しいこともあったものね』

「俺以外にも、この辺りで異世界に召喚された人がいるのか?」

『えぇ。あなたもよく知っている人たち――中学校の級友たちがね』

「マジでか。あいつら、異世界でも同期生になるところだったのか」


 なんというか、とてつもない『縁』を感じるなぁ……。


『しかも、召喚される世界がバラバラ……。おかげでワームホール、みたいなものがあるんだけど、それが混信しちゃってね……参ったわ』

「混信って……大丈夫だったのか?」

『ほかの人はどうか知らないわね。結局は他の世界のことだから、どこの世界に飛ばされたかはわからないし。でも――』


 そこでエルメイアさんは柔らかな微笑を浮かべて、安心して、と言葉をつなげた。


『ちょっと厳しかったけど、『召喚システム』に支障をきたさない程度に時間を稼いだから、あなたの転移には問題ないわ。私の存在をかけてもいい』

「そ、そこまでは……大丈夫だっていうのなら、それを信じるよ」

『そう……ありがとう』


 陣にノイズが走ったりなんかして、ちょっと不安だったけど、問題がないのであれば俺からは何も言うことはない。

 せっかくあれこれか考えて初期設定をしたダンジョンが、無駄になるのも嫌だしな。


 ちょっとしたトラブルもあったものの、『召喚システム』とやらが再び稼働しだしたのか、陣の輝きが強くなってきた。

 それと同時に、少しだけ瞼が重くなってくる。

 ――まぁ、時間帯的にも、もう眠くなっても仕方がない時間なのかもしれないけど。


『大丈夫。そのまま、そのまどろみに身を任せて、眠りなさい。そうすれば、次に目を覚ました時、あなたは私の世界の、私が指定した座標にいるでしょうから』


 ――おやすみなさい。


 エルメイアのその言葉を最後に、俺は、意識を手放した。同時に、日本での生活に、幕を閉じた。



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