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潜む者ッ!!

「――【絶対零度】」


「……!」


 次々に積雪がはじけ飛び、悲鳴や怒号が飛び交う戦場。

 飛んでくる白き弾丸によって次々に参加者は削られ、強者のみが力をふるう状態。

 軟弱な者は背を向けた瞬間に狙撃され、消滅する。

 一切の弱み許されぬ淘汰の究極・地獄の果て。


「いや、おかしいだろーッ!!」


 その中心で叫ぶカメ朗は、雪合戦のイメージを一気に崩された。

 周囲の人たちが目を血走らせて敵を粉砕しようと、次々に雪玉を投げていく光景。狂気しかない。

 それに対抗する為の策は異常という他なし。


「【かまくら・ウォール】!!」


「ちぃ!!」


 周囲の雪を魔導で操作し、かまくらによる盾を生み出す参加者。

 その迅速な対応は、雪合戦のプロと言われても信じられるほどだ。

 とにかく苛烈で、凶暴で、どう考えてもおかしい熱量!


(あれー、異世界の雪合戦ってこんなんだっけ? おっかしいなー)


 カメ朗は転生してからの雪合戦の記憶を探る。

 特に変わったものはない。

 やっぱり現在の状況がおかしいのだ!


「――ナゴミノ地区において、雪合戦の歴史は深い」


「!」


「初代地区長が、闘争によって次の地区長を決めようとしたのが始まり……」


■血まみれのブレイン(コートはぼろぼろ)が、カメ朗の前に姿を現した■


「ブレイン!」


「……その時おこなわれたのが、雪合戦……ッ」


「ぶ、ブレインッ」


「それ以来、雪合戦は何かを決める際の闘争の一つとして……ぐふっ」


■ブレインは片膝を突き、あと少しで生命力がなくなりそうだ■


「か、カメ朗。もう俺は……っ」


「なに勝手に退場しようとしているっ。責任とれよ! こんないかれたイベントに連れてきやがって!」


「ふ、容赦ないな友よ……」


「ひゃっはああああああああ!! くだばれえええええええ!!」


「!!」


「!?」


■カメ朗達を襲う雪玉のマシンガン!!■


「カメ朗っ、あぶないッ」


■自分を盾にしてそれを防ぐブレイン!■


「ブレインっ」


「ぐはッ」


 背中から倒れたブレインはすでに戦える状態ではない。

 今にも消滅しそうな彼は、最後の言葉をカメ朗に残す。


「俺のベッドの下にある……あ、間に合わないなこれ――」


■煙を発しながら、ブレインの肉体は消滅した!■

■残ったのは、傷ついた灰色のコートのみ……■


「……」


「かたき討ちでもしたくなったか? ひゃはははは!!」


「いや……」


「だったら、てめぇもさっさと退場しなぁっ!!」


 悪人面の男が右手に持った雪玉を勢いよく投擲!

 カメ朗は一歩も動かない!


「なに!?」


 動かないまま、半透明の青白いバリア盾でそれを防いだ!

 悪人面の男は慌てて魔導を発動!

 今度は全方向からカメ朗を襲う雪玉!


「魔導による直接攻撃・防御は禁止……だぞ!? ルール違反だ!」


「これは魔導じゃない、バリアだ。バカ野郎め」


「ば、バリアっ!?」


「バリアは全方向に張れるものだぞ?」


 襲いくる雪玉。

それすらも、動かず、全方向に広げたバリアで防いだ。

 左の掌から展開したバリアを保ったまま、足元の雪を右手で掴んだ。


「くらいやがれーッ!! ブレインに対する恨みー!!」


 動力全開で投擲すると同時に、解除されるバリア。

 雪の弾丸は、悪人面の胴体にヒットして吹き飛ばした!


「ぐああああッ!? ブレインってだれだよー!??」


 倒した敵には目を向けず、カメ朗は機能の一つを使用する。

 好感度測定自動センサーと呼ばれる、超高性能センサーだ!

 

(ジゼル……ジゼル……)


■人物の声・匂い・脳波などから■

■カメ朗の好みの女性かを判別し■

■その位置を知らせてくれる機能だ!■

■ストーカーじみた能力であるため、カメ朗との相性は(女性にとって)最悪だ!■


(見つけたっ、後ろに100メートルほどの距離ッ!! ジゼルの香り!! だ!!)


