普通のソシャゲプレイヤー、神引きして神を引き当てる
『それじゃ早速だけど、あなたには、これからダンジョンの初期設定を行ってもらうわ』
邪神さんからそう言い渡された事前準備は、その内容を聞いてみれば至極自然なものだった。
初期設定。この話を聞いて、俺は最初、『うん?』と思ったが、邪神さんに詳しく話を聞いて、なるほど、これは確かに事前準備しとかないとまずそうだな、と考えを改めた。
たかが初期設定といっても、バカにしてはいけない。なにしろ、話を聞く限りでは、俺はダンジョンマスターとして召喚されるらしいのだから。
そして、ダンジョンマスターは向こうの人たちからすれば、討伐すべき対象の筆頭だというらしいから、向こうについてからいろいろ設定をいじっていたのでは手遅れになる場合もある。
降り立つ場所が悪ければ、最悪たどり着いた直後に詰みになる可能性も否定できない。
ネット小説では、そういった『ピンチから始まる』系のものもあったから、正直この上なくありがたい話だ。
軽くではあったが、詳細を聞き終わったところで、邪神さんの法でもどうやら準備が終わったようだ。
邪神さんだけが表示されていた画面は、邪神さんの移っているウインドウが縮小されてサムネみたいになり、新しくウインドウが表示される。
『今、そっちの魔導器みたいなの――こっちの世界でミューラーって呼ばれてる魔導器に近いんだけど、それに専用のプログラムを送ったわ。もう間もなく、そのプログラムの画面が表示されるはずよ?』
「プログラムって……これか」
表示されたのはウィザード――いわゆる、対話形式で進んでいく操作方式のプログラムだ。
ドルイド、とかそういった呼び方とかもあったっけか?
『画面にも表示されていると思うけど、やってもらうのは具体的に、アシスタント候補の召喚、アシスタント役の決定、ダンジョンの初期設計、モンスターの召喚。それから、ダンジョンに配置するお宝を含む、備品や消耗品などの召喚や生成などね』
「意外と多いな」
『そうね。特に、ダンジョンの初期設計やモンスター、備品や消耗品の調達はその後の未来を大きく左右する項目だから、前回私の世界に来た人たちも、かなりの時間をかけてたわよ?』
「今回だけじゃないのか? そう何度も100人単位で連れてかれたら、さすがに大問題になってると思うんだが」
『それはないわよ。いくつ世界があると思ってるの。召喚元の世界の選定。それから、召喚対象の選定。単純計算でも、分母の桁数が千以上にはなるわね』
「せっ……!?」
マジか……これの千って、勘違いしちゃいかんが、少なくとも10の1,000乗以上はあるってことだよな。
どんだけ不運なんだよ、俺。
『そして、その上で、その中の100通りが1期間ごとの召喚対象候補として選定されて、順番が来れば準備フェイズに組み込まれる。昨今の異世界間召喚は、まぁこんな感じのシステムになっているわね』
「まじか……」
『えぇ。だから、あなたの疑問は至極まっとうなものなのでしょうけど、私たちの認識とは、まさに次元レベルで認識が違うわ。考えるだけで時間が無駄になる話ね』
「…………今更ながら、スケールの大きさとに腰が引けた気がする」
『本当に今更ね……まぁいいわ。続けるわね。まず、最初にやってもらいたいのはアシスタント候補の召喚よ?』
「ダンジョンを運営する上での相談役だな。軍師みたいなやつ」
『そう、それ。といっても、直接選んでもらうのと、あとなんだっけ……そう、ルートボックスってやつ。その二通り用意したわ。好きな方を選んでちょうだい。アシスタント候補についてはやり直しを禁止させてもらってるけど』
「ルートボックス……ガチャのことか」
『そうそう、その『ガチャ』ってやつ。やっと思い出したわ。ふぅ、その世界ごとの共通の単語は調べるの楽なんだけど、スラングになると途端に難しくなるのよねぇ……あなたの世界の場合、特に……ニホン語、だっけ? めちゃくちゃ難しすぎて、スラング調べるのも一苦労だったわ』
「その、……ごめん?」
『いいわよ。言語の加護を与えるうえでも必須のことだったしね』
だからといって、わざわざそこまで調べつくしてくれたのか。いや、だからこそ流ちょうな日本語をしゃべってくれているのかもしれないが。
俺のつぶやきと同時に画面が切り替わり、最初の設問が表示される。いうまでもなく、アシスタント候補の召喚方法である。
二つある方法のうち、どちらでアシスタント役を召喚するかが、表示されている。
表示されているだけで、こちらからはスクロール以外は操作できず、あくまでも邪神さんに操作してもらうしかないようだったが。
召喚方法は、任意召喚とルート10によるランダム召喚とある。このルート10というのが、ガチャ召喚のことだろう。
軽く説明も表記されており、任意召喚の場合はあらかじめ用意された種族の中から、好きなモンスターを一体選択するという、まぁ言葉通りの召喚方法。
対するルート10も、文言はいかにも普通のガチャで、『召喚可能なすべてのモンスターの中からランダムで10体選択し、召喚する』という方式。ソシャゲなんかである、チュートリアルガチャのようなものとみていいかもしれない。
『事前に集めた情報が確かなら、ここの大雑把な説明は不要そうだけど、気になるところはあるかしら?』
「う~ん……説明は確かに大丈夫そうなんだが、気になるところはあるな」
『なにかしら。言ってみなさい』
「この、ルート10の、召喚可能なすべてのモンスター、ってあるところ。これは、任意召喚で選択可能なモンスターの中から、という意味であってるか?」
『あぁ、そこね。なら、今表示させるわ。……はい、これ。あと……これね。先に表示されたこっちが、ルート10で召喚される可能性のあるモンスターよ。モンスターといいつつ、こっちはいろいろな世界で崇められている神様――のデータをコピーした、紛い物の神が召喚されるケースもあるのが特徴ね』
「いいのかよ、そんなことをして」
『大丈夫よ。管理チーム同士の条約でキチンと許可ももらってるし、明文化もされてるわ。まぁ、あなたの世界の神たちって道楽好きみたいで、参考スキルに制限とかは特にかけられてないし……まぁ、しいて言えば、女神連中からの外見と性格の注文が多かったくらいかしらね』
いいのかよ、そんなので。うちの世界の神様たち、かなり肝要だな。
それとも、どこの世界も似たようなものなのか?
