ドラゴン戦ッッ!!
「あいつが……!」
「間違いない! ハイドラゴンだ!」
「各自! 所定の位置につけ!! 油断するなよー! 特にカメ朗!」
「ははは! 分かってるって! はは! 最強のカメ朗さんが、けちょんけちょんにしてやるYO!!」
■銀色に輝く体表を持った、十メートルはある体躯■
■翼が生えた四足生物は、獰猛な瞳をカメ朗たちに向ける■
■モンスターの名はハイドラゴン・音波を操る強敵だ■
「うゴオオッ!!」
「こっちに気づいた! 戦闘開始!」
「うおっしゃ! 軽くもみもみしてやっか! がはは!! 楽勝楽勝!」
「言ったそばから油断してんじゃねぇ!? あほ!!」
薄暗く広い室内の中心で吠えるドラゴン。
それを囲むように展開したナイトたちが、遠距離から様子見の攻撃を仕掛けていく。
「くらえっ! おらぁ!!」
「まずは初手の魔導だぁ! ぶっコロス!!」
「ひゃははは!! くたばれやー!!」
放たれるは魔導や飛び道具の乱舞。
どれもがそれなりの威力を保ったまま、ドラゴンの体へともろに直撃した。
「ごおおおあ!!」
「……だめか。大して効いてはいない! やはりドラゴンは固いな!」
「なら接近してやるしかないわね。行くわよ!」
「OK~。ばばっと片付けよう! ファイトー!」
「わっ。必須の魔導具わすれてきちゃった! 貸して貸してー!?」
前衛部隊、もとい美女部隊がドラゴンに斬りかかろうとする。
その速度はかなりのもので、鈍重そうに思える敵モンスターへと一気に接近した。
「!?」
「きゃあ!?」
接近した前衛部隊全員が弾き飛ばされ、ドラゴンに接近することを阻まれる。
まるで見えない壁のようなものがあるかのような、不可思議な現象に驚愕するナイトたち。
「こ、これはッ!! まさか!?」
「気づいたか……カメ朗! 今回の仕事の真実によォ!!」
■驚愕したのはカメ朗も同様■
■彼の視線はある一点に集中している■
「おっぱい揺れとる……!! めっちゃ揺れとる!!」
ドラゴンに接近した美女ナイトたちの胸が、凄まじい勢いで揺れていた。
近づけない謎の現象に関係があるのだろうが、そんなことは男衆にとってどうでもいいことだ。
重要なのは女性ナイトたちの山が振動しているということ。
「ふふふ、チームに巨乳の女性が多いとは……思わなかったかな?」
「な、なんだとぉ。まさかこれはすべて計算尽く!?」
「その通りだ。あのドラゴンの特性は分かっていた……別名【(男の)ロマンチストなドラさん】だからなぁ!!」
「ど、ドラさんんんん!!」
めちゃくちゃ揺れてる胸に男たちの視線が集中する。
それを感じてか、顔を赤らめながら胸を隠す女性もいた。
彼女たちにはドラゴンの特性をある程度隠し、卑劣なこの計画を一部の男性ナイトたちは実行したのだ。
しかも異変はそれだけではない。
「きゃ、きゃあああ!? なによこれ!?」
「スカートがめくれて……!?」
「これもあのモンスターの力!? ちょ、ちょっと今日のは恥ずかし……!」
女性ナイトたちの穿いているスカートが、まるで突風を受けたようにめくれていく。
水玉、縞パン、純白……様々な柄のショーツがカメ朗の視界に入る。
必死にスカートを押さえようとする彼女たちの後方で、男性ナイトたちが密かにガッツポーズを取っていた。
「まさかこれもッ!?」
「ふふふ、スカートを穿いている女性が多いとは思わなかったか? これが【結果】だよ」
「これも計算尽くかよおお! うお、あの娘意外と可愛らしいパンツを……!!」
「その通りだ。別名【スカートめくりのドラさん】……だからな」
「ど、ドラさんんんんん!!」
いきなりのサービスタイムにカメ朗歓喜。
