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神引きダンジョンマスター  作者: 何某さん
Episode:1.10 Challenge the new life!!
13/27

神引きダンジョンマスター、商業ギルドへ


 朝食を存分に堪能した俺達は、『酔いどれオーガ亭』から出て、イブキ先導のもと商業ギルドへと向かい始めた。

 一応、本格的に商売を始めるのは俺が最低限自分で身を守れるようになってから、と約束をさせられたものの、身分証明という意味では早めにその会員証を受け取っておいた方がいいと判断されたためだ。

 どのみち、先に冒険者として活動しながら武者修行をするのだから、別に商業ギルドへの登録は後でもいいだろう、と思ったが――まぁ、余計なことは言わずに三人についていくに限る。

 聖者である三人が、こうするのが最善だと判断したのだ。ならば、それに従うのが吉というものだろう。


 などと思っていたら、俺の心境を察したのか、フタバが微笑を浮かべながら何か気になることはないか、と聞いてきた。


「結局のところ、今日の行程は私達で勝手に決めてしまいましたからね。今のうちに商業ギルドにも登録しておくことの意味、気になっているんでしょ~?」

「あぁ、まぁ……気にならないというなら嘘になるが……フタバたちが、これが最善だと判断して決めたことなんだから、別にフタバが気にすることでもないだろう」

「ま~、そうなんですけどねぇ……なんかこう、なんにでも頷きを返すイエスマンなのはちょっとどうかなぁ、って思ってるわけでして……」

「いや、別に何も考えずに頷いたわけでもないさ……」


 といっても、三人が示した道筋に対しイエスマンになりつつあることに変わりはないんだが。

 ただ、今のうちに商業ギルドに登録しておくことで得られるメリットも、確かにあるのだろうな。


「本格的に商売に乗り出す前でも、早いうちから商業ギルドと取引を始めるのも無駄ではないだろうさ。例えば、先立つものに関しては、商業ギルドの方がサポートは手厚いだろうし」

「いえてますね。冒険者ギルドでも、そういったのはやっているようですが――趣は違いますから」

「やっぱりか。モノとカネの流れなら、やっぱり商業ギルドが一番明るいだろうし、お金を預けるならそっちが一番だろうなって思っただけなんだけどな」

「ふふ。確かに、否定は致しません。では、商業ギルドに着くまでの間、どのように違うのかを具体的に説明いたしますね――」


 イブキは感心するように笑みを浮かべながら、俺の予測に補足説明を加える。

 冒険者ギルドの場合、お金を預かるといっても、それは使用する武具の手入れから日々の宿賃や食費などの生活費、そして医療費などなど、何かとお金のかかる冒険者たちの資産管理を手助けする、という意味合いが強い。

 計算に明るいものがいないわけでもないが、冒険者というのはやはり金遣いが荒い傾向にあるのは否めない。

 そんな中で、特定のパーティメンバーにだけ資産管理を任せていては、いつストレスで胃に穴が開いてしまってもおかしくはない。

 それゆえに、賢い冒険者たちは、ストレスの種でもある、煩わしい資産管理はギルドに任せて、自分たちはただその一日の『今』を楽しむことに専念しているのだろう。


 一方で商業ギルドの場合は、どちらかといえば貨幣の流通が目的となっていて、こちらは元の世界で言うところの銀行に近いものがあるだろう。

 モノの価値とカネの多少にうるさい商人たちにとって、資産管理など当たり前。ゆえに、ギルドとしてもそんな個人や商会ごとの資産など、管理目的で把握などしたりはしない。

 情報収集こそすれ、それは加盟者たちの資産状況の診断のためであり、商業ギルドにとって『個人』のカネはあくまでも手出しするモノではないのだ。

 ゆえに、商業ギルドにとって『金を預かる』という行為は、ただ『カネの流れを見極める手札』にしかすぎず、しかもそれすらも商業ギルドにとっての商材でしかない。なんなら融資とかもやっているし、同じく商業ギルドに加盟している者同士であれば、わざわざ貨幣を使わずとも会員証を使えば決済できるようになる。

 ギルドとしては口座から口座へ振り替えるだけなので、いちいち誰某(だれそれ)からお金を預かって、誰某にその預かり金を支払う、ということをせずに済むし、利用者からしてもただ互いの会員証を交わすだけなので直接のお金のやり取りが発生しなくても済む。

