異世界道路ッ!!
「半端ないカラクリってなんだよ? 説明不足すぎだろ!」
「そうらしいんだから、仕方ないだろう。ははは。細かいことはいいじゃない!」
「細かいか……?」
壁に張られたチラシを見る、カメ朗とブレインのアホコンビ。
カメ朗は、説明された言葉をたしかめるように書かれた文章を読むが、たしかにそんな旨であった。
ふざけてやがると心でつぶやく。そもそもこの異世界自体が、全体的にコミカルであるので、当然なのかとも思う。
「むーん、だれがこんなチラシを。雪合戦に興味ありそうなやついたか?」
「君の嫁じゃないか? そういうの好きそうじゃない!」
「ジゼルが? なんでわかるんだよ、お前ー」
「いや、だって」
■ブレインが見回した居間■
■その壁には大量のポスター(ロボット関係)が!■
「これ、嫁さんのだろう? めちゃくちゃ分かりやすいじゃないか。ロボットオタクってやつ?」
「そうだが……なー?」
「それに、中庭に置いてあった修復中の銅像……島民的人気ロボットアニメのだろう!」
「……」
■カメ朗は、ジゼルの言っていたことを回想する■
【わたくしがオタクなことは隠してください~、カメ朗様~】
(隠れロボットオタクな嫁。……しかもぼっち属性。友達いなさそうだ……)
カメ朗がしみじみとため息を吐く。
嫁の交友関係を考える。そうすると、このままで良いのだろうかと後方保護者面してしまう。
なにかおれにできることはないか。
そんなことを悩みながら、ブレインの言葉に返答した。
「あ、ああ……実は、おれのなんだッ。そのグッズとか!」
「!」
「お、おれ。本当はロボットアニメとか好きでさー。言ったことなかったけどー」
苦しい言いわけ。言葉はぎこちなく紡がれていく。
ブレインの反応は如何に!?
「本当かい! 俺もそうなんだっ」
「なぬー!?」
「カメ朗もそうなんて、嬉しいなぁ。同士発見だ! わーい!」
「え、ええっとなぁ」
思わぬ展開にアタフタしてしまう。まさかまさか友が嫁と同類とはとは。
どうするべきかと思考を加速させるが、混乱からは抜け出せず。
やたらとうれしそうな友の反応に罪悪感も出る。状況悪化中!!
「どんなロボットアニメが好きなんだっ。やっぱり伝説のアレか!?」
「あ、ああっ。伝説のそれさ!」
「第16話は感動したよねっ。まさかあの時のネギが伏線だったなんてッ」
「あー、あれね(どんな伏線だよッ!?)」
なんとかイメージで会話するが、さすがにきつい。
オタトークについていけるほどの知識量はないのだ(普通に見たことはある)。
なんでこんなことになってしまったのかと、内心で嘆く。
「さて、ではもっと濃いトークをしようじゃないかっ。オレたちのオタ話はこれからだ!」
「(アカンッ)あー、そういやブレイン君! そのカラクリには興味があるのかいっ。雪合戦の景品の!」
「え、なんだい? いきなり?」
「いいからっ、応えるんだYO!」
必死すぎる話題変え!
不自然にもほどがあると自分でも思う!
「そりゃあね、ロボット好きとしては見てみたいもんだよ。なんかワクワクするよね。めっちゃアバウトな情報だけど!」
「だよなー! 見たいよなー! なー!」
「なんだ! カメ朗も、気になっていたんじゃないか!」
「(やばいっ、この流れはっ)」
■時、すでにおっそい■
■さらなる問題が発生する■
「よし! 共に参加しようじゃないか友よ! ナゴミノ地区の雪合戦に!」
■この後の展開が決まってしまった!■
●■▲
「~~♪」
「ごきげん運転じゃないか……ブレイン君。鼻歌なんて歌ってさ」
「ははは、君が一緒に参加するって言うからね! こういうイベントで友と頑張る……わくわくするよ!」
「本当ですわ! カメ朗様がそこまで興味を見せるなんてっ。ま、まさかわたくしのために……なんてっ」
「……」
土煙を上げながら殺風景な土地を突き進む、赤い物体があった。
オープンカー的な見た目の、車体全体に光を放つ線が刻まれた車。
魔導具の一つ・魔導車である!
この異世界において、ポピュラーな移動手段のひとつだ。
「どうだい? 俺の魔導車、【スパーク300】の乗り心地は! 最高時速は歴代の車種の中でもトップクラス! その安定性は【地底竜の巣】でも走行に支障がない! とのウワサだ!!」
「ただのウワサかよ! だがしかし……おー、なかなかー。風当たり最高じゃんか」
「ええ。なかなかのモノですわね。カメ朗様とわたくしが乗るには及第点……。ほめてさしあげましょう」
後部座席に隣り合って座るカメ朗とジゼルは、魔導車によって流れていく光景を楽しんでいた。
しかしカメ朗の場合、イマイチそれだけに集中するということが難しい状況である。
その理由は腕に感じるやわらかさ。とてもむちむちしている。
(これは……たまりませんなっ。なんど味わっても最高だぜ!!)
