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転生君主の死に学び〜弱小領主は優しい乱数の夢を見るか〜  作者: あおいたける
第一章 転生君主は一ヵ月生き延びることができるか
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第21話 探索ガチャ

 マティアは見つからなかった……。

 ゲームでも現実でも、『探索』は領内でしか行えない。他国の領地を『探索』したら、それは立派な諜報活動にあたる。発覚したら、間違いなく外交問題に発展する。

 マティアを登用するには、彼女がセルデン領内に移動するか、領土を広げて見つけるしかない。とてもとても残念だが、一旦は再会を諦めるしかなかった。

 でもきっと、またどこかで会えるはず……。陳腐なメロドラマで使い古されたフレーズが、私の心を落ち着かせた。


「セリウス様、探索の結果をご報告致します」


 それでも、ボリスはさすがだった。マティアは見つからなかったが、しっかりと成果は出す。五周目にして、ようやく訪れた探索ガチャのお時間だ。

 武将か資源か財宝か。何が出るのか、分からないからこその楽しみ。『ガチャは悪い文化』との指摘には、抗弁する舌を持たないが、ゲームには一定のランダム要素が必要だろう。でなければ、毎回同じようなプレイ内容と化し、面白みが無くなってしまう。

 まあ、セルデン伯国では、ガチャ運が悪かったら、滅びるしかないのだが……。

 今のセルデンに必要なのは、一にも二にも武将だ。ボリスだけでは、どうしようもないので、あと四人は、まともな武将が欲しいところだ。

 内政に関しては、私の能力でもやれなくはないが、戦争は厳しい。武勇もしくは統率が、"B"以上の武将は腐るほどいて、戦場に溢れかえっている。"C"ランク以下で、戦争に臨むのは自殺行為に等しいのだ。

 次に必要なのは、『資源』だ。金銀の鉱山があったら嬉しいが、正直言って、現状の戦力では守り切れない。金山銀山は資産価値が高いので、攻められやすくもなってしまうのだ。

 あの用意周到な毛利元就さえ、石見銀山を奪うために短兵急な出兵を繰り返し、何度も敗退している程だ。

 今のセルデンには、『魔物資源』が良いところだろう。魔物から得られる素材を売って、金にしても良いし、武具に仕立ててから、家臣にあげて忠誠値を買っても良い。魔物を討伐することで、兵士の練度を上げることもできるので、一石二鳥だ。

 最後の外れ枠は、『財宝』だ。極々稀に最上級の武器が手に入ることもあるが、たいていは能力値"+1"の量産ものばかり……。

 武器以外も、お小遣い程度の金銭に換えられる宝石とかで、いずれにしても、現状を打破できる可能性は生まれもしない。

 武将をお願いします! 前世のソーシャルゲームで、ガチャを彩った数多の女性たちを思い浮かべて、私は祈った。


「武将を二名、発見致しました」


 武将キタッー! ボリスの淡々とした報告に反し、私のテンションはうなぎ上りだ。マティアでないことは分かっているが、はたして誰が出るのか……。


・テオフィル

【統 率】F(14)

【武 勇】F(3)

【知 略】B(80)

【政 治】F(32)

【忠 誠】D(55)

【属 性】真人(ヒューム) 軍師

【兵 種】槍(C)弓(C)

【技 能】なし

【武 具】なし

【調 子】普通


・グラチェス

【統 率】D(42)

【武 勇】B(81)

【知 略】F(8)

【政 治】F(2)

【忠 誠】D(62)

【属 性】真人(ヒューム)

【兵 種】槍(C)騎(B)弓(C)

【技 能】なし

【武 具】なし

【調 子】普通


 これはなかなか、悪くないな!

