こたつでヌクヌクッ!?
■早朝の寒い廊下……■
■ひとりのカメがのそのそと歩いていた■
「うおー。寒い寒いっ。今日は一段と冷え込むなー」
カメ朗は二階の自室から出て、一階にある居間へと向かっていた。その体は小刻みに震えている。
まだ肌寒い冬の朝。
今日も今日とてヒモニートカメ朗は、ぐうたらな日常を過ごすべく行動開始。
「……ん?」
ふと廊下の途中で立ち止まる。
視界に入ったのは、リリの私室の出入り口扉。
歩みを止めた理由はその部屋から発せられた音だ。
「なんぞこの……不吉な音色はっ」
耳をすませば聞こえてくるおぞましい旋律。
それはまるで地獄から響いてくるかの如きものであり、脳内を悲壮感で埋め尽くしていく悲劇のレクイエム。
その正体を探るように、カメ朗イヤーが急速的にとぎすまされていく。
(こ、これはっ)
「――ぐへへへ、うはははぁ!! もうこれアカンわ、これぇ!! 時間時間時間がたりないいい!! 脳から脳から、情報が流れ出ちゃうのおおお。あひゃはははは」
聞こえてくる声はテスト前の猛勉強によって壊れた学生のような、そんな声。
狂った亡者のごとき笑いを響かせるリリに恐怖し、ドアの前から思わず後ずさりしてしまう。
「……き、聞かなかったことにしよう。そうしよう」
めずらしく空気を読んだカメ朗は、冷や汗を流しながらその場から離れた。
朝からヘビーなオーラに触れてしまったことで、テンションが急速低下を起こしている。
勉強に必死になったことのない彼にとって、受験生の発するタイプの特殊波動は劇薬になってしまうようだ。
「さーて、気を取り直して居間にゴー! はははっ」
■無理やりにテンションを上げ、目的地へと一直線■
■そして……■
「こたつって良いよな……!」
「それに関しては同意します、外道なご主人様」
■居間に設置されたこたつに入る二人■
■カメ朗とメイド・コレット■
「おいおい……お前の為にコタツを用意したのにな~」
「恩着せがましいですね……器の狭いご主人様です……!」
「ふ、なんとでもいうがいいさ。お前がおれの恩恵を受けていることには変わりない!」
「く、くやしい……! でも抜け出せない……!」
■コタツから顔だけ出した彼等は、ぬくぬくとその感覚を味わう!■
「今、何時だー?」
「自分で確認どうぞ。貴方には、時計機能があったでしょう?」
「おっと、忘れてたー。えーっと」
うっかりしていたカメ朗は、自身の視界にデジタル時計を表示させた。
現在時刻は、10:35。
まだ昼飯には早いかと、カメ朗は思うのだ。
「今日の昼飯なんだいー?」
「今日は私はオフ・メイド」
「ああ、休みかー。ああー」
「です」
基本的に一日に働くメイドの数は2~3人。
どうやら今日は、コレットの休日のようだ。
彼女はぬくぬくと一日コタツを楽しむ所存。
「ああ~、温まるんじゃ~」
「もうたまりません……! 至福……!」
「ああ~。ぬっくぬくやで~」
カメ朗とコレットによる自堕落空間形成中。
小難しいことを考えるのを放棄して、ただひたすらにダラけるのは人の性か。
なんのイベントも発生する様子なしである。
「そういえば素朴な疑問なのですが」
「なんぞい?」
「あの無駄にでかい甲羅、入る時にひっかからないのですか?」
「あーあれね。着脱式なんよ、着脱式ー」
「はずせるんですかアレ……」
気の抜けまくった声が部屋の中に木霊する。さらりとカメ朗の豆知識が増えたりはしたが、大半は他愛ない会話の連続であった。
カメ朗も特にやることはないので、存分に一日をぐうたら過ごす姿勢。
あまり外に出る気も起きない今日。
(もうすっかり外は雪……)
