メイド長の秘密ッ!!
「まずおれの推理を聞いてもらおうか」
冷気が充満した室内で、キセルをくわえたカメ朗は得意気に立っていた。
その風貌は名探偵と言えなくもないかもしれない。
必死にキセルを用意した姿を見ているコレットは、とても冷めた目だ。
「必要ないですよ、旦那様」
「え」
「別に聞きたくはないですし、結構です」
「ええ、いや、それはないだろ。ふざけんなよっ」
「……はぁ、はいはい聞いてあげますから」
ミニスカサンタ姿のメイド長は冷ややかな対応。
まるで手のかかる子供を相手にするような態度に、カメ朗は疑問を抱いた。
コレットは当然だと思った。
メイド長はうんざりだと——以下略。
「ごほん。まず、おれはお前はこの会場にいると天才的な直感で判断し、実際こうしていたわけだが……」
「二行でまとめてくださいます?」
「無理だよっ!? 真面目に聞けよッ!!」
■コレットはあくびをした■
「そして捜査を開始し、あまりに影も形もつかめないことで、助手のコレットは心が折れかけた」
「最初からやる気ないのですが」
「そこでおれは彼女を優しく抱き締め、【諦めるな!】と元気づけた!」
「捏造はやめてくれませんかっ」
勝手に記憶を改造して、名探偵的なストーリーを構築するカメ朗。
すらすらと紡がれる言葉は、とても妄想とは思えない。
プロローグ部分でやたらと長すぎて、メイド長は後悔し始めた。
「もしや時間を稼ぐつもりで」
「へ?」
「あ、そんなことないわね。ごめんなさい続けて」
あまりに得意げなカメ朗の顔を見て、メイド長はさらにうんざり。
カメ朗は再び語り出し、コレットはその場で寝始めた。
「そこで、おれは特殊な情報収集術を用いて、ロッカーの異変に気付いた」
「まさか、ロッカーの中に?」
「ぎくぅ!!」
真実を追求する筈が、逆に不都合な真実を暴かれようとしているカメ朗。
あわてて取り繕うとした彼だが、メイド長の追及は鋭い。
女子更衣室のロッカーに忍び込んだことがばれてしまっては、とてつもなく不味い気がする。
推理中に逮捕される探偵など前代未聞だ。
「いや違うっ、その、色々がんばったんだ!」
「……」
「情報を集めてさ、がんばったんだよっ」
「そういうことにしといてあげます、旦那様」
大量のオイルを顔から流しまくるが、彼はなんとか推理を続行する。
どっちが犯人なのやらな状況になった。
「……ロッカーは故障していた。そういう証言があったのだよ」
「で? それがなにか?」
「開かないはずのロッカーが、なぜか開いた……つまり、その時のロッカーにはっ」
「……」
「メイド長! お前が入っていた!!」
「……っ」
■びしっと指を突きつけ、鋭く指摘するカメ朗■
「あのロッカーのドアの裏側には、服なんかを引っ掛けるための出っ張りがあった」
「くっ」
「それを掴めば、開かないようにすることも可能っ」
「なっ」
「……動機はっ」
そこまで言って、カメ朗はあることに気付く。
なんでそんなことをしたのかということだ。
計画に必要なこと?
更衣室に忍び込むのが?
「……むう、なんで更衣室に……?」
そう呟いた時、メイド長の顔が青ざめていることに気付く。
犯人であると言われた時よりもひどい顔だ。
「……」
「……」
■気まずい沈黙がその場を流れ■
(どういうことだ? そんなに動機が重要なのか?)