『絶対的強者の余裕ってやつなのかしらねぇ。あなたは便宜上地球って言ってるけど、世界の広さも、勢力的にも、あなたの住んでる世界、すごいのよ? 管理神業界じゃ、エンペラーズ・ファイブって呼ばれるくらい、やばい勢力の内の一角なんだから』
「……マジか…………」
本当にスケールがパネェよ。どこまで腰引かせれば済むんだよ。
『ま、神クラスのレアリティは、大体が出身世界の神がピックアップ対象だから、仲間にしたいのなら狙ってみるのも一考だけど……言い出しておいてなんだけど、あまりお勧めはしないわね』
「なんでだ……って、これかぁ~」
言いながら真剣に画面を見始めて、最初のところでもう躓いた。
というのも、先ほども触れたとおり、ルート10は言い換えれば10連ガチャだ。――つまり、大きく期待から外れた結果となれば、大損することになる、というわけである。
ちなみに、レアリティの詳細とその確率はこんな感じである。
レジェンドレア(LR)0.3%
ウルトラレア(UR)0.7%
プラチナレア(PR)5%
ゴールドレア(GR)14% ※ルート10はGRが1体確定
シルバーレア(SR)20%
ブロンズレア(BR)30%
ノーマル(N)20%
ジャンク(J)10%
うわぁ、レジェンドレアとか、どんだけリアルラックが必要なんだこれって感じだ。
それに、ジャンク、これはガラクタって意味だろう。こんなのまでガチャから出てくるのなら、確かにおすすめはできない。リセマラ不可ならなおのこと。
『このあとのモンスターや備品周りの準備で、リセマラし放題の、スタートダッシュルート100っていうのがあるんだけど……、こっちの、アシスタント候補のルート10はそういうの禁止してる項目なのよね。だから、よほど運に自信がない限りは任意召喚をすすめさせてもらうわ』
「なるほどな……」
ちなみに、各レアリティ目を引いたモンスターについてだが、上位レアリティには確かに、神――というより、神をモチーフにしたモンスターが名前を連ねていた。
それも、LRには『アマテラス』とか、『スサノオ』とか、『ゼウス』とか、とんでもないものが名を連ねているほどだ。そして、こっちが重要で、LRには神しかいない。
一つ下のURでさえ、『熾天使』や、『アテネ』、あとは神道系では『武御雷』などの有名どころが紛れ込んでいる。むしろ、『吸血鬼(真祖)』とか、『ノーライフ・キング』とかが外れ枠に思えてくるくらいだ。
……これなら確かに、1%未満なのは頷ける話だ。
ついでに、任意召喚で召喚できるモンスターはドラゴンや日光を克服した吸血鬼、エンシェントエルフという最高位のエルフ族などであった。
任意召喚で召喚できるのはいずれもPRであるところを見れば、狙いどころはやっぱり、PRあたりなんだろうな。大天使とか、ドラゴンとか、精霊とか。そのあたりが引ければルート10は問題ないラインなんだろう、と判断して、排出率のポップアップを閉じてもらった。
それで、どうする? と聞かれて、再度悩む。
堅実に行くなら確かに、任意召喚でアシスタントを召喚したほうが確実にいい結果が出るだろう。
邪神さんが言う通り、いい出目を狙って、結果として爆死しました、では目も当てられない。
でも、ガチャをひけば、余った分のモンスター(といいつつ、明らかにモンスターじゃないやつが来る可能性もあるが)は、そのまま自勢力として組み入れることができる。
わずかながら、それはほかの同時期に召喚、形成されるダンジョンよりもアドバンテージを得られるということ。
そして、アシスタントはダンジョンの運営上で、軍師ともいえる、ダンジョンマスターの補佐的立ち位置になることだろう。どちらかといえば、強さよりも知性が求められる。そして、知性についてはアシスタントに任命した時点で、すでに最高レベルの知性が約束されると明記されている。
ならば、戦力のことを考えるなら少しでもモンスターを多くできる、ルート10のほうを選んだほうがよさそうだ。
もちろん、同じことを考える人はほかにもいるだろうから、一概には言えないが――それでも、駒が少しでも増えるのはいいことしかないだろう。
「……よし。決めた。ルート10を引く!」
『ルート10を引くのね? さっきも言った通り、やり直しはきかないけれど、後悔はしないわね?』
