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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.49 Outside,and more...
25/27

マイペースな男剣聖はダンジョンマスターを評価する


 柊康博を本人の目の前で酷評し、そのまま勧誘する余地もないと言い残して立ち去って行ったとある剣聖は、その後何をするでもなく、ボルタリアの街並みを歩いていた。

 剣聖の所属する宗派は、この緩衝地帯ともなっている国からそう遠くない場所にある宗教国家に拠点を据えている。

 勢力圏内の端で、この国にほどなく近い場所でそこそこ大きく成長してしまったダンジョンを狩って(・・・)いた彼のもとに、念話でボルタリアに迎えと指令が出されたのは、昨日のことであった。

 奇しくもマイペースの極みと言っていい剣聖にとって、その指令は面倒くさいことこの上ないものであった――が、ボルタリアといえば、彼にとって自分が所属する宗教の勢力圏に近く、気軽に行けるため遊ぶ(・・)にはもってこいのリゾート地という認識であった。

 ゆえに、指令に従う気は100%ないにもかかわらず、剣聖は二つ返事でこれを了承。彼のボルタリア行きは、唐突に決定したのであった。

 ボルタリアの街で指令の内容をしらふで踏みにじり、遊ぶ気満々で街の大通りを行く彼の名は――ガルク・ゼルフェン。

 彼は普通の人に向けた認識阻害の魔法を使用しており、聖者とは悟られないようにしていた。

 とはいえ、ガルクとて宗教団体に所属している聖者であるから、それを示すための装身具は身に着けている。ゆえに判別用の魔道具を持つ人にはわかってしまうが――それでも認識阻害の魔法を使用しているということは、彼が現状、プライベートを満喫している最中であることを言外に示しているといえる状態でもあった。

 ちなみに指令にあった康博勧誘の件についてだが、前述の通り当初から別に彼に執着するほど興味を示していたわけではない。むしろそちらは遊びに出かけるための口実である。

 与えられた力が自身の信仰する女神から直接あら得られた力であり、しかもこの世界に招く理由から何から、懇切丁寧に説明しようとしているにもかかわらず、それに耳を貸そうともしない愚か者。

 気に喰わない者はとことん冷遇するガルクにとって、そんな康博は神聖眼を通して観察した時点で、すでに興味の対象から外れてしまっていたのである。

 だから、他の聖者たちがこぞってボルタリアに向かおうとしていた際も、彼は暢気にダンジョン狩りに出かけていたし、康博や、イツキ・オマエダたちのいる、ボルタリアの街がある国の隣国にまで赴いていたのも本当に偶然だったのだ。

 たまたまそれなりにつぶし甲斐のあるダンジョンを探していたら、手近なダンジョンがそこにあった。それだけの理由しかなかったのである。

 そんな彼が向かった先は――

「ほぉ。どこにいるのかと思えば、もう仕事に出ていたとはな。あのなんちゃって聖者とは大違いだな」

 なんと、神託により手出し無用とされているダンジョンマスター、イツキ・オマエダたちのもとであった。

 偶然が重なってボルタリアという舞台の上に上がって、そのまますぐに立ち去ったガルク。

 そんな彼が今興味を惹いていたのが、ダンジョンマスターでありながら、聖者らしき存在を引き連れて旅に出たイツキという存在であった。

 彼らがこの世界に出現してから隠匿魔法を使用するまでの間に、神聖眼を通して観察し、追体験した彼らの過去は、ガルクの興味を惹くのに十分すぎるものであった。

 宗教団体に所属こそしているものの、団体行動が不向きな自由人であり、ダンジョンの討伐を一つのエンターテイメントとしてしかとらえていない、一種の危険人物なガルクをして、純粋にダンジョン討伐以外でエンターテイメントとして見ることができる、と判断した観察対象だったのである。