 これが加盟者にとって何を指し示すかといえば、強盗やスリなどの窃盗に遭うリスクがなくなる、ということである。


 ちなみに。

 この世界には、遠隔でも情報のやり取りや通話ができる、電話やFAXのような魔道具もあるらしい。

 魔法というものがあるせいか、文明というか、技術の発展の仕方がちぐはぐに感じられるのは、やはり俺がこの世界の人々にとって『異世界出身』の人だからなんだろうな。


「ま、一番期待してるのは、商業ギルドにお金を一定以上預けてれば、利子くらいはつけてくれるだろうなぁってことなんだけどね」

「利子、ですか……。つかなくはないですが、微々たるもののようですね。期待するだけ損する、としか今は言えません。あとは実際に行って、聞いてみるべきかと」

「そうか……ま、聞くだけ聞いてみるさ」


 俺が利子に関して期待(実際には興味といった方がいいかもしれないが)を寄せていることをひけらかせば、イブキは若干言いづらそうな顔でそう言葉を濁すばかり。

 これは、神聖眼でかなり渋い結果が視えたということかな。


 さて、そんな感じで冒険者ギルドや商業ギルドの説明を聞きながら、俺は早朝のボルタリアの大通りを観光気分でゆったりと歩く。

 朝とあってか、露店などはほとんど出ておらず、あっても仕込みをしていたり、出店準備をしていたりで開店まではしていない場合がほとんどだ。

 一部、開店している店があったりもしたが、売っているのは酔い醒ましであったりドリンク剤みたいなものだったりと、夜通し作業や酒飲みをしていた人向けの品ぞろえで、間違っても寝起きの人が立ち寄るような店ではなさそうだった。

 そして、港町というだけあって、吹く風に潮の香りが混ざり、それが海の近さを実感させる。

 この辺りでは稲作が盛んだというが、海が近いのだとすれば潮風とか塩害とか、そういった問題は大丈夫なんだろうか、と思わなくもないが――まぁ、そのあたりは考えるだけ野暮だろう。

 第一、小さなダンジョン一つで環境が様変わりしてしまうような異世界であるし、魔法を使うために必要な魔力とて、エルメイアさん達――神様が使うような高次元の力を『精製』して、俺達が使えるようにしたものなんだしな。

 自然の力をゆがめること自体は、大した問題じゃないんだろう。


「マスター。こちらへ――」

「ん? おっと。このでかい建物が商業ギルドか?」

「はい。熱心に街並みを観察していたようですので、声をかけるの場憚られましたが、さすがに目的地に到達してしまったのであれば声をかけないわけにはいきませんから」

「ごめんごめん。んじゃ、入ろうか」

「はい」


 苦笑しながら、知らずのうちについていたらしい、商業ギルドの建物の中へといざなわれる。

 商業ギルドの中は、思ったよりも混雑してはいなかった。

 おそらく、まだ早朝だからなんだろう。それでも、ある程度の人数は内部の待合スペースや窓口に存在していたが。


 内部は整然としたつくりとなっており、目的別にいくつかエリア分けがされていた。

 各窓口とも名前からして何をするのか明確に示されており、新規登録や卸売り、そして買取に預金取引。掛け金相談という、ちょっとわかりづらいものもあるな。何だろうか、掛け金って。

 床には塗料で各窓口へと向かうのだろう線が描かれており、それを見るだけでどこの窓口がどこにあるのかが分かるようになっているし、自分の幼児がどの窓口に該当するのかわからなければ、入ってすぐのところには総合案内まで用意されている周到さ。

 無駄は省き、しかし来場者には安心してこの施設を使用してもらえるようにという心遣いが感じられるようだった。


「いらっしゃいませ、おはようございます。本日はどのようなご用件でお越しでしょうか」

「新規加盟を、と考えています。資金集めのために、しばらくは冒険者などで荒稼ぎをする予定ですが、一応今のうちに商業ギルドにも口座を開設しておこうと思っておりまして」

「左様にございますか。当ギルドを信用いただきましてありがとうございます。お客様がご無事の開業を迎えられるよう、まずはお祈り申し上げます……。さて、新規加盟登録とのことでしたので、受付業務を担当いたします窓口は、あちらに見えます、新規登録窓口となります。その他にもご用事があれば、請け負いました係りの者にお申し付けください。万事滞りなく、取り計らわせていただきます」

「わかりました。ご案内いただきありがとうございます。――では、イツキ様、参りましょう」

「……? あ、ああ」


 予想していた通りというべきか。聖者三人娘の中で、癖の強い性格をしている他二人に対し、唯一まともな性格をしている――取り繕わなければ等身大の少女でもあるらしい――イブキが、受付に立っていた女性と繰り広げた神対話。

