助けたお嬢様は巨乳だったッ!!
■思えば、彼の人生には甘い一時がなかった■
「結婚してください!!」
「ごめんなさい」
■プロポーズすること何百か■
■その全てにおいて玉砕■
■ギネス記録に載る勢いであった■
「方法が悪いのかー!?」
■たしかに彼の方法はアレだったが■
■ぶっちゃけ、それ以前に、容姿のレベルがマイナス方面に振り切れているのが致命的■
■どう足掻いても詰んでいた■
「うう……もう、あかんでッ、死ぬわこれッ」
■そして遂に寿命が来た■
■五十年以上の人生において、一度も女性とアレコレすることなく■
■彼の命は、家の布団の中で尽きようとしている■
「だが」
■希望は右手に■
■小学生のころ、下駄箱に入っていた差出人不明のラブレター■
(一握りの希望――)
■それを握りしめながら■
■孤独な男の人生は幕を閉じた■
■たんなるイタズラのラブレターであることを、知ることもないまま■
(――次は、イケメンに――生まれたい)
■そして、彼の魂は……■
「おんぎゃあ、おんぎゃあッ!!」
■ファンタジー異世界にある、近代的な島・ホンワカ島(戦争とは一切無縁の歴史ある島なのだ!)■
■モンスターが生息し、魔導やステータスを持った超人……【就職者】が多数いる場所!■
■その島の南、スローラ村にて!■
「おんぎゃあああああ」
■転生を果たした!!■
「遊ぼうぜー」
「おうよー」
■友人たちと過ごしながら、すこやかに育っていく彼■
■転生前と比べて、かなり青春を謳歌している感があった■
■わりと根暗だった学生生活の後悔的なのもあるので■
「……」
■しかし、後天的にはどうにもならない■
■そんな要素は変わらない■
「――カメかよ」
■人間ですらなくなった容姿■
■絶望が巻き起こった■
【おれの夢はやっぱり――】
■それから時が経ち、彼は更なる変貌を遂げる!■
●■▲
「はぁ……はぁ……ッ」
「そっちに行ったぞ! 逃がすなッ」
■朝の山中に響く怒声■
■一人の美少女を追いかける男達■
「あッ!?」
「へっへへ、大人しくしろよ。お嬢ちゃん」
「あわわわ……」
■怯える少女の紫ポニテには■
■可愛らしい猫耳が■
「俺達、魔導盗賊団から逃げようなんて甘いぜ!!」
「さあ、お楽しみタイムだぜ!!」
「恨むんならよー依頼主を恨むんだな!!」
薄汚れた格好の男達は猫耳少女を崖下に追いこみ、危害を加えようとする。
涙目で助けを求める少女の視線。
しかし、超かっこいいヒーローはそんな都合よく現れてはくれない。
「だれかッ」
少女は祈る。
どうかこの状況を打開してくれる超絶かっこいいヒーローをと。
いる筈はないというのに必死に祈ったのだ。彼女の好きなアニメに出てくるような——を。
(飛んできてッ、ヒーローッ)
■ふと、空気が破裂するような音聞こえ■
「――? なんだありゃあッ」
「空からなにか……鳥型のモンスターか?」
「え?」
■すさまじい音を鳴らしながら■
■雲を弾き飛ばし、少女に急接近する存在!!■
「うわあああッ!?」
「やべぇ速さだッ」
「逃げろォッ!!」
「きゃあッ!?」
■地面に衝突音が響く■
■周囲の草木は吹き飛ぶ■
■少女の目の前で巻き起こる砂煙……■
「――ふう」
「な、なにものッ!?」
「?」
■少女の声に振り向く影は■
■その両目を光らせながら、砂煙の中から彼は現れた!!■
「がしゃがしゃがしゃんッ!! 大丈夫かいお嬢ちゃん——」
■金属音を鳴らしながら出現したのは■
■ロボットである!!■
「ええええッ!?」
「わ!? いったい何だがしゃん!?」
「こっちの台詞ですわッ。なんなんですのッ、アナタ!?」
「おっと、こいつは失礼ッ!!」
少女より二回りほど大きい鋼色の体躯を動かしながら、カメ型のロボット(黒いジーパン着用)はにこやかな笑顔を向ける。
口からは蒸気を発し、ピピピピと電子音が鳴り響く様は、シュール全開である。
体に複数走る細い線が、彼のロボットっぽさを倍増させている。
というか完全にロボットである!!
