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 窓の外に雪が降っているのを見て、シャーロットはカーテンを閉じると、ぱちぱちと炎の爆ぜる暖炉のそばに寄った。


「寒いと思ったわ。もうすぐ春なのに、雪なんて……」


 シャーロットの部屋は相変わらずアレックスの部屋の隣にある。以前とは違い婚約者の立場となったシャーロットは、部屋の内装を自由にする権利を得て、大きな本棚にたくさんの本を詰め込んで、暖炉のそばに揺り椅子をおいた。揺り椅子に座って本を読むのが最近のお気に入りだ。

 シャーロットは読みかけの本を取って、揺り椅子に腰かけると、毛糸で編んだひざ掛けをかける。

 侍女のヨハナが紅茶をいれてくれて、それを飲みながら本を読んでいると、突然激しく部屋の扉が叩かれた。

 いったい何の騒ぎだろうかと顔を上げると、ヨハナが様子を見に行くより先に、無遠慮に扉が開かれてアレックスが駆け込んでくる。


「シャーロット! しばらく匿ってくれ!」

「……は?」


 シャーロットは目を丸くした。

 アレックスはひどく焦っているようで、部屋の扉を閉めると内鍵をかけ、はーっと大きく息を吐き出す。


「いったい何があったの……?」


 ただ事ではなさそうなその様子に、シャーロットの表情が強張る。

 アレックスはソファに深く腰を下ろすと、ぐったりと天井を仰いだ。


「あの馬鹿親父がろくでもないことを思いつきやがった」

「はい?」


 アレックスはヨハナに紅茶を要求し、それを飲み干してから息をつく。


「閨の授業だそうだ」

「……はあ」

「はあ、じゃない! 閨の授業だぞ! あのくそ親父、結婚して恥をかきたくないだろうとか言いやがって女を送り込んできやがったんだ! 冗談じゃないぞまったく!」

「は、恥……?」


 アレックスはじろりとシャーロットを見た。


「だから、お前との初夜で俺がうまくできなくて――」

「わーっ、わかった! もういい! 言わなくていい!」


 シャーロットは慌ててアレックスを遮った。


(馬鹿じゃないの! そんなこと普通言う?)


 シャーロットは急に顔が熱くなって、ぱたぱたと掌で仰ぐ。

 つまり、アレックスはシャーロットの初夜で恥をかかないようにと、国王に閨の授業の指南役の女性を送り込まれた、らしい。


「そ、それでその女性は……?」

「知らん! いきなり部屋に来てべたべた触られたから逃げてきた」

「そ、そうなの……」


 アレックスが逃げてきたと聞いて、シャーロットは少しほっとする。授業だと言われても、アレックスがほかの女性と――というのは考えたくない。


「それで、どうするの……?」

「どうもなにも、なんで俺が好きでもない女を抱かなきゃならないんだ。断固拒否だ! 当たり前だろう!」

「そ、そう……」

「それともなんだ? お前は俺がお前以外の女と関係を持ってもいいっていうのか?」

「そんなことはないけど……」


 もちろんシャーロットも嫌だ。だが、「嫌だ!」と言って逃げられるものなのだろうか? 例えば夜眠っているときに部屋にこられたりしたら、アレックスは拒否できるだろうか。もしものすごく妖艶な美女がやってきたら? アレックスだって男性だ。うっかりなんてことも――


(……想像するのも嫌だわ)


 シャーロットは胸のあたりがむかむかしてきた。

 アレックスはごろんとソファに寝そべると、何でもないことのように言った。


「ということで、俺はしばらくここで避難生活を送るぞ」

「そうなの……、え?」


 シャーロットはぱちぱちと目をしばたたいた。今、アレックスは何と言った? ここで? 避難生活を送る? 


「……ここ、わたしの部屋なんだけど」

「だからだろ? さすがにお前の部屋まで押しかけてこないだろうしな」


 アレックスは名案だとばかりにニヤリと笑った。


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