反射的にッ!!
■同日・8:34■
「……」
■冬まつり会場・【氷結の運動場】内にて■
「……準備は整った、あとは」
にやりと笑う人影。
彼女が持っているブツは全てを壊すモノ。
これを使って、あの地区長が関連したイベントをぶっ潰す。
「ふふふふ……」
■怪しい笑いの女性は、計画を進めていく■
●■▲
「……さて、だいたい情報は集まったか」
「やれやれ、手際の悪い」
「なんだとっ。ミニスカの助手!」
手帳を持ちながら歩くカメ朗と、それに付いていくコレット。
調査はそれなりに進み、現在は集めたそれを吟味中。
ミニスカで美脚を披露しているコレットは、周囲からの視線に恥ずかしさを感じ、カメ朗の体に隠れるように歩く。
「信賞必罰。だ」
「貴方の趣味にしか思えませんが」
「ほうほう、お仕置きが足りないと見えるな!」
「!」
カメ朗の言葉にコレットの目が見開かれる。
その後、何かを言いたそうな顔のまま無言になる彼女。
「さあ、とりあえず城の中で情報をまとめてみるか」
「……了解」
■氷の城へと帰還する二人■
「ふうむ、特に怪しい人物を見たという情報なし……メイド長みたいな美人が、目立たないというのは不可能だっ」
「変な説得力ありますね」
「ふふ、よせやい!」
テーブルに着き、手帳を広げながらの捜査情報確かめ作業。
目ぼしい情報はなく、頭を悩ませているカメ朗。
メイド長の目撃情報はないように思えた。
「……変装とか」
「モンスターには、【擬態】というスキルがありますがね」
「むうう」
魔導やスキルによる隠ぺいなど、様々な可能性を考える。
モンスターが持つスキル擬態は、あくまで姿が変わって見えるだけで、触ればすぐに分かったりする。
「こんな時、探偵のスキルがあれば」
「上級職の【名探偵】ならば、一発でしょうね」
「……隠し職業の中でも、レア中のレア職かぁ」
■就職者の個性である【職業】■
■その中でも、【上級職】はかなり強力とされる■
「ないものねだりしてもしゃーないわな。ここは、推理もので鍛えた洞察力の出番!」
溜息を吐いてさらに考えるカメ朗。
メイド長は本当に会場内にいるのだろうか?
そんな疑念が生まれるが。
(さっきから微妙に反応している、美女の気配)
カメ朗のセンサーに反応があった。
正確な場所は分からないが、この会場内であることは間違いなく。
「この反応はメイド長っぽいんだよな」
「……」
わずかにコレットの眉が動く。
その反応を見たカメ朗は、メイド長がいることを確信した。
(どこに隠れている……? 会場内にいないのならば、スタッフが出入りできる部屋とか……?)
■それなりに広いため、探すとなると手間だ■
「とろあえず……」
■捜査許可をもらうため、地区長の下へ■
●■▲
【ほほ、頼んだよカメ朗殿】
許可を貰ったカメ朗達は、スタッフしか入れない部屋の捜査を始めた。
休憩室・備品室・調理室などなど……。
「見つからないかっ。くそっ」
「そろそろ解放してほしいです」
「見つかるまでは付き合ってもらうぞ!」
雪で出来た真っ白な廊下を通り、次々に部屋を調べて回る二人。
捜査状況は進展していないようで、カメ朗は困っていた。
「……次はここか」
「本当に入るんですか?」
「捜査のためだ!」
■カメ朗達は■
「女子更衣室に突入!」
氷のドアノブを回して、中に入るカメ朗とコレット。
ロッカーが並んだ室内に人の気配はない。
「さて……」
「……」
真剣な表情で室内を歩くカメ朗。
コレットの目には、更衣室に侵入した怪しげな男にしか見えない。
「堂々としてますね」
「まあ、許可はもらっているし」
「それにしたって、いきなり入るのはさすがです」
「へへへ、せっかちなんでね」
得意気な彼はじっくりと更衣室内を見て回る。
その姿にはまるで委縮がなく、王者の如き威風堂々とした態度だ。
「――あー、つかれたっ。もう大変~」
「本当! どうなることかと思ったよっ」
■部屋に響く女性の声■
「……ご主人様」
「……」
反応してしまったカメ朗が取った行動は。
「なんで隠れるんですか?」
「いや、つい」
■ロッカーの中に二人で隠れた■
■完全に失敗である■
「なんてことを。これでは言い訳できないっ」
「すまん。なんか漫画とかで見たから、反射的にね」
ロッカー内で密着する二人。
前と似たような状況ではあるが、今回は正面から抱き合っているのだ。
あたりまえだが、胸が強く押し付けられている感覚が!
