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五話、閻魔様の御成⑤

 



「――それより司禄、何か見つかったのか?」



 偵察から早々と戻ってきた所を見ると、何かしら成果はあったのだとは思う。とにかく、話を変えて司禄の気をそらす。



「……はい。人間の街を発見致しました。此処からですと、多少距離はございますが……」


「そうか。他に行くあても無いし、その街に行ってみるか」



 冥界への戻り方が分からない以上、こんな何も無い所に居ても仕方がない。人間の街に行ったとしても、俺達の求める情報があるとは期待できないが。

 司禄の案内で、()()はとりあえず街を目指し歩き始めた――











「――で、何故貴様も付いて来ている、犬ころ」



 先を案内しながら、司禄は露骨に不機嫌そうな声で狼を見ながら言った。

 正直鴉の表情はよく分からないし、口調や声で機嫌を判断するしかない。そして言うまでもないが、司禄はそこそこの短気だ。俺達について来る狼が気にくわないのか、明らかに攻撃的な様子。

 鴉と狼は、犬猿の仲なのか?



「どこに行こうが俺の勝手だろ。いちいち絡むな、カラス」


「私達と同じ方へ向かっているから聞いているんだ」


「本物の閻魔大王かどうかはさて置き、閻魔大王(この人)がただ者じゃねえってのはオレでも分かる」



 特に何か大きな力を見せつけたりした覚えはない。というか今の俺には無理な話だ。それなのに、俺から何かを感じ取ったらしい。野生の感ってやつか?

 俺には全く分からない。



「まぁ仮に閻魔大王ってのが本物だとして、だったら何故冥界王が現世(こんなところ)に居んのか興味がある。それに、お前らに付いていけば何か面白い事が起こりそうな気がすんだよ」


「へえ。割と好奇心旺盛なんだな」


「ここんとこ毎日が退屈だったんでな。それに、自分で言うのもなんだが狼ってのは獣の中でもランクが高いんだよ。力になれると思うぞ?」



 自然界に生きる生物達には、ランク付けがされていると聞いたことがある。

 思慮深い人間は別として、本能のままに生きる生き物は、弱き者は強き者に滅ぼされる。それは、遥かから変えられようもない定め。



「ほほう? 只の犬如きが、偉大なる冥王の力になれるとでも? 笑止なことを言う」


「底辺なカラスに言われたかねぇよ」


「犬ころめが……冥土に送ってくれようか」


「やれるもんならやってみやがれ」


「……落ち着け。理由はどうであれ、今は俺の足になってくれている訳で、力になると言っているんだから別に問題でもないだろう?」


「え、閻魔様!?」


「はっ。お前もご主人様の柔軟な考え方を見習った方がいいんじゃねぇの?」



 放っておけば延々に続きそうな威嚇合いに、俺は口を挟む。

 狼は思った以上に巨体で、子供の姿になった俺を背中に乗せても随分と軽快そうに歩いている。子供となり体力の無い今の俺にとって、これはかなり楽だった。



「ところで、狼にも名前はあるのか?」


「ああ。オレ達獣にも名前くらいある。オレはガロンだ。そのまま呼んでくれればいい」


「ガロンか。俺の事も閻魔でいい」


「閻魔様、そ、それは余りに……」


「冥界の使用人でもないし、別に問題ないだろ? 不服なら、司禄も呼び捨てにしてもらっても俺は構わないが……」


「そんな、滅相も御座いません」


「……というか、ガロンは何処から来たんだ? 見るからに周りは何も無さそうだったが……」


「山だよ。食料の確保に。オレが住んでた山にはもう獲物が殆どいなくなっちまってさ。だから降りて来たんだ。そしたらちょうど人の子を見つけて……」


「……ああ、なるほど。それで俺を餌にしようとした訳か」


「な、なんと! 誠に御座いますか!? ならば許し難い出来事!」


「ま、未遂に終わった訳だし見逃してやれ」


「甘過ぎです閻魔様。大体、冥王と知られれば相手がどんな行動に出るか予測不能です。特に今は人の子の姿になられておいでですのでいつもの閻魔様とは訳が違うのですから」


「そうだな。俺の正体も今の俺の状態も全部口を滑らせているのは司禄(おまえ)だけどな」


「はっ! わ、私としたことが……なんたる無様な。弁解のしようも御座いません……」


「……なんかめんどくせぇ奴だな、コイツ……」



 今にも、切腹を!と言い出し兼ねない様子の司禄。

 生真面目で冥王である俺の事を第一に考えてくれている様だが、空回りする事もしばしば。司禄のシリアスさと司命の動じない悠々な性格を合わせたら、丁度いいくらいかもな。

 まぁ、其々にしかない長所もある。




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