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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.10 Challenge the new life!!
20/27

ダンジョンマスターピンチ!? 双聖教会の聖女、推参!


「マスターにわかりやすく言うのなら、魔法はイメージが大切です。より厳密には、儀式をおこなったり、テンプレートや独自に作成した術式を組んだり、魔法陣を描いたりなどすると、より効率よく、そしてより明確に効果を指定できますが」

「なるほど」

「ですが。まずはオーソドックスに、テンプレートに沿った術式と儀式を用いて、光球魔法を使ってみましょう!」

 フタバは言うが否や俺に起立を促すと、自身は何らかの結界を張った。

 なんの結界かを聞けば、魔法による光を遮るための隠蔽魔法とのこと。

 これで、もし俺が想定を上回り、街の人達を混乱させるような光量の光球を作り出してしまっても一安心といわれて、ちょっとだけ複雑な心境になる。が、とりあえず今は初めての魔法を成功させるのが最優先だろう。

「では、マスター。私が光球魔法の呪文を詠唱しますので、魔力を指先に集め、復唱してください。――忘れないように注意喚起いたしますが、イメージするのも忘れないようにしてくださいね? でないと、発動する魔法も発動しませんから」

「わかった」

 まずは自分の魔力――おおよそ、へその近くにある、魔力の塊を感じ取り、それが指先にちょっとだけ集まるようなイメージを浮かべた。

 具体的には、六枚にスライスされた食パン一枚を、米粒くらいにちぎって右手の人差し指の腹に乗せるようなイメージだ。

 魔力は、多分イメージ通りの量で指先に移動したと思う。

「おぉ、まさにそれくらいが適量ですよ。さすがはマスター、魔力操作だけはお手の物ですね~」

「いや、それほどでも……」

「では、それを維持した状態で、私の言った言葉を復唱してください。光よ照らせ、我を導け。『光球』」

「光よ照らせ、我を導け。『光球』」

 そして、いよいよ呪文の詠唱。

 光の球を生み出すだけの魔法とはいえ、初めての魔法に心躍らないわけがない。

 豆電球サイズの、白色LEDの光をイメージしつつ、言われる通りに言葉を紡いで――最後の一句まで、使えずに言い切る。

 ドキドキしながら、魔力を集めていた右手の人差し指を凝視していると――人差し指の先端から、ポワァ……と、光の球が浮かび上がった。

「光の、球だ……魔法だ……! 初めての、魔法だ!」

「濁りの無い、真っ白な光。使用したのは瘴気ではありますが、周囲をほの暗い程度に照らす光量はまさしく指示したとおりの魔法です。大成功ですね!」

「……やった! やったぞ! 俺、魔法が使えたんだなぁ!」

「ちょ、マスター?」

 もう、俺氏大はしゃぎだ。

 先ほど感じたのとは別種の生暖かい視線も感じたが、そんなの気にならないくらいに大はしゃぎした。

 やがて、息切れするくらいになってようやっと、興奮が静まると。

 目の前に、ちょっと赤い顔をしたフタバがいた。

 手に何か柔らかいものを握っている感触がしたので見てみれば、彼女の手を両手とも掴んでいたらしい。

 俺としたことが……。

「落ち着いたようですね~、マスター」

「…………うん」

「まぁ、マスターは魔法の無い世界から来たんですし~? 魔法を使うという行為自体、ロマンでしょうから、別に私の声が耳に入らなくなるほどはしゃいでも、仕方がないと言いますか」

「う……」

「なんにしても、そろそろ手を返してくれませんか?」

「ご、ごめん……」

 はぁ……恥ずかしいのなんのって。

 とりあえず、フタバの手を放して、彼女といったん距離を取る。

 フタバは開放された手をぶらぶらと振りながら、ため息をついた。

 何も言われなかったが、顔を見れば、何を言いたいのかははっきりとわかる。『やれやれ、困ったマスターですね』といったところだろう。

「それじゃ、そろそろ次に行かせてもらっても大丈夫ですか?」

「あぁ、もう大丈夫だ。落ち着いた」

「そですか。んじゃ、基本的な魔法を試しに使ってもらえたところで、次からが本番ってことですね。いわゆる、攻撃魔法や回復魔法、強化魔法といった魔法の扱い方を教えます」

「戦闘関係の魔法だな」

「そうですね。マスターの今後を考えると、それ以外にも役立ちそうな魔法はありますが、まずは護身のためにそれらを最優先で覚えてもらいます。ちなみに、今日それらを、特に攻撃魔法を覚えたら、明日からは野獣や魔物とも戦ってもらいます」

「覚えたてでいきなり!? ハード過ぎないか!?」

 そんなにすぐに扱いこなせるものなのかよ!

