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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.10 Challenge the new life!!
18/27

初心者ダンジョンマスターの冒険者活動 初級編2


 ソワン草とミルア草を必要数地面から抜き取ると、そのまま持ってきておいた袋に入れる。

 これで、野草はあと一種類で終わりだな。


「あとはアルヌイ草か……あっちの方に反応あったような……」

「それなら、マスターがソワン草とミルア草集めてる間に取ってきましたよ~。はいこれ」

「お。サンキュ」

「私達はキノコ類を探し出しておきましたわ。二種類とも毒キノコ、それもよく似た食用のキノコもこのあたりには生えているようですから、先走りがちな性格の人だと少々厳しい依頼ですわね。私達には関係ない話ですが……」


 依頼のキノコをいくつか手に持ったミオリが人差し指である一本の木の根元を指し示す。それに従うように視線を下に向けて見てみれば、なるほど、確かに求められているキノコとそっくりのそれがそこにはあった。

 しかし、そのキノコは事前にショップ機能で見ていた目的のキノコと外見とぱっとみそっくりにもかかわらず、ダンジョンの機能による鑑定結果は『ツバサダケ』となっている。

 ちなみに、これと似ているのは『テンセイダケ』の方である。

 『テンセイダケ』は笠の部分が二つに分かれており、まるで一対の翼のような形をしている。

 そして、このツバサダケも全く同じで、一対の翼のような笠を持つキノコだ。そして困ったことに、『テンセイダケ』も、そして目の前の『ツバサダケ』も、同じ白いキノコである点が余計に紛らわしさに拍車をかけている。


「違いは、この笠の表面の光沢具合だったか……」


 確か、依頼書の留意事項にそう書かれていたのを覚えているし、それはショップ機能の情報とも一致していたから間違いないはずだ。


「そうですね。『テンセイダケ』は少なからず光沢をもっています。一方で、『ツバサダケ』はこのように、ほとんど光沢がありません。しかし、日の当たるところに生えているならともかく、日の当たっていない暗所に生えていた場合は、わざわざ抜き取って日光に当ててみるなりなんなりしないかぎり、判別するのは困難を極めるといえるでしょうね。ちょうど、こんな感じで」

「そうだよなぁ……」


 残念ながら、今の時間帯、俺達の視線の先にあるキノコはちょうど木陰に隠れる形となっており、陽光を使ってその判別をすることは少し難しい状態だ。

 とはいえ、それでも日光に照らせばその違いを確かめるのは簡単だろうから、注意深い人であればまず問題なくこなせる範疇ではあるんだろうけど。

 そうでなくても、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというし、気にしない人は似たようなキノコを大量に持って行って報告を済ませたりもするんだろうなぁ。なんとなくだけど、そんな気がしなくもない。

 依頼書にも、違いが判らなかった場合は、とにかく似たようなキノコをたくさん採ってきてください、と書いてあったし。


 はてさて。そんじゃ、ミオリが持ってきた分でキノコ類も数が揃ったみたいだし、冒険者ギルドに戻って達成報告を済ませますかね。

 そう思い、踵を返すと、そこには――なにやら、黒い煙のようなものが漂っていた。


「あ~、やっぱ読み通りになっちゃいましたか~」

「まぁ、正気をずっと放出しっぱなしにするのも、それはそれで問題があるという話ですから、仕方がない話ではありますわね」

「試行回数昨晩と今朝、試行回数180回のうち90回程度。まぁ、確率としては半々ですから、どう転んでもおかしくはない話でしたけど」


 フタバたちがやれやれ、と言いたげな顔でぼやきながら見つめる、その先にある黒い靄は、瘴気を凝縮して生み出されるエネルギー生命体――いわゆる魔物の、誕生する直前に起きる現象だ。

 こればかりは、聖者と言えど完全に消し去れないものだから仕方がない話だろう。

 ダンジョンマスターである俺は周囲の瘴気を集め、吸収する能力を持っているし、聖者三人娘がいるからあぶれた瘴気も即座に浄化される。

 それでも、このように野生(・・)の魔物が生まれなくなるということはないということだ。こればかりは、この世界の摂理なんだから、仕方ない話だ。

 現場に居合わせたやつらが――今回は俺らが対処するしかない。

 そこに居合わせたやつが戦う力を持っていないのであれば、逃げるしかないだろうけどな。


 ちなみに試行回数がどうの、とかいうのは俺にはわからんが――神聖眼でできることを踏まえて考えるなら、多分未来予知でもしてたんだろう。話を聞く限りでは見た内容がそのまま確定するわけでもなさそうだし、予知といってもそれほど精度が高いわけではなさそうなことが判明した気がする。