それが何かというと、男子の夢が詰まった何かなのかもしれないという他になく。
原初の神秘がカメ朗の心を溶かしていく。
そうそれは神聖なる弾力を秘めた至宝に違いなく。
(うひょひょい! うひょひょい! OP!! OP!!)
腕に押し付けられるは嫁の巨乳。大きく弾力のあるそれは、カメ朗の顔を気色悪いほどに崩してしまう。
こんなにも可愛い嫁がいるということで歓喜に震え、無意識に彼はジゼルを抱き寄せていた。
「カメ朗様……!!」
「ジゼル……。最高にCOOLだぜ、お前のOP」
見つめ合う二人はバカップルと言って差し支えなく、運転席のブレインは空気を読んで言葉を発さない。
夫婦になってから何度もイチャイチャを重ねてはいるが、まるで尽きない愛情の渦が発生している。
「寒くないかジゼル? 思った以上に冷え込んでいるだろ」
「フフ、コートを着ていますから……それにカメ朗様が温めてくれればっ。ぎゅっとしてくださいっ」
「ふ、ならもっとhugしてやるぜ!」
「きゃあ! カメ朗様大胆!」
(バカップルを乗せて)疾走する魔導車はかなりの速度で目的地へと向かう。
だというのに、振動などが乗っているカメ朗達に伝わってこないのは、そういう機能を持っているからだろう。
元いた世界では、こういう車に乗って思いのままに疾走するのを少し夢見ていた。そんなカメ朗であった。
「さーて、もうすぐ町に着くぞ! 心の準備はいいかな! 雪合戦はもうすぐだ!」
「雨が降りそうですわね。もしそうなったら、じめじめとして陰気で……最高! です!! 家の中でしたら余計によかったのに!」
「んー? 雨ー?」
ジゼルの言う通り、頭上の雲が暗く染まっていき、町に着くころには降ってきそうである。
それを確認した運転中のブレインは、まあ問題ないと言う。
「町にさえ着けば関係はないさ! はは! 突入だー!!」
「ですわね。わたくしはともかく、カメ朗様が濡れるのはさけたいところです」
「まー完全防水だが、じめっとしてんのはいやだな!」
■ナゴミノ地区の町■
■ユッタリシティへ到着!■
「さて、スイッチをONに……」
■小雨が降りだした中■
■ブレインは、ハンドルのボタンを押した!■
「おおー!? なんだこりゃああー!?? 異世界転移ー!??」
カメ朗の驚き声は目の前の光景によるもの。
さっきまでの町並みが一瞬で消えた。
進む先にある世界は、宇宙の煌めきの中のような場所!
それはまさに異世界であった!
「【異世界道路】!! さ!!」
「いつ見ても綺麗ですわね。ほめてさしあげますわ」
「だれを? ……それはそうと、めっちゃテンション上がるわー!」
■上下左右に展開した半透明な道の上を■
■魔導車は疾走する!■
「今日は車が多いな。参加者か?」
「いえ、プラモデルの特売があったはずですっ。べつに興味ありません……けどぉ……!!」
「(行きたそうな顔してるなっ、おいっ。めっちゃ泣きそうっ)」
■一行は、イベントの集合場所へと向かう!■
「受付はこちらです! お忘れなく!!」
「参加申し込みお願いします! うおっしゃー! やるぞー!!」
「今年こそはオレが天下をとる!!」
■ユッタリシティの北の広場■
■【ユッタリ北広場】!!■
「くくく、ついにこの時が来たかッ」
「へへへ、腕が鳴るぜェぇえええ!」
凶暴な笑みを浮かべた屈強な男達が集っている。
顔に傷があったり、ナイフをちらつかせたり、血痕が服に付着していたり……どう見ても、一般人ではない雰囲気をまとっている。
「おう! てめぇ、今肩がぶつかっただろ!!」
「ああん!? おれの魔剣の錆になりたいようだなァ!?」
ぴりぴりとした雰囲気は一般人を寄せ付けず、関わらないようにしようという気にさせる。
一体何が行われるのかと、疑問に思う人だっているだろう。
「ナゴミノ地区・天下分け目の雪合戦ッ!! まもなく開始しますッ!!」
■開始宣言は周囲にひびく■
■広場を見下ろせる、大きな駐車場にも■
■一体のロボがそこに現れようとしている■
「――着いたぜ。決戦の地」
■駐車場の中央部に設置された大きなアーチ■
■アーチ内側の空間が歪み、魔導車が突如現れた!■
「異世界道路、脱出~。どうだいカメ朗? たのしかったかな?」
「いいもんじゃないの、また味わいたいぜ! これぞ異世界!」
「ははは、カメ朗の住んでいた村では、魔導車が珍しいんだったな……。そりゃあそんなに興奮するわけだね。納得」
意気揚々と異世界ドライブを楽しんだカメ朗(ジゼルの胸の感触も楽しんだ)は、フェンスに囲まれた駐車場を見回す。
