表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.10 Challenge the new life!!
21/27

初心者ダンジョンマスターは余裕綽々(他力本願ともいう)


 通常であれば、剣を向けられて、というか首筋に当てられて、動揺しないはずがないだろう。

 それも、こんな宿の食堂のど真ん中で、だ。

 しかし、女性――聖女ミーシアは、イブキに剣を当てられても、そしてフタバとミオリの双方から威圧を受けても、うろたえることなく冷静に殺気を受け流していた。

 おそらくは、相当に戦い慣れしているのだろう。

「あら。なかなかに熱いご挨拶をくださるのですね。……それに、事前の詠唱もないのに極めて強力な防護結界。さすがは、聖者が三人もそろっているだけはありますね」

「……その感じだと、すでに俺が何者かも知っているみたいだな。…………何が目的だ?」

 こちらからのプレッシャーなど、まるで意に介さない。

 本当に風に柳、といった感じだ。

 しかし、こうしてどこかしらの組織(・・)に所属している聖女であることを隠すこともなく、俺達の前に現れたその目的は聞いておかなければならないだろう。

 観察、とは言っていたが、それはイコール手を出さないのだとは言っていない。その目的が分からなければ安心はできない。

「そう警戒なさらずとも、大丈夫です。少なくとも、我々は――双聖(・・)教会は、今のところあなた方には手を出すことはありません。これは教皇猊下の意思であり、私もそうするべきだと思っています」

「つまり、すぐにやり合おうってわけではないんだな?」

「左様です。それに、あなたに手を出せば、あなたについている三人の聖者が、黙ってはいないでしょう?」

「少なくとも、マスターに手を出そうというのであれば、その前に私達が相手になる所存です」

「であれば、少なくとも私どもが手を出して、利になることは一つもございません。うかつに惰眠をむさぼっている竜を起こすようなことをするのは、目先のことに捕らわれている者だけですから」

「そう、ですか…………。でも、ならなぜ俺達のもとへ現れたのです?」

「そうですね……厳密には、あなた達と接触を図るのが目的ではないのです。あなた達と接触したのは、そうですね……事前に接触を図っておくことで、狙いはあなた達ではなく、別のところにある、と明言しておきたかっただけです」

「別のところ……あ、もしかして!」

 俺と同じく、この世界に転移してきた聖者か!?

「お心当たり、あるようですね。まぁ、これだけ近くにいるのなら三人が気づくはずですし、おかしくはないでしょうけれど」

「あぁ……まぁ、俺と同じ日に、この街に到着した弓聖だろう。俺としては、隠れることもせずにいるなんて迷惑この上ないがな」

 あいつ、全然隠れるなんてことしてないって言ってたし、聖者自体が稀有な存在なのだから完全フリーの彼をここぞとばかりに宗教団体が狙うのは明白だ。

 事実、早速こうして聖者を引き寄せてしまったわけだし。

 そして、多分ミーシアはどちらかといえば律儀で親切な方だったんだろう。

「確かに、あなたにとってはうれしくないことばかりかもしれませんね。私のほかにも何名か、別の宗派の聖者が彼を求めてこの街に来ているようですし。気になるのであれば、ここを明日にでも、ここを発つべきでしょう」

 きっと、あなたにとって面白くないことになる。

 言外にそういわれれば、確かにその通りであろう、と頷くことしかできなくなる。

 実際問題、昼間砂浜に行く途中、フタバが妙な視線を感じたって言っていたし、おそらくは俺達のことも監視されているのだろう。

 ――邪魔にならないかどうかを。

「とはいえ、別にあなた達がいても私達には障害にはなり得ない、というのが私の見解なのですけれど、ね」

「というと?」

「あなたも聖者を仲間に引き入れているのなら、私達がどういう力を扱うのか、把握しているのでしょう? おおよそ784417通りのうち、あなた方が私の障害となり得た未来はわずかに137通り。うち94通りは私と、私とは別の聖者と遭遇して三つ巴みたいな状況になってしまった状況で、それもあなた達は自分たちは関係ないからと、真っ先に引いていく未来でした」

「まぁ、実際問題俺達には関係ないしな」

 正直、例の弓聖がどうなろうと、すでに知ったこっちゃないって思ってるし。

 ダンジョンの神聖結界陣のこともあるし、聖者三人娘達が持ってる『矛盾の申し子』という称号スキルもあるから、味方に引き入れたところで枷にしかならない。

 むしろ、百害あって一利なしの存在だ。

 そもそも、あいつからは手痛い挨拶をすでにいただいているからな。

「障害になり得ないのであれば、是非もなし。他がどうであれ、私から手を出して手痛いしっぺ返しをもらっては元も子もありませんからね。ですから、急なご挨拶となってしまったものの、決してあなた方をどうこうしようとして接触を図ったわけではないということだけは、ご理解いただきたい所存です。あくまでも、これからこの街で起こることを事前に知らせるために。そして、可能な限りあなた方を刺激しないようにするために、挨拶に参っただけなのです」

