まつりの気配ッ!!
「冬まつりねー」
「そうさ、ようやくだ!!」
「……」
居間のこたつ(近くの町で買ってきた)に向かい合って入っているカメ朗とブレイン。
ブレインの様子はわくわくで、カメ朗の様子はしぶしぶだ。
しぶしぶな理由は数日前の事件だ。
(あのあと、メイド長にもこってりしぼられた)
前回の事件は別にカメ朗が原因というわけでもないのだが、最後の行動が不味く、本当に動きが制限されているのか疑われてしまったのだ。
必死に己の無実を証明するカメ朗だったが、かぎりなくグレーに近い結果と言えた。
(まったく、紳士を疑うとはYO)
かなり納得のいかない判決ではあったが、彼の普段の行いのせいで疑いを晴らすのは難しく。
自業自得な結果に終わった。
「はぁああ、ちくしょうっ」
「はは、ずいぶんとローテンションだね!」
「そんなことないぜ、いつも通りだYO」
「そうかい? まあ、そんな気分もまつりで吹き飛ぶさ!!」
「ふーん、なんでそんなにテンション高いわけ?」
ブレインは目に見えてウキウキであり、そんな様子に疑問を感じるのは当然かもしれない。
親友の瞳はキラキラと輝き、冬まつりを楽しみにしているのが良く分かってしまう。
「まつり好き?」
「うん? まあ好きだな」
「……」
「はは」
微妙にあやしく思える笑み。
何かを隠しているのではないかと、カメ朗は勘繰る。
「おいおい! そんな目で見ないでくれよ」
「何を企んでいるのか、吐いて楽になってしまえよ」
「ふふ、企みなんて、ぷふ」
「(あやしすぎるな)」
にやけ顔が止まらないブレイン。
明日になればその理由も分かるのだろうか。
「ああ……待ち遠しいなっ」
「やはり何かを企んでいるじゃないか。まあお前のことだから、とてもくだらなく、脱力してしまうようなものだろうがYO」
「ひどい誤解だな!? オレのイメージどうなっているんだ!」
「当然のことながら、くだらないことにやたらと命を懸ける、阿呆だ」
「どこの当然!? びっくりだよ!?」
「びっくりするほどのことかYO? この変人丸出し男が!」
なんやかんやと言い争いを始めた二人。
その時、居間のドアが開かれた。
中に入ってきたのは、金髪のメイド・シエル。右手に紙袋。
「あれ~? カメ朗君にブレイン君ー。気持ちの悪い、女の敵二匹がなかよく談笑中かな~?」
「おっと、巨乳のシエルさん。相変わらず巨乳ですね」
「ほらそういうノリのせいだよ!」
入ってきた美女メイドに破顔するブレイン。
こいつの反応は女性目線で準犯罪者なのでは? と、カメ朗は自分を棚上げムーブを見せた。
「おおー、二人してコタツを占拠してずるい~。明け渡してよ駄犬たち~」
「おうふっ。相変わらずのきつい言葉! だがそれがいい!」
「だめだこいつ……もう手遅れだ」
シエルはさほど気にした様子もなく、カメ朗達の斜め前に入り込む。
今日はメイド業が休みなので、一日ぬくぬくできるのだ。
「で~? 冬まつりの話してたのかな~」
「ああ、ブレインが楽し気でな」
「ブレイン君が~?」
シエルは左斜め前のブレインに目を向けると、納得したような顔になった。
彼女もブレインの性格は知っているからだろう。
「あー、そうだよねー。キミとカメ朗君はそうだよねー」
「おれもってどういう意味」
「ふふふー、なんでもないよ~? 気にしないでゲス朗君~」
「なんて気になる笑みなんだ。これはすさまじくバカにされているような」
自分を見る目に疑念を抱かずにいられないのは、彼が無意識で己をそういう目で見つめているからなのか?