 視線の先ではいま、彼らは魔獣の討伐をしているところであった。

 軽く神聖眼で探ったところ、どうやらこの付近に魔獣としてのブレスチキンの群れが確認されたらしい。それの討伐依頼を受けたようであった。

「しかし、剣を握ってまだ数日のペーペーが、ブレスチキンの討伐ね……それも群れの。果たして成功するのかね……って、するのかよ、おい」

 そして、その未来を予知したところ、1873通りのうち、1801通りの未来で討伐を成功させる、という結果になり、呆れた顔になる。

「……確かに剣の筋はいいし…………なにより、ありゃ師匠の教え方がうまいのもあるな」

 まったく、贅沢なことしやがる、などとぼやきながら見ていれば、

「当り前でしょう。聖者が三人もいるのですから」

 横から聞き覚えのある声(・・・・・・・・)が聞こえてきた。

「……てめぇは、双聖教会の……」

「はい。お久しぶりですね、ガルク様」

「はっ、言いやがる。この前の狩りでの屈辱、忘れるわけがねぇだろ」

「そう言われましても……」

 ガルクの横合いから声をかけた人物――それは、康博の勧誘合戦で一番槍を目論見、見事に玉砕して敗走した聖女ミーシアであった。

 彼女とは、自身の所属する宗教の勢力圏と双聖教会の勢力圏が緩衝地帯(このくに)を挟んでいることから、よく仕事でダブルブッキングする仲であった。

 年齢的には彼女の方が七歳ほど年上であり、近接戦では一歩ガルクの方が勝るものの手札の数からしていつも一歩及ばずといったところ。結果として目の上のたん瘤的な存在であり、それでいて聖者としては姉がわり的なところもある相手でもある。

 早い話が文字通りのよきライバルであり、ガルクがたどり着くべき分かりやすい場所なのである。

 さて。なんで康博の勧誘のために奔走しているはずの彼女が、とガルクは康博の周辺を遠見して確認をし――はぁ、と片手で額を抑えるガルク。

(なんか、会ったことねぇけどワルそうな性格だぜ……)

 ご愁傷さまってやつだな、と心の中で康博の冥福(・・)を祈るガルクだった。

 もっとも、彼自身そこそこ嫌な予感がしてはいるのだが。

 ため息を一つついて、改めてガルクはミーシアに向き直った。

 考えていることはただ一つ。なんで彼女がここへ来たか、である。

 彼女も彼女で、イツキ達と話をしてだいぶ打ち解け合ったことから、時間が空いたために彼らの様子を見に来たのだろう。

(ははぁ……さしずめデバガメってやつだな……)

「なにか、よからぬことを考えてはいませんか?」

「ちょ、待ってくれよ、誤解だっての!」

「そうでしょうか……?」

「信じてくれよ……」

「…………、」

 心底疑わし気な視線でガルクを射抜くミーシア。その手には、仲良くなったらしいダンジョンマスター配下の聖者が持っているのと同じ――いや、似ているケインが握られている。

 違うのはおそらく、その材質だろう。

(材質は……おそらく、魔法銀(ミリルシウム)……やはり、本物の聖女の杖は手に入らない、か……)

 現在、世間に存在している聖女達が使用している専用の杖のほとんどが、実は聖女用に調整されて作られているとはいえ、本物を模して造られた模造品である。

 聖者でなければ折るのは難しいが、逆をいえば聖者であれば誰でも簡単にへし折ることができる。そんな贋作である。

 そして本物はこの世界でも極めて希少な魔法金属で作られた、物理的にも魔法的にも極めて頑強でへし折ることが聖者であっても難しい逸品だ。

 当然、魔力の通し方も、そして魔法の媒体としても、この上なく優秀である。

 先ほどから観察しているイツキ達のパーティの中にも聖者と思われる人物はいる。極めて巧妙な隠匿魔法のせいで、剣聖であるガルクの神聖眼ではもはや彼女たちが聖者であるとは見抜くことすらままならない。

 そう判断できるのは、彼らが隠匿魔法を行使するまでの間に、若干の猶予期間(・・・・)があり、その間に神聖眼で情報を入手することに成功していたからに過ぎない。つまり、事前情報である。

 そして、その事前情報によれば、彼らのパーティが所持しているケインこそが、正真正銘本物の聖女の杖なのである。

(彼女の持っているあの杖が――ね。まぁ、さすがはダンジョン生まれ、といったところかな)

 ダンジョンには時として、聖者の力を持ってしても魔力に分解することができない、完全なものとして生成された道具が出現することがある。

 イツキ達のパーティの聖女が所有しているそれも、まさしくそのたぐいのものなのだろう、とガルクは評した。

 チラ、とミーシアを横目で伺ってみれば、彼女は羨望のまなざしで彼らのパーティを眺めていた。

 おそらく、聖女として視線の先にいる彼女の杖が欲しくてたまらないのだろう。

 だが、所有者もまた、視線の先にいる聖女なのである。

 同じ聖女として、例えダンジョン生まれのモンスター(・・・・・)であっても、人である以上強引に持ち去れば罪になる。そうであれば胸を張って聖女と言い張ることができない、と葛藤に駆られているのだろう。