 総合案内担当の受付嬢さんが、作り笑いから、柔らかめの、素の笑顔になったのを俺は見逃さなかった。

 そして、突然に名指しでそう呼ばれたものだから、一瞬戸惑ってしまったのはたぶん、みんなにばれただろう。

 いきなりそう来られるとは思ってもいなかったんだから仕方がない。


「さすがは、ギルドの入り口を任されるだけのことはありますわね」

「そうね……隙が無い立ち振る舞いだったわ。おそらく、武芸も相応に嗜んでいるはずだし――それなりの場数も踏んでいるでしょうね」

「ギルドの看板娘、兼門番っていう感じかな~。私達には敵いそうもないけどね~」

「私達と比較するのは相手がかわいそうというものですわ」


 うん、三人とも、さっきの受付嬢さんが聞いてるかもしれないからやめような。

 あの人が強いってことはわかったからさ。


「で、肝心の登録についてだけど、必要なものってないのか?」

「特には――あぁ、しいて言えば、口座を開設する際に、いくらか預金を勧められるかもしれませんわね。商業ギルドにとって、預金は加盟者からの預かり金であると同時に、大切なギルドの運営資金でもありますから」

「あぁ、それはなんとなくわかるよ」


 ものごと、なんでも最終的に物をいうのはカネなのである。

 先ほど受けた説明でも分かったが、商業ギルドがやっているのは一種の銀行である。あ、冒険者ギルドの方は別な。あれは完全に財布の管理みたいな感じだし。

 んで、銀行ってのは、顧客から預かったお金をもとに、融資という商材を行うわけである。

 融資したお金がすべて不良債権になって、預金がやばいことになった、という話の裏にはそういう話があるから成り立つ話なのだ。

 まぁ、銀行に関する基礎知識のあれこれは置いといてだ。

 ようは、ギルドとしても、できるだけ資金力を増やしたいわけだ。そして、その資金力を増やす手っ取り早い方法が、俺達、加盟者からお金を預かること――いってしまえば、俺達からお金を『借りる』ことである。

 俺としても、ストレージがあるといっても、手元に大金があるのは落ち着かないから、可能であればどうにかしたいと思っていた矢先である。別に断るようなことでもないだろう。


「ちなみに、昨日のアレと同じようなのが、あと2頭くらい、控えてるんですよね~。どうします?」

「……うん、素直にお金預けようか。買い取ってくれるんだよな」

「むしろよだれを垂らしてくれると思いますよ。ちなみに、ストレージ内できちんと解体と洗浄も済ませてあります! むふ~っ!」


 そんなに力んでくれなくても十分伝わるんだがな。

 しかしストレージ内で……か。そんなのが可能なのか。いささか疑問だな。


「できますよ~、私達くらいになれば」

「うん、常人には無理なことはわかった」


 一応、ダンジョンの機能を後で覗いてみるか。

 ダンジョンストレージ経由なら同じようなことができそうな気もしないでもないし。


 そんなことを話しながら新規登録窓口まで歩いていくと、その区画には5か所ほど窓口が設けられていた。

 当然、朝も早い時間なのでそれほど混んでいることもなく、すぐに『こちらの窓口へどうぞ』と呼びかけられる。これが昼間だったら、整理員なりなんなりがいて、待合スペースも溢れかえるんだろうなぁ、などと勝手な想像が思い浮かぶ。

 が、すぐに気を引き締めて、目の前に座る女性に視線を向ける。


 この人が、今日、俺達を担当してくれる受付嬢さんなのだろう。

 見るものすべてを虜にしそうな微笑みを浮かべながら、彼女は俺達に座席を勧めて、自己紹介をした。


「本日は当ギルドへお越しくださいましてありがとうございます。私はリンと申します。ここ、新規登録窓口にて、新しく商売を始めようとしている方の、商業ギルドへの登録手続きを担当させていただいております。お客様の本日のご用件は、新規加盟手続きでよろしかったでしょうか?」

「はい。合ってます。本日は、何卒よろしくお願い申し上げます」

「かしこまりました。こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、さっそくお話をお伺いいたします」


 受付嬢さん――リンさんは、さっそくと言わんばかりに、デスクの下から革張りの、おそらくバインダーらしきものを取り出してそれを開き、紙をセットして木ペンをインク瓶に浸した。


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