本当の愛ッッ!!!
「なぜ!? お前たち、俺に反逆できるのだ!!」
「忘れましたか、クソご主人様」
「なにを……っ」
メイドたちの手によって簀巻きにされたカメ朗。
地面に転がった彼を、見下した目で眺めるのはメイド長だ。
彼女の左手には白いラジコンがあった。
「貴方に貰ったこれで、私にも操作権があることを!」
「ああ! 2Pカラーのラジコン!!」
「ははは! 油断したわね! ゲス朗!!」
「くっそおおお!! 自動操作を解除しやがったかァー!!」
絶叫しても敗者は敗者。
コレットとシエルに木の枝で顔をつつかれながら、カメ朗は悔し涙を流した。
リリはカメ朗の上に座っている。ミニスカサンタ衣装は青くなっていた、どうやら着替えたようだ。
「ああ……やっと、この時がきたわっ。お前を尻に敷く時が……!」
「リリー!! 貴様ー!!」
「さあ、自分の身の程を知るが良いわー!!」
簀巻きカメ朗の頭をぺしぺしとはたきまくるリリは、普段のセクハラ行為の反動なのかSッ気を全開にしている。
頬を赤く染めて、女王様オーラを僅かに発揮する彼女。
このまま高笑いでも上げそうなイメージである。
「あはははは、これから毎日! わたしに魔導用教材を献上するのよっ!! よ!!」
「ぐおお、すでに結構わがまま叶えてるだろォ!! この前、源流魔導セットプレゼントしたじゃん!」
「足りないのっ。わたしの才能のなさを補うためには、まだまだ全然足りないのよぉおお」
自嘲とともに泣き出すリリ。
なんかトラウマスイッチを押してしまったみたいで、カメ朗は逆に申し訳なくなる。
「すぐにお金はすっからかんになるし、全然成果は出ないし……うわあああんっ」
「り、リリ……」
「ああああんっ」
泣き止む気配のないリリの背中をぽんぽんと叩き、優しく慰めるシエル。
コレットたちの視線が妙に冷たいので、カメ朗は理不尽な気分に襲われた。
「これだからゲス朗は……!」
「ボクも見習いたいLEVELのドSだね~」
「可哀そうな先輩。よしよし」
「ええー、なんでおれが悪者になっているんだっ」
「おいおい、あんちゃん! それはないぜ!」
「女の子を泣かすなんて、カメ朗のファン止めるわ」
「まったく紳士の風上にも置けないぜ……」
「だれだよお前ら!!」
いつの間にか周囲に集まってきた、共に戦った就職者軍団。
非戦闘員の者達も混ざっているようだ。
彼等はカメ朗の行為にあきれている模様。
「くそー! おれの活躍を忘れたかー!」
「話が別だ!」
「カメと美少女だったら、美少女の味方するだろ!」
「なんて潔い! くそったれ共が!!」
ぎゃーぎゃーと言い争うカメ朗と軍団。
だからといって険悪な雰囲気はなく、そこには不思議な親しさがあった。
誰の顔にも笑みが浮かび、危機を乗り越えた達成感もあり、爽やかな喧騒が広がっていく。
「ありがとよ! カメ朗の旦那!!」
「お嬢ちゃんたちも助かったぜ!!」
「一体なにものなのですかっ。あなた方はっ」
口々に感謝の言葉や興味を発する人々。
中にはジゼルやメイド長のことを知っている人もいるようで、彼女たちに直接感謝を伝えている。
「ふふ、おれが何者かって……?」
わりと悪い気はしないカメ朗は、少しもったいぶった風に己の正体を明かそうとする。
正体もくそも、見た通りのカメのロボットなのだが、それでも格好良さと言うものを演出するのは大事だと思うのだ。
(世界を守る為生み出された、最強無敵のロボット……または、古代の遺跡より復活した古の機械王……またまたは、宇宙より飛来した、超絶科学技術によって誕生した侵略兵器とか……!)