ちょっとしたミステリー。
「まあまあ~、ミカン持ってきたから食べて食べてー」
「露骨に買収しようとするとはな……もぐもぐ!」
「カメ朗君は分かりやすいね~。あほすぎて逆に好きかもぉー」
みかんを食すカメ朗。
彼はみかんの皮を剥いたら、半分以上を一気に口に投入する派。
逆にシエルはとても丁寧にじっくりと食べる派である。
「冬まつり……まあ、楽しみにしようじゃないかYO!」
カメ朗は背後の窓を見た。
少し暗くなってきた風景が、空からの雪によって彩られている。
おだやかなまつりになれば良しと、彼は思う。
●■▲
■12月30日■
■9:45■
「きらめいてやがるッ。芸術か!?」
■カメ朗は魔導の凄さを知る!■
「お気に召しましたかな? カメの方」
「ああ、とんでもないな。へへ」
執事風の男(祭りのスタッフ)に話しかけられ何故か自慢げなカメ朗の視界には、光を放つ氷の壁が広がっていた。
壁はその場にいる大勢の人々を囲んでいて、出入り口である巨大な雪の門と繋がっている。
なのに別に寒いわけでもなく、足元の雪を裸足で踏んでも平気だ。コートがなくても十分。
(魔導場って不思議だな!)
魔導によって作成された空間、魔導場。
常識を超越しまくった空間を形成できるので、その種類はめっちゃ多いとはブレイン談。
とはいえ質の高い空間は簡単に作成できるものではないので、ポンポンと量産はできないのだが。
(おれも何か作ってみようかな……)
■魔導場を作成できる職業は、専門の施設に行けば習得可能■
■もちろん人によっては習得できないものもあるが■
(就職者になるには、色々と面倒な試験とかをクリアしないといけないし、今まではスルーしていたんだが)
こうなってくると欲がでてくるもの。
カメ朗はその方向を検討していた。
「カメ朗! 早く来るんだ!」
「ああ、分かってるよ」
すこし遠くのテーブルが並んだ場所からブレインの声が聞こえた。
彼は既に食事を始め、唐揚げを口にくわえながら、両手には焼き鳥とフランクフルト。
既に【冬まつり】は始まっており、会場に集まった人たちは食事を楽しんでいる。
「空は快晴……」
頭上に輝く作り物の太陽を眺めたカメ朗は、そんなことを呟いた。
しかしあまりテンションが高くない。
それは隣にいるべき彼女がいないからか。
(ジゼル……どこに?)
なにやら用事がありそうな様子で、会場内にて姿を消したジゼル。
本当なら嫁と一緒に楽しみたかった彼は、そのせいでかなりガッカリテンション。
「まあー、とにかく楽しむか」
その内戻って来るだろうと思って、カメ朗はブレインの下へと足を進めた。
途中でこの冬まつりの主催者とすれ違ったが、そのまま進む。
「ははは、ヤスミノ地区の冬まつりは初めてだったね。カメ朗」
「まあな、思ったよりもいい感じじゃないか」
「芸術的だろう? この会場は何かのイベントの時によく使われるんだ」
「綺麗だもんな。おれも魔導場に興味が出て来た」
「そうそう綺麗だったなぁ。あのイベントの有名アイドル!」
いまいち話が通じていない友をスルーして、カメ朗は右手に持ったグラスを呷った。
炭酸のうま味が口内に広がる。
できれば最高級オイルが良かったが、贅沢はいえないなとカメ朗。
「……よ。よろしければ。こちらのケーキを如何ですか?」
「?」
背中から声をかけられたカメ朗が振り返る。
するとそこには見覚えのある顔が立っていた。
「リリ!?」
「……」
館で働くミニスカメイドのリリ。
右手にはケーキが載った皿があり、さらにその服装は見慣れないものになっていた。
(ミニスカサンタコスチュームッ。キタコレきた!)
顔を赤らめて目を伏せているリリはミニスカサンタに変身。
その細くて綺麗な足が露出していて、男性達の視線の的だ。彼女は羞恥でさらに顔を赤くする。
「う、うるさいわね。じろじろ見ないでよッ」
「しかしお前、なんでこんなところに? しかもスタッフとして働いている風じゃないか」
「風じゃなくて実際に働いているのよっ。不本意だけどね!」
リリの話を聞いたカメ朗はブレインを見る。
親友は微妙にいらっとくるどや顔を披露。
カメ朗は普通にいらっときた。
(もしかして、ブレインの様子の原因はこれか?)