■空を飛び、全速力で向かうカメ朗!■


「――行きましたか」


 彼が去った後、誰もいないはずのその場所に声が響いた。

 積雪の中からのそれは、真面目そうな凛々しい声。

 一切の隙もなく、カメ朗を狙う狩人の眼光を秘めた女性のもの。


「どうやら、私が潜んでいたことに気付かなかったようですね」

 

■彼女は立ち上がり、カメ朗が飛んでいった方を見る!■


「大魔導連盟の本当の恐ろしさ……味わってもらいましょう」


■めちゃくちゃ震えている銀髪の美少女が、がんばって任務を遂行しようとする■

■彼女は、面倒くさがって準備を怠ったことを少し後悔した■


●■▲


「ひひひ! こりゃあ、可愛いお嬢ちゃんじゃないか!」


「迷子かよ!! おいー!! たべちゃうぞオラー!!」


「ひゃははは!!」



「あ、あわわわっ。近づかないでくださいましッッ。わたくしは孤高の貴族にして、庶民とは隔絶した存在! 無礼千万!! ですわ!!」


 ガラの悪い男達に囲まれているジゼル。

 カメ朗と逸れた彼女は、周囲の状況に怯えながら逃げまどっていた。

 だが、とうとう囲まれてしまい、今にも雪玉を発射されてしまいそうな状況。

 ガタガタとふるえながらも、虚勢だけはなんとか保っていた。


「へっへへ、覚悟もないのに戦場に立つとはよ……。女だからって容赦はしねぇ!!」


「ここは遊びの場じゃないんだよ!」


「弱者は蹂躙される、悲しき決闘の場なのさ……」



(ゆ、雪合戦がこんなにも恐ろしいものだなんてっ、甘く見ていましたわッ)


 あわわと震えるジゼルは小動物。

 囲む男達は凶暴な肉食獣。

 これから行われるのは、世にも恐ろしい自然淘汰!!


「うう……カメ朗様ぁ。たすけ……」


■弱気な呟き……■


(だ、だめですわッ。弱気になってはッ……。こんな愚民相手に……!!)


 ジゼルはぐっと恐怖心をこらえ、きりりっとした目つきで獣たちをにらむ。

 その金色の瞳には、気品あふれる光があるようなないような!

 彼女は心を奮い立たせ、獰猛な獣たちに立ちむかう!


「――このわたくし! 誇り高きラインバッシュ家……当主! ジゼル・ラインバッシュが相手になりますわ!! かかってきなさい!!」


「いい度胸だぁ!!」


「首から下を雪にうめてやるぜぇ!!」


「ひゃあああああっ!? ごめんなさい!!」


 ジゼルの覚悟は一瞬で壊れ、体をガタガタと振るわせて硬直してしまう。

 しかし参加者達は容赦なく、その手に持った白き弾丸を放とうと身構える!

 ジゼルピンチ!