「うひょお」
「うわっ」
にやける彼の顔を見て、急速に距離を取りたくなるコレット。
目前の変質者から何をされるか分からない為、大きな声を上げそうになる。
「やめてくださいよっ、大きな声を上げますからね」
「な、なにっ」
「そうなった場合、不利なのはどちらでしょうか?」
「……っ」
ロッカーに入った男女。
助けを呼ぶ女性の声に、以前、似たような事件を起こしたカメカメ族の男性の姿。
この場合、どんなふうに世間は感じるか?
「あかん」
どう解釈してもカメ朗不利。
これでは下手なことは出来ない。
少しぐらいどさくさに紛れてほにゃらら出来るかもなー、なんて考えていたのだが、事前に対応されてしまった。
「くおおおっ」
「状況が理解できたようですね、ゲス朗」
「なんという、ひどい仕打ちだッ」
美少女と密着しているというのに、少しでもおかしな真似をしたらアウトとは、残酷過ぎると思う。
こんなの拷問だ。カメ朗にとっては。
「……?」
「どうしたの?」
「いや、なにか今、あのロッカーから物音が……」
「ぎくぅ」
心臓が跳ね上がりそうになるカメ朗。
こちらに近付いてくる足音にびくびくしながら、断罪の時を待つ。
このまま開けられたら社会的にスリーアウトかもしれない。
(どうすっる、どうするっ)
まさしく八方ふさがりであるが、その時彼はあるものを視界に入れた。
いざとなったらコレを使うしかないと、心に決めて。
「あー、そのロッカー壊れているからね。だからだよ」
「え。そうなんだ」
「!」
九死に一生とはこれか。
女性の一人の発言で、迫ってきていた足音が止まった。
カメ朗は安堵しまくり、逆に心臓が停止しそうになる。
「なんか、開かなくて使えなかったとか……」
「ふーん、見た感じは綺麗なのにね」
遠ざかっていく足音二つ。
それから数分経ったころ、更衣室から人の気配は消えた。
「ふー、危なかったな」
「下手に隠れなければ良かったのに」
■ロッカーから出るカメ朗達■
「……」
「なんです、ロッカーをじっと見て。隠れたりないとか?」
「ちゃうわ。少しな……(メイド長のスキルはたしか……)」
何かを考えるようにロッカーのドアを眺めるカメ朗。
鋭いまなざしの奥には赤く光る眼光。
それはとても真剣だった。
「名探偵ごっこ?」
「ちがうよッ!?」
●■▲
「謎は深まるばかり、だな」
「本当にメイド長がいるのか、分かりませんが」
「いるだろ。気配はビンビンに感じるからな!」
「貴方に気配を探られるなんて、最悪ですね。気の毒に」
会場を囲むように広がる氷の廊下を進むカメ朗は、メモ帳を広げながらメイド長の行方を追う。
コレットはかなり呆れている様子。
カメ朗如きに、己の一応の上司が捕まるわけはないと思っているのだろう。
「ふふふ、その余裕……崩れるのが楽しみだな」
「……?」
「見せてやるよ、探偵漫画で鍛えた洞察力……!」
額に指を当て、彼は今までの情報を精査する。
それによって導き出された答えは。
「……」
「……」
「……っ」
「思いつかないなら、素直に言いなさい」
「いや待って、あと少し、あと少しだからッ」
頭をひねっているカメ朗。
漫画の名探偵のように、すんなりとはいかないようだ。
(こういう時、なにか閃くものなのによぉおおお)
●■▲
■???にて■
「ようやく計画は最終段階……! いよいよ、雪辱を晴らす時が……!」
ある部屋で邪な笑みを浮かべる女性。
遂に計画を最終段階へと移行させる。
「地区長……許すまじっ」
恐るべき憎しみの声は、人気のない室内に響く。
そして彼女は、己が期待を込める存在を注視した。
「さあ、裁きの時……!」
「――そうだな。裁きの時だ」
「!?」
「見つけたぜメイド長……」
「お前が犯人だッ!!」
■口にキセルをくわえたカメ朗■
■キセルを用意したせいで少し遅れた名探偵!■