駐車してある車は多く、ほとんどがイベント参加者のものだろうと思われた。
彼の中で闘志が渦巻く。
「ふ、腕が鳴っちゃうんだぜっ。どれほどの強者がいるのやらだ! ゴゴゴゴ……!!」
「ふふふ、見たところ凡愚の集まり……カメ朗様の威光の足元にも及ばない有象無象ばかりですわ! 楽勝ですわね!」
「おいおいジゼル。いくらおれが最強無敵で敵なしだからって、万が一ってこともあるんやで。むふふ。でも、ほめられてうれしいのであった」
「いえいえ! カメ朗様のボディに傷一つすら付けること叶いませんとも! 素敵ですカメ朗様! 結婚してくださいー!」
「HAHAHA! もう結婚しているだろう! 来いジゼル!!」
「はい! カメ朗様!!」
おだてられながらジゼルの頭をなでるカメ朗は、自身が大会で敗北することなどまるで考えていない。お調子MAXである。どこから見ても慢心している。
やれやれと思いながらその様子を伺うブレインは、華麗にハンドルを操作した。
■駐車場の一角に魔導車を停め、カメ朗達は広場に向かう!■
「おっと、その前に……」
●■▲
「ふふふ、なかなか強そうなのがいるじゃないかYO。まあ、おれの敵じゃあないがな! ははは!」
強者のオーラを発しながら、カメ朗は広場に集まっている者達を見回す。
強面の兄さんが多いように感じた。むきむきのマッチョも多いように感じる。
いや、実際に多いのだが。
なんかおかしくない? と、彼は疑問に思う。
「これから殺し合いでも始まるのか???」
「はは、カメ朗……覚悟はいいのかい?」
「え?」
隣にいるブレインの様子もおかしい。
その目はシリアス成分100パーセントで、とても雪合戦をする者の態度ではなし。
「へへ、坊主。遊びにきたのかよ? なんだァ!? その彼女連れ感はよおお!?」
「はぁ? いや、ただの雪合戦だろ」
「ふぅ……やれやれ。素人発言丸出しだな! あきれるぜ!」
「……」
知らない禿げおっさんに忠告されたあげく、なんか呆れられてしまったカメ朗。
意味がわからないままに、白いコートを着たジゼルへと視線を送る。
見ると、その彼女ですらとてつもない強張った顔だ。
「き、緊張しますわねっ。カメ朗様は絶対負けないとはいえ……!」
「ジゼル、なんかおかしいと思わない?」
「? 雪合戦とは、こんな感じなのでは?」
「知らないんかいっ、お嬢様めっ」
ジゼルはそもそも雪合戦を知らないようなので、異常な雰囲気に気付かない。
これではカメ朗の想いを分かる人がいない。
「それにしても、カメ朗のコートはどうなっているんだい。甲羅つきぬけてない?」
「背中に穴が空いているだけだ……。カメカメ族専用シャツだぜ、ほれんなよ?」
「へー。あっそう」
■カメ朗の疑問は深まるが■
■ついにイベントの開始時間になった!■
「それでは参加者のみなさま! イベント会場にご案内します!!」
「うおおおおおおおッ!!」
「ひゃはああああああッ!!」
「血を見せろオオオオオ!!」
「狩りの時間んんんんんん!! かりかりィー!!」
●■▲
■会場は■
■町の北、特に何もない平野!■
「……雪が、すごい積もっているっ。不自然なほどにっ」
「それは、【雪の精霊】のおかげさ!」
「知らんが、なんだそれは?」
足がすっぽりとはまるぐらいに雪が積もっていることに、おどろくカメ朗。
なぜかその場所だけ、異常な量の雪が降り続けていた。
「モンスターさ。とても可愛らしいって評判のね!!」
「ほう、マスコット的な? それとも萌え美少女的な?」
「実は俺も見たことはないんだが、まるで遊園地のマスコットのような可愛らしさらしい! 一目見たいね!」
「あーそっち系かー。興味なくなった」
雪の精霊、そのモンスターのおかげでイベントが開催できるようだ。
それはそれとして、なんでそんなモンスターが力を貸してくれるのかは少し気になるカメ朗。
飼いならしているのだろうか?という答えが浮かぶ。
(モンスターを操る隠し職業もあるっていうしな……)
■そんな彼の疑問は■
「それでは、ナゴミノ地区・地区長、マッシュ・ライト様より開会の言葉を――」
「――諸君、欲望を解放せよッ!!」
■開会の言葉の直後に吹き飛んだ!■
「いやっはああああああああッッ!!」
「HAAAAAAAAAッ!!」
「どわああああああッ!?」
カメ朗の周囲で次々と起きる爆発音!!
飛び交う怒号!!
唸りを上げる白い波!!
(なにこれ――?)
■戦争の幕開けである!!■