「…………まぁ、納得できるかどうかは別として、理解はしたよ。理解だけはね~」

「私達としても、マスターに危害が及ばないのであれば、あなたと同じく、是非もありません。……まぁ、念のため街を移る準備だけはしようかとは思いますけど……」

「しばらくはまだ様子見、ですわね。困りましたわ……この街の食事は、なかなかにおいしいですから」

 ミーシアに敵意がないことがわかり、ようやっと聖者三人娘たちも席に戻った。そして、最後にミオリが冗談めかして放った言葉には、ミーシアもツボにはまったようで、クスクス、と笑いながら同調までした。

「……確かに、この街の料理はおいしいですからね。私も任務で近くに赴いた際は、必ずこの街に立ち寄って、英気を養います。……ただ、今回だけは仕方がないことだったんです。他の宗派の聖者たちが動いて、私が動かないわけにもいきませんからね。本当に申し訳ないことをしてしまいました」

「あなたが謝ることはないですわ。これは……そう、私達の後をつけるようにしてこの街にやってきた、どこかのバカ聖者が悪いのです」

「まぁ…………。では、そのバカ聖者を一刻も早くあなた方から引き離して、あなた方の平穏を取り戻さなくてはなりませんね」

 ミーシアが謝れば、ミオリが笑い飛ばす。

 すると今度は、それを聞いたミーシアが冗談を交えて自身の勝利を誓った。

 なんというか、敵じゃなと分かると、ミオリとミーシアの間でなにやら絆のようなものが生まれているようだ。

 同じ聖女の権能を持つ者同士、何か通じ合うものでもあるのだろうか。

 ちなみに今更だが、テーブルは六人掛けの長方形のテーブルで、俺達のほかにあと二人が座れる設計だったために、ミーシアが相席になっても何も問題はなかった。

 俺の隣にはイブキとフタバが座っており、正面にはミオリ。俺から見てミオリの右隣に、イブキと対面する形でミーシアが座っている。

 ミオリとミーシアが他愛もない話をしているのを見守っていると、そこへようやく、俺とイブキが注文していた料理が到着した。

 俺が今晩頼んだのは、生カーノ……生寿司だ。あとはサラダも頼んだけど。

 本当は本日のイチオシと大々的に告知が出されていた、海鮮定食もあったのだが――寿司のイラストを見て、衝動的に選んでしまった。

「お待たせしました。こちら、ご注文の料理になります。お代は宿泊料金に上乗せとなります」

「わかりました。ありがとうございます」

「あら。美味しそうな生寿司ですね。やはり、ここに来たら生カーノを一回は食べたいものです」

 おぉ。ミーシアさんは生寿司大丈夫なのか。

 同じ聖女でもミオリは生寿司見て、

『生カーノ、ですか……。魚料理が好きな方々から一定の人気を博していることはすでに存じているのですが……その、私も、魚料理が嫌いというわけではないのですが、どうしても生で、となると……申し訳ありません』

 と嫌悪感を示していたからなぁ。

 ちなみに、イブキは俺と同じ生寿司を、フタバはモルナズの親子寿司――早い話がサーモンの握りといくら軍艦――をそれぞれ頼んでおり、ミオリだけが焼き魚を頼んでいた。

 そのことをどうやらミオリ自身、気にしていたらしい。

「ミーシア様も、大丈夫なのですね……」

「……まぁ、そのあたりは完全に個人の思考ですからね。聖者の中でも魚の生食は意見が割れますから」

 ちなみに私は寿司以外は認めません、とミーシアは言っていたが。他の料理の何がダメなのかを、問い質したい気分だ。

 相手がどちらかといえば敵サイドの聖者だから、怖くてできないけど。

 おっと、話をしていたらフタバとミオリが頼んだ料理も到着したみたいだな。

「俺は正直、今日のイチオシとどちらを選ぶか悩んだんですけど、生カーノを見たら、衝動的に食べたくなってしまいまして」

「今日のイチオシ……あぁ、あの切り身を白飯の上に乗せただけの、芸術性のないあれですか」

 ムッカァ~……この聖女、海鮮丼の何を知ってそんなことを言ってるんだ。

 海鮮丼だって、あれはあれでいいもんなんだぞ。寿司とはちょっと趣向が違うけど、ご飯と刺身を同時に味わうという意味では同じだし!

