不快因縁ッ!!
「……ううう」
「さあ、行くぞーメイド長」
「……く、ころしなさいぃっ」
「げひひ、そういうわけにはいかねぇなぁ!」
■冷気が漂う室内から出て来た人影■
■メイド長は手錠をされ、両手にプレートを持っている■
「【犯人は私です】ですか……」
犯人であることを示す言葉が書かれたプレート。
無駄に達筆なそれは、メイド長自身に書かせた。
自分で自分の犯行を指摘するという屈辱に、メイド長はプルプルと震えている。
「さあ、それじゃあ推理の続きだ」
「逮捕してからです?」
「ふう、助手よ。おれは推理を語りたくて仕方がないんだよ。それぐらい察してくれ」
「察せませんよ、貴方のお間抜けな思考なんて」
「ふふ、ツンデレってやつだね?」
漫才のようなやり取りをした後、自分の推理を語り始めたカメ朗。
もう諦めたメイド長は、廊下を歩きながら死んだ目で聞いている。
行き先は地区長の下だ。
「おれはロッカーの匂いに気付き……」
「うわ、いきなり変態発言」
「違うってば! ちゃんと聞いてくれよ!?」
後ろで眠そうな声を出しているコレット。
あまり真面目に彼の話を聞いてはいないようだ。
「ごほん、とにかくとにかく、そのロッカー内に充満していたメイド長の匂い……ではなく、なんだか、変なにおいを感じたのだ!」
「自分の匂いでは? 近づかないでくださいね」
「茶々を入れるのはやめろYO!」
あくびをしながらハイハイそうですかという助手に、探偵は憤りを感じる。
探偵と助手の信頼関係とは、もっと強固なものだったのだ。
彼が見ていた探偵漫画では!
「……とにかくっ、おれはその香りの正体を思いついたんだ!」
「はい、続けて、はい。あと10分でまとめて」
「うおおおおい、なんかやる気が失せていくわっ」
「それはありがたいですね。エセ探偵さん」
「ううぅ……ちくしょう、くそォ……!!」
オイルの涙を流して悔しがるカメ朗。
現実はこんなにも残酷なのかと、漫画を読んで培った優しい幻想が壊れていくようだ。
「敵しかいない~♪ こんな世界じゃ~♪」
「歌っている暇があるので? あと、8分」
「時間制限やめろよ! まじでこれ以上はよせよっ、心が壊れるっ」
推理を披露しようとしても、助手の妨害によって上手く行かない。
もうさっさと終わらせてしまおうと決意したカメ朗。
「でさ、香りの原因は特殊な食材だと思ったわけよ~」
「はいはい」
「なんで、それを管理している冷蔵室に潜んでいる可能性があるかもな~とかね、メイド長は寒いところでも全然平気なスキル構成だし」
「はあ、そういうことですか」
「うん、そういうことなんだ」
■なんか殺伐とした感じで終わった推理■
「……まいったな、もっと劇的にしたかったのに」
「早く地区長に引き渡しましょうよ。そういう約束でしょう?」
「ま、待ちなさい。それは駄目よっ」
コレットの言葉に拒否を示すメイド長。
なにやら怯えているようにも見えるが、どういうことなのだろう。
「あんな下衆の下になんて、行きたくはないのよっ」
「しかし、地区長に引き渡すように言われているんだが」
「ソルジャーに引き渡しなさい、それで十分でしょうっ」
「むむ~」
メイド長の気迫に押されてしまうカメ朗。
たしかに地区長は彼女の嫌いな人種だろうが、なんでそこまで拒否感を表すのか。
そんな疑問を抱いていると、廊下の向こうから声が飛んだ。
「――うおおおおおお!! 愛しの妹よおおおおおお!!」
■ダッシュでメイド長に迫る、肥満体型の男!■
■メイド長は逃げようとするが、地区長に抱き着かれた!■
「ぎゃあああああっ!?」
「ううーん、久しぶりだね~。家に戻って来なさい! お前の部屋は毎日掃除しているからな!!」
「い、やよおおおおお!? はなれてゲス兄ッ!!」
凄まじい勢いで火が上がるのではないかという激しい頬ずりをする地区長と、なんとか離れようとするメイド長。
メイド長の顔は今までにない程に殺意まんまんである。
【お兄ちゃん! また私の部屋に勝手に入ったでしょ!!】
【いやいや、私はお前の部屋を掃除しようとだな】
【なにが掃除よ! 家族だからって勝手にはいるな! 遠慮は必要でしょうがぁっ!】
