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転生君主の死に学び〜弱小領主は優しい乱数の夢を見るか〜  作者: あおいたける
第一章 転生君主は一ヵ月生き延びることができるか
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第10話 地獄の沙汰

 ボリスたちとの軍議は、翌朝にまで及んだ。おかげで、作戦の概略は決まったが、現地の調査や兵士の訓練など、やるべきことは盛りだくさんだ。

 とはいえ、今日はもう寝よう。本気を出すのは、明日からだ。


「長かったわねえ」


 自室に戻って、寝台にダイブしようとしたところで、フュリスがひょっこりと姿を現した。


「どこに行ってたんだ?」

「寝てた」


 そういうことをサラッと言うかね。こちとら徹夜だって言うのに……。


「そういえば、サポートって、他に何ができるんだ? まさか、武将の能力が見えるだけってことはないよな」

「もちのロンよ!」


 フュリスが腰に手を当てて、自信あり気に言った。というか、そんな死語を知っているなんて、本当に何者なんだか……。


「月に一回しか使えないんだけど、他者の好感度を確認できるわ」

「……ふむ」

「あ、微妙だと思ったでしょ!」


 正解だ。目ざとい奴め。


「前世で一度も告白しなかったチキン野郎には、おあつらえの能力でしょ!」

「うっ、や、やかましいわ!」


 前世の話の中でも、特に色恋のことになると、私の精神衛生が著しく低下する。深掘りされたら、私の精神は、自虐の彼方へと飛翔しかねない。これ以上は突っ込まれないよう、話を変えた方が良いだろう。


「ほ、他には? 戦争の役に立ちそうな能力はないのか? 今はとにかく、戦争のことで頭がいっぱいだからさ」

「そうねえ。戦争ってなると……」


 フュリスが、目線を上げて考え始めた。なんだかんだいって、素直な奴だよな。


「武将の忠誠度を確認できることかな」

「……忠誠度か。悪くはないな」


 武力や知力と異なり、忠誠度の数値は変動する。忠誠度が低いと、出奔されたり、他国から引き抜かれたりしてしまう。君主としては、細心の注意を払うべき数値だ。

 忠誠度の動き方は、義理の数値に依存する。義理の数値が高い者は、上がりやすくて下がりにくく、低い者は上がりにくくて下がりやすい。

 某地域制圧型歴史シミュレーションゲームを引き合いにすれば、前者が高橋紹運、後者が松永弾正と言えば分かりやすいだろう。


「……だけど、今は忠誠度がわかったところで、引き抜き工作なんてできないんだよなあ」


 敵地に潜入する間者。籠絡するための賄賂。『策多きが勝ち、少なきが負ける』と、中国地方の謀聖が言っていたが、策を仕掛けるにも人材と金がいる。策の量も、国力に左右されてしまうのだ。


「あとは、部隊能力とか、戦法の発動とか……」

「お前の能力って、ゲームでいうところのステータス確認ばっかりだな。なんかこう、もっと直接的なサポート能力はないのかね?」

「……ある訳ないでしょ」


 フュリスが左の口角だけを吊り上げて、悪そうな笑みを浮かべた。


「ここは地獄なんだもの」


 そうだった。ここは地獄なんだった。前世で得たイメージと違っていたから、すっかり忘れていた。


「だからあ、転生者にはあ、もっと苦しんでもらわないとねえ」

「え?」


 フュリスの顔が歪む。しかも、肌の色まで変わって、一瞬で悪魔のような姿に変貌した。

 な、なんなんだ……。いったい何が起こっているんだ! 


「前世で何にも挑戦しなかった。その罪は重いわよ」

「し、しなかったんじゃない! できなかったんだ!」

「それは嘘。だって四十六年もの時間があったんだから」

「違う! 生きるだけで精一杯だったんだ!」

「それも嘘。だって、スマホもゲーム機も持っていたんだから」

「で、でも、私には何かに挑戦する能力なんて……」

「嘘嘘嘘。ゆとりやら老害やらと、他者を見下していたんだから」

「そ、それは……」

「何もしなかったつけは、地獄で支払うのよ」

「う、うぅ……」

「死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで――」

「う、うわああああああああああ」 



 ***



「や、やめてくれえ!」


 目が覚めると、そこは自室の寝台だった。

 いつの間に寝てたんだ……。昨日は確か、ボリスたちと徹夜で軍議して、それから……。


「どうしたの? うなされてたみたいだけど?」


 神使(エンジェル)のフュリスが、心配そうに私の顔を覗き込んできた。そうだった。フュリスにサポート能力を教えてもらって、その後……。


「ひ、ひえ」

「ひえって何よ、失礼ね!」


 フュリスが悪魔になったんだ!


「何なのよ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

「い、いや、何でも……ない」

「変な奴」


 いつものでかい態度で、フュリスがこちらを見下ろしている。

 あれは夢だったのか? それにしては、やたらと記憶が鮮明だけど……。


「それで、ベルティアとの戦いは、何とかなりそうなの?」

「……わからない。ただ、前回までとは違って、勝ち筋は作れたと思う」

「勝ち筋は作った、でも勝てるとは言っていない」

「まあ、そんなところだ」


 勝利条件は、敵指揮官の撃破。シミュレーションロールプレイングゲームでは、よくある勝利条件だ。

 現実の戦争でも、結果として、これが勝利条件であったことは多々ある。『戦争は士気の削り合い』だと誰かが言っていたけれど、指揮官が倒されると、士気が大きく落ちるのは、現実でも当然のことだ。


「奇襲して指揮官を討ち取る」


 平たく言えば、今回の作戦はこれだけだが――


「言うは易し、行うは難しね」


 フュリスの言う通り、成功させるのは至難の技だ。


「そして、指揮官を失ったベルティア軍は撤退する」

「ほんとお? 黒騎士ジェイラスが指揮官代理になって、猛烈と攻めてきたりしない?」


 フュリスの懸念は最もだ。言い方には腹が立つが……。


「それを阻止するために、エルネストと水面下で交渉することになった」

「……どういうこと? エルネストは、内戦で援軍を寄越す余裕はないんでしょ?」

「その通りだ。だが、援軍を出すポーズくらいはしてもらえるだろう」


 これはボリスの策だ。実際に援軍は出してもらえなくても、出す素振りをしてもらえれば、一定の抑止力にはなると……。


「エルネスト軍が来援する……可能性があるとなれば、ベルティアが撤退する名目にもなるからな」

「……ああ、なるほどね。指揮官を討たれたままでは引き下がれないけど、エルネストと事を構えるとなれば――」

「戦術的には勝ち目が薄いし、戦略的には、現場の指揮官では判断ができない」

「となれば、エルネストの援軍が来る可能性を理由にして、撤退の選択肢を選べる訳か」

「そういうことだ」

「へえ、けっこう練られているのね」


 珍しくフュリスが感心している。まあ、これを考えたのは――


「さすがボリス! セルデンの全てと言われることはあるわね」


 フュリスは、お見通しだった。


「さてと、お喋りはこれくらいにして、訓練をしないとな」

「え? あんたが兵士たちの訓練をするの? 愚将の下には、弱卒しか生まれないわよ?」


 ひどい言われようだ。まあ、その通りだと思うけども……。


「安心しろ。私自身の訓練だ」

「何の?」

「乗馬だ」


 奇襲作戦を成功させるためにも、せめて己でコントロールできることだけは、しっかり準備しよう。私はそう考えて、重い腰を上げたのであった。

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