■中庭には雪だるまがいくつかあるのだった■
(ふふふ、もうすぐ冬まつりかYO)
現在は、12月26日。
12月30日には、大きなイベントがあるということで、カメ朗はひそかにわくわくしていた。すでに心はお祭り気分。
せっかちな彼らしいと言えるかもしれない。
(さて、どんな楽しいイベントだろうか)
期待は膨らみ、カメ朗の顔がにやける。
少し足をバタバタと動かしてしまい、反対側にいるコレットから苦情が出た。
「ちょっと痛いですよ。マナー悪いです」
「すまんな、コレットさんや。ははは」
「わ、足を絡めないでくださいッ。気色の悪いッ」
なにやらコタツの中で展開されている攻防。カメ朗とコレットのバトル()
どたばたと落ち着きのない雰囲気になったことで、穏やかな時間が終わりを告げそう。
「うおりゃあああ」
「なにをするんです、子供ですかっ」
「うはは! こたつの支配領域をかけた戦争だ! これは!」
「まじ小学生っ。こんなのが私のご主人様ですかっ、泣けてきますよ!」
こたつが激しく振動しながらの小競り合い。
無駄にヒートアップしていくそれは、両者の息切れと共に終わりを告げた。
「はぁはぁ。……とんでもなく熱いバトルだったな!」
「はぁはぁ。とんでもなく下らないバトルでした……!」
やりきった表情のカメ朗と、巻き込まれ系美少女苦労人メイド顔のコレット。
せっかくの休日だというのになぜこんなことをしているのかと、コレットはうんざり極まっている。
「ああもうっ。私はひたすらぐうたらしたいんですよ、よけいな真似をよしてください」
「そんなつれないこと言うなよ~。カメ朗さんはさびしいと死んじゃうんだぞ☆」
「果てしなくきもいですね。盛大にスクラップになってくださいますか?」
「ひどい!?」
うざい絡み方をするカメ朗に対し、コレットは塩対応で迎え撃つ。
今度は口による闘争が開始したような、そんなノリで第二ラウンドへゴー。
「まったく……これだからオーバーテクノロジー系はいやなんですよ」
「なぬっ。差別発言か!?」
「このヤスミノ地区では常識です。魔導こそ至高なり」
「く、なんという肩身の狭いことを言うメイドだっ。魔導をしのぐ最強ロボットはいるぞ!」
「うさんくさい存在ですよね、ご主人様は。一体いかなる狂人が生み出したのやら」
「……あー、おれを【改造】しやがった【あいつ】は確かに狂人だな。……隣の地区出身らしいが、【キュウカ地区】はあんなのが大勢いるのかよ」
「さあ? このヤスミノ地区と【対極】にあるカラクリ万歳な地域なんて、わざわざ行きたいとも思いませんし。他の地区の情報なんてさっぱりですよ」
ヤスミノ地区の左隣に存在する地域が話題に出たが、コレットはまるで興味を示さない。
彼女の知識と関心はある特定分野に偏っているようだ。
「そんなことより、今週のジャンパー(漫画雑誌)読みましたか? 読みましたよね? 感想を話しましょう」
「え、いやまだ読んでないけど。あとで読む予定」
「……はぁあ」
カメ朗の返答に呆れまぎれのため息を吐くコレット。彼女の中にあるオタク的な魂が、心底がっかりの念を表しているようだ。
美少女キャラとかにはともかく、漫画やアニメそのものにはそこまで興味なしのカメ朗は、コレットの期待に応えられる器ではなし。
「普通、ジャンパーは朝一で読むものでしょう。それでも最近の若者ですか? とんだ怠慢です」
「いやいや、お前さんには言われたくないよっ。なぜにそういうのだけは機敏なの!?」
オタク系怠惰人間にありがちなこと。
オタカルチャーに関することに対してだけ、異常なほどの行動力を発揮する!