【はは。それにしても、あの下着はどうだろうなぁ】
■悪しき記憶がメイド長を苛む!■
「許さない、絶対によッ!!」
「ほほほほ、ツンツンしちゃって!! マイ妹ぺろぺろ!!」
「きょ、兄妹!?」
実の兄を睨むメイド長と、気色の悪い笑みを浮かべる地区長。
二人は五メートルほどの距離を保ったまま、対峙する。
カメ朗は間に立っている。
「なーるほど、つまり」
この数分のやり取りで事情が察せたカメ朗は、メイド長の動機を知った。
全ては嫌いな兄に対する復讐のようなものなのか。
「簡単に言うと、変態兄貴許すまじっ。か」
「貴方にしては的を射た発言ですね。感服です」
「そう褒めるなよ! へへ」
それだけLEVELが低く見られているということなのだが、彼はコレットの真意に気付かない。
兄妹喧嘩を続行している二人は、廊下で立ち止まって一触即発だ。
「まあまあ、落ち着けよ。ここはおれの顔を立ててもらおうかYO」
「なにさまです?」
いきなり重要人物面をし始めたカメ朗に、コレットは訝しむ。
ツッコミ役としては、完璧に助手の仕事をこなしていると言えるだろう。
「ひっこんでいなさいよ!! ゲス朗!!」
「め、メイド長さん。呼称が変わっているYO」
「残念ですが、そっちの方が合っていますね」
「おいおい、妹よ。カメ朗君は素晴らしい紳士だぞぉ」
「あ、兄貴っ」
すかさず同士カメ朗のフォローに回るのは地区長。
彼は、恐ろしいことに本気で言っているようだ。
カメ朗の目にはオイルが。
「く、アンタが言っても説得力ないのよ! ゲスの認識における紳士は、ゲスでしょうがッ」
「酷いな。何を勘違いしているんだ?」
「少年の夢を叶えるために。おれたちは頑張っているんだっ」
メイド長は増えた敵に絶望する。
このままでは最悪の未来が彼女に襲い掛かるだろう。
「カメ朗君、とりあえず私は妹を連れて帰りたいのだが……」
「なに?」
「マイ妹は家出したあと、一度も家に戻ってきてないのだよ。……ようやく見つけたんだ、今度は家出できないようにしなくてはっ」
「ひぃ」
怯えた声を出すメイド長はカメ朗の背後に隠れた。
あのカメ朗の背に隠れてしまう程、苦手意識を持っているということか。
「さああ、愛しの妹!! 一緒におうちに帰ろうじゃないか~」
■その手をメイド長に伸ばす地区長■
「――なんの真似かな。カメ朗君」
■カメ朗が地区長の腕を掴み、それを阻止した■
「……悪いが、うちのメイドなんでな。いくらあんたでも許せねぇよ」
「……ほう。妹らぶの兄を妨害するとは……覚悟はあるのかね」
火花をぶつけ合う二人。
コレットは、さりげなくメイド長を庇うように立つ。
「……」
「……」
■ごごごと聞こえてきそうな状況!■
■爆音が鳴り響く!■
「なんだ今のはッ!?」
「爆発音、でしょうか」
床から振動が伝わってきたことで、異常の発生を思い知るカメ朗達。
地区長は動揺した様子で呟いた。
「い、今のはっ。まさか【アレ】が!?」
走り出す地区長。
それと入れ替わるように、廊下の反対側から、スタッフのミニスカサンタの女性が走ってきた。
「た、大変です!! トラブルですよ!!」
「うひょおおお、ボインちゃん来たぁあああああ!!」
「こんな状況でも変わらず。流石です。本当に軽蔑しますよ」
「まったくね……。それはそうと、何があったんですかっ」
「か、会場の出入り口が爆破されて!! 出られません!!」
「なんですって!?」
スタッフによると、カメ朗達も通った大きな雪の門が爆破され、会場は軽くパニックになったのだとか。
さらにそれだけではなさそうで、スタッフは言葉を続けようとする。
「HAHAHA!! おれに任せたまえよ!」
「あ、待ってくださいッ」
■せっかちなカメ朗は■
■廊下を疾走して、氷の壁内から会場に戻る■
「さあ、オーバーテクノロジーのパワーを――」
カメ朗は驚愕で声が出ない。
会場に広がっている光景は。
「対象、カメ朗補足シマシタ」
「排除シマス」
■見渡す限りの人型ロボット群と■
■自分に向けられた多数の銃口的なモノ■
「HAッッ!?」
■バリアを使う間もなく■
■超合金ボディを、多数のレーザービームが貫いた■