「大丈夫ですよ――扱えるように、なってもらいますから。それに、最初の内はしくじってもマスターがケガしないように、私達が場を整えますし?」

「まぁ、それなら大丈夫だろうけど……」

「えぇ、大丈夫ですよ。心配はいりません! 少しずつ、実戦(・・)も交えながら学んでいくのが一番、というだけです」

 まぁ、魔法に関してのエキスパートたるフタバがそういうのならそうなんだろう。

 そんなわけで、素直に再び聞く体勢に戻った。

「それじゃあ、改めて次の魔法、そうですね――メジャーどころだとここで見た目にもわかりやすい火球の魔法を学んでもらうところなんですが、火球には落とし穴がありますからね~。ここは安全策で、ちょっと難度が高いですが風弾の魔法を覚えてもらいます」

 落とし穴。火属性で落とし穴というと、あれか。周囲の環境を破壊しかねないとか、そんなところだろうか。

 平原や草原、といっても別に草木でおおわれているわけでもない。が、街道として整備されていない場所であれば、相応に多くなるもの。

 そういった可燃物のある場所で火を放てば、最悪火事になりかねないだろう。

 場所に応じた魔法の使い分けというのは、初めの頃から学んでおかなければならない、ということか。

「それではやっていきましょ~。イメージは透明な弾を空気で押し出す。マスターの記憶の中にある、エアガンみたいな感じですね~。詠唱はこうです。風よ集いて敵を穿て、風弾!」

 先ほどと同様、今度は目には見えない銃弾をイメージしながらフタバに倣って詠唱をする。

 銃弾のカタチは、ネットで見たことがあるからわかるし。

 詠唱を終えると、直後に指先に風を感じる。そして、次の瞬間。

 指先を向けた先の砂浜に、小さく穴を穿った。

 これは成功かな。

「う~ん……大成功です。なんか、とてもいい具合に空気が圧縮されてて、いい感じでしたよ。初心者とは思えない……いんたーねっととやら、本当に恐るべしですね」

「それならよかった」

 まぁ、銃弾は身近ではないとはいえ、ネット上を探せば、実物写真は簡単に探し出せるし。

 問題はそれを風で――空気で再現するってところだったんだが、そこは詠唱で補完できたってことだろう。そう考えると、いちいち詠唱する必要がある詠唱魔法も、あながち侮れない部分がありそうだ。俺としては、無詠唱の魔法にも興味はあるけど。

「無詠唱の風の魔法は、それだけで難易度が高そうだしなぁ」

「まぁ、目に見えない物を操るわけですしね~、風魔法の無詠唱は誰だって苦手だと思いますよ?」

 無詠唱の魔法とは、すなわち儀式による補正なし、どれだけ的確なイメージを思い浮かべられるかが肝要となっている。

 それを、実体のない、空気を操る風属性で実行しようというなら、相応の経験が必要となるだろう。

 俺には、竜巻くらいしか思いつかないな。

 それからは、日が暮れて宿へ引き上げようとイブキに言われるまで、早口言葉の練習をさせられた。

 初心者魔法使いにとって、最も重要なのは迅速かつ正確な詠唱だ。浮かべたイメージを崩すことなく、そのまま素早く詠唱をすることができなければ、あっという間に相手の魔法使いや野獣、魔物などにやられてしまう、とフタバは言う。

「だから、魔法使いの最初の修業は、先ほど行った魔力操作や属性別の簡単な魔法のほか、こうした地味な練習になるんですよ」

「まぁ、そうなんだろうな……フタバの、というより三人が持ってるスキルの中にも、『早口』と『高速詠唱』の二つがあるし」

「そうですよ。ま~、私達は詠唱なんかしなくても、魔法を正確に発動することはできますけどね~」

 ただ、普通なら聖者と言えど、最初は普通の魔法使いと同じく基本的な魔法の修業から始めるらしいが。

 それも、やはり大規模な魔法、とくに聖者にのみ行使が可能な強力な魔法などは、聖者として成熟した者であっても無詠唱では結構難しいものがあるらしく、通常であれば詠唱魔法をはじめとする、何らかの儀式を用いた魔法が使用されるケースがほとんどだという。

 三人は別にそんなことする必要なんかなくて、なにも事前準備をすることなく、十全に聖者としての能力を使うことができるらしいけど――その話を聞いた後だと、それがいかにすごいことなのか、思い知らされた気持ちになる。