「ああ!」
『そう。じゃあ、ルート10を引くわね』
俺が強めに頷けば、邪神さんはルート10を選択し、『次へ』をクリック。
『ルートボックスを10回引きます。よろしいですか?』という設問で、『OK』をクリックした。
すると、新しく暗転したポップアップが表示され、次の瞬間にはそのポップアップ画面いっぱいの大きな魔法陣が表示された。
魔法陣はその後縮小し、ある程度小さくなったところで10個に分裂した。
デザインで分けるなら、茶色の魔法陣が四つと白い魔法陣が三つ。それから落書きのような〇に、これまた落書きのような五芒星が描かれた魔法陣と、虹色に光る六芒星の魔法陣、そして、虹色に光っているが時々ノイズが走る、不安さを煽る魔法陣がそれぞれ一つだ。
『あらまぁ、すごいじゃない、あなた。引き当てたモンスターの中に、LRとURが一体ずついるわよ!』
「マジですか!?」
『ええ。魔法陣自体が虹色に光っていればURが確定で、それに加えて一定周期でノイズが混じる魔法陣であればLR確定なの。LR演出なんて、直接見たこと一度もなかったわ……。開かれた後のダンジョンの様子を見ているときに、タイミングよくモニター越しに見えたことは何回かあるけど』
「何回かはあるんだ……」
『えぇ。1万年くらいの間に、だけど』
「…………、」
それ聞くと逆にとてつもない引き運だったということを立証された感じしかしない。
とはいえ、LRなぁ、LR……。
LRって、ただでさえ最高神クラスのやばいやつがそろい踏みしてるんだよな。
逆に扱いきれるのか、俺に。今になってちょっと不安になってきたぞ。
『それから、一つだけ紛れ込んでる、投げやりな描き方で描かれた魔法陣は外れ枠ね。いわゆるジャンク、ガラクタね』
マジか……ここでもうジャンクが登場するのか……。引きがいいのか悪いのかわからないな。
戦々恐々としながらも中身を確認してみたら、案の定レアリティ通りのやばいやつが紛れ込んでた。
LRでは『天照』を引き当て、URでは『武御雷』も引き当ててしまった。
PRくらいを引き当てられたらいいな、と思っていたが、ピンポイントでやばいやつをひいてしまった感がぬぐえない。
これ、他のダンジョンに対するアドバンテージどころじゃなくなってるな。
とかく、あえてギャンブル性が高いルート10を選んでしまった俺だが、結果としては上々で、すぐにでもアシスタント役を決定したい気持ちでもあった。
「SRもそこそこに良さそうなのがそろってるなぁ……。意外だったのは、ラジコンとか、モンスターだったんですね」
『正確には、マジコンカー、だけどね。作成者または召喚者が専用のリモコンで命令したとおりに動いてくれるゴーレム、なんだけど……大きさ的には子供用の玩具にしかならないわね』
つまり、戦闘に仕えるわけでもなければ、形が形なので雑事にも使えず、知性を乗っけてもしゃべるための機構を付加させるキャパシティもない。しゃべれない上に命令したとおりに移動してくれる以外の能力がないので、相談役にも使えない。
ダンジョンのモンスターとしてはジャンクのランクを与えるにふさわしい、というわけか。
「まぁ、アシスタント役としてはもうこれしかない、って感じだけどね」
『そうね。レアリティからしても知性の高さからしても、二つに一つでしょう。ということで、早速だけどアシスタント役を決定しちゃいましょう。ルート10で召喚したモンスターのうち、どのモンスターをアシスタントに任命したい?』
邪神さんが言っていた、二つに一つ――天照か、武御雷か。
まぁ、レアリティからすれば天照が一番適任なんだろうけど……ボス役になってもらう、という手もあるから一概には言えない。
でも、武御雷は確か剣の神でもあったんだよな……。なら、やはり――
「天照でお願いします」
『そうよねぇ。せっかくLRを引いたんだものねぇ。やっぱり、優秀な方をサポートに据えたいわよね』
「同感だよ。ついでに言うなら、武御雷は剣の神だから、戦闘面でも期待できるかな、と思って」
『まぁ、そう思うよね……私もあなたの立場だったらたぶん、そうしてるわ』
実際のところはどうなのかはわからない。が……少なくとも、神であるなら、普通の生物相手に後れを取ることは少ないだろう。
邪神さんの言葉もあるし、多分間違いない。