拓也①
「・・・ということなので、今週中に親御さんに確認を取って、私まで連絡ください。ほかに質問は?」
拓也が手を挙げて、誰も座っていない机を指で指した。みんなの視線が彼の指の先に集まる。
その空席を見ながら、担任の白石はこう告げた。
「明日までに撤去します」
これが初めてではないので、クラスの誰も驚きはしないし、ああまたか、というような感じで見つめているが、ここ一か月ほど、毎日必ず、クラスの人数より机の数が多くセットされている。
彼らはみんな、毎日机とイスガ余分に置かれていることを疑問に思っていたのだが、慣れてくると彼らは何も言わなくなった。
白石が顔ににじんでいる汗を拭きながら、全員を見回して、言った。
「明日の保健体育の授業で、新しいことを始める。私はこのようなことを学校の実技で教えるのはいかがなものかと思うが、上からの命令なので逆らえない。まあ詳しいことは明日話す。解散」
この合図によって、みんな教室から飛び出していく。そんな中、拓也は、愛美がこちらに向かってくるのを目の端で確認しながら、机の数が合わないことについて、自分なりの考察をまとめようとしたのだが、彼女に声をかけられたことにより中断した。
彼女の名前は愛美。拓也の人生で初めてできたガールフレンド。笑うととてもかわいい.
俗にいうクラスのマドンナ的存在で、彼女と一緒になることを夢見たクラスメイトも多かったようだが、どういうわけか、拓也と付き合うことになったのだった。しかも、彼女のほうから交際を申し込まれたので、拓也は有頂天になった。
二人で並んで帰っている最中、愛美が話しかけてきた。
「明日から始まる保健体育の授業、何をするかわかる?」
いや、と彼が応じる。
愛美が耳元で囁いた。
「じゃあ、今日実践してみましょうか?あなたの家に上がってもいい? 明日が初めてより、今日私と一回経験していたほうがいいと思わない?明日誰と組まされるかわからないし、お互い好き同士だし、いいんじゃない?」
愛美の話を聞きながら、顔が赤くなっていくのに気付いた拓也だったが、一つ腑に落ちない点があった。なぜ学校という教育の場でそのようなことを教えることになったのか。
彼女にもそれはわからないらしい。ただ近年、少子高齢化に拍車が掛かっていることが影響しているのではないかという見解を述べていたが、そんなの分かりきったことなのにねえ、と言って首をひねった。高校生でもやってる人はやってるし、子供が少ない理由は政策の不備にあると熱弁している彼女の横で、拓也は、彼女の裸体を想像し、自分の息子が硬くなっていることに気づいた。
家に着き、ベットに入って初体験を終えた後、服を着ながら拓也は、最近になって、よく見る夢の内容を彼女に話し出していた。
「ここ1ヶ月ほど、ほぼ毎日同じ夢を見るんだよね。」愛美が用意してくれたミルクティを一口すすりながら、続けた。
「よくわからないんだけど毎回見知らぬ人に助けを求められてるの。何で俺にそうしてくるかは定かではないんだけどね。そして、夢に引き込まれそうになった時に目覚めるの、寝起きはめちゃくちゃ悪いけど」彼が話し終えると、愛美が驚いた表情で口をあんぐりとあけたまま、こちらを見つめていた。
「どうしたの?」彼は飲み物をすすりながら、聞いた。
愛美は、しばらく口を開けたまま放心状態だったが、やがて意を決したように小さな声で囁いた。
「同じような夢を私も見るわ。よくわからない人から何度も何度も助けを求めてくるの。気になって一度親にも相談してみたんだけど、『そんな夢忘れてしまいなさい』って言われて、それ以来、誰にも何にも言えなくなってたけど、こんな近くに分かち合える人がいたのね。良かったわ」
2人はしばらく見つめあっていた。やがて拓也は愛美にキスをしながら押し倒し、2回目を行った。同じことで悩んでた人がいたことに驚いた一方、それが彼女で良かった、と思った。彼らは明日から始まる授業の予行練習を行った。
2人は、夢のことを頭から追い出し、没頭した。