まさかモンスター討伐をしに来たらここまでのロマン、男の夢を堪能できるとは嬉しい誤算である。
そして男の友情の素晴らしさを実感した。
「最高だぜい!! ひゃっほい!!」
「ビデオカメラ貸すか!? カメ朗! この日のために最新式を買ったんだ! いえーい!」
「おおう! ナイス! ぜひとも貸して――ぐお!?」
興奮中のカメ朗がいきなり弾き飛ばされる。
なにが起こったのか分からないが、彼はドラゴンの口が大きく開かれているのを見た。
おそらくは敵の攻撃ということだろう。
あまりに最高な光景に夢中で、カメ朗は不可視のそれをもろに受けてしまった。
「うおお!? しかもこれは!」
さらに最悪なことに、カメ朗の背後には床が存在しなかった。
薄暗いので気づけなかったが、どうやらそこの部分は落とし穴のようになっていたようだ。
しかも下には剣山が敷いてある。
「あぶねぇ!! カメ朗!!」
「!!」
穴に落ちそうになったカメ朗の手を掴み、なんとかフォローした酒場仲間の一人。
彼は必死になってカメ朗を引っ張り上げようとする。
これぞ、男の友情とでも言うかのように笑ってみせる酒場のおっさん。
「へへ。絶対にこの手ははなさねぇぞ!!」
「よせ! お前まで落ちるぞ!」
「ばかやろう! ダチを見捨てるなんてできるかよ!」
「……!!」
(いや、おれ空飛べるんだけど……)
なんだかその場のノリで言い出せないカメ朗。
そうしているうちに他の男衆も集まり、彼を引っ張り上げるべく力を集める。
「ファイトだ!! みんなの力を合わせりゃ1000万人力よ!!」
「うおおおおお!!」
■咆哮する酒場の野郎ども■
■カメ朗は勢いに流され、空気を読んで大人しく救出された■
「危なかったな。カメ朗!」
「……お、おう。そうだね」
「しかしドラの野郎! なかなか強いじゃねぇか! こっちは中級ナイトが十人はいるのによ!」
「事前の情報よりも強化されてる系か? くそ、もっと強い装備を持ってくるんだったぜ! カメ朗じゃあるまいし情けねェ!」
ハイドラゴンは未だ健在。
女性ナイト数名の武器攻撃を受けても、そのあまりにも強靭な体によってダメージはほぼゼロに等しい。
ドラゴン種の硬さというものはカメ朗もよく知っていた。
「……本気ビームで行くか。よし!」
あまり全力で戦う機会のない彼は、自身の全開性能を解き放とうと決心した。
周囲にいる仲間にそのことを告げ、ビームを撃つための空間を確保するカメ朗。
ハイドラゴンを射程に収めて発射準備を完了する。
「エネルギー充填——!!」
「うおおお!? なんだその光!?」
「まさか男のロマン的なあれか!? アレなのか!?」
カメ朗に収束していく虹色の光を見て、男性たちは男の夢的なイメージ映像を頭に浮かべた。
まさしくこれから放たれるのはアニメとかでよく見るアレ。
ロボットといえばお決まりの【ビーム】である。
男性たちの中にはビデオカメラを向けている者もいた。
「は、はやく撃ってくれ! ビーム!!」
「まさか生で見れるとは……!!」
「まかせろおおおおおッ!!」
気合も完全に充填したカメ朗は、ハイドラゴンに向けて極太のビームを放った。
虹色に輝く光線は見るも鮮やか、まさしくアニメの如き格好よさ。
ただし発射台は彼の股間である。
「な、なんでそんなところから出してんのおおお!?」
「台無しだよ! 本当に台無しだよ!」
「くそお! ビーム自体はかっこいいのに!! いまいちのりきれねェ!!」
なんかいろいろと台無しなビームではあったが、その威力は本物。
ハイドラゴンの不可視防壁を突破し、七色の光線は見事に敵の肉体へと直撃した。
そのまま敵は大きな爆炎に飲まれた。
「ぎゃおおお!?」
明らかに怯んだ様子のハイドラゴン。