 あぁ、ワサビ醤油が欲しい。この世界にワサビってあるのかな。ないならエナジーと交換してでも取り寄せたい。

「まぁ、他者の好みをとやかく言う趣味はありませんので、そのあたりはご自由になさるのがよろしいかと。私が寿司以外は認めない、と言ったのもあくまで私一個人の嗜好の話でしかありませんから」

 そう言って、ミーシアはどこからともなく何かの紙束を取り出して、それを読み始めた。

 なんかの著書、というわけではないだろうから、おそらく彼女が書いた書類か何かなのだろう。


 ミーシアとは、それ以降は割と良好な雰囲気のもと、話をすることができた。

 ただ、話題としては俺達がこれから何を成そうとしているのかが中心だったが。

「……そうですか…………イツキ様は行商人になられるのですね。ダンジョンマスターがわざわざダンジョンの外に出て行商を行う……なかなかに面白そうです。ただ、中には玉砕覚悟であなた方に敵意を向く聖者もおります故、ご注意だけは怠らぬよう」

「あはは。それはもう……死にたくはありませんから」

「それは当り前でしょうね。まぁ……いくつもの宗派が徒党を組んで聖者たちを送り込まない限りは、何とかなるかと思いますが」

「そうならないように祈るしかありませんね、それは……まぁ、そうなったらそうなったで、奥の手を解禁するまでですが」

 奥の手。つまり、称号スキル『矛盾の申し子』の効果をすべてONにしてからの神聖結界や範囲回復魔法などだろう。

 聖者の回復魔法は、攻撃に転ずれば苛烈を極めるほどに強力だ。なにせ、限定的ではあるものの、死者蘇生すらも街中の一区画規模で可能にするほどなのだから。

 どうりで、自然体でいるときに体外に漏れている魔力ですら規格外の効果を有するわけだ。

 そして、それとは比べ物にならないほど少なくはあるものの、中気と瘴気も持っている。ただし、比較対象が比較対象であるだけに、少量と言えど常人とは逸脱した中気、瘴気の量であることは間違いない。

 それだけ無茶苦茶なことを平気でやってのけるのが聖者という存在(・・)の共通点なのだから、この世界で聖者たちが生きた戦略兵器と言われるのも当然の話だろう。下手をすれば終末兵器と言われてもおかしくないかもしれない。

 そんな存在から、効果を逆転させた回復魔法を使用される――攻撃魔法として。

 膨大な正気により放たれた、その死の奔流は、間違いなく普通の(・・・)聖者(・・)に大打撃を与えることになるだろう。

 まぁ、効果が逆転するといっても、それはあくまでも俺の(・・)ダンジョンに《・・・・・・》所属して(・・・・)いない(・・・)聖者・・に限定されるんだけどな。

「奥の手、ですか……。聖者の先達として、あなた方にできることは大体予想がつきますが……あなた方三人は通常とは異なり、ダンジョンにて生まれた存在。と、なれば……通常とは異なる何かを持っていても不思議ではないですね」

 チラ、と俺の方を見てくる。

 まぁ、聖者が持つ神聖眼は意識を向けた対象を解析する効果もあるから、ミーシアがその気になれば、イブキたちの持つ矛盾の申し子についてもしっかりと把握できるはずだ。

 とはいえ、今はフタバが隠蔽魔法を使っているから、それも不可能に近いけどな。フタバ、がちがちに固めたって言ってたし。

 情報がなければ、可能性など無数に存在する。未知数というのは得てしてそういうものなのだから。

「まぁ、ありていに言えば……奥の手ってのは、矛盾の申し子っていう称号スキルだな」

「矛盾の申し子、ですか……また厄介なものが……」

 言ってから、聖者三人娘達に視線を送ってみれば、フタバとミオリは我関せずといった感じで、俺達とは別の話題で盛り上がり始めている。

 残ったイブキはといえば、

「まぁ、ミーシアさんとの遭遇は予見できませんでしたが、直後に何とか未来視してましたからね。少なくとも私はこうなることはすでに知って(・・・)いました。制止しなかったのは、牽制のためにも、知っておいてもらった方がいいかと思ったからです」

「あ、それに付いてはうちも同意見でした~。偶然の一致ですねぇ」

「三人揃ってとは、まるでそれが必然であったかのようですわね」

 どうやら、フタバとミオリもイブキと同じ行動、同じ顛末となったようだ。

 まぁ、ミーシアとの遭遇が分からなかったのは気になるが、静止されなかった理由について、むしろ内心では賛成していたとは思わなかったな。

 さて。そのミーシアなのだが、彼女は俺が矛盾の申し子の存在を暴露したところで、苦虫を噛み潰したような表情になって黙ってしまった。

 矛盾の申し子について、何やらものすごいトラウマでもあるのだろうか。

「――まさか、最悪とも災厄ともいえる組み合わせと、ここで遭遇するとは思いませんでした……」

「え――?」

 これまでの、どこか聖女然としたしめやかな、それでいてよく通りそうな声が打って変わって、どこか絞り出すような声。

 右隣から声が漏れたのを聞くに、あまりの変わりように驚いてしまったのは、俺だけではなかったようだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