「人生において、世界にある漫画・アニメ・ゲームを楽しみつくすことは最重要課題。オタロードを走り抜けるには、それ相応の【覚悟】というものが必要なんです……」
「覚悟とか君の口から出る言葉じゃないよね」
「私をなんだと思っているんですか? 失礼な」
「くそ怠惰女!」
オタクの誇りのようなものを輝かせるコレットに、カメ朗は感心のような呆れのような感情を覗かせた。
連盟の幹部というものの価値が急落中である。
「大魔導連盟って人手不足なんじゃ……」
「どういう意味でしょうか、こら」
「いやだってさぁ。よくそんなんで幹部勤まるよなーと」
「まあ私天才ですし。いわゆる生まれつきの高知能というやつです」
「はっ、うける」
「本当に失礼ですねっ。このカメ!」
失笑を返すカメ朗の足を蹴るコレットは、頬を膨らませて反論を行おうとしている。
彼女のちっぽけなプライドが無駄に傷ついたようだ。
「いいでしょう……私の天才エピソードをたっぷりと聞かせてあげましょう。覚悟はいいですね」
「ええ~。そんなことよりもっと楽しい話しようぜ~」
「だめです。このままでは私の誇りが許せません」
「お前にもそんなものがあったのか……。意外だよカメ朗さんは」
■雑談時間はゆるやかに過ぎていく……■
「――まずですね、学院では予習なしで常に成績上位です。えっへん」
「ほーう。やるやん」
「フ……ただ授業を聞いているだけで完璧。先輩も私に頼ってきます」
「へえリリが? あいつプライド高そうだけどなー」
「まあ、超天才の私を頼りたくなるのは仕方ありませんね。天才ですみません天才で」
「そんなに連呼すると説得力が死ぬぞ」
調子に乗りまくって語るコレット。
カメ朗は少しうんざりしながらも、リリの学生生活について知れるのは良いことだと思った。
従えるメイドたちとのコミュを行い、それなりの信頼関係を築くのは大事だと考えるからだ。
「それで、私も優しく勉強教えたりしてるわけです。後輩を超えた慈悲ですね。我ながら感動です」
「お前にそんなやさしさがあったとは、カメ朗さんも感動だよ!」
「そんな先輩が授業で四苦八苦してるのを、ちょっとした優越感にひたりながら鑑賞しています」
「最低だよお前!」
コレットの話で分かるリリの姿は、かなりの努力家であり苦労人だ。
なんだか彼女に親近感が湧いてくるカメ朗。
しかし、リリの苦労原因には彼の存在も間違いなくある。
「実技試験でも私は常に上位。努力なしでこの結果、やはり天才です」
「魔導学院の実技試験ねー。……リリに聞いたけど、おまえって使える魔導少ないんだろ?」
「ええそうですね。ですが、評価は使える魔導の【質】でも決まる。私には唯一無二の【運命操作】がありますから」
「すごいどや顔声っ。まあ、たしかにあれは厄介だったなぁ」
「ふふふ」
カメ朗たちを追いつめたコレットの運命魔導。
それはどうやら、魔導学院の試験においても高評価を受けるような代物だったようだ。
コレットの顔は調子に乗りまくっていた。
「ですが先輩は実技の方も……。まあ、才能というのは残酷ですね」
「……あれはやっぱダメなのか」
「自分も傷つく魔導なんて評価されませんよ。だから先輩はへっぽこなんです、超へっぽこ」
「お前いつかリリに天罰落とされるぞ……」
■異変が起きたのは、その時だった!■
「おわあああ!?」
「なんです!?」
■コタツの中に吸い込まれる二人の体!■
「な、なんだこれっ、体が勝手にッ」
「く、なにか強力な引力みたいなのがっ。離れてくださいッ」
「いや、こっちの台詞だYO!」
■こたつの中で密着してしまうカメ朗とコレット■
「おのれ、舐めるなYO!」
無理矢理出ようと足掻くカメ朗だが、まるで無意味。
下手に体を動かそうとすればするほど、コレットと複雑に絡み合ってしまう。
「やっ、どこ触っているんですかッ」
「おっと、しまった。くそなんという失態をっ。すまんなー! 本当にすまんなー!」
「嬉しそうですねっ!?」
カメ朗の右手に柔らかい感触が広がった。
普通の大きさのそれは彼の頭を刺激し、揉んでしまおうかという誘惑に負けそうになる。
(よすんだ! 紳士としてそれはいかんよ!)
(なにを言っている! 不可抗力だろう!)
(そうだそうだ、きっとみんな許してくれる!)
(そうか? 間違っているのは俺なのか?)
(そうだ目を覚ませ!)
(本当の自分と向き合うんだYO!)
(――ありがとう、おれ達)
■十秒の葛藤が終わり■
「……」
「あの、なんで背中ではぁはぁ言っているのか、聞いても良いでしょうか?」
「……」
「信じていますよ、何か言ってくださいッ」
「……すまん」
「ひぃ!?」
必死に暴れてこたつから出ようとするコレット。
だが、やはり背後ではぁはぁうるさいカメ朗から逃れることは出来ない。
「ふふ、なんてな」
「えっ」
「落ち着けよ、おれがそんなことするわけないだろう?」
いきなり冷静な声で対応するカメ朗に、コレットは困惑。
わずかな希望を見つけたように、彼女はほっと
「でもお前……結構、かなり、いい匂いするな……フフ」
「……」
「ふふふ」
「だれかあああああああああッ!! 助けて下さいぃいいいいいいッ!!」