必死に頭をひねって考えはするが、答えは出そうにない。
なんでそんな行動を取ったのか、自分の立場で考えてみる彼。
(ロッカーに忍び込む……まあ、漫画とかだとありそうなシチュだが)
そう、カメ朗であるならば。
そうすることによって得られるメリットはわかりやすい。
「単純に少年的欲求を満たすために、ロッカーの中に隠れたとか……HAHAHA! なんて――」
「くたばれぇええええええッ!!」
「ええええええッ!!?」
■太ももに巻いたホルダーから、小刀を抜き放ち■
■メイド長が斬りかかってきた!!■
「いきなり、なにをするんだYO!?」
「うるさい! 破壊する!!」
「このやろう!」
戦闘態勢に入ったカメ朗とメイド長。
コレットはカメ朗の背後ですやすやお昼寝中。
メイド長が抜いた黒い柄の小刀は、照明の光で鋭く輝く。
それを構える姿は、美しい黒髪も相まって、とても和風な美人感があった。
「おのれぇ……大人しく認めないとはっ」
「それとこれとは別の話。知られたからには、口封じをッ」
「ええー、なにを言ってんだ? なにを知ったって?」
「しらばっくれないでッ!!」
動揺した様子で刀を振るうメイド長に、カメ朗は気圧されてしまう。
ここまで動揺している姿は初めてかもしれない。
なにか、彼女を追い詰めることをしてしまったのだろうか。
「……おとなしくしないなら、させてやるYO!!」
「やってみなさいよッ!! このゲス朗!!」
対峙する二人。
コレットはまだ寝ている様子だ。
メイド長の小刀が素早く動き、カメ朗を真っ二つにするために動く。
「ふんッ!!」
「!?」
真剣白刃取りで刀を受け止めたカメ朗は、そのまま刀を力尽くで奪った。
メイド長はそれによって驚きを隠せない。
こうも容易く、自分の刃が防がれるとは。
「甘くみるなYO!! オーバーテクロノジーの力をッ」
「……!」
■カメ朗にステータスは存在しないが■
■間違いなく、この世界においてトップクラスの存在だ■
(隠し職業のレベルをカンストさせ、ステータスも極限まで上げ、スキルも厳選した……なのに、こんなにあっさりとっ)
メイド長はそれなりに腕の立つ就職者だ。
今、その自信が粉々に打ち砕かれて、カメ朗に対して恐怖を抱く。
(あっぶねー! 危うく両断されるところだッ)
わりと余裕がなかったカメ朗。
思ったよりもメイド長の速度が速く、ぎりぎりで防ぐことが出来たが、結構危なかった。
小刀は魔導具であるはずで、下手するとカメ朗のボディを切り裂けるかもしれない。
(話では、メイド長は防衛特化。なんで油断していたが)
伊達に館の守護を任されている訳ではなく、おそるべき戦闘力を持っている女性。
しかし、得物の小刀は奪えた。
「投降するんだ! そうすれば許してやるZE!」
「うぐぐ……!」
「当然、お仕置きは受けてもらうがNA!」
「ううう……」
カメ朗はなんだか嬉しそうに見える。
気のせいではなく、メイド長というそっけない超絶美人に対して、よからぬ想いを抱いているのは明らか。
下手すると、他のメイドのようにできるかもしれない。
(メイド長……、巨乳だよなぁ……)
ゲス朗に相応しい目つきでメイド長を凝視する。
当然、彼女は背筋を震わせて一歩後退した。
逃走しようとしているのかもしれない。
「扉はおれの背中だぜ。げーすげすげす! さあ、どうするんでゲスかな!?」
「……!」
鋭い目つきのメイド長。
完全に悪役ポジションなカメ朗。
一瞬の判断が勝敗を分けるだろう。
「ッ!!」
■勢いよく走り出すメイド長!■
■目的は脱出!■
「のわッ!?」
■阻止しようとしたカメ朗の視界を■
■白い煙が埋めた!■
「なんだこりゃあ!?」
(もしものために用意していた、魔導具よッ)
目くらましによってカメ朗の視界を封じ、出口の扉へと、スキルによって迷わず向かうメイド長。
もう少しで扉に到達するという瞬間に――。
「ななッ!?」
いきなり動きを封じられる彼女は、なにやらぬるっとした感触を感じた。
一体何事かと自分の体を確認する。
「はッ!? なによこれッ」
■メイド長の足に絡みつくヌルヌルしたもの■
■なんか触手っぽい■
「きゃああああ!?」
■触手が、彼女の全身に絡みつく!■
「――新機能、【触手地雷】!!」
■カメ朗は、ある新機能を床に仕込んでいた■
「その地雷を踏むと、機械の触手が襲い掛かって動きを封じる!」
「そんなバカなッ!? こ、こんなぁああっ」
(煙幕のせいで逆に気付かなかったか……逮捕だ、メイド長)
「やあああっ、ぬるぬるするぅッ!!」
(最高だなコレッ!! うひょおおお!)




