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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.10 Challenge the new life!!
16/27

初心者ダンジョンマスター、剣術の稽古を受ける


 ――街を歩きながら、考える。

 冒険者に必要なものは、武器であると。


 しかし俺は初心者である。武器など何を使えばいいのかわからない。

 試しに入った武器屋で試しに剣を何本か振ってみたが、イブキに慰められながら肩をポンポンと叩かれたのは、剣を見る目がなかったということなんだろう。

 彼女に勧められた初心者用の剣を大人しく買ってその場を離れた。


 ――街をさまよいながら、考える。

 ――冒険者に必要なものは、ケガをした時に直すための薬剤であると。


 立ち寄った店で、たまたま傷によく聞くポーションとやらを勧められたので購入しようとしたところ、イブキにやんわりと止められ店の外へ追いやられた。

 どうやら立ち寄った店は悪徳商法で街を騒がせているらしい違法な店だったらしく、フタバが呼んできた衛兵により即座に摘発。

 どうやら俺には異世界の詐欺を見破る力がなかったようだ。


 ――街を徘徊しながら、考える。

 ――冒険者に必要なものは、野営をするための備品であると。


 立ち寄った店で買い物をしていたら、あとから入ってきた人相の悪い連中が店内を荒らしまわり、買い物どころではなくなってしまった。

 どうやら借金取りだったらしい。目当ての商品は担保として持っていかれ、それどころか店舗までも権利書を持っていかれたので店ではなくなってしまったようだ。

 こればっかりは俺達にはどうすることもできない。幸い、欲しかったものはミオリがほかの店で売っていたものを買ってきてくれたので事なきを得たが、あの店主の今後が心配だ。


「…………って、俺何もできてないじゃんか! 役立たずかよ!」

「その……お疲れ様です?」

「元居た場所は平和そのもので戦いやら野営やらとは無縁みたいでしたし、悪徳商店は隠れ方が巧妙でしたし? 借金取りなんか、うちらでは致し方ないですからね~。別にがっかりすることはないですよ、マスター。ほ~ら、元気出してくださいっ!」

「きちんと必要なものを見出せていた部分もありましたし、問題はほとんどありませんわ。武器の選び方や扱い方など、これから学べばよろしいことではないですか」

「あ~、うん……そうなんだけどな。……なんか、不甲斐なさすぎる……」


 ちなみに、商業ギルドでもらったパンフレットはありがたく役立たせていただきました。

 悪徳商店はどうやらイブキたちは気付いていたようだが、俺に手を出したことが気に入らなかったらしくわざと取引成立寸前まで泳がせていたようだ。見事な囮作戦だった。カモだと思わせてしまったみたいだから、手加減できなかった部分もあった? うん、それは俺が悪いな。すまんかった。

 あれだな、敵をだますなら味方から、というやつだな。さすがに、ネタばらしされた時ちょっとイラついたけど。


 それから、事前準備の評価については、イブキ先生からはとりあえずの及第点はもらうことができた。

 あとは店とモノを見る目を養うのと、怪しい連中をあしらう話術さえ培えば問題はないだろうとのことだ。

 お金は昨日の水竜を売ってできた財産がたんまり残っていたので気にすることもなかったし、初心者冒険者としては破格の状態でスタートを切れただろうとのこと。

 ただ、冒険者として活動する準備が完了したかといえば、まだ未着手な部分もあるわけで。


「マスターはまだ剣の扱いもおぼつかないご様子ですので、当分は野獣や魔物の戦闘では私達の後ろに控えていてくださいませ。よろしいですわね?」


 寄生みたくイブキたちの後ろにくっついていくことになるだろうけど、しばらくはそれで仕方がないのはもう嫌でもはっきりしているしな。


「ああ。でも、稽古の時は……」

「えぇ。わかっておりますわ。必要もなく厳しくする趣味もありませんから」


 必要があれば厳しくされるんだな。

 まぁ、その時はその時だろうけど。


 空を仰げば、まだ日は高く、宿に帰るには少し早いだろう。

 これからどうするかとイブキを流し見れば、彼女は俺の意を汲んだのかふむと考え、やがて一言。


「どうせなら、今から軽く鍛錬でも始めましょうか」

「……早速か。でも、場所はどうするんだ?」


 今から街の外へ出て魔物や野獣を探すのは、まぁイブキたちのスキルを使えば問題なくできるとは思うが――今から行くとなると、さすがに時間的に厳しいのではないかと思ってしまう。

 街の外まで行くのに、それなりに時間はかかるだろうし、街に出てすぐに魔物や野獣に遭遇できるとも限らないしな。

 いや。港町なんだし、ビーチくらいはあるか……なら、そこが最適、か?