 まぁ、それでもやらないよりはましなんだろう。

 危険予測とはよく言ったものである。


「それじゃ、サクッとやってしまいましょうか。あ、マスターはまだ危険ですから、下がっていてくださいね。万が一ということもありますから」


 集まってきた瘴気の濃度やその範囲からして、現出する魔物はそれほどでもないような気はする。

 魔物が現れるであろう地点の瘴気濃度をDEに置き換えると、16Pt/立方セイアといったところ(なお、1セイアはおおよそ0.878メートルである。歴史のある世界だからか、そのあたりは世界規模で厳密に定められているようだ)。

 瘴気の濃度が高ければ高いほど、生物が生活するには適さないが、瘴気そのものによる実害が生じるのは大体DE換算で500Pt/立法セイア程度。

 この場のそれは、魔物が発生する兆候である、ということを除けば気にするほどでもないのは明らかだ。


 瘴気溜まりはやがて4つに分裂し、そして不定形の煙のようなそれらは徐々に魔物としてのシルエットを形成していく。

 煙の中から現れたのは――赤い鶏だった。

 鳴き声もそのまま鶏のそれだが――なんというか、運が悪いとしかいいようがなかったな。俺達の、だが。


「でてきたのはブレスチキンでしたか。運がいいのか悪いのか……」

「まぁ、2/90の確率を引き当てるっていうのも、結果としてはちょっとだけ運が良かったともいえるんじゃないかな~」


 それでも、そんな雑談を交えながら、三人は流れ作業のようにその赤い鶏の姿をした魔物を倒し、浄化していく。

 まぁ、当然の結果ではあるけど。

 DEに換算してたった4Pt相当の瘴気で生み出される魔物など、たかが知れている。聖者でなくても、倒すだけならどうとでもなる相手だ。

 それでも、新米冒険者である俺にとっては驚異そのものでしかないのだが。


 ちなみに、ダンジョンのモンスター召喚・生成機能で確認したあのニワトリもどきのデータがこれである。


ブレスチキン

危険性 Lv.3(4)/10

必要特性 草原または森

追加特性 鳥、火

 火を吹くニワトリのような姿をした魔物。必要特性に草原や森を含むにもかかわらず、まるでドラゴンのようにくちばしから火を吹いて敵対生物に攻撃する。

 手を出さなければ実害は皆無だが、遭遇しやすい場所が場所なので、危険性はそれなりに高い。特に、森の中で遭遇したら腕に自信がなければ手を出してはいけない。

 魔物なので倒しても魔力に還るのみであり、得るものは何もない。倒した後も、浄化しなければ再び瘴気溜まりの原因に繋がる。


 そう。ブレスチキンの名が示す通り、あのニワトリは火を吹いて広範囲に攻撃をするのである。

 それも、可燃物に囲まれた草原や森のど真ん中で。

 これがどれだけヤバいことなのか、馬鹿でも少し考えればわかることだろう。

 ただ、その特異性さえ除けば他は普通のニワトリと大して変わらないし、瘴気から発生した魔物ではあるが、総じてきわめて温厚ということもあり、手を出さなければそもそも火を吹いたりもしないので、自信がなければ遭遇しても放置して問題ないのが救いか。


「鳥獣類としてのブレスチキンなら、美味しい鶏肉がとれたかもしれませんが……ちょっと残念ですわね」


 そして、ここでもやはり飯ネタが飛び出すミオリだった。

 イブキもそこそこ食い意地がある方だけど、ミオリはそれをはるかに超えていると思うんだよな。

 この世界に来てから三日目、三人と行動するのも同じく三日目。

 だけど、雑談時は食べ物にまつわる話題しか出てきていない印象がミオリにはある。

 当人の気品ある雰囲気や立ち振る舞いとは裏腹に、中身はいたって等身大。

 残念お嬢様とはこのことか。お嬢様というわけでもないけど(実際にはそうなれるだけの力はあるのだが)。


「せっかく、ダンジョンに生まれて宗教にとらわれることのない、自由な聖者として動き回れるんですもの。楽しまなければ損というものですわ」

「ま、それはそれでその通りなんだけどな」


 聖者の一般的な扱われ方を考えれば、何も言えないしな。

 とりあえず、ミオリは街に戻ったら露店で焼き鳥を買い食いすることにして、とりあえずこの場は我慢することにしたようだ。


「しかし、こんな毒キノコ集めて、一体何に使うんだろうな」

「マスターはこの常設依頼を見た時からずっとそのことばかり気にしていますね」

「だって気になるじゃん。わざわざ常設にしてまで毒キノコを集めてるだなんて」


 若干おかしそうなものを見るような目で俺を見るイブキ。

 しかし、彼女たちは俺のこの疑問については、理由はわからないが一切口出しをしてくれない。

 こういう、疑問に思ったことについては、誰かしら答えを言ってくれるのに。

 そう思っていると、まったく、仕方がありませんね、とイブキは今度は呆れたような顔になって、ようやく解説をしてくれた。


「マドラビスとテンセイダケに含まれる成分は、お調べになられましたね?」

「そりゃ、まぁ……」


 ダンジョンの機能を使ってモノを探すにしても、まずは探すものを指定しないといけない。その過程で、どんなキノコなのか、詳細情報を確認することができたので、一応確認はしておいたのだ。