カメ朗の本気出力ビームを喰らって健在なのは脅威だが、さすがにダメージは深い。
さきほどまでの元気は失せたようだ。
「へ、まだやれるとはなっ。だが次でおわりだあああ!!」
カメ朗は再び発射態勢に入る。
たった一発でエネルギー切れになることはなく、脅威的な威力のビームを連射可能だ。
最強のスーパーロボットとしての性能を見せ——。
「ありゃあ?」
いきなり力を失うカメ朗ボディ。
ビームの発射に失敗し、彼はその場で両膝を折って座りこんでしまった。
どうやら今の一撃だけでノックダウン寸前になったようだ。
「し、しまった。最近、オイルの補給をしてなかったから……」
「どうしたカメ朗!?」
「ま、まずい。ビーム撃てん……というか、この状態じゃまともに戦えない!」
「な、なんだってっ!?」
エネルギーを使い果たしたカメ朗は動けなくなり、ハイドラゴンの前に無防備な体をさらしてしまう。
どう考えてもピンチである。
最強の戦力として期待されていたカメ朗の戦闘不能に、周囲の仲間たちはどよめいた。
「ど、どうすりゃいいんだ!? さっきのビームを喰らっても倒せないモンスターだぞ!?」
「と、とにかく。俺を運んで……」
「や、やばいっ。ドラゴンがまた口を開けてんぞ!」
「!!」
■カメ朗たちに開いた口を向けるドラゴン■
■さっきの不可視大砲を放つ構えだ■
「ぬおおお!? すまんカメ朗!」
「ちょ、待て俺を盾にするなよおお!! ひとでなし!!」
「これも友情だ! 友である俺たちのために犠牲になってくれ!」
「んなわけあるかあああ!!」
酒場の友人(笑)たちは、カメ朗の頑丈なボディを盾として利用する。
いくら強固でも盾にされてはたまらんので、彼らをめちゃくちゃ批判するカメ朗。
しかしもう、ドラゴンの攻撃は発射3秒前になっていた。
「ぐおおお!! 覚えてろ貴様らああああ!! ガッデム!!」
「骨は拾うから許してくれい!! ごめんね!」
「骨なんてねーよ!? くそ! はなしやがれえええ!!」
「おい! 動くんじゃねーよ! 盾!! 役割をまっとうしろ!!」
「おまえらマジで覚えとけよ!? ダチってなんだった!?」
■カメ朗は絶叫しながら、己に向けられたドラゴンの口を見ていた■
■発射まで残り一秒たらず■
「わああああっ!??」
■カメ朗はスクラップを覚悟した■
「――やれやれ……でス」
■斬撃音がするどくひびく■
「うおおおあああ……ん?」
ドラゴンの周囲で赤い何かが発生した。血が舞ったようにも見えるが、それほど生々しい感じのないものだ。
それはこの世界特有の現象で、生物類が大きなダメージを負ったさいに発生するものだ。
つまり、カメ朗の視界にいたドラゴンが大ダメージを受けたということ。
「……はぁ。なにをやってるのか……このカメは……。ぐだぐだ……、最初に言った忠告も守れない……軽率……」
「お前か! ヒナ! 心の友よー!!」
「心の友ではないですが……わたくしです……ドラゴンが怯んだことで、接近する隙が生まれました……。少しは役に立ちますね……あほカメ……」
ダメージを受けて消滅していくドラゴンの傍に、武器らしいものを持っていないヒナが立っていた。
素手でドラゴンを倒したとは思えないが、彼女は仲間にも自身の能力詳細を伝えないので、倒した方法は分からない。
だが、ドラゴンが怯んだわずかな隙を逃さなかったのだろう。
「すごいな! やるじゃないかヒナ!! 陰キャのくせにぃ!!」
「喧嘩売ってます……? まあ、隙を作ってくれたのは感謝しますが……。なんかやたらと……男どもではしゃいでいたのは……きもい……ですね」
「ぐはは! 気にすんな! ちょっとスカートをめくってくれるだけでチャラにするぜ!」