 二人とも"3.1ケント"と、合計値は惨憺たるものだ。テオフィルは首から下がいらないし、グラチェスは首から上も筋肉だ。

 とはいえ、二人とも一芸を持っている。テオフィルは知略で、グラチェスは武勇で、それぞれボリスの代わりが務まるだろう。

 ボリスが『セルデンの全て』である状態から脱却するためにも、是非とも登用したい人材だ。


「ボリス、二人の登用を頼めるか?」

「はっ、お任せください」


 登用の成功率も、知略に依存する。ここもボリスに頼らざるを得なかった。


「セリウス様、イシュタリア教団からの返答がございました」


 続けて、女神の頭環に関する報告。これもボリスからだ。


「是非とも拝見したいとのことで、近日中に聖女様がいらっしゃるとのことです」

「そうか、わかった――。って、聖女様が!」


 聖女とは、美しい容姿と高い魔力を有し、地母神イシュタリアの御言葉を賜ることのできる預言者のことだ。

 イシュタリア教団の最高位であり、人前には滅多に姿を現すことのない雲上人である。


「聖女オリビア様が、すぐに見たいと仰っしゃったそうで、このような運びになったとか……」


 アステル教と違い、イシュタリア教は政治と距離を置いている。初代聖女のシェンナが、教団に政教分離の原則を課したからだ。宗教に権力は不要であると、シェンナは公言していた。

 これを不服とした者たちが分派し、アステル教を創始した。要するにアステル教は、権力も手に入れるために創始された宗教なのだ。アンセルムのような俗物が司教になっているのも、むべなるかなと言ったところだ。


「警備とか式典とか、どうすれば良いのかわからないのだが……」


 ベルティア公爵の家臣だったセルデン伯爵家は、代々アステル教徒(アステリック)で、イシュタリア教の典礼には詳しくなかった。


「教団の神官戦士団が随伴しますので、警備の心配は不要でしょう。セルデンの実力を考えれば、余計なことはしない方がよろしいかと……」


 なるほど。セルデン如きでは、むしろ邪魔になるということか。『無能な働き者は殺すしかない』という

、名言もあるくらいだ。大人しく黙って見ているのも、思慮分別の範疇なのだろう。


「それから、式典は不要とのことです。聖女オリビア様は、堅苦しいことが苦手らしく、客人として普通に接してもらえれば良いと……」


 その普通ってのが、厄介なんだよなあ。普通の主語は、世間とか世界ではなく、ただの私だ。つまり、普通とは千差万別。定義が人によって違うから、この言葉で括ってしまうと、あとで齟齬が生じるんだ。


「オリビア様は、お若いですし、その、少々変わった御方だから、本当に過度のもてなしは不要である……と、侍従の方が再三仰っておられました」


 ボリスの方も、少し戸惑っているようだ。

 聖女という無二の存在なのだから、変わっていてもおかしくはないと思うが、わざわざ事前に通達してくるところに不穏な空気を感じる。


「……わかった。とにかく失礼のないよう、迎賓の差配は頼んたぞ」

「はっ、お任せください」


 最後まで、ボリスに頼りきりであった。



 ***



 肩上で切り揃えられた青色の髪が、ふわふわと上下している。大きめな白いローブを身にまとい、大股で歩く姿には幼さが残っていて、見ている者を微笑ましくさせた。

 聖女オリビアは、御年十三歳。可愛いといった方がお似合いの年頃だが、数年後には、きっと聖女の資格に見合った形容詞に変わっているだろう。


「これは素晴らしいものですねえ」


 そんな可愛らしい聖女が、女神の頭環を手に取って、うっとりと頬を朱に染めている。『良い仕事してますねえ』と、鑑定士のようなことを言わんばかりだ。


「ついさっきまで、イシュタリア様が身に着けておられたかのよう……」


 うん、その通りです。というか、聖女ってのは、そんなことも感じられるのか。


「くんかくんか……」


 ん? 何をしているんだ?


「くんかくんか……。どこからか良い匂いがします」


 聖女オリビアが、鼻をひくつかせているように見えるんだが……。


「オリビア様! はしたないですよ!」


 侍従の老女が、オリビアをたしなめた。

 どうやら見間違いではなかったようだ。変わっているとは、こういうことなのか?


「だってえ、この頭環よりも、強烈な匂いがするんだもん!」


 オリビアが、頬を膨らませて抗議した。


「匂いを辿るのは構いませんが、鼻をひくつかせるのは、おやめなさい」

「はあい」


 わざわざ挙手して、侍従の言う通りにするオリビア。十三歳にしても幼い挙動だが、まだまだ可愛らしいで済ませられる年齢だろう。


「良い匂いの元は……」


 聖女オリビアが、ふらふらと室内をかぎまわる。鼻をひくつかせてはいないが、どう見ても不審者である。


「ここだあ!」


 かぎまわった末に行き着いた先は、私のところだった。

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