「さすがはマスター。聡明ですね~。そうですよ、この街は海に面しているんですから、海の方へ行けば鍛錬に使えそうな場所なんて、いくらでもあります」

「だよな~」

「それでは、参りましょう。早くしないと、日が暮れてしまいますからね」


 すでに、目星をつけていたらしいミオリ先導のもと、本日の稽古場となるビーチへとむけて、俺達は歩き始め――


「…………?」

「どうかしましたか、フタバ」

「今、誰かに見られていたような気が……」

「本当ですの? ……嘘では、内容ですわね。私には、さっぱりですが……」


 ――ようとしたところで、フタバが何やら不穏な気配を感じ取ったようだ。

 なんだ、厄介ごとでも近づいているんだろうか。

 だとしたら、全力で逃げるぞ、俺は。まだ自己防衛もできないんだからな。


「…………。ま、今は気にしても(・・・・・)仕方なさそう(・・・・・・)ですね~」

「あえて気のせいとは言わずにそうして誤魔化そうとするあたり、不安しか感じられないんだが……」

「相手がこうして緻密に隠れている以上、私達から探し出すことなど不可能に近いですからね。先手を打たれて隠れられてしまった以上、下手に刺激するのは得策ではありませんわ」

「まぁ、マスターとミオリが稽古をしている間は、私たち二人で万全に守りを固めておきますから、気にせず励んでください」

「あぁ。んじゃ、行きますかね」


 少々警戒心を強めた三人に囲まれて、俺は改めてビーチに向けて歩き始めた。

 道中、イブキが当たり屋に標的にされて、ぶつかった拍子に逆に相手のすさんだ心を癒してしまったり、フタバが例の弓聖を見つけてちょっとだけ警戒心をあらわにしたり、ミオリがいつの間にか露天商で果実を買っていたりと、いろいろあったが、大きな問題は起こることなく、無事に目的地にたどり着くことができた。


「で、ここがボルタリアの浜か……きれいな砂浜だなぁ……」


 日本にいた時は、住まいの周辺は住宅とコンクリートジャングルだったし、海に出ればそこはコンクリートで固められた海岸しか見たことがないからとても新鮮である。


「マスターは確か、実際の砂浜は見たことがないのでしたね」

「あぁ、そうだよ。海自体は割と近くにあったから、見たことは何度もあったんだけどな」


 そのことをイブキたちに話したことはないはずだから、おそらくは例によって神聖眼で視て知ったのだろう。

 やはり、反則的な基礎スキルである。

 過去だけではなく未来も読み取れるようだから、聖者同士の戦いとなればそれは熾烈な戦いになることだろう。

 まぁ、その戦いに巻き込まれるのは勘弁だから、そうなる前に逃げ切れることを今のうちに祈るしかなさそうだけど。なにせ、その気になればその一撃がすべて戦略級の威力を発揮する存在だからな。


「さてと。いつまでも眺めていられそうな、美しい景色ではありますが……そろそろ、稽古を始めませんこと? 時間も時間ですので、あまりゆっくりしていると日が暮れてしまいますわ」

「ん。そうだな。つっても、何をすればいいんだ? 剣なんて握ったことないから、まだほとんど何もできないと思うんだが……」

「えぇ、そうでしょうね。ですから、本日は軽く打ち合って、それで終わりということになりそうですわね」

「了解」

「では、先ほど購入した剣を構えて、どこからでもいいので、遠慮なく斬りかかってきてください」

「え……でも、これ真剣……でも問題ない、か」

「うふふ。思い出して(・・・・・)いただけたようでなによりです。では、どうぞ」


 そういって、ミオリはスッとどこからともなく聖女の杖を取り出すと、それを片手剣に見立てたようにして構え、こちらの出方をうかがい始めた。


 聖女の杖は、見た目を一言で表すならケインが一番しっくりくる。片方が丸まっており、もう片方はまっすぐに伸びた特徴的な形状。例えるなら傘がまさにぴったりイメージに合うだろう。

 まっすぐ伸びた先っぽと、丸まった方の頂点(・・)には宝玉があしらわれており、杖を媒体にして魔法を使う際は、そのどちらかから放たれるのかもしれない。

 とはいえ、今日は軽い打ち合いだって言ってたし、魔法を使われることはないだろうけど。


 ――でも、どうやって攻めればいいんだろうかね。


 剣なんてほとんど持ったことがない。

 高校の時、授業でちょっとばっかり剣道を習ったことがある程度だし、それも少し齧る程度で、それ以降はまともに竹刀を握ったこともない。

 それでもなんとか、霞がかった記憶の彼方にある竹刀の振るい方を何とか呼び起こして、ミオリに近寄り、そのまま胴を狙って剣を振るい――


 ――キィン……と、乾いた音がして、数秒後にはじかれたことを理解した。


 時が、ゆっくりと流れる。

 ミオリは、俺の剣を払ったままの姿勢で、しかし次の瞬間には振りぬいた杖を流麗な動きで俺に再び突き付けてくる。

 目の前に映り込むのは、直剣のごとく真っ直ぐ伸びた杖の先端で、魔力の輝きをたたえた小振りの宝玉。その先には、杖の丸まった方を柄代わりに持ち、その顔に冷たい表情を浮かべたミオリの姿があった。