「うおおらあああ!!」


「【雪解けの足枷】!」


「!?」


 男たちのよく分からない動きによって、ジゼルの両膝までが雪に埋もれてしまった。

 これが雪合戦を駆け抜けてきた者たちの実力かと、あっさりと無力化された彼女は恐怖。さらに震えてしまう。

 覚悟のないものが来るべき戦場ではなかった。そう思わずにはいられない。


「さぁ~て可愛いお嬢ちゃんを【料理】してやるとするかぁ~」


「い、いやっ。なにをする気ですの!? けだもの! HENTAI!」


「ぐへへへへ。そりゃあ決まっているだろう!」


 男たちは両手をわきわきさせまくりながら、両足の動きが封じられてしまったジゼルへとジリジリ接近を行う。

 雪合戦で負けた者に人権はない。男たちの眼光がそう主張していた。


「きゃあ! さわらないでっ。身の程をわきまえなさい!」


「暴れるんじゃねぇよ! これからお前は【粛清】されるのさ!」


「な、なんですのそれはーっ!? きゃあああ!?」


 屈強な男がジゼルを羽交い絞めにし、周囲にいる男たちは積雪を集め始めた。

 その不可解な行動に彼女は恐怖を抱く。

 これから恐るべきことが行われようとしていると、そう直感した。


「なんですのって聞かれちゃあ! 答えてやるとしようかね!」


「へへへ! お前は――――雪だるまになるのさ!!」


「は!??」


■雪合戦の敗者にとっての墓標■

■それが雪だるまなのだ■


「はーっ!?」


■ジゼルが周囲をよく見ると、首から下が雪だるまになった人たちの姿が■

■彼らは全員敗退者である■


「いやああぁ!! お腹冷えちゃうううう!! やめてぇええ!!」


「ひははは!! いまさら泣いたって遅いんだよお!!」


「きゃあああああっ!?」


■ジゼルの悲鳴!■

■それは……■


「【爆撃乱舞】!!」


「ぐああああああ!? 奇襲!?」


「ばかな、空からッ!?」


■上から落ちて来た白き爆弾によって、かき消された!■

■雪玉の雨が、ジゼル以外の参加者に降り注ぐ!■


「ジゼルー!! 無事かー!!」


「カメ朗さま!! 」


 空からジゼルの隣へと着地するカメ朗。彼はジゼルを拘束する足枷を破壊し、無事を確認したことでホッと一息。

 その場で二人は抱き合い、ラブラブオーラを存分に発揮した。

 周囲の賊達は、どうやらさきほどの攻撃で全滅したようだ。かなりの強者たちであったが、カメ朗はその域すら超えた規格外である。


「怖かったですわ……ぐすぐす」


「すまんかったな。おれも雪合戦を甘く見ていたっ。ていうかコレは雪合戦ちゃうわ」


「……まさか、こんなにも恐ろしい催しだとはっ。ううぅ」


■二人はうなずき合い、雪合戦に恐怖する!■


「絶対におれから離れるな、ジゼル。この場所はすでに戦場だ!」


「分かりました。抱き着いていますっ。ふふふ」


「いや、それはそれで困るような……。うぬッ! 感触が……!! やばいって……!!」


 ジゼルは遠慮なくカメ朗に抱き着き、その豊満な胸をストレートに密着させてくる。並みの男性なら気絶しかねない刺激だ。

 感じる弾力を存分に味わいながら、めっちゃ警戒を解いていく。

 自分を追い詰める程の強者がいるとは思えないので、わりと油断しているようだ。

 

(優勝賞品か……。まあ、確実にゲットはできるな……この狂気に負けなければ!)


 こうなっては棄権することも考えたが、商品の影がちらついてしまう。

 ブレインが楽しそうに語っていた、めっちゃすごいからくり。

 自身は興味がないが……。


(ジゼルのために……まあそうだ、やるだけやってみるかッ)


■カメ朗の瞳が、強く輝きを放つ!■


「……ジゼル、おれは最後まで戦うが、お前は……」


「……戦いますわっ。棄権だけはしたくありませんっ。わたくしにもプライドというものがあります!」


「――分かった、本当に絶対に離れるなよっ!」

 

■決意を固めた二人の雪合戦は、ここから始まる!■


「ッッ!?」


■はずだったのに■

■炸裂音と共に、カメ朗の頭(の左)が打ち砕かれた!■


「カメ朗さまッ!?」 


 何が起きたか分からないジゼルの目には、砕け散る超合金が映る。

 今まで、大して損傷することのなかったカメ朗のボディが砕かれるという異常な事態に、彼女の頭は混乱する。


(頭部損傷――15%、戦闘続行問題なし――だ)


■冷静にダメージ分析が行われ■

■その間にも、二射目が飛んできた!■


(バリア――左方展開――最大出力!!)


■展開されたバリアによって■

■二射目は防がれた!■


「雪ィッ!? こんなんで、おれの頭をくだいたのか!?」


 バリアに当たって砕け散った弾は白く、雪玉であることがはっきりした。

 しかし疑問は強くなる。


「ただの雪玉でおれの防御をッ!? 魔導の一種か!?」


 自慢ではないが、小型ミサイルが直撃してもここまで破壊されない自信があった。

 それほどに圧倒的な超合金ボディ。

 なのにたかが雪玉で破壊されてしまうとは……どう考えても不自然な事態。

 おかしい! おかしい! なにかがおかしい!!


「何者だッ!? まさか……!!」


●■▲


「――命中。大したことありませんね、カメ朗。ただ見た目がキュートなだけのマスコット枠でしたか」


■500メートル以上離れた地点に立つ、銀髪の美少女■

■服のスリットから見える美脚が、寒さで震えている■

■その手には、異常な大きさの銃があった!■


「攻撃だとか、防御だとか、そういう次元ではないのですよ。私の狙撃は………………それはそうと、さむいっ。うかつでした……!! 防寒着をちゃんと準備しておけばっ」

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