「……くそカメ……! そんなハレンチなこと……で、できるわけないでしょう……!!」
「ジョークだすまんな! 陽キャ的な会話術よ! お前にはレベルが高かったか! ははっ!」
ヒナに睨まれたことで、カメ朗は若干目をそらす。
彼女の乳揺れやパンチラを見てなかったので、スカートめくりは少しだけ本気のお願いだった。しかし、これ以上言うと暗殺されそうなので止める。なんだかすごい赤面してるし。
万が一ジゼルたちの耳に入ったら、まじヤバいとも思った。
「ともあれモンスターを倒した! 【ぶん捕り箱】はどうだ?」
「箱は光っている。モンスターの魂は回収できたな」
「よおし! 討伐依頼……完全達成!」
「うおおおお!! おれたちの勝ちだあああ!!」
ヒナが右手につかんでいる四角形の赤い箱が、ドラゴンを倒したことで淡くきれいな光を放つ。
それこそドラゴンの魂が箱の中に収まった証。
ナイトになった際に無料配布される魂収容魔道具:ぶん捕り箱を持ち帰ることで、ナイトは討伐の報酬を受け取ることが可能なのだ。
「それはそれとして……よくも盾にしてくれたなぁ!! おい!」
「うお! すまんカメ朗!! つい! 手ごろな堅さの盾があったから! 悪気はなかった!」
「ふざけんなー!! よけいに悪いだろー!!」
「うわあ!? カメ朗がキレたぞー!」
騒がしく活気にあふれたナイトたち。
かなりの苦戦がありながらも、彼らはドラゴン討伐達成によろこぶ。
カメ朗や酒場の男たちのゲスな策謀が露見することもなく、普通のハッピーエンド的な雰囲気で冒険は終わった。
「さ、さてっ。この後合コン行っちゃう!? 行っちゃう!?」
「連絡先交換したいなオレは……。あのめっちゃセクシーな女戦士さんとかどうよ?」
「いいねいいね! うおっしゃー!! 燃えてきたー!!」
「おれは、あっちの清楚そうな巨乳ねーちゃんに声かけてくるわ! ぐふふ……!」
完全に本来の目的を忘れている男性陣に、カメ朗はやれやれ状態。
そのカメ朗含めた男どもを、ヒナはごみを見るような眼で見ている。自称紳士カメ朗は、それに気づいていない。
「カメ朗、まちがいなくMVPはお前かヒナだ。この【ドロップアイテム】はどっちかにやる!」
「ほー。アイテムねぇ。もらえるもんならもらっとくか!」
「わたくしはいりません……よ……。今回は……腕試し的な意味で……参戦なのでス……。思わぬアホとの遭遇はありました……がっ」
「思わぬアホってだれのことだ?」
「……自分で気づかない……やつのことでス……」
そしてカメ朗に渡されたドラゴンの爪。
それはモンスターが消滅した際に発生することがある、【ドロップアイテム】と呼ばれる代物だ。
受け取ったアイテムを見ながら、彼はしばし考える。
「【ドロップアイテム】は加工してくれる店がある。行ってみたらどうだ?」
「あー。かなり金がかかるっていうアレか……いや待てよー? あーしてこーして、」
手にした爪の効果を思い出し、にやりと少し気持ちのわるい笑みを浮かべた。
これを使えば、色々と悩みが解消できるかもしれないと。
■そうして、加工アイテム屋に持っていくことを決めた■
■今回の報酬もゲットし、あとは悠々と帰還するのみ■
「ふっ、今日のMVPカメ朗さんは、クールさを維持したまま去るぜ……。グッバイ」
「クールさなんて……ありました……?」
■やたらと格好つけながら、カメ朗はみんなに背を向けた■
「おい! これから合コン行くんだけど! カメ朗も一緒にいかないかァ!?」
「おいおい、かんべんしてくれ……おれには嫁さんがだな……」
「お前の活躍に惚れましたって美少女いるぞー? ぜひともお話したいだとよー! もてもてじゃねーか!」
「よし、いくか」
■わずかコンマ数秒の方向転換であった■




