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転生君主の死に学び〜弱小領主は優しい乱数の夢を見るか〜  作者: あおいたける
第一章 転生君主は一ヵ月生き延びることができるか
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第03話 またまた敗死

「ベルティア軍が進軍を開始しました!」


 赤い軽鎧を装備した伝令からの報告で、軍議室はシンと静まり返った。『やっぱり今回もダメだったよ』と、神様の嘆声が聞こえてきそうな状況だ。

 この世界に転生してから、早三周目。今回も敗死は確実だ。三度目の正直ならず、二度あったことを三度も繰り返すようでは、反省しない奴だと叩かれても仕方ない。


「異世界転生って、こんなにも厳しいものだったのか……」


 前世で流行っていた、異世界転生の物語は、『俺TUEEE』とか、『田舎でスローライフ』とか、転生者に優しい世界ばかりだった。

 中には厳しいものもあったが、九対一くらいで、優しい方が多かったと思う。


「こっちでも、生まれに恵まれないのかよ……」


 前世でも、生まれた時代に恵まれず、悲惨な人生を送る羽目になった。異世界でも、それが変わらないとは、己の生まれの不幸を呪うしかないな……。

 そうこう考えているうちに、軍議は終わっていた。絶望を共有し、ケントが無能を晒し、ボリスが作戦を提示する。これまでとまったく同じで、特筆することはなかった。


「どうせ死ぬのなら、賭けに出てみるか」


 自室に戻ってから、私は独りごちた。

 『分の悪い賭けは主義じゃない』派だが、賭けなくても死ぬのだから、分が悪くなることはない。だったら、これまでとは違う行動をとった方が良いだろう。

 ゲームの乱数調整ではないが、結果を変えるには、過程も変える必要がある。それは現実でも同じことだ。


「料理長のアプルを呼んでくれ」


 侍女のアレルに指示を出してから、私は天井を見上げた。

 見られているのかは分からないが、天に向かって、呟かずにはいられなかった。


「願わくば、我に七難八苦を与えないでください」



 ***



 この世界のモチーフとなったゲームでは、料理人が特別な力を持っていた。いわゆる能力強化(バフ)というやつで、戦争の前には、武将に料理をふるまって、能力を底上げするのが定石だった。

 クールなイケメン武将が、「うまかったです!」と、汎用セリフで感想を述べる。そんなシュールな場面はなかったが、少なくともゲームにおいては、料理の活用は重要な要素だった。

 しかし、前回も、そのまた前回も、私は料理長アプルを使わなかった。

 何故かって? アプルの料理は、八割の確率で『ポイズンクッキング』と化し、味方に強烈な能力低下(デバフ)をもたらすからである。


「セリウス様、新しい料理ができました!」


 満面の笑みを浮かべて、アプルが言った。

 若き女料理長のアプルは、肩上で切り揃えた赤茶色の髪と、豊満な胸部(バスト)が特徴的な女性だ。  

 彼女が二十歳の若さで、セルデン伯国の料理長に就任したのは、もちろん能力強化(バフ)の技能があるからだ。

 料理を作ったからと言って、誰でも能力強化(バフ)をかけられる訳ではない。魔術と同じく、料理も生まれ持った才能なのである。


「これが……料理?」


 嬉々として、アプルが差し出した皿には、茶色でドロドロとした、得体の知れないスープがよそられていた。


「はい! 貴重な香辛料が手に入ったので、いろんなものと混ぜてみました!」


 『混ぜるな危険!』と、思わず叫びそうになったが、これは塩素系の掃除用洗剤ではない。ただの料理だ。あくまでも、食べられるものを混ぜただけのはずだ……。


「た、確かに、少し香ばしい匂いがするな……」

「そうなんです。こんな良い匂いは初めてです!」

「……アプルは、耳鼻科に行った方が良いな?」

「ジビカ? 何ですか? 未知の食材ですか?」


 怪訝そうなアプルは置いといて、私はスープを凝視した。

 よくよく見てみると、色と良い、とろみ具合と良い、カレーに見えなくもない。香辛料を使ったと言っていたし、発祥のインドカレーのようなものが、奇跡的にできあがったのかもしれない。


「……味見はしたのか?」

「もちろんですよ。味見をしないなんて、ありえません!」


 そうか、良かった。メシマズな人は、何故か味見をしないからな。してるなら、ひどいことにはならないはずだ。


「ど、どんな味なんだ?」

「ちょっと辛いですが、独特の風味があって美味しかったです」


 やっぱり、カレーっぽいな。もしかして、二割の当たりを引いたのではなかろうか。

 もしも当たりなら、相当な能力強化(バフ)がかかる。そうなれば、まず勝てることないだろうが、敗死は免れるかもしれない。


「……い、いただきます!」


 私は意を決して、スープを口に運んだ。


「いかがですか?」


 少し不安気なアプルの問いかけに対し、私はスプーンを口に入れたまま答えた。


耳鼻咽喉科(じびいんこうか)に、行って、くれ……」


 辛いのか苦いのか酸っぱいのか。いや、これらの味が、一斉に押し寄せてきたかのような曖昧な感じ……。

 スプーンを咥えたまま、固まってしまった私を見て、アプルが恐る恐る訊いてきた。


「……まずいですか?」

「ハイ、マズイデス」

「そうですか……。申し訳ありません。でも、料理の発展に犠牲はつきものですから……」


 某人体改造博士みたいなことを言いやがって……。

 こうして、賭けに失敗した私は、『ポイズンクッキング』による能力低下(デバフ)と、食あたりによる体調不良に見舞われてしまった。

 こんな状態では、まともに戦えるはずもない。今回の戦いでは、黒騎士ジェイラスどころか、一般兵に討ち取られ、三回目の異世界人生を終えたのであった。

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