「おれの名前はカメ朗!! スローラ村のカメ朗だぜ!! よろしくな!!」
「スローラ村……?」
「その通ーり!! よってたかってこんなエロ……じゃなくて、可愛らしい婦女を襲うなんざ……許せないんだぜ!」
■スローラ村とは■
■ホンワカ島(現在位置)の地区の一つ、イヤシノ地区■
■その辺境に存在する、マイペースな村である!!■
「おいおい!! いきなり出てきてなんだてめぇ!!」
「新種のモンスターかぁっ!?」
「邪魔する気かよ!! ああああんッ!?」
「ふ、やれやれ。貴様らの目前にいるのが最強の【スーパーロボット】であるとも知らずに、よく吠えるものだ」
「ああん!? スーパーロボットだァ!? なにかと思えばガキの玩具じゃねぇかよ!!」
「【オーバーテクノロジー】で動く・人の限界を超えたロボットだ……間違えるな三下!」
怖い顔で迫る男達にもまるで動じず、カメ郎はやれやれと首を振る。
おまえたちなど眼中にないと、無言で語りまくっていた。
「下品なその態度、いかにも魔導を妄信する奴等のものだな……哀れな。まあ、この【地区】に住む世間知らずでは仕方ないか!」
「なんだと!?」
「――事実だ。がしゃん」
両腕を組んだカメ朗の態度は絶対王者のそれ。
半端ない威圧感を持って、盗賊団を寄せ付けない、半端ないロボット。
その態度に、男達は少し冷や汗をかいた。
「くそ! たんなる見掛け倒しだろ!!」
「魔導をくらえ! 焼却◆射出!!」
■盗賊の一人が、火球を手のひらから飛ばす■
「魔導! 就職者か!?」
■それは、勢いよくカメ朗の顔面に直撃した!■
「へへ、直撃……スキルによって強化した一撃だぜ!」
「――なにかしたか?」
「!?」
■カメ朗の顔にはなんの変化もない■
■ただ不敵な笑みがあるだけである■
「て、てめぇは一体……!?」
「だからカメ朗って言ってるだろう。就職者だろうが、おれには勝てんよ!」
「そういうこっちゃねぇよッ。おれは【魔導兵】の職業!! 並みの魔導使いじゃねぇ!! 直撃して無傷なんてことはありえねぇんだよ!!」
「実際、無傷なんだよなぁ。はは」
超人である就職者にも職業と呼ばれる分類があり、【魔導兵】は魔導の扱いに特化した職業だ。
それなのに、カメ朗はその魔導の一撃をなんともなしに耐えた。
盗賊としてはプライド的にゆるせない。
「ばかな! ちゃんと【スキル】は発動して、放ったはず!! なぜ!?」
「スキルねぇ……。あんな小細工に頼らないとロクに戦えんのか! 軟弱者が! やれやれだ!」
「て、てめぇ。いってくれるじゃねぇか!」
就職者が持つ、スキルと呼ばれる特殊な力。魔導とも違う便利能力。
それを用いてもまるでダメージにならない、カメ朗の異常なボディに盗賊たちは恐れをみせた。
「ふぅ……やれやれだな。おれの【秘密】を理解していないようだ。当然ではあるがね」
■あきれ顔のカメ郎は、説明を開始した!■
「おれの装甲は、【粒子拡散絶対防御装甲】というんだ!」
「!?」
「どんな魔導にも疑似粒子を強制的に発生させ、それを拡散させる……最強の装甲がしゃん」
「!?」
「やれやれ、魔導バカには理解できんか。ロボットの偉大さは」
己の力を見せつけたカメ郎に盗賊達は後退する。
カメ朗はゆっくりと前に歩む。
「――では、次はこちらの番だ」
■彼の目が輝きを増していく■
■もしやこれはと、盗賊達は身構えた■
「び、ビーム!?」
「ご名答。褒美に最大威力でおみまいしてやろう」