色々な想像が頭をよぎる。
どれが一番かっこういいかを検証し、吟味し、合成・抽出する作業。
そうして出来た一つの設定を、ようやくその口から語り出した。
「おれは――」
「可愛いなぁ。メイドさんたち!」
「彼氏いるのか!? 連絡先を交換しないか!!」
「しゃ、写真を一枚撮らせてもらっても良いですかな!?」
「くぅー、戦えるミニスカサンタさんとか萌えるー!!」
「……」
■誰もカメの正体になど興味なし■
■カメ朗はいじけた■
「マイシスター! 怪我はないかいっ!?」
「うげっ」
凄い勢いで接近してくる小太りの男性。
雪を蹴り飛ばしながら、愛する妹の下へ、その妹に引かれながら参上した。
メイド長は仲間たちの後ろに隠れる。彼女らしくない行動だ。
「なるほど。地区長……つまり貴方が、メイド長さんの兄ですか」
「カメ朗君と同類のオーラが出まくってるね~。無理矢理連れていくのは駄目だよー」
「メイド長は渡さないわよ! 絶対に!」
仲間達はメイド長を庇うように前に出た。
しかもすごいやる気に満ちていて、絶対に彼女を死守するという想いが溢れている。
仲間を守ろうとするその姿に、何も知らないギャラリーは感激を覚えた。
「す、すごい。団結力だ」
「これが彼女たちの強さの秘密なのかっ」
「感動したよ、おれっ」
口々に感心の声を漏らす者達。
メイドたちの固い結束を感じたギャラリーは、地区長に非難の視線を向ける。
地区長は少し戸惑った。
「ぐぬぬ……なぜ、そこまでっ。いや確かに妹は魅力的で優しくて可愛くて美しくて最高でっ」
メイドたちの絆の強さにたじろぐ彼は、一歩後退した。
特にジゼルの眼光は鋭い。
メイド長をなにがなんでも守るのだという、決意があった。
「渡しませんわ……ッ。メイド長はっ」
兄に怯えるメイド長の前に立ち、しっかりとした声で宣言した彼女。
それほどの想いを持っているのだ。
姉を奪われまいとする妹のようでもある姿。
「メイド長は……! ひとりぼっちだったわたくしに手を差し伸べて……! 一緒にいてくれました……!」
必死になっているジゼルは、涙を流しながら両腕を広げた。
ここは決して通さないという意志がある行動。
従者であり友であり家族であるメイド長を、守るという気持ちは譲れない。
「今度は……わたくしがメイド長を助ける番ですわっ」
力強く宣言したジゼル。
メイドたちも同調して、メイド長を守る壁となる。
その彼女たちの行動に感謝するジゼルは、今まで培ってきた信頼は確かだったのだと感動した。
(((カメ朗を止められる人がいなくなる!!)))
メイド三人の想いは明後日の方向に飛んでいた。
ある意味これも培ってきたものと言えるが、きっとジゼルはがっかりである。
「メイド長は渡しません、去ってください」
「そうだよー、ボクのムチの餌食になりたくなかったらさー」
「メイド長は大事なストッパーなのよ!!」
「ストッパー?」
リリの言葉に首をかしげるジゼルだが、さらに彼女たちの結束は固くなっている。
その勢いにさすがの地区長も踏み出せない。
逆にメイド長は疑問を浮かべる。
「ぐぬぬ、我が妹のカリスマ性は底なし沼の如くと言うわけかね……!」
「なんか違くね?」
少し嬉しそうに歯を食いしばる地区長に、冷静なツッコミを入れる簀巻きのカメ朗。
簀巻きの状態で説得を始める彼は、ギャラリーの視線を集めた。
「兄貴……、メイド長は帰りたくないんだよ。実家に」
「そんなバカな!! お前の為に用意した、ぬいぐるみ・可愛いアクセサリー・アニメの魔法少女セットその他諸々……! 家にはあるんだぞ!! 何が不満だというんだ!?」
「家出した理由が分かった気がするぜ……」
「分からん、何もわからんぞおおお!!」
髪をかき乱して苦悩の叫びを上げる地区長を見て、どうやって納得させたものかと悩むカメ朗は、ジゼルの顔を見た。
とても真剣な表情だ。
「……本当に愛しているなら、いやがってるのに連れ戻すなんてするんじゃないぜっ」
「!」
「相手の気持ちを考える……それが、本当の愛ってもんじゃないのかよ。兄貴!」
「!!」
カメ朗は、いきなり火が点いたかのように熱い説教を始める。
わりとその言葉は地区長の心を刺激したようで、彼は呆然と突っ立っていた。
ぬぐうううと、地区長は眉間にしわを寄せる。
「カメ朗……」
「カメ朗君~」
「お前……」
■カメ朗が言っているせいで説得力が皆無じゃない?■
■メイドたちはそう思った■
(カメ朗さま……格好いいですわ……!!)
■ジゼルは素直!■




