ファーストキス防衛戦ッ!!
「これだ!!」
「なんですかぁ!? 今度は何をッ!?」
「ちがうって!! これよこれッ!!」
何やら嬉しそうなカメ朗の声に、さらなる変態行為を受けることを恐れてしまうコレット。
だがカメ朗はそんなことをしようとしているわけではない。
「受け取れ!!」
「こ、これはっ!?」
カメ朗から渡されようとしているのは、炭酸系のジュース入りのペットボトル。
頬に感じる感触はたしかなキンキンさを彼女に伝えた。
「ひ、冷えている!?」
「おれの甲羅は、保冷機能つきなんでね」
「便利ですね!?」
「へへ」
やたらと得意げなカメ朗に少しいらっとしたが、コレットは構わずそれを受け取った。
あまりの渇きに我慢は出来ない。
幸い、受け取る程度の動きなら問題ないようだ。
「!!」
その時、彼の右手が視界に入った。
かなり破損しているその様は、無理してコタツの力に逆らったからだろう。
例えカメ朗といえども無事に済む筈はない。
「ふ、気にすんなよ」
「……」
むだに格好つけた言い方がなければ、もっと格好いいのにと思ったが、彼女は感謝する。
それほどに喉を潤したい欲求があったのだ。
慌てた様子でキャップを開けて、ジュースを勢いよく飲む。
「ごくごく!!」
「おい、落ち着いて飲めよ!」
「ぷはー!」
「おっさんみたいだな!」
見ていて清々しいほどの飲みっぷりに感心するカメ朗。
一気にジュースはなくなった。
そこまで美味しそうに飲まれると、用意した彼も嬉しいというものだ。
「……ありがとうございました」
「紳士として当然だYO」
「……はぁ。つねにこんな感じで、むだ口がなければ本当にかわいいんですけどね」
「かわいいかわいいって……そんなにおれはキュートなマスコットに見えるか?」
「ええはい。正直いいますと、見た目だけならすごい好みです」
本気なのか冗談なのか分からない言葉だが、コレットの両手はさりげなくカメ朗の頭をなでていた。どうやら口を開かなければふつうに好感度は高そうだ。
「……もう、こうなったら仕方ないですかね」
そうして彼女はある覚悟を決めた。
当然、10分以上の思考時間があったが。
「……いいですよ」
「なに?」
「ですから、右手の位置をニュートラルに戻しても構いませんッ」
「!?」
いきなり何を言い出すのかと思ったカメ朗は、左手を額に移動させようとするが、彼女の腰の位置に固定されている。
熱でもあるのではという疑いは、コレット自身の言葉に否定された。
「ありませんよ! 右手の動きが制限されているようなので、仕方なくです! これ以上壊れたらいけないでしょう」
「!!」
「仕方なくですからね!」
「ツンデレ!」
「違うですからッ」
「またまたー! ふっふふ、おれの魅力はジゼル以外にも伝わるのか……」
■カメ朗のうざい態度に、コレットは辟易■
「とにかく、今の貴方の損傷具合を見て冷静に判断したまでです」
「まじか……本当に本当に、良いんだな!?」
「やるなら早く!」
「おう! いますぐやるぜー!!」
めちゃくちゃ嬉しそうなカメ朗の右手が、コレットの右胸に重ねられる。
メイド服の上からでもその感触は伝わってくる程度の接触で、気恥ずかしさとむず痒さによってコレットの顔は赤くなった。
カメ朗の顔は。
「ふ……」
意外なクールな表情。
(うひょおおおおお、公式・公認!! おっぱいタッチ!!)
なんてことはなく気持ちの悪いにやけ顔であった。
この顔をコレットが見ていたら、きっと許可を出したことを後悔していただろう。
(しかし、しかし、これは余計にきつい!?)
自然な体勢になったことで、肉体に掛かる負荷は軽減された。
しかし、精神的に掛かる負荷は増大している。
ただ手が触れているだけで、その先にいくことを許可されていない状態。
もっと感触をしっかりと味わいたくなるのは、強烈な誘惑の結果の当然!
「ふんはー! ふんはー!」
「!?」
いきなりすごい力に引っ張られるコレット。
一瞬にして体勢が変わり、カメ朗に押し倒されているような感じに!
「す、すごい力だ」
「あ、あぁあっ」
向き合う二人。
その顔が少しずつ接近していく。
そのまま接近していけば、どうなるかは一目瞭然。
(え、私カメにファーストキスを――?)
大きくなってくるカメ朗の唇を呆然と眺めながら、コレットは半ば現実逃避していた。
叫び出す10秒前。
「ふほおおお!!」
「いやですうううう!? 絶対、イヤ!!」
「おれだってイヤだ!!(やったぜええええ!!)」
「嘘をつかないでください!? なにそのにやけ面!」
あと10cmもないほどの距離にまで接近した二人の顔。
コレットはファーストキスを奪われるかもしれない恐怖で、涙目である。
カメ朗は嬉しそうであるが、それはそれとして何とか抵抗はするが。
(踏ん張れ!! ここが最後の理性と欲望の戦いじゃーい!!)