 この後どう動いたところで、この状況はひっくり返すことができないだろう。それを認識したところで、時間の流れが元に戻った――ように感じた。


「……歩み寄りが、少々遅いように思いましたわね。貴方の記憶の中にある、剣道……でしたかしら。それの足さばきを模倣していたのでしょうが……はっきり言って、無駄な動きとしか言いようがありませんわね」

「…………ぁ、」

「次は、勢いをつけて、駆け足で。命のやり取りをする相手に、情けなど無用です」


 言いたいことは言い切ったといわんばかりに、魔力を霧散させて、彼女は杖を突き付けてきたとき同様、流れるような動きで俺からバックステップで距離を開け、再度構えた。

 今度は杖を両手で持ち、上段に構えており――


「では、今度はこちらから。行きますわよ」

「え……ちょっ!?」

「はああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 ちょっと、いきなりか!? まだ先ほどの攻防というのもおこがましい、一方的な返り討ちからまだ立ち直ってないんですけど!?

 しかし、俺がびくびくしているのをお構いなしに、どんどん距離を縮めてくる。

 彼女自身が言っていたように、勢い良く、駆け足で近寄ってくるものだから、その距離は瞬く間に縮まってしまい――しかし。


 ――あれ? 今度はなんか素人でもわかるくらい、隙だらけだな……。


 掛け声のわりに、そして聖女という割には鈍足としか言いようがない速度、そして隙だらけの胴体。

 明らかに、そこを狙ってくれと言わんばかりにがら空きのそこへ、タイミングを見計らって横なぎに剣を振るった。

 ミオリはそれを見越していたかのように、素早い動きで杖を振るい、俺の剣を弾いたが――今度は、俺に杖を突き付けることなく、その先を誘っている。

 まるで、その目も、俺の次の手を待っているかのように、さぁ、次を、どうぞと語りかけるように視線を投げかけてくる!


 その誘いに応じるように、弾かれて半ば持ち上げられた剣を、今度は振り下ろす。

 ミオリは期待通りと言わんばかりに微笑んで両手で杖を持ち、振り下ろされた剣をそのまま受け止めた。そのまま、つばぜり合いの様な形になり――


「そうそう、その調子。なかなかにお上手ですわ。さぁ、次に行きますよ」


 再び弾かれる。

 その勢いで俺がのけ反った隙に、ミオリは少し距離を開けて、最初の構えに戻し、今度は俺に切りかかって来いと視線で合図を送ってきた。

 一瞬どうしようか、と悩んだものの、初撃で華麗にフィニッシュを決められてしまったことから、一本取ることなど考えるだけ無駄かとその悩みを放棄し、ただ思うがままに剣を振るった。


 返す手で振るわれた杖を剣で受け止め――たまに鍔迫り合いになって、いったん距離を開けられて。

 それを繰り返すうちに、やがて空が赤く染まり始めて、今日の鍛錬はそこで終了となった。


「つ、疲れたぁ、ぜぇ、ぜぇ……」

「お疲れさまでした。最初は先が思いやられると思いましたが、だんだんとよくなってきて、最後の方は初心者にしてはなかなか、という感じになりましたから、今日のところは及第点といたしましょう」

「そりゃ、どうも……」


 砂浜に座り込んで息を整えながら、ミオリにおざなりながらなんとか返答を返した。

 いや、本当に疲れた。

 最後の方はもう肩で息をしながら、ただ無我夢中に剣を振るってたくらいしか覚えてないや。

 でも――なんとか、うん。なんとか、様にはなってたんじゃないかなぁ。そうだといいなぁ。ミオリも言ってくれたし。


「マスター、お疲れ~」

「お疲れ様です。たくさん汗をかいたでしょう。これを飲んで、水分を取ってください。あと、途中の露店で売っていたモルネを魔法で簡単に調理したものです。疲労回復になりますよ、どうぞお召し上がりください」

「あぁ、うん。ありがとう。いただきます」


 やや赤みがかった紫色の、皮を剥かれた果実。

 ちょっと毒々しくて食べるのに躊躇したが、食べてみると思いのほか酸っぱい。そして調理したものだからなのか、ほのかに甘味も感じられた。


「途中の露店でグルースとマース、ハインも売っていたので、稽古の後にどうかと思いまして。いかがですか?」

「おいしいよ……疲れた体に染み渡るような気がするよ。マジ助かった……」

「そうですか。ならよかったです」


 イブキがクスリ、とほほ笑む。

 もらった水は、砂糖の甘さの中に塩気もあった。

 グルースやマース、ハインが何かはわからないが、調味料だろう。

 イブキの心遣いに感謝しつつ、俺は疲れが取れるまでの間、暗くなりつつある水平線の景色を堪能した。


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