「ひっ」
怯えながら逃げようとする盗賊達。
しかし、カメ郎はお構いなしと言った風だ。
「無駄な抵抗だぜ。発射!!」
■解き放たれる、眩く極太のビーム!!■
■七色のそれは、カメ朗の股間から放たれた!■
「ど、どこから撃ってますのーッ!?」
■股間から放たれたビームは、真っ直ぐに突き進む■
「あ、あぶねッ」
■左右に回避した盗賊達は■
■安堵の顔でビームを眺める■
「安堵は早いぜ――構えろよ」
■カメ郎は呟いた■
「?」
「なんだ、これ」
■盗賊達は、自分の体に走る違和感に気付く■
■びりびりとした、強烈な圧迫感のようなものだ■
「こ、これはぁっ!?」
■爆音が連続し■
■当たっていないのに、盗賊達は遠くに吹き飛んだ!!■
「な、なんて威力ッ」
■少女の前方の大地が■
■見渡す限りの平地に変化した■
■山の一部を削り取ったのだ!!■
「魔導でも、スキルでもない。圧倒的なロボットパワーだッ!!」
(最大級の魔導でも、こんな威力は……!)
「【トランス】を使うまでもなかったか――お嬢さん。ケガは?」
「ひゃ!?」
なにごともなかったかのように振り返り、超合金の歯を光らせるカメ朗。
少女は怯えているが、同時に好奇心を強く抱いている。
「え、ええ。大丈夫ですわ。カメ郎さん」
「ふ、ならよかった」
「……」
しかし疑いの目を向けているのは、あまりに彼の登場タイミングが完璧すぎたからだろう。
カメ朗はその視線に気づき、苦笑しながら説明を行う。
「おれの主人公センサーにぴーんと来たんだ(あれ、獣耳が消えてる?)」
「……」
「すまん嘘だ。本当は、【好感度測定自動センサー】を使った」
「なんですの? それ?」
「……まあ、高性能のめっちゃ凄いセンサーだ」
■少し目を逸らすカメ朗■
そこで何かに気づき、彼の視線が一点に集中する。
「……」
「あの何か? ってきゃあああああ!?」
カメ朗の視線の先にはブラジャーが。紫を主体にしたチェック柄で、彼女の豊満な胸をしっかりと包んでいる。というか今にもはち切れそうな有様でエロい。
カメ朗に見られていることに気づいた彼女は顔を赤くし、咄嗟に両胸を隠した。とても初心で可愛らしい反応だ。
「ど、どうやら逃げているときに破れてしまったようですわねっ。ホホホ」
必死に余裕あるお嬢さまアピールをするが、少し涙目になっているのは隠せない。
俯いてしまった美少女。カメ朗は仕方ないなと首を振って、背負った甲羅へと手を伸ばした。
「ほらよお嬢ちゃん」
「えっ」
■少女が顔を上げると、カメ朗が大きなタオルを差し出す姿が見えた■
「どうも……」
どこから取り出したかは不明だが少女は素直に受け取り、それを胸に巻いた。
眺めるカメ朗は少し惜しそうな表情を形作っている。
「ありがとうございますっ」
「そんなことより家まで届けよう。かわいいお嬢さん」
「は?」
「なんか危ないだろう。色々とっ」
さあさあと、背中におぶさるように促すカメ朗に、警戒の目を向ける少女。
しかし、その目にはキラキラした輝きもあるのだ。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「わくわく」
■カメ朗の首に両腕を回す体勢で、おぶられる少女■
■ここでカメ朗の心を覗いてみよう■
(うっひゃひゃ!! 巨乳じゃ! やっほーい! 助けたらラブラブ展開になるかと思ったが、これはこれでッヤッホー!!)