■理性は死力を尽くした!■
「ま、まだ戦えるッ」
「ふん、死にぞこないめ……」
「くっ」
壁上で倒れた理性軍指揮官に、銃を突きつける欲望軍指揮官。
血まみれでも紳士として最後まで戦い抜くと、彼は心に固く誓ったのだ!
「絶対に……屈しないYO!!」
通信教育で覚えた空手・柔道・その他もろもろを駆使して、理性のカメ朗は最後の輝きを見せる。
その動きは妄想の通りのもので、黒帯すらぎりぎり行けそうかもしれない領域。
拳や蹴りがなんか結構鋭いっぽい感じである。
「勝つ、紳士は!!」
■欲望のカメ朗に突撃する!■
「唇、やわらかいだろうなぁ」
「!」
「今なら、ジゼルの発明品のせいにできるかも」
「ぐわああああ!?」
■触れることすら出来ずに吹き飛ばされた理性■
■欲望に勝つことは最初から無理!■
「ぬぐううううッ」
「か、カメ朗……?」
「ごめん」
「なにが!? あやまらないでください!! 諦めないで!!」
「いや、結構これきつくてさッ」
すさまじい圧力がカメ朗の背中に圧し掛かっている。
それを踏ん張っているカメ朗は、普通にすごいやつである。
しかし、顔は少しずつだが確実に接近していく。
「お、ふ……」
「わわわ……ッ」
「ぐ、おおお」
このままではファーストキスを奪われるが、コレットはタイミング悪く切り札の魔導を切らしていた。
というか、前の雪合戦大会の死闘のせいである。
彼女が使う運命操作魔導は一般に流通していない為、一度切れると補充が難しいのだ。
「ど、どどどどッ」
どうしようと慌てふためくコレット。
涙目でカメ朗の顔を見ていることしかできない状態は、彼女を軽いパニック状態にした。
このままでは、若干嬉しそうな変態ガメに唇を奪われると。
「ううう……」
「ようやく観念したかッ。じゃなくて、諦めちゃだめだYO!!」
「本音はそっちですか……ッ」
「誤解、、まちがっただけだYO!!」
「……」
白い目で見るコレットは、だんだんと諦めの気持ちが湧いてくる。
こうなってはもうどうすることも出来ないと。
「……」
「コレット、目をつぶって……ッ!?」
せめてカメ朗の気色の悪いにやけ顔を見ないようにしようと、彼女は目をつぶった。
それはもうキスの準備態勢といってもいい感じだ。
「ふ……そうか、覚悟を決めたか」
カメ朗はその気持ちに応える感じで、やたらと格好いい声のトーン。
真剣な顔で引力のままに顔を近づけていく。
(いやっほおおおおおおいッ!!)
(喜ぶな!! 最低だぞ!!)
(うるさい!! かっこうつけるな!!)
■心は葛藤の嵐!■
「どきどきッ」
「……ッ」
「わくわくッ」
■そして■
■――二人の唇が■
「カメ朗様!!」
「HA?」
■あと二センチというところで、ジゼルの声が聞こえた■
■光が射し込み、こたつの熱は失せ、カメ朗達を縛る圧力も消えた■
「あ!? なにをやっていますのッ!!」
コタツをのぞくジゼルの嫉妬の声。
今にもキスしそうな二人にぷんぷんである。
「いや、これはッ」
「ストップ」
「ごあ!?」
どさくさに紛れてキスしようとしたカメ朗の顔が掴まれる。
自由が戻ったコレットの右手で。
「なんでまだ顔を近づけようとしたのか、聞かせてもらえますか」
「えっと、それは……」
「有罪。時間が掛かり過ぎです」
「……ゆるせ、ペットボトルに免じて!」
「ゆるしません。断罪」
■判決は下された!■
「どわあああっ!?」
■銃撃音と共に、カメ朗は廊下へと弾き飛ばされる■
「く、くそっ。さっきのことが夢のよう……」
床に転がる彼は、コタツ内での思い出を高速反芻する。
しっかりと忘れないように脳へと刻みつけた。
「か、カメ朗様っ。大丈夫ですの!?」
「大丈夫ではありません。でした。貴方の発明品のせいで」
「!?」
コレットは全身から怒りの波動を放出しながら、ジゼルへ説教の構えを見せる。
はた迷惑な発明品の創造主は冷や汗を流す。
「まったくもう——今日は散々です!」
■二人の主に対する不満を口にするコレット■
■声色にはほんの少しだけ、なんだかんだで結構我慢したカメ朗への感謝があった……ような?■




