黄金のロボッ!!
「逃げたぞ!!」
「飛んだッ!!」
「ゴールデンロボッ!! やべ、ちょっとかっこいい!」
連盟の二人を回収したロボットは、空を飛んで、会場から離脱した。
それを止められる者はいない。
強化版フェイクⅡの力の前に、カメ朗達も屈してしまった。
「ごふ、つ、強いッ」
殴り飛ばされたカメ朗は雪に埋もれ、バチバチ音を発している。
全力で立ち向かった結果がこれである。
あまりに状況が悪く、彼は敗北してしまった。
「く、くそぉ。エネルギーがもっとあれば……!」
もうすでに多彩な機能を使用不可になっていて、カメ朗は本領を発揮できなかった。
本来肉弾戦はそこまで得意ではなく、強力な機能を使って戦うタイプなのだ。
すさまじい動きを見せるロボット相手では分が悪い。
「うう、無念……」
そして埋もれているのはカメ朗だけではない。
リリたちメイド組も敗北していた。
強大なボディには彼女たちの攻撃も効かない。
唯一なんとかなりそうなリリとシエルの攻撃も、打倒することは敵わない。
「ていうか……すでにわたし……満身創痍だったし……!」
「ボクも~、拘束できないとムチが当たらないしー。どっかの誰かさんの操作が下手すぎるしー」
「く、単純な火力はないですし……!」
■メイド長・シエル・リリの遠吠え■
■なぜか三人とも、尻を突き出したセクシーポーズで埋まっている■
「み、みんな……!」
■どうして良いか分からずに、あたふた中のジゼル■
「に、逃げられる。なんてよっ。ここまで頑張ったのに」
「……それだけで済めばいいけど~。考え浅すぎるご主人様ー」
「なに?」
「【主】が、この程度で引き下がるとは思えないなー」
■シエルの言葉は■
■正しかった■
「な、なんだ!?」
上空のロボットが右腕を変形させて、大きな砲口をカメ朗達に向けている。
その砲口に光が集中していき、大地が軋み、空間が唸りを上げた。
桁違いの攻撃が放たれようとしている。
カメ朗はそう直感した。
「目撃者ごと消し飛ばす気ね~、主は。多分、復活阻止の手段もあるよー。消滅したら敵側に囚われてジ・エンド~」
「わわわ、か、カメ朗様ッ」
「旦那様!」
慌てるジゼルたちがカメ朗に助けを求める。
しかし、彼は何故か仰向けに寝ていた。
エネルギー切れのようにも思えるが、違うと気づくジゼル。
「まさか、あれですか!?」
「ああ。アレだっ」
真剣な表情のカメ朗は上空のロボに狙い定め。
残ったエネルギーを攻撃に使用することを決めた。
おそらく、これが最後の攻撃になるだろう。
「久々に使うぜ……! ロボットの十八番!!」
にやりと笑い。
彼は己の機能で最大の威力を誇る切り札を使用する。
そう、それこそは――。
「うわあああ!!」
「う、撃ってきた!!」
■放たれる、ゴールデンロボのビーム砲!■
■大気を震わせる一撃!■
「衝撃拡散:連鎖炸裂ビームッ!!」
■それに対抗して放たれたのは■
■カメ朗の口から発射されるビーム!■
「うわああああお!?」
「二つの大きなビームがぶつかり合って!?」
大地が砕けるのではないかというほどの轟音。
大気が裂けるのではないかというほどの光。
客たちは空で炸裂した光を眺めるしか出来ず、そのスケールの大きさに圧倒される。
「ふんぬおおおお!!」
気合いの咆哮上げるカメ朗は、頭で鳴り響く警告のアラーム音を無視して、己のエネルギーを放出していく。
ここで負けたら自分はおろか、大切なメイドたちや嫁まで消し飛んでしまう。
その一心で踏ん張る。
ボディが悲鳴を上げるのも構わず、出力を限界まで上げる。
「すごい威力だ!! だがな!!」
ビームのぶつかり合いは、徐々にカメ朗優位に傾いていく。
カメ朗の方がスペックは上のようだ。
「おれの――」
その時。
「おいおい、なんだあれ!」
