試験開始ッッ!!!
「うおおおん!」
「はあ、すっかり常連だね。これはよくないことだ。ここってダメ人間を集める場所なのかな?」
「おおおおん! おれは……おれは……! 嫌われていないはずッ」
■最近カメ朗がよく行く酒場にて■
■ブレインはカメ朗の様子に困り顔■
「そんなに落ち込むなよ。考えすぎだって……多分ね。ふふ」
「うおおおろろん!!」
テーブルに突っ伏して泣き続けるカメ朗。
このまま体中の水分を放出するのではないかという勢いで、彼は悲しみを少しでも外に出そうとしていた。
「なんでだっ。なんで嫁のジゼルまで……」
「なにか心当たりは? またなにか余計なことしたんじゃ」
「いやいや、そんなもんあるかよ。この間まで膝にジゼルを乗せて、一緒にロボットアニメ鑑賞をしたりしてたのにっ。頭なでなでしてたのに!!」
【カメ朗さま……! す、すこしくっつきすぎでは……!??】
【なにいってるんだいマイハニー。この位置ならきみの香りもよく味わえ、いつだって頭をなでられる……ほらこんなふうにね!】
【はわわッ。アニメに集中できませんわ……! カメ朗さまの息が耳にあたって……はわわ】
【ははは。ほんとうにCUTEな子猫ちゃんだZE】
■嫁とのイチャイチャ話を展開中……■
「……へえ。そーなんだー。ふーん」
ドヤ顔でそんなことを語るカメ朗に、ブレインは若干だがイラっと顔になった。
隙あらば嫁とのイチャイチャを語り始めるのは、彼にとって割とよくあることだ。
「感想を言い合ったりしてると、不思議な一体感があってなー。ふふふ」
「やれやれ。なんだかんだ言っても嫁を信じてるんじゃないか」
「当の然。ジゼルは別格よ別格」
「まあメイド長さんよりはね……味方サイドなのに、なんで一番容疑が深いのさ。すごいね。しかし彼女に度々攻撃されるというのも……こう、胸が熱くなるかもしれない。ふふ」
カメ朗は悲しみながらも惚け話を展開していく。ブレインは気色悪い笑みを浮かべる。
ジゼルと積んできた思い出は、時間と比例しないほどに濃密だ。隙あらばイチャイチャして周囲をいらつかせるほどに。
やはり信じたくはないのだろう。カメ朗の頬に一筋の涙がこぼれた。
「……カメ朗ちゃんよ。女ってのはそういうもんなのさ」
「!」
「オレっちも過去に……」
■同卓に着いたラインハルトから語られる過去■
■わりとどうでもいいので、カメ朗は軽く聞き流した■
「……ということがあったのさ」
「へえー。勉強になる~」
「その話、前も聞いたことあるな。何回女性にだまされているんだい?」
簡単にまとめると美女の色仕掛けに騙された、という話を語り終わったラインハルト。
彼は赤くなった顔でカメ朗たちに説く。
「だからよぉ、女との絆なんて幻想なのさ。男との友情こそが真理!」
「そやそや、そんな薄情な奴ら忘れてまえや!」
「お前さんには俺たちがいるじゃないか! カメ朗!」
見知った顔から見知らぬ顔まで、酒場の常連たちが次々と現れてカメ朗を元気づける。
お前ら誰やねんとか、そんなツッコミが無粋に思えてくるほどの勢いを感じさせる。
「今日は飲んでさわいで心配事をぶっ飛ばせー!」
「うおおお!」
■咆哮する酒場の男たち■
■カメ朗は不安を忘れ、ばか騒ぎの渦へと飛びこんでいくのだった……■
■そんな彼がある依頼を頼まれるのは数日後■
●■▲
「ダンジョンのモンスター退治? だって?」
「おうよ、やってみないかい。お前さんは腕っぷしが強いっていうしな!」
「いやまあ。自信はあっけどさ……」
■またまた夜の酒場■
■カメ朗は常連の男性に、仕事の手伝いを頼まれた■
「つまり【ナイト】の仕事ってことかー。あいつらガラ悪いイメージあんだよな。苦手ー」
「それをお前が言うかい? でもまあそうさぁ。この酒場の常連でチームを組んで、モンスター狩ろうぜって話! 楽しいぞー!」
「ほっほう。なんか、そういうゲームいろいろあったなぁ」
ナイトとは、モンスターを狩ることで報酬を受け取る職業。
酒場にも何人かナイトがいるようで、カメ朗をスカウトしたいと言ってるのだ。