 マドラビスの毒性は、主に強い麻酔作用と、後遺症としてしばらくの間幻聴、幻覚、嘔吐、瞳孔の拡大を招き、場合によって目覚める前に死に至ることもある強力なもの。

 一方のテンセイダケは、魔力の片割れである正気を過剰に増幅させる効果があり、聖者でも下手をすれば死に至るような、普通とは逸脱した魔力的(・・・)な毒性を有している。また、その毒の特殊性から、聖者でもその毒性をなくすことはできず、対症療法しかできないという特徴も持っている。

 マドラビスの方は、もしかしたら……というものが一つだけなら思い浮かんだけど、治療魔法の存在と、そのきつい後遺症の存在から、実現性が低いのではないか、と否定材料の方が勝ってしまっている。

 が、正解は、どちらも今回採取した野草と同じく、医療用の薬品の材料にされるとのことだった。


「どちらも医療目的で使われる薬品の原材料ですわね。マドラビスは、錬金術師などが麻酔効果をもたらす成分を適度に抽出することにより、麻酔薬の原料になりますわね」

「麻酔薬? 猛獣やらなんやらの捕獲にでも使うのか?」

「それもありますが、メインは違います。意外かもしれませんけど、マスターの世界で行われていたような、いわゆる手術って、こっちでも意外と行われることが多いんですよ?」

「誰もが魔法の才に秀でるわけではありませんし……そもそも、治療魔法にも、限度はありますから」

「なるほどな……それで、魔法によらない治療を行うとき、必要に応じて麻酔もかけるってわけか……なかなかに高度だな」


 そも、麻酔の存在や、手術という概念があったこと自体、驚いたくらいだ。


「一方のテンセイダケですが、こちらは正気を増幅させる作用がありますから、あらゆる治療系の魔法薬のベース素材として使用されるほか、回生剤と呼ばれる魔法薬の原料にもとなります」

「何その凄そうな薬」

「実際凄いんですよ~? 一度完全に死んでしまった人でも、一日(・・)以内にご遺体に振りかければ息を吹き返すんですから」

「まさかの死者蘇生かよ!?」


 さすがは魔法がある世界、半端ないな!


「もっとも、薬効があるのは死者の精神が肉体から完全に離れるまでの間。具体的に、死後丸一日という制限がありますし、生き返ったとしても、最低限の治療効果しかありませんから、そのあとの手厚い治療は必要になりますが。それでも、パーティを組んでいる冒険者たちにとっては、メンバーの一人が死亡してしまったときの保険として、最低限回生剤を一本は確保しておくことが望ましいとされているようですわね」

「本来なら失われる命を救えるわけですから、前線で活躍する人たちに特に需要があり、いくつあっても足りないくらいだという話です」


 なるほどな……確かに、それはそうだ。

 特に、戦闘に関して高いランクを求められる依頼の場合、回生剤なんて保険がなければやってられないかもしれない。

 生存率を少しでも上げるためにと、それを常に携行しておくのは決しておかしいことではないだろう。

 あとは、王侯貴族にもこれは需要があるかもしれない。

 彼らにとって、暗殺騒ぎは日常茶飯事だろうし。


「ま~、異世界出身で、異世界の常識にとらわれがちなマスターには、ちょっとばっかり難しかったですかね?」

「……それ、さりげなくけなしてるよな?」

「さて、どうでしょうかね……どちらにしろ、ある程度は自分で考えてもらわないと、この世界になじむという意味合いでも、マスターの成長のためにはならないと思っていたのですけどね……」

「ダンジョンの機能を使えば、もしかしたら……って私達は思ってたんですけど、やっぱり高望みしすぎなんですかね~?」

「私には、将来、マスターがダンジョンのショップ機能で素材の情報を視ながら、手元にある同じ素材を吟味している光景が見えたのですけど……あれは寝ている間に見た夢だったのでしょうか」

「うっ……」


 痛いところを突かれたな。確かに、そこは盲点だった……。

 つか、ショップ機能にそんな機能、本当にあるのか……?


 気になってショップ機能を覗こうと思ったが、気づかないうちにもう街は目前まで近づいていたようで。


「はいはい、気になって確かめたくなるのはわかりますけど、街中でながら歩きは危険ですからやめましょうね。行きますよマスター」


 いち早く俺の内心に気づいたフタバによってたしなめられ、ダンジョンの機能の再確認は、宿屋に戻るまでお預けとなるのであった。



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