「人……だよな? 浮かんでいる!?」
空を見上げていた者達がある人影を発見する。
色も形も人によって認識が違う人影を。
男にも女にも、長身にも低身長にも、怪物にも宇宙人にも化けものにも見える。
「――小癪」
■空に浮かぶ、姿を魔導によって歪めた人物は■
■ゴールデンロボに近づき■
「【フェイクⅢ】。殲滅しなさい」
■その左胸にあるくぼみに■
■札のようなものをセットした■
「鬱陶しい【機械狂い】共の、兵器諸共――」
■急速に膨れ上がるフェイクⅢのエネルギー■
■この魔導場の全てを吹き飛ばすほどの、巨大なビーム■
「なん、だと」
■カメ朗は、己の敗北を想像してしまった■
「ぐおおおおおッ!?」
急速に勢いを増したフェイクⅢのビームによって、押され始めたカメ朗ビーム。
謎の人物の乱入によって窮地に追い込まれてしまった。
彼のボディがビキビキと音を立てていく。
「カメ朗様!!」
「大丈夫だっ、まだ持つッ。カメ朗さんをなめんなよッ!!」
ジゼルは悲鳴のような声を漏らし、カメ朗は問題なしと奮起する。
誰の目から見ても劣勢ではあるが、ここで負けるわけにはいかぬと叫ぶ。
愛する者を守る為、カメ朗は限界を突破しようともがく。
(いや、限界は突破しているッ)
既に死力は尽くしている。
それなのに押し切ることが出来ない。
ただ残酷に、エネルギー残量が減っていくのを知らされるのみだ。
気合いでエネルギー残量そのものが増えたりはしないのだから。
「く、オオォッ!!」
ひび割れていく顔や腕や足。
今にも崩壊しそうな有様にジゼルは顔を青くしていった。
どうすれば良いかまったく分からず、足を震わせる。修理しようにも、ビームの余波で接近することが出来ない。
「あ、ああ……」
「ジゼルッ」
「!」
「心配すんなッ。おれは全然平気だぜ!!」
■すごい明るい笑みを浮かべるカメ朗■
■その顔はひび割れている■
「……!」
「カメ朗君……!」
その姿を見たリリやシエルは息を呑んだ。
普段は最低下劣外道セクハラ亀なのに、その時だけは彼女たちもカメ朗を案じる。
しかしそれなりに消耗している彼女たちに、ビームを押し返す術はない。
「く……!」
■歯噛みするメイド長■
「――なにを、諦めているのですか?」
■その背後から、凛々しい声がかけられる■
「コレットちゃん――」
「メイド長さんらしくない気がします、こんなにあっさりと諦めるなんて」
「ご飯粒ついてる」
「え、嘘」
コレットの口の周りに付着したご飯粒を、取ってあげるメイド長。
気のせいか百合百合しい気配だ。
「ごほん! とにかく、私たちにできることはまだありますっ」
「!」
「私の銃――これに秘められた弾丸を使えばッ。いけるかもしれません」
「その魔導具ー、詳細はよくわかんない。けど、コレットがそこまで言うならー」
■迷っている時間なしと、準備が始まった■
(インフィニティ・ルーレット。【7】を指し示す際に使える弾丸、【協調のファイナルバレット】……)
■緊張しながらトリガーに触れるコレット■
(【7】の弾丸は強力だけど、外れも多い。もし)
■ギャンブル全開の銃■
■外れたら、ひどい目に遭うのは当然■
(ですが、ここはリスクを背負う時っ)
■覚悟を決め、トリガーを引く■
「――!」
コレットの視界に映ったのは。
銃口から出現した光の渦。色は黒。
渦はゆっくりと回りながら、発射の時をまつのだ。
「成功ッ。やったっ」
■そして■
「私の全て、持っていきなさいっ」
「任せたよー、コレットー。ぐうたらニートの社会ゴミの汚名返上チャンス~」
「コレットちゃん……! 成功したら頭をなでなでしてあげるからね!」
■三人のメイドたちは、銃に触れて力を分け与えている■
(しかしあのクソご主人さまに力貸すのは、めちゃくちゃ癪ね!)