「まー、欲しけりゃ頼んでみるのもいいんじゃね~の? ミーシア、ダチになったんだろ?」

「ガルク…………うん、そうだね。……いつか、そう依頼できるくらいに、仲良くなれたら、その時には……」

 ミーシアは朗らかに笑いながら、己の杖を撫でていた。

 ――ちなみに。ブレスチキンは、それからほどなくして、危な気なく無事に討伐された。


 それからしばらく後、イツキ達のパーティは街へと引き上げた。それに伴い、彼らを観察していたガルク達も街へと帰還。

 ミーシアは柊康博のもとへ再びアタックをかけると息巻いていたが――予知した未来では、玉砕されて自身の宿泊している宿屋に戻る光景がいくつも見えたことから、おそらくは望み薄だろう。

 ほどほどにがんばれ、と気持ちのこもっていないエールを送って、ミーシアの背中を見送った。

 元から勧誘合戦に参加する気のないガルクとしては、引き続き興味の対象であるイツキ達のパーティの観察を続ける予定であった。

 適当に屋台で購入した軽食類を食べながら、遠くにいる彼らを眺める。

 ミーシアが立ち去ってからもそれなりに時間は経過しており、今は浜辺で剣の稽古をつけているところであった。

(ま、こちらが観察しているのを見抜いて、害意がないことがわかって見逃してもらっている感じだけどな)

 相手方にいる狐獣人の少女と幾度となく交わる視線。

 街に戻ってからもしばらく観察を続けていたが、何も持っていない狐獣人の少女は、おそらく隠匿魔法を使用したと思われる聖賢だ。

 何も持っていないから少々考えたものの、ミーシアと同じもののように見えるケインを携えるレディはおそらく聖女で、魔剣と思われる剣を佩いたカタブツそうなクールビューティーは剣聖。となれば、事前情報から消去法で残った一人である彼女の枠は聖賢しか残っていない。

 剣聖に聖女、そして聖賢。

 ガルクから見れば、一見バランスが取れている編成に見えて、それどころではないほどに難攻不落のメンバーである。

 なにせ、近寄らば剣聖に叩き切られ、中距離での槍術などにはオールラウンダーの聖女がこれに応じ、アウトレンジ戦では聖賢がこれを許さない。

 アウトレンジ戦においては弓聖が先制を取ればあるいはと思わなくもないが、それで聖賢を張り付けにしても聖女や剣聖が黙っていないだろう。

 ならばこちらも三人がかりで――と思ったが、ダンジョン生まれの彼女たちがただの聖者であるはずもなし。

 なにか、特殊なスキルを持っているに違いないだろう。だとすれば単調な対策も意味はない。

 ゆえにガルクは彼らに対し敵対しようとは思ってもいなかった。

 それに――

(なんか、見た感じあの紛い物風情とは明らかに違うからな。その証拠に――なかなかイイ目をしている)

 遠目に見るダンジョンマスターの目は、はっきり言ってガルクが認めるに十分なものであった。

(相手に怯えている。自分の力量を過信していねぇ。それでいて、勢い(・・)もある。ああいうのを鍛えるのは、見ていて飽きないな)

 ちなみに彼の評価に、相手役の聖女が身内である、という評価は入っていない。そもそも、ガルクから見てもその聖女は聖者として手心を加えているとはいえ、殺気という意味では常人が受けるには十分すぎるものだ。

 まだ剣を初めて数日の初心者が、それを受けて立っていること自体がすごいといえる。

(邪神と言えどこの世界を支える女神サマの片割れの覚えもいいみたいだし。……折を見つけて、俺もお近づきになってみるかな)

 かくして、イツキにもう一人、聖者との邂逅フラグが発生したのであった。


「……ところで、お前あいつの未来、どう見る?」

「まだはっきりと断定はできませんね。不確定な要素が多すぎるために、未来視をしたくても、条件の指定が難しく、かなりブレがあります……しかし」

「あぁ。言いたいことはわかる。…………まったく、あいつも妙な時に来ちまったものだな。……――――?」

「いえ。あの三人がいる限り、それはないでしょう。ただ――――」

「なるほどな。なら、俺もこの街にしばらくとどまっているとするかね……」


次話から再び本編(Episode:1.60)に入ります。

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