■押し当てられる感触に歓喜!■
■絶賛おれの嫁探し中のカメ朗は、愛に飢えてお嬢様を助けたという打算もあったのだ!■
■オイルが口からこぼれそうになるのを、我慢我慢■
(おれのセンサーは、好みの美女の助けの声のみを感知する!)
■この機能を使って■
■毎回、胸の感触を楽しめるのではないかと画策するカメ■
(しっかし、すごい高級そうなドレスを着ているがっ)
少女の見た目は、きらびやかなドレスで肢体を包むスタイル。
いいとこのお嬢様なのでは?と、カメ朗は考えた。
これは逆玉の輿展開もあり得るのではなんて思案する。
■足から光を発し、飛行するカメ朗■
■空を行く二人!!■
「――わたくしは、この【ヤスミノ地区】に住む、ジゼル・ラインバッシュといいますわ」
「へえ、ヤスミノ地区」
■ヤスミノ地区は、島の中央に位置する地区■
■このホンワカ島には25の地区がある■
「たしか、魔導が発展している地区だったなー。ここ……やれやれ貧弱な魔導の何が良いのやら」
「……そうですわね。ええ」
「……」
■ジゼルの声は力ない■
■なにか思うところがあるのだろうか?■
「でも、もしかしたら」
「?」
「あなたがいればっ」
「???」
■頬を紅潮させるジゼルは、甘い吐息をこぼす■
■カメ朗の戦う姿を思い浮かべて、その格好良さに感激した■
(素晴らしい機構、性能、ボディ、機動力ッ。あああぁ!! 興奮して涎が出そうでしゅうううう!!)
■ロボット好きの血が騒ぎ、気分が跳ね上がる■
■魔導をモノともしないロボットが目の前にいるのだから■
(はぁはぁ……このロボット様ならば、対抗できるかもしれない――魔導を信望する集団、【大魔導連盟】に)
■カメ朗の未来に立ちふさがるは、九と一の麗人。強力な魔導使い■
■ならば、服従の首輪を用い■
■麗人たちをしもべとして、対抗せよ■
(ジゼルちゃんのおっぱいたまらん——ゆっくり飛ぼう)
(はぁはぁはぁはぁ、カメ朗様の背中ァぁあああああ!!)
■互いに興奮し切った変人コンビは、大いなる陰謀の渦に巻き込まれていく■
■……かもしれない!■
×××
■そして少し先の未来にて……■
「――な、なんでこうなるのぉおお!?」
「【操作性】抜群だな! さすがはおれのメイドだ!」
「お前のじゃないわよっ。このクソカメ!!」
昼の草原地帯にて、ナイフを持った青髪の美少女メイドがゴブリンを蹴散らしていく。肩まで伸びた髪が風で美しくたなびいている。
だが彼女の顔は不満と羞恥心と屈辱で染まっていた。
「ふむふむ。ここをこう動かすとこうなるのかー。面白いなー」
「人の体を【操作】してるんだから、もっと真面目にやりなさいよ!」
「いやいや格闘ゲーム得意なんよおれ……まだ初心者なんで許してくれ。説明書読まないでゲームやる派なんでな! 体感的に覚えていくわけよー!」
「さっきから、スカートが捲れるような動作ばかり行ってるわよね!? このエロガメ!!」
「気のせいだって気のせい。ははは」
青髪少女の不満の理由は、離れて立っているカメ朗が持っている【ラジコン】だ。
それによって彼女は自身の行動を操作されていた。
メイドの首に巻かれた首輪による【敵兵服従】の力によって。
「しかし練習相手はゴブリンか……ふむ。エロゲーではお馴染みのモンスターだな!」
「……ちょっと、まさかわざと負けさせようとか考えてないでしょうね!?」
「信用ねぇな。おれ」
「あるわけないでしょうが!! うわあああん!! なんて屈辱!!」
■ラジコンでメイドを操作し、戦わせるカメ朗■
■美しく舞うように戦う、青髪美少女の姿に内心見惚れながら、彼は愛する妻のために腕を磨いていくのだった——■