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七話、人間の街では騒ぎが起こる②

 

 町人であろう男の叫び声を筆頭に、もの凄い悲鳴達が響き渡る。その瞬間、町民達は一斉に逃げ惑う。



「ま、まさかとは思いますが……」


「そのまさかだろうな」



 行ったり来たりして逃げ回る人間達。現れた狼とやらの姿は見えないが、このタイミング……ガロン(あいつ)しか考えられない。

 つい先程、()()()()()()()()()()()()と発していたが、早々に耳を疑ってしまう。



「とりあえず、門に向かうか」


「なっ、何故ですか!? まさかあの者の元に向かう気では……」


「憲兵らしき人間達が集まって来ている。いくら狼の力が人間に勝ると言えど、ここは人間集落のど真ん中だろ。このまま無視ってのも、気が引ける」


「ですが――」


「抗弁は認めない。上空からガロンの居場所を特定して俺を誘導してくれ!」


「……し、承知しました」



 俺は威圧的な態度で言い放つ。


 司禄が納得していないのも分かっている。が、出会ってしまった以上、放ってはおけない俺がいる。何故そう思ったのか分からないし、俺自身、自分の意思に驚いた……



「こんな混雑してると、前すら見えな――」


「捕らえたっ!!!」



 そんな言葉が駆け抜けたと思ったら、突然勢いよく後ろに引っ張られる。もの凄い力に地から足が離れ、俺の身体は宙に浮いた。

 前から疾風の如く現れたガロンが、すれ違いざまに俺の服を咥えたんだとすぐに気が付いた。

 というか、()()()()ってなんだよ……



「ガ、ガロン……!」


「わ、わざとじゃない! オレは大人しく外で待ってただけだ!」



 俺が何かを言う前に、弁解を始めるガロン。俺達と別れたあと大人しく街の外で待っていたが、街を訪れた数人の人間達に見つかり仕方なく中に入ったのだとか。街の中に逃げ込む必要あったのかどうかはさて置き、それで俺達を探していたらしい。

 そう話しながら、ガロンは逃げ惑う人間達の隙間をもの凄い速さで抜けていく。



「これからどうするんだ?  捕まったら、怪我だけじゃ済まないだろ?」

 

「だろうな。オレ達獣は何人も人間を殺してる。だからって、大人しく殺されてやるつもりもねぇ」


「いたぞ! こっちだ!」


「「!!」」



 憲兵だろうか、町民の悲鳴を聞き駆けつけた十数人が先を塞いでいるのが見えた。どうやら逃すつもりはないらしい。



「な、なんてでかい狼なんだ……! こいつが最近人を喰い殺し回ってるっていう噂の獣じゃないのか?」


「今度は子供を餌にするつもりだ。……絶対に逃がすな。ここで被害を止めるんだ」



 さすが街の憲兵だ。絶妙な間合いを取り、じりじりと詰め寄って来ている。いつのまにか、ガロンの周りは憲兵達で囲まれていた。



「……ああ言われてるけど?」


「それはオレではないが、そう思われても仕方ねぇ」


「ま、この状況……確かに、俺は狼に捕まった可哀想な人間の子供に見えるよな」


「……なぁ、冥界王の力で簡単にここを切り抜けられねぇのか?」


「無理だ」



 普段の俺ならお茶の子さいさいだが、今の俺は状況が悪い。魔法が使えないどころか、腕力もあまり期待できそうにない。



「……即座に断わんな。少しは間をおけよな……」


「無理なものは無理だろ。出来もしない事を出来ると言ってどうにかなる状況か?」


「……ごもっともだな」


「それに俺の力が健全なら、こんな場所に来なくとも冥界には戻れた」



 それにしても、俺を咥えたまま器用に喋るガロン。心に語りかけるのは、口を閉じていても出来るのか?そんな事を呑気にも思いながら、俺は空を見上げる。

 そういえば、司禄はどこに行ったんだ……?



「留まっていても仕方ねぇ……強行突破だ」


「おわっ!?」



 互いに対峙している最中、ガロンはそうぽつりと呟くと同時に俺の背中を咥えた。服だと裂けてしまうからだろう。ガロンの鋭い牙が直接身体に突き刺さる。甘噛みにしてくれているのか、痛みは思うより少ないが。

 宙ぶらりんとなった俺を軽々持ち上げ、ガロンは憲兵の集団に向かって突進していく。



「来たぞ!! 構えろ!!」


「閻魔! しっかり掴まってな!」


「掴まるも何も掴める場所が――っうおぁ!」


「すばしっこい狼だ! ……そっちに行ったぞ! 囲め!」



 憲兵同士の僅かな隙間から脱出を試みるガロン。狼さながら、中々の素早い動きだ。その機敏な動作に人間達は反応出来ずにいる。



「くそっ……さすがに数が多い! もう喰い殺していくしかねぇか?」


「……や、やっぱり、さっきの噂の獣はお前なんじゃ……。それより、逃げるならあっちだ」


「獣である以上、人間にそう思われるのは仕方ねぇよ。……てか、そっちは更に街中に入る方だろ! 俺達が入ってきたあの大門は反対だぞ!?」


「出入り口にはもう大量の憲兵が張ってる。だとすれば、街中進んで逃げ惑う人間達の中を紛れた方が都合が良いだろ?」


「それこそ街から出られなくなるんじゃねぇのか!?」


「袋叩きに合うのと街に潜むの、どっちにするんだ?」


「……それ、選択肢ねぇから!」



 ガロンは街中の方へ進路を変え走り出す。

 まだ逃げ惑う人間達に紛れながら、体当たりなどで器用に憲兵を蹴散らしていくガロン。

 それ、俺も地味に衝撃を受けてるんだが……



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