「しかし資格試験がなー。くそ面倒そう……いつもなら楽しくやれるんだけど、いまは色々と大変だしなぁ」
「そこはオレたちがサポートするさ! やってみようぜー!」
「……」
「狩りには男の夢がつまってるンだ! 女には理解できない領域なンだ!」
カメ朗はめんどうくさいと思いながらも、男の友情的な勢いに押されて承諾してしまった。
現在はヒモニートな為、ナイトの仕事で稼ぐ必要もないのだが、自分で生活費をなんとかするのは悪くないだろう。
それによってメイドたちの印象がプラスになる……可能性がなくもない。
「っし、やってみっか! なにごともチャレンジだ!」
■肩をゴキゴキと鳴らし、カメ朗は熱いオーラを発する■
■そして後日■
●■▲
「――では最終試験。【ゴーレム狩り】を開始します」
昼の草原地帯に数十名の人影あり。
その殆どが、ナイトの資格試験を受けるために集まった受験者たちだ。
カメ朗もその中にいた。割とぎりぎりで筆記試験を突破した後である。
「ヒャッハー! やっと実技試験かぁ!」
「待ちくたびれたぜェ。モンスターの血をよこせェ!」
「ひゃははは!」
「……やれやれ」
ナイトにはアレなやつが多い。とは、いったい誰の言葉だったか。
カメ朗以外の受験者は荒っぽいのしかおらず、ナイトは荒くれ者の集まりという説の証明になっていた。
実際、カメ朗の友人であるナイトの少女もかなりアウトローな性質を持っていた。
「元気にしてるかなー。あいつ。……いまにして思えば、メイドたちにひけをとらないカワイさだったな。アイドルとかやれそうだが、性格がなー」
故郷の村にいるであろうバクチ好きの少女を頭に浮かべ、最終試験にはあんまり集中していないカメ朗。
そんな彼の能天気な雰囲気を感じ取り、周囲のチンピラたちが煽るようなことを言ってくる。
「おいおい、ここは公園じゃないんだぜ~?」
「のろまなカメカメ族は危ないから下がってな!」
「……」
だがカメ朗はスルーした。
それは冷静なためとかではなく、単に別のことで頭がいっぱいだからだ。
(あ~、そう言えばヒナってかなりゆたかなお山を……あかん、なんかムラっとしてきて集中できん)
カメ朗の頭は男の夢でいっぱいだ。
チンピラの声など耳に入ってきていない。下手すると、試験のことすらおまけ程度である。
「最終試験……開始!!」
「おっと! はじまったか!」
■試験官の声で現実に戻るカメ朗■
■彼の前方には、黄金色に輝く巨大な岩人間がいた■
「黄金色ゴーレム……! ゴーレムの中でも最強クラス!」
「気をつけろ! 中級ナイトでもきつい相手だぜェ!」
腐ってもナイトになろうとする荒くれ者たちは、目の前に迫るゴーレムに連携して立ち向かう。
この試験会場内には他にも複数のゴーレムがいて、それらを狩る中で評価をされるという試験だ。
実技試験で戦うことになるモンスターはランダムで決められるが、それでこそナイトとしての技量を試される。
「さて、と」
「おい! ノロマかめ野郎はひっこんで――」
だが今回の試験は失敗だった。
一人だけ、場違いな【能力】を秘めたロボットがいるからだ。
「ちょっと強めな――ビーム」
■閃光が走り抜け■
■次の瞬間には、ゴーレムは跡形もなく消し飛んでいた■
「え」
「ええええ!? なんだー!? ゴーレムがッ!?」
「い、いまのは!? 見たことない魔導だぞ!?」
目玉が飛び出そうなリアクションをする受験者&試験官。
それもムリのないことだ。
最強クラスのモンスターを、ナイトになってすらいないカメ朗が瞬殺したのだから。彼のステータスが見えないことも相まって、周囲の者たちは恐怖と畏怖の念を抱いた。
「やべ、やり過ぎたー? ゴーレムって防御力たけーって聞いてたのに。たいしたことないな!」
ゴーレムがいた地点に大きなクレーターが生まれ、そこはまるでミサイルの着弾地点。
この世界の兵器である魔導のトップクラスでも、これほどの破壊力はなかなか出せないだろう。
「一応、威力は抑え目にしたんだけどなー。まあおれ最強だしな! しかたないYO!!」
■結局、実技試験はカメ朗無双で終わり■
■彼は試験に合格してナイトになった……■