(う~ん、これでご主人様がもう少しましな人物ならなぁ~。もっとモチベアップできたのになぁ~)
(いつか抹殺する、あのカメ)
■しかし心中はかなり複雑そうだ!■
「――まあ、とはいえ少しは良心もあります」
銃を放つ準備を進めるコレットは呟く。
彼女が思い返すは、この前のコタツで密着ハプニングラッキースケベ。
なんだかんだで最後まで誘惑に耐えたことに、めちゃくちゃ小さくではあるが感謝の気持ちがあった。
「少しやる気を出しますかね」
■ちょっぴり気合を入れるコレット■
「うぅ、なんてこと」
ある程度の強さの基準に満たないと消滅しかねない為、ジゼルは何も出来ない。
悔しそうに唇をかむ。
「……ッ!!」
渦が巨大化し、弾丸にみんなの力が集まった。
敵のビームに狙い定め、トリガーを思い切り引くコレット。
銃口を渦巻く漆黒の力が、その形を大きく変化させていく。
「大きな剣……みたいね」
「結構、綺麗だよね~。ランダム性が強すぎるくそ銃のくせにぃ~」
■現れたのは漆黒の大剣■
■とても禍々しい、みんなの希望!■
「撃ちます――ッ」
■それは勢いよく射出された!■
「うおお!?」
「なんだあの剣!」
凄い音を立て、空を裂く大剣に目を奪われる人々。
敵の巨大ビームに衝突し、僅かに押し返す漆黒の弾丸。
カメ朗のビームと合わせて、確実に敵の攻撃と拮抗していた。
「そんな……ッ。拮抗が限界なんてッ」
結局、なんとか互角にまで持って行けた程度。
持久戦の苦手なカメ朗がいるので、むしろ不利なのはカメ朗たちだった。
■反対に押し返されていく、カメ朗達の攻撃!■
「ちくしょうっ」
歯を悔しさで噛み締めるカメ朗。
ボディの崩壊は止まらず、敵の攻撃も止まらず、劣勢は明らかだ。
だというのに何も出来ず、カメ朗はそのエネルギーを使い果たそうとしていた。
「これが限界……かッ!?」
このままではジゼルたちも一緒に吹き飛んでしまう。
そんなことは許せないので、カメ朗はその力を絞り、最後の足掻きを続けた。
手も足も顔も壊れていく中、上空のビームを押し返すことに全力を捧げる。
「うおおおおお!!」
激しい咆哮を上げる。
どこまでも届くような大きな声で。
「無駄――諦めなさい」
■上空の人影は呟く■
「残骸だけでも回収しましょう」
■勝ちを確信した口調で■
「く、そお!!」
どう足掻いても覆せない現実を前に、無念があふれていくカメ朗。
せっかくスーパーロボットとなって力を手にした。
この力で愛する人を守ってきた。
なのに、ここで敗北してしまうというのか?
(前世では……!)
孤独な誰にも愛されない前世を想う。
転生する前のあの環境から、この世界で最愛の嫁と出会うことが出来た。
まさに最高の日々であり、絶対に失いたくない場所だ。
「それを……! 守れないで……!!」
何の為の力だ。
ジゼルはいつも自分を頼りにしてくれた。
少し不思議に思うこともあったが、誰にも負けない最強ロボットだと信じている。
それがこんなところで敗北していいのだろうか?
下手すると復活できないかもしれないのに。自分はおろかジゼルまで。
「いいわけあるかよ……ッ!!」
彼女はきっと悲しむだろう。
最強のロボットがこんな追い込まれているなんて。
失望してしまうかもしれない。
「じ、ゼル」
「――カメ朗様っ」
■彼女の声が聞こえた■
「!!」
「カメ朗様……!! ああぁ……!」
ジゼルがカメ朗の胸に泣きすがる。
子供のように頼りなく、最強のロボットにすがりつくのだ。
声は混乱していて、自分でも何をやっているか分からないのだろう。止めたいが、カメ朗のボディはほとんど停止している。
「ジゼル。だめだ! 消滅するぞ!!」
「う、うぅうッ。しませんッ。絶対にしませんっ。だってカメ朗様は……最強のロボットですものッ!!」
「!!」
ビームの余波で服と体をボロボロにしながら、ジゼルはそう言った。
すでに敗北寸前のカメ朗の勝利を信じている。
必死になって泣きながら信じている。
「勝って――わたくしの……誰にも負けない……カメ朗様っ」
■唇を重ねてくるジゼル■
■カメ朗は困惑しながら、それを受け止めた■
「……」
■そして、気付いたメイド長がジゼルを連れ戻す■
「お嬢さま!! 危険です!!」
「は、はなしてっ。せめてカメ朗様の傍で……!」
メイド長に連れていかれるジゼル。
カメ朗はその背中を見送りながら、己の中でなにかが燃え上がるのを感じていた。
(ああ……そうだ)
彼女を泣かせないように。
最強のロボットという幻想を壊さないために。
そう考えれば不思議と力が湧いてくるのだ。
なにより、どんな時よりも、心の底から力が湧き上がる。
(彼女がおれを、愛してくれるなら)
カメ朗は不敵に笑う。
いつかの時だって、それを支えに限界を超えて来たじゃないかと。
なら、やれるはずだ。
(その愛に応えないとな――ッ!!)
