第12話 女神の哄笑
「あははははっ」
『転生の間』に、女神イシュタリアの笑声がこだまする。
「ああ、おかしい……。というか、戦場で真っ先に事故死するなんて、君主として恥ずかしくないの?」
女神イシュタリアが、目元の涙を拭いながら言った。笑い過ぎて痛むのか、右手でお腹の辺りをさすっている。
この邪神め! 私はあまりの羞恥心に我を忘れ、神を罵倒してしまった。
「聞こえているわよ、敗北者さん」
イシュタリアが、間髪入れずに指摘してきた。神にかかれば、心の声だって、お見通しということだ。
そうだろうとは思っていたので、半ば故意だったが、女神が気を悪くした様子はなかった。
「それにしても、さっきのは無様で面白かったわね!」
「……」
無様で面白かった……だと……。この言葉によって、すでに裂傷を負っていた私の心は、とどめを刺され、あえなく四分五裂した。
「それにしても、あなたもようやく挑戦をすることが――」
「私なんて、やはり生きる価値のない人間なんだ……」
イシュタリアが、何かを言おうとしていたが、私の耳には入らなかった。完全に負のスイッチが入ってしまっていた。
「何をやってもうまくいかないし、いやでも、それは私のせいじゃない。生まれた時代と場所が悪いんじゃないか」
「え、いきなりどうし――」
「いやしかし、運も実力のうちと言うし、だとしたら、やっぱり私が悪いんだ」
「ちょっと、神を無視す――」
「あ、そうか、生まれてきてはいけないのに、生まれてきてしまったのが悪いのか。そういえば、父さんも母さんも、弟ばかりを可愛がっていたよな」
「ねえ、話を聴き――」
「ははっ、まさに原罪だな。この罪は、どうやって償えば良いのかな、少なくとも子孫なんか残したらダメだよな」
「もうやめ――」
「そうか、さっさと死ねば良いんだ。生まれてきてはいけなかったんだから、生きている時間が少なければ贖罪になるはずだ」
「……」
「いやでも、生まれてきたことが罪になるなら、さっさと死んでも、罪自体は無くならないよな。生まれる度に、少しずつ罪が増えていってしまうから――」
「スターーップ!」
イシュタリアの大声と共に、私の身体を光の奔流が包み込んだ。すると、圧倒的だった劣等感が、一瞬で消失していた。
「正気に戻ったかしら?」
「……あ、ああ、私は正気に戻ったよ」
さっきまでの自虐ぶりが恥ずかしい。穴があったら入りたい。そう客観視できるくらいまで、私の精神は正常化していた。
強烈な劣等感に苛まれて、ひたすら自虐しまくる。前世でも、度々苛まれた発作だ。これを止めるには、酒の力を借りるしかなかった。四十六歳の若さで死んだのは、夜酒深酒が祟ったことは間違いないだろう。
「まったく、これだから敗北――」
イシュタリアが、何か言おうとして口をつぐんだ。きつい言葉を使いそうになって、やめたようだ。
そうだね。またあんな発作が起こったら、面倒だもんね。
「……せっかく、ご褒美をあげようと思っていたのになあ。あんな不幸自慢されたら、あげる気なくなっちゃうなあ」
「ご、ご褒美!」
突然の御慈悲。さっき言いかけていたのは、このことだったのか。
「さ、先程は、申し訳ありませんでした!」
「もう自虐はしないって誓う?」
「……それは自信がない」
「どうして、そういうところで無駄に正直なのよ……」
呆れるイシュタリアを前にして、私は思わず俯いてしまった。やばい、ぶり返しそうだ。
「待って、わかったから。ご褒美はあげる」
堕ちそうな私の心を察し、イシュタリアの方が折れてくれた。自虐は神をも下す。
「……あのゲームで、好きだった武将がいたでしょ。その中から一人だけ、初期武将として配置してあげる」
「な、なんだって!」
これは嬉しい。最高のご褒美だ!
「あ、でも、今度あんな埒もないことを言ったら、ご褒美はあげないからね」
「うっ」
なるほど、アメとムチか。そうされたら、悔しいが頑張らざるを得ない。
「それで、誰を配置してくれるんですか?」
「転生してからのお楽しみよ」
もったいぶるイシュタリアを前にして、私は妄想した。
好きだった武将というと、たぶんあの五人だろう。そのうちの三人は、所属国家が固定されているから、初期武将として配置されることはないと思う。世界観に影響してしまうからだ。
残りの二人は在野武将なので、いきなりセルデンに仕官していても、おかしくはない。
どっちだろうか。私はわくわくしながら、四周目の世界に旅立っていった。




