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転生君主の死に学び〜弱小領主は優しい乱数の夢を見るか〜  作者: あおいたける
第二章 転生君主は勝ち馬に乗ることができるか
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第25話 呪いの仮面

「呪いの仮面……だって?」

「はい」


 ボリスが、神妙な面持ちで頷いた。


「セレイン姫は、呪いの仮面を装備してしまい、素顔をお見せできなくなった。それ故に、セリウス様との婚約は、有耶無耶にしようとのお考えだったそうです」

「そんなことが……」

「オルセン公が、直々に説明してくださいました」


 婚約を断る方便かとも思ったが、わざわざこんな怪しい嘘をつく必要はないだろう。


「それでも良ければ、公爵ご自身に否やはないとのこと……」


 セレイン姫は、確か今年で十九歳になるはずで、中世においては、結婚適齢期と言って良い。

 美しさよりも、賢さで評判の姫ではあるが、由緒正しきエルネストの血統である以上、引く手はあったはずだ。

 それがこの年まで、独り身のままということは、やはり何か曰くのある可能性が高い。

 呪われた姫君とは、何とも創作じみているが、セレイン姫は、モチーフのゲームには登場していない人物だ。

 だから私にも、本当のところは分からない。知らない人物。知らない設定。ゲームが現実化された、この世界においては、初めてとなる未知との遭遇だ。

 オラ、わくわくしてきたぞ!


「私にも異存はない。賢女と名高いセレイン姫には、是非とも私の力になって欲しい。呪いならば、解く方法もあるはずだ。夫婦となってから、二人で解呪方法を探そうではないか」


 と、私はボリスに言伝を頼んだ。

 時は、女神暦七七五年七月二日。神託休戦が宣言されてから、約一ヶ月が経過していた。

 婚約交渉も、すでに大詰め。最後の最後ではあったが、このような秘事を明かしてきたのは、公爵側の誠実さと見るべきだろう。

 婚約を必要としているのは、セルデンであって、オルセン公爵の方ではないのだから……。


「かしこまりました。それでは、こちらをお納めください」


 ボリスが恭しく差し出したのは、一通の書状だった。


「実はセレイン姫より、書状をお預かりしておりまして、呪いのことを伝えた上で、それでも結婚してくださるのなら、渡して欲しいと……」

「ほう」


 私は早速、書状の内容に目を通した。そこには、婚約した姫君からとは思えない、驚天動地の内容が書かれていた。


「……ボリス。私は、とんでもない女傑と結婚することになったようだ」


 これは尻に敷かれるだろうな……。私はそう確信しつつも、前世から数えても初めての結婚を前にして、浮き立つ心を抑えきれなかった。



 ***



 エルネスト王国は、初代皇帝アステリオスの弟イリオスを祖とする、名門中の名門だ。

 帝都アステリオンは、大陸の西方に位置するため、遠く離れた東方には、統治の手が届きづらい。そこでアステリオスは、信頼の置ける弟を東方に封じ、統治を委任した。

 皇弟イリオス以来、エルネスト王家には名君が続き、大陸東方の統治は安定していた。皇位継承戦争で、帝都が灰燼に帰しても、東方の平和は揺るがなかった。

 ところが、先代のオルフェスが、跡取り問題で優柔不断さを見せた結果、長く続いていた治世は、一夜にして失われてしまったのである。


「たった一つの判断ミスで、たちまち乱世に変わってしまうとは……」


 平和とは、なんと儚いのか。前世では、平和が当たり前だったけど、生まれた時代が良かっただけ――。戦争や飢餓で、命を落とす心配がないだけでも、恵まれていたということか……。

 エルネスト王国では、先代国王オルフェスの実子イリオス三世と、王弟のオルセン公爵が、王位を巡って争っているが、すでに一年以上経っているにも関わらず、決着がついていない。

 両者とも小競り合いばかりして、決戦を避けているからだ。


「ゲームでは、いつまで経っても結着がつかず、大国化したベルティアに滅ぼされるのが定番だったな」


 イリオス三世は少年なので、母親とその外戚が権勢を欲しいままにしている。中世では、よくある話だ。

 エルネスト王国は大国だから、領地が半分になっても、その富と権力は絶大だ。失うリスクを負うくらいなら、半分のままで良い。そう考えていても、不思議ではない。というか、『アストレア大陸戦記』においては、そういう設定だったはずだ。


「オルセン公爵の方は、優柔不断な平和主義者だったはず……」


 兄の子供と争うのは、偲びない……。オルセン公爵はそう言って、決戦を避けていた。

 だとしたら、王位継承権なんて放棄して、さっさと内紛を収めろと言いたいが、オルセン公爵にも欲はあるのだろう。

 繋ぎとして王位につき、イリオス三世が成長したら禅譲すると言っているそうだが、信用されていないようだ。


「オルセン公爵もイリオス三世も、武将としての能力はイマイチだし、内紛を収められるような軍師もいないんだよな……」


 名君が続きすぎたせいか、エルネストには、脳筋と能吏しかおらず、自立した行動の執れる戦略肌の人材はいなかった。


「しかし、まさかエルネストの姫君がね……」


 書状の内容を思い出し、私は身震いした。あんなこと、普通の姫なら、いや普通の人なら思いつかないだろう。


「姫の期待を裏切らないよう、こちらもしっかりと準備しなければ」


 きたる結婚の日に向けて、私はセルデン軍の再編に着手したのであった。

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