 さすがはダンジョン生まれの聖者、普通とは違うということか。

「その代わり、実際に聖者とかち合うと、経験の差から、一対一ではジリ貧になると思いますけどね~」

「いくら知性面でダンジョンの恩恵があったとしても、それと経験とは違うということか」

 だとすれば、今このタイミングで聖者たちが徒党を組んで向かってきたら、かなりやばいことになるのは間違いなさそうだ。

 そうならないことを、祈るしかない。

 そう思ったのが一種のフラグになったのか。

 宿に戻ると、そこには予想外の出会いが待ち受けていた。


 俺達が宿の食堂で食事をとっていると、女性が一人、こちらに歩いてくるのが目に留まった。

 歩き方や視線からして、俺達の座っているテーブルに向かってきていることは明らかだが――もしかしたら、座る席がないのだろうか。

 そう思いながら、その女性に視線を向けていると、自然と互いの目が合い、女性の方からニコ、と笑みを向けられた。

「……申し訳ありません、相席、よろしいでしょうか。……この時間、混んでいるみたいで……」

「ッ…………、え、えぇ……構い、ませんが……」

 一瞬、ぞわっとした。

 気を抜けば、サクッとやられてしまいそうな、そんな雰囲気。

 そんな気配を纏った女性は、俺達が食堂でくつろいでいるときに、唐突に現れた。

 外見上の特長としては、イブキに近いかもしれない。

 白銀色の髪に、金色の瞳。イブキの紅い瞳とは違った印象を受けるその顔立ちも、骨格はイブキのそれと近いものがある。

 ただ、清らかな雰囲気の中に妙齢の艶やかさも内包しており、それがどこか妖しくもあった。

「ありがとうございます。…………ご親切な方々でよかったです」

「そう、ですか……」

 ちらり、と俺を見て、応対したイブキに一言、そう告げる女性だったが、言外に何かを訴えているような気がしてならなかった。

 妖しいのは外見だけじゃない。

 声質もそうだ。

 少し聞いただけでは、おっとりとした落ち着いた声……だが、ずっと聴いていると、甘く蕩かされそうな妖艶さを感じさせる。

 しっとりとした唇から発せられることも相まって、話しをする姿を直視するだけでも危険な魅力がある。

 ありていに言えば――常人ではない、と一目でわかる女性だった。

「では、失礼します…………ふぅ。さすがに、二徹で走り続けるのは疲れました……」

「に、てつ…………」

 つまり、少なくともここ三日間は街に立ち寄らず、寝ることもせずに体力を消耗し続けていたということか。

 それにしては、平然としているような……。

 そう思って、改めて女性を見て、ふと気づいたことがある。

 今まで、その女性の現実離れした雰囲気に充てられて気づかなかったが、その装いも特徴的だった。

 前開きのトップスは純白の布地に金色の縁取り。

 その隙間から見えるインナーも純白で、ワンピースタイプの衣類であることがうかがえる。ワンピースの裾も、トップスと同じ縁取りがされており、さらに金色のフリルまでついている。

 靴はこれも白を基調として、やはり金色の装飾が施されたヒールのあるブーツ。

 そして、両腕にはリングを、そして首からはペンダントを下げており、ペンダントトップのチェーンと腕のリングもおそらくは色からして金だった。

 とにかく、いたるところに『金色』がちりばめられた衣装をまとった彼女は、やはり一般人ではない、どこか高貴な身分の出自であることをうかがわせる。

 果たして、彼女は何者なのだろうか……。

「……さて、と。……こうして巡り合えたのも何かの縁ですし、少しばかりお話をいたしませんか?」

「あ、いえ……結構で「それとも、私みたいな胡散臭い女性とは話したくはないかしら。なにか、魔法を使ってまで隠したい事があるみたいですしね……?」…………ッ!?」

 ばれてる……!?

 いや、隠し事の内容までは見破られていないようだし、正確には隠蔽魔法のことがばれているだけか。

 イブキが、フタバが。そして、ミオリが席を立ち、俺を守るようにして身構える。

 それをみてどう思ったか、けれども少しも動じることなく、女性はただ粛々と、己の身分を明かしていった。

「なぜ、そのことを……。あなた、何者ですの…………?」

「あら、警戒させてしまったようですね。申し訳ありません。別に敵対したいわけではないのですが……まぁ、いいでしょう」

「敵ではないというのなら、なおのこと。あなたは何者で、何の目的で私達に話しかけてきたのですか?」

「私は、とある人物から、あなた方のことを観察するよう頼まれた者です」

「とある人物から…………観察……?」

「そうです。その人物とは、聖ルヴァーナ教国を纏める国主にして、我らが双聖(そうせい)教会の頂点に立つ御方。私はその御方よりあなた方の観察の任を授かりし者」

「…………ッ!」

 誰かが、息を飲む音が聞こえた。

 緊張が、高まる。

 いずれ来ると待ち構えていたその時が、ついに来たのだ。

 緩衝区域と聞いたから、しばらくは大丈夫だと思っていたが、予想よりも早く来てしまった。


「私はミーシア・ハーニクス。双聖教会に属する聖者であり、聖女の権能を授かりし者です。以後、お見知りおきください」


 そして、女性が名乗りを上げたその瞬間。

 フタバが、何かしらの結界を張り。イブキが、目にもとまらぬ速さで、女性に詰め寄る。ミオリが、聖女の杖を構え、いつでもミーシアの動きに対応できるよう、魔力を漲らせた。



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