周囲を見渡すと同じような格好をした美しい女性たちが、スタッフとしておもてなししている様だ。
しかし中でもリリの注目度は桁違いの様子。
それは彼女が上の上レベルの美少女であり……。
「おい、あの娘かわいいな!」
「しかし、なんで首輪……?」
当然首輪はそのままつけており、変態的プレイと誤解されそうな雰囲気のため。
「うう、なんて辱めを……ッ」
「まあまあ、似合ってるぜリリちゃん~」
「気色のわるい笑みはやめッ。このクソご主人がぁ! メイド長に言いつけるわよ!?」
にやにや顔でリリを見ているカメ朗。
恥ずかしそうにしているリリから貰ったケーキを食しながら、美少女メイドをじっくりと鑑賞中である。
ブレインも興味深そうにリリを眺めていた。
「ミニスカサンター! リリちゃんの愛らしさがさらにアップ! うおおお萌えーって最近聞かない気がする!」
「見るな変態コンビーッ。コンプライアンス違反よ!」
「ふーむ、やはり地区長は良い趣味をしている!」
「?」
ブレインが口にした地区長と言う言葉に、カメ朗は反応。
地区長といえばこの会場にもいる、ヤスミノ地区のトップのことだろう。
今回のイベントを主催している人物で、見たことはないが、メイド長がなんか愚痴っていたのを聞いていた。
「なにかその人が関係あるのかYO」
「あるともさ! なんせなんせ、リリちゃんがそんな格好をしているのも彼のお陰なんだよ!」
「!?」
「可愛いサンタさんにスタッフやらせよう企画! ってことさ!!」
「まじかよ。恩人じゃないか……! おれたちの恩人じゃないか……!」
「ふ、キミなら理解できると思っていた!」
この素晴らしい光景を生み出した男ということであれば、それはカメ朗にとって尊敬すべき、素晴らしい偉人・英傑。
己の遥か高みに位置していそうな存在に、彼は身震いを抑えられない。
「リスペクトすべき先輩ってことか」
「そうだね、なにか賄賂的なのを渡すべきかも……」
「なんなのよ、なんか寒気がッ」
■リリは己の未来を案じて身震いした■
「ではその偉大なるお方にあいさつを……」
「オレもいくよ、カメ朗。我らの輝かしい未来のためにも」
■カメ朗達は、会場の一角で談笑していた地区長に会いにいく■
「ほほほ、なになに挨拶だって?」
「ええ、このたびの素晴らしいイベントの礼をと」
「そして……これからも、どうかお願いしますよ。いやマジで」
揉み手をしながら地区長に接近する二人。
左右に僅かに残った頭髪を弄りながら、スーツ姿の男・この地区のトップはにこやかに笑った。
「君たちは……なかなかに見所がある若者たちのようだ! 地区を治める者として鼻が高い!」
「いえいえ、まだまだ貴方の高みには届きませんよ。ガハーラ地区長ッ」
■少し肥満体型・高身長のこの中年男こそが■
■地区長・ガハーラである!■
「ミニスカサンタ……いいよね」
「分かる」
「いいよね」
■いきなり意気投合する三人組■
「ふふふ、私はね……少年たちの夢をかなえたいと思っているんだ」
「なるほど、少年たちのために」
「あちゃあ、少年たちの為なら仕方ないな。仕方ない」
「決して己の邪な欲望のためでは、ないのだが……誤解されやすいのだ」
「まあ、よくある悲劇ですね」
「ああ、これはつらい。おつらい」
決して今会ったばかりとは思えない息の合った動きに、見ていたリリは戦慄を覚える。
これは最悪の邂逅ではないのか?
そんな思いが消えない。
(なんてことなの……エロガメ達が加わったことで、さらに暴走しそうッ)
「ところで君のところのリリたんは可愛いね。メイドとして雇いたいのだが」
「フフ、いくら貴方様でも彼女は渡せませんな。家の大事なメイドですので」
「そうか……残念」
(よくいうわね。ゲス朗ッ)
「でもあの小さい山は……良いよね」
「いやリリの魅力は腰かなぁ」
「リリちゃんは全部魅力的じゃないか」
(聞いてるのだけど……。もうやだこのゲス男ども)
背後にいるリリに気付いていないのか、彼等はトークに熱中。
その熱気は彼女を引かせるに十分。
「……それに他のメイドさんも美人ばかりでッ」
「ふふ、幸運でしたな。もう毎日、目が潤い過ぎて目薬いらずですぞ」
「本当にカメ朗が羨ましいな、美人の嫁さんもいるのに。欲張りすぎだ」
(……)
■リリは諦め、彼等から離れた■
「……さて、まだイベントは終わっていないが、楽しい時間だったよ」
「なにか用事が?」
「ふむ、まあ楽しみにしておきたまえよ……」
■意味ありげな笑みを残して、地区長は姿を消した■




