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八話、人間の街では騒ぎが起こる③

 狼の走る速さについて来れる筈もなく、いつのまにか憲兵達を振り切っていた。

 中心街からだいぶ離れ、今度は見つからない様に移動する。そして人通りがなくなったのを見計らい、路地裏へと入るガロン。

 俺を抱えて長らく走っていたにも関わらず、様子を見る限りでは息一つ乱れていない。



「……強引な手段だな」


「ああする他思い付かなかった。まぁとにかく人間達は撒けたんだ、結果オーライだろ? ……それより、これからどうやって外に出るんだ?」


「空も暗くなり始めてるからな、夜まで待つのが無難じゃないか? ガロンは毛色も黒いし、暗闇に紛れれば簡単に街の外まで出られるだろ」


「じっと待つしかねぇのか……」


「それより、普段は人間も獲物なんだよな? 生き抜く為だから別にどうこう言うつもりはないが、もっと残忍な手段を取ると思った」


「……オレが次々人間を殺すと? はっ、確かにオレら狼からしてみれば、人間も牛も豚も変わらねぇ。ただの獲物だ。だが、さすがにあの人数相手だと返り討ちにあうのが目に見えてんだろ? オレは不毛な争いはしねぇ主義だ」


「なんだ、意外と打算的なんだな」


「本能だけじゃ生き長らえねぇって言っただろ。オレら狼は他の生き物よりもタフで長生きだが、ここ最近じゃだいぶ数減らしてる」


「ま、そういう生き方、俺は嫌いじゃないが」


「そ、そうか……?」



 動物の表情というのは、なかなか読み取りづらい。たとえ思っている事が伝わってこようとも、相手の気持ちは言葉だけでは分からない部分は沢山ある。尻尾を振ったり、飛び跳ねたり、吠えたり……そんな動きを見てどう思っているのかを考えたりする。

 でもどうしてか今は、ガロンが少し微笑んだように見えた。



「――そろそろ下ろしてくれないか?」


「あ、ああ、そうだった」



 ガロンに咥えられたままだった俺。ようやく下ろしてもらえ、自由になれた。



「ところで、会って間もない俺に何故ここまでしてくれるんだ? それに、俺が閻魔だとあっさり信じているみたいだが……」



 服に付いた砂埃を払いながら、俺はガロンに問う。



「別に、まだ完全に信用した訳じゃねぇよ。正直、半信半疑というか……でも確かに、そのへんの人間とは格が違うのは分かる。なんか、そう直感的に感じたっつーか……あーっ、うまく言えねぇ!」


「……俺が冥王だったとしても、死後の見返りを期待しての行動なら、お門違いだぞ。確かに裁く権利はあるが、死ぬまでの行いで自然とその行き先は決まってんだ。そもそも俺は、人間専門であって動物や獣は対象外だ。だから俺を助けたとしても、お前にとって何の得にもならない」


「そんな都合のいい話なんてねぇと思ってる。寧ろ、はっきり言ってくれてオレも期待せずに済みそうだ」


「……なんだ、それが目的で俺に付いてきたんじゃないのか?」


「見くびるなよ。(オレ)を見て、逃げずに話しかけてきた人間はあんたが初めてだった。オレは喰おうとしてたのにな。……なんか、興味がわいたんだよ。だから付いてきた。それが、閻魔だったって話だ」


「……俺も獣の事はあまり詳しくはないが、他の狼とは少し違うんだな。もっと、強欲なのかと思ってた」


「狼だって個性はある」



 妙に納得できる言葉だった。冥界でも、獣の言葉は勝手に伝わってくる。だがその大半は欲に塗れ、本能のままに惨虐な行為を犯してきた者ばかりだった。だから勝手にそのレッテルを張っていたが、ガロンはそれとは少し違う。

 本能に任せっきりだと長生きしないのは、事実なんだろう。



「――ああっ! やっと見つけました閻魔様! ご無事で御座いますか!?」



 上空から一匹の鴉がもの凄い勢いで向かって来る。そういえば、忘れていた……



「俺はなんともない」


「そ、そうですか……ああ、良かった。私はもう気が気では……」


「司禄も無事みたいで良かったな」


「私は空を飛んでいただけですので……」


「役に立たないカラスなこった」


「言わせておけば……って、犬ころ! 貴様、閻魔様に牙を当てていたな!? 許せぬ大罪だ……」


「いいんだ、司禄。あの場から逃れるにはあれしかなかったんだ。それに、ガロンだって手加減してくれてたんだ。証拠に傷も大した事ないだろ?」



 そう言って俺は噛まれていた背中を見せる。自分では見えないが、少し疼くくらいで大したことはなさそうだ、多分。



「「り……流血してるー―っ!!?」」


「…………は?」



 俺の背中を見て驚いて飛び跳ねる二匹。


 ドヤ顔で背中を見せたはいいが、どうやら背中がとんでもない事になっているらしい。疼くくらいというのは、重傷で感覚が麻痺していただけだったのか……?



「めめめ冥界王ってくらいだから、ちょっとやそっとじゃなんともねぇかと……」


「戯け者! 本来のお姿なら貴様ごときの牙など訳もないが、今は人の子の姿だと言ったではないか!」


「わ、悪かったって! オレだってこんなになるとは……」


「前代未聞だ! 閻魔様にこれだけの傷を負わせるなど……」


「落ち着け司禄。これくらい何ともなぃ――………」


「閻魔様!!?」


「閻魔っ!!」



 突然視界がぐらっと揺らぐ。

 薄れゆく意識の中で、司禄達の声も遠くなっていく。


 ……あれ? なんだ、これ……?


 足に力が入らなくなり立っていられず、側にいたガロンに掴まろうと手を伸ばしたところで、俺の意識は途絶えたーー




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