■その時■
■不思議な力がカメ朗を包んだ!■
「!!」
エネルギー残量が増えたかと錯覚したが、それは違うと思った彼。
なにかもっと根本的な力が倍増している。
原因は分からないが、とてつもなく半端ない力がカメ朗を支えていた。
「魔法のキスで……パワーアップ? まさかそんな主人公みたいな覚醒の仕方……いや、もしかしておれは主人公だったのか?」
意味不明な供述をするカメ朗。
そんな王道な展開はカメ朗には相応しくないが、とにかく打開策は得た。
あとはこれをビームに注ぐのみ。
「うおおおおッ!!」
■カメ朗ビームが一気に大きさを増した!■
「なに――?」
いきなり力を増したカメ朗ビームを見て、驚きを見せる謎の魔導師。
七色の輝きが魔導師の目を引き付けた。
「排除! 排除!」
フェイクⅢは狂ったように声を上げる。
全機能を使っても排除できない相手に、混乱を起こし、動作不良状態のようだ。
なんとか地上の敵を排除しようとしているが……。
「今度こそ――勝ちだぁああああッ!!」
■カメ朗の勝利宣言と共に■
「排除――――不可能」
■フェイクⅢは虹の極光に飲み込まれた■
「……!」
虹色のビームに破壊されたフェイクⅢから、辛うじて距離を取って無事だった謎の魔導師。
その力はすさまじく、魔導場の境すら破壊して、空を抉った。
もしまともに当たっていたら、【彼女】でも危なかっただろう。
「これが……ロボットの歴史」
■300年前にいた人物■
■【機械皇帝】が生み出したロボットを元に、現在まで続いてきた歴史だ■
「その頂点に位置するのが、アレ」
あらゆる種類があるロボットの中でも、間違いなく最強に位置するであろう、カメ朗の力。
そうなると、ある推測が成り立つ。
「やっぱり、【機械狂い】どもの作品なのね」
淡々とした声に僅かに不快そうな色。
彼女は地上のカメ朗を睨んだまま、空中に浮かんだまま。
「【自動駆動型】……。攻撃・防御機能は多彩。駆動力自体は上の下」
冷静に分析を行う。
いつか倒すべき敵をきちんと倒せるように。
しかし魔導師とカメ朗は非常に相性が悪い。あのボディの前では、どんな魔導も分解されてしまうだろう。
「なら、同じ鉄くずに任せましょう」
ロボットにはロボットで対抗する。
たしかにカメ朗は最強のロボットであるが、それは現時点の話。
ならば、最強を超える最強を作り出せばいいだけのこと。
「――いずれ、必ず」
■連盟の同士二人を魔導によって浮かせたまま■
■彼女たちの姿はかき消えた■
●■▲
「……」
上空に浮かぶ影が消えたことを確認したカメ朗。
彼の目にも、彼女の実態は歪んで映っていたことだろう。
「あれが……、連盟のトップかYO?」
「でしょうね。本当の姿は知りませんが」
「……?」
コレットによる連盟のボスに関する説明を聞くカメ朗。
見る人によって姿が違うそれこそが、連盟のボスである何よりの証拠。
カメ朗は目を細め、敵組織のトップを思い返す。
「ぼいんぼいんだ……! ナイスバディじゃないか……!」
「そうですか」
「なんかこっち見てなかった? もしかして惚れちゃった系?」
「そうですか」
「ワンチャン、ラブコメ展開ありかな?」
「少し黙って」
■平常運転のカメ朗■
■コレットは冷静にツッコミを入れる■
「カメ朗様ぁああああ!!」
「よーし、よーし。ジゼル、もう怖くないYO」
「ううぅ……うう」
泣きじゃくるジゼルを優しく抱き締めるカメ朗。
ボロボロのボディはある程度修繕され、それなりに動けるようにはなった。
あくまでそれなりではあるが、これ以上の危険はなさそうなので、安心である。
「見ててくれたか? この最強ロボットカメ朗さんの力を!」
「見てましたわっ。本当に本当に格好良くて……! わたくし、ロボットアニメを見ている気分で!! 胸がどきどきしましたっ」
「ふふ、だろうだろう。……だが、不安にさせちまったな」
ジゼルを抱き締めながら、カメ朗はもうしわけなさそうに言った。
それに対する返答はとても優しい声だ。
「……いえ、全然不安になってませんともっ」
「……」
ぷるぷる震えながら強がるジゼル。
そんな彼女に苦笑いしながら、カメ朗はその場にいる仲間達を見渡した。
みんなボロボロだが達成感みたいなものが顔にある。
「みんなも……助かったぜ」
「ふん、別にお前のために頑張ったわけじゃないわよ。勘違いしないでよね!」
「ツンデレ」
「じゃないわよッ!!」
カメ朗の言葉に怒るリリは、服の胸元を右手で押さえている。。
どうやら魔導の反動でまた服がエッチな破け方をしたようだと、カメ朗は一瞬で悟り、咄嗟にラジコンを手に取った。
リリの顔が青く染まる。
「ちょ、何をする気よっ」
「少し手を動かすだけだから! それだけだから!」
「!?」
ご乱心のカメ朗を止めようとするリリだが、操作されて動きを封じられてしまう。
ゲス朗の帰還を感じた彼女は身を案じたことを後悔した。
「おっとー、そうはさせないよー」
「対処させていただきます」
「さすがはゲスね……旦那様、お覚悟を!」
「ぐぅうう!?」
■リリ以外のメイドたちが、掴みかかった■
■動きを封じられたカメ朗■
「おんのれぇえええ!? 血迷ったかぁああ!?」
■お前